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勇者様、お守りします  作者: 神無月 瑠奈
第1章

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第4話(バケモノがッ!)

その後。比呂とワンちゃん(成瀬)は人里を目指し、何もない平原を歩き続けた。しかし、見えるのは何もない平原ばかり。しだいにミジンコ並の体力しかない比呂は動けなくなってしまい、そこでビバークすることとなった。


「大丈夫大丈夫。確か人間って水さえあれば数週間は生きれるらしいからッ!」


自分を元気付けるかのように声を張り、子犬姿の成瀬に語り掛ける。


「何かあったらすぐに起こしてね?」


成瀬にそう告げるとよっぽど疲れたのかリュックを枕にブレザーを掛けて横になった比呂はすぐに寝入ってしまった


(全く……繊細なのか図太いのかわからないな)


危機察知能力に致命的な欠陥を持っているのだろうお嬢様を見つめながら深いため息をつく。幸いなことに子犬の姿の成瀬は喉の渇きも空腹も睡眠欲もなくなったようで比呂が寝息を立てる傍で成瀬は周囲に意識を向ける


(っと、そういえば昼間は比呂さんが見てたから大っぴらにはできなかったけどステータスの確認っと)


---------------------------

名前:ワンちゃん

種族:ブラックフェンリル

魔法適性《影》

LV:11

HP:110/110

MP:33/33

筋力:71

防御力:47

俊敏力:81

精神力:170

固有スキル

『真実の嗅覚』『超回復』

スキル

『影貯蔵』『障壁』『身体超強化』

----------------------------------------------------------

(おぉ~ステータスがめちゃ伸びてる)


先の戦闘で伸びたステータスを見ていてふと思ったことがある。フェンリルと言えば北欧神話に出てくる神々の天敵として描かれている。一方で、ライトノベルなどでは神聖な獣として描かれることの方が多い。


(実際俺もそっちの方が多く目にするし……なんなら比呂さんに教えて貰うまでフェンリルは神の御使いだってマジで思ってたわけだし。まぁ、今の俺は厳密にいえばフェンリルではなくブラックフェンリルなんだけどな)


その後、レベルアップによる恩恵。素の身体能力がどの程度伸びたのかだったり、体力がどの程度の時間で回復するのかだったりを確認する。

まず、固有スキルと通常スキルについての違いだ。通常スキルは条件を満たせば後天的に習得可能なスキルの事を指す。一方で固有スキルは、先天的に習得しているスキルのことであり、発動に魔力を消費しない。

明確な違いは鍛錬で習得可能か否か。それと発動に魔力を消費するかしないかだ。


そして、次に『超回復』。これは常時発動型のスキルであり、そのオンオフはこちらで操作できない。HPやMPが少しでも減れば自動で発動してくれる。効果はどれだけHPやMPが減少しても10秒程で全快になる。超回復は欠損にも適用された。切り傷などの完全回復よりは時間がかかったが、切り落した箇所はしっかり、元通りとなった。因みに何を切り落したかは内緒である


(HPだけではなくMPまでも回復可能なのには少し驚いた。スキル『影貯蔵』は消費魔力削減の為に習得したスキルだったのに)


そもそも影魔法は影の生成と操作が出来る。しかし、影の生成は魔力の消費が激しい。魔力が有限であるのであれば、出来る限り浪費は避けたい。そこでスキル『影貯蔵』だ。このスキルは貯蔵する際には魔力を消費するが、貯蔵庫から出す際にはその必要が無い。非戦闘時に出来る限り貯蔵庫に影を貯め、戦闘になれば貯蔵庫から影を排出すれば消費魔力は0だ。


(まぁ、身体超強化に魔力を回せると考えれば影貯蔵も無駄じゃないか……)


そんな事を考えながら成瀬は見渡す限りに広がる影を吸収するのだった



影を吸収し始めて、凡そ30分が過ぎたころだった。成瀬と比呂の周りから無数の敵意や殺意を感知した。


(団体様のお出ましだッ)


成瀬は少し嬉しかった。それは影を吸収する傍らで影の操作練習をしている時に思いついた新技を試してみたくなったからだ


(まずは比呂さんの周囲に障壁を発動し、その上から影で包み込む……名付けて《影綿》ッ)


この影綿は障壁のような攻撃を防ぐことに特化したものではなく、周囲の眼から隠すためのものだ。それに加えて外部から発される音を遮断する効果もある。これなら比呂さんの眠りは絶対妨げられない。


(獣になったお陰かな?夜目がすげぇ利く)


人間だった頃は夜目があまり利かなかった成瀬だが、今はある程度視認できるようになった。


そんなことをしていると敵意・殺意の数がどんどん増えていく


(これは……少しまずいな)


想定以上の数が集まってきたことに対して成瀬は少し焦り、身体強化を最大に設定し発動する。そして、周囲5メートルの地面を、粘性を加えた影で覆う。


(影沼ッ)


 先ほど吸収した影を使って色々試してみて分かったことなのだが魔法とは、明確なイメージを持って発動のキーワードとなる文言と結びつけることで思い描いたイメージの魔法を具現化することが可能となるのだ。


(そして、俺はこれまで授業中に幾度となくイメージしてきたッ)


影沼よって魔物の機動力低下と周囲5メートルの中に入った瞬間ソレを察知できるようにする。ぐんぐん魔力が消費され、身体強化で体力が削られているのが分かる。

しかし、超回復が絶え間なくそれらを回復し続ける


(来いッ!)


その瞬間全方向からゲームで見かける赤い帽子を被り、両刃のナイフを持ったゴブリンと狼型の魔物が一斉に襲い掛かってくる


(ヲォラァァァッ!)


【レッドキャップの絶命を感知しました。個体名『ワンちゃん』は経験値を獲得しました。レベルが1上昇しました。各種ステータスが上昇しました。】


(コイツレッドキャップっていうのかッ)


機動力を低下させたからと言ってすべての魔物を対処できるわけではない。まとめて襲い掛かってくる魔物を超強化した前足で薙ぎ払いつつ別方向から比呂が眠る影綿へ近づこうとするレッドキャップへ肉薄し、頭部をかみ砕く。魔物を倒すごとに頭の中で鳴り響く機械音。しっかり殺しきれたかどうか判断するのにはもってこいだが、魔物を一体仕留める度にこれでは集中が途切れかねない。


(あぁ~ウザったいッ!)


無限湧きを疑うレベルで絶え間なく襲い掛かってくる魔物ども。


(クソッ、これじゃ間に合わないッ!魔法を使うか?いや、現状同時に発動できるのはせいぜい2つ。それ以上を使おうとすれば他の2つとも解かれちまうッ………しかもそろそろ1分が経つ。いや、影沼に割いていたリソースを防御に全振りすれば障壁の代わり位にはなるはずだ。)


貯めていた影をあますことなく排出し、地面すら飲み込み球状の障壁を作り出す。


(これなら戦闘に集中できるッ!)


比呂さんにまで衝撃が及びかねないと封印した身体超強化5倍を発動する。そして、手始めに視界の悪い周辺一帯を更地と化す。あの時と同じようにクレーターとなったそこにはその衝撃だけで満身創痍の魔物どもが横たわっていた。


(あぁ、これはいい)


まずは手近にいた一匹のレッドキャップを1匹踏みつぶす。


プチッ


それはまるでミニトマトをつぶしたときのような感触だった。それを見ていたの魔物たちは瞬間全身を恐怖が支配する。そして理解する。自分たちは近づいてはならない悪魔に近づいてしまったのだと。瀕死の魔物は凡そ20匹。かろうじて動けている魔物を先に処理し、残る魔物をゆっくりと減らしていった。気が付けばレベルは23となっていた。その後、成瀬は殺した魔物を一か所に集めた


(魔物の血は……さっきの衝撃で全部吹き飛んだか。じゃあ、あとは死体だけだな。ラノベならこの死体たちは素材として買い取ってくれるし、一応保管しておくか……)


そう言って成瀬は影を広げ魔物の死体吸い込んだ


(影袋。平たく言えば4次元ポ〇ットだな)


そうこうしていると周囲が少しずつ明るくなり始める。


(もう朝か………あ、比呂さんが起きる前にステータスの確認をしておきたい)

---------------------------

名前:ワンちゃん

種族:ブラックフェンリル

魔法適性《影》

LV:23

HP:230/230

MP:76/76

筋力:169

防御力:125

俊敏力:138

精神力:670

固有スキル

『真実の嗅覚』『超回復』

スキル

『影貯蔵』『障壁』『身体超強化』

------------------------------------------------


(おぉ……相変わらず精神力だけ断トツで高い。他もそれなりにいい数値になってきたじゃん。これならあの魔法も使えるかな?)


・・・・・・・・・・・・・

「今日も全然魔物に遭遇しないね!」


「ヴォンッ!」


レベルアップに伴い大きくなった成瀬は比呂を背に乗せながらこのどこまで続いているのかわからない草原を散策していた。はじめはどこから魔物が襲い掛かってくるかわからない恐怖で口数が少なかった比呂も陽が真上に昇る頃には緊張も解れていた。

それもそのはず。現在、成瀬達の周辺には魔物は一匹たりともいないのだから。


影狼。スキルは使えないが自分と同等の身体能力を有する影から生成した分身体を凡そ20体程偵察に出したのだ。これまでは総魔力量が少なかったのとそもそも素の身体能力が低かったので作らなかったが、今ならレッドキャップもローウルフもホーンラビットも倒せる。もちろん異常があれば察知できるようになっているし、攻撃により欠損したとしても成瀬の魔力によって復元する。死なない駒の出来上がりだ。。そして、魔物を倒せば本体である成瀬に加算される。おかげで現在のレベルは27だ。


(難点は視覚の共有が出来ない事。『何かあった』という情報だけでは危険すぎる。一応魔物だけを狙う様に指示はしているが……まぁその時はその時だな。っていうか、そろそろ人に会いたい。このままじゃ比呂さんが餓え死にする。水筒に入っている水分も残り少ないはずだ。)


成瀬の不安は的中しており、比呂のただでさえ小さな水筒の中身は既に底をつく寸前なのだ。それに

少しづつ顔色が悪くなっている。


「このまま……」


ぽつり……比呂が小さな声で呟く。


「このまま誰にも知られないまま………どこかも知らないところで死んじゃうのかな?」


(ッ!…………)


その言葉に成瀬の胸が熱くなる


(そんなことさせないッ!絶対みんなの下へ連れ帰るッ)


「ヴォンッ!」

「どうしたの?ワンちゃん」


(どうしよう。首の部分をしっかり掴んでいて欲しいんだけど……コミュニケーションが取れないのが不便だ……)


少し考えたのち、成瀬は体を揺らしてみる


(ちょっとごめんよ)


「わっぷ……どうしたの?危ないじゃない」


球に揺れたことで落ちそうになった比呂は身を固め思わず成瀬の首元をしっかり掴む


「ウォフ」


満足げに鳴くとようやく比呂も意図を察したのか見を屈めてだけではなく膝も成瀬の体に這わせた


「こういう事だよね?」


不安そうに尋ねる比呂にもう一度満足げに鳴くと成瀬は走り始める。こんなことを言うと比呂さんに怒られるかもしれないが、比呂を乗せたばかりの頃は少し重さを感じていた。しかし、レベルアップの恩恵により、今ではかなり軽く感じるようになった。


「わっはっーッ!速いッ!!速いよ。ワンちゃん」


風を切って走ることで気分転換になったのか、比呂の顔色が少し良くなったように感じ、成瀬は少し安堵するのだった.


それから半日が過ぎ、陽は沈み周囲は星明りのみの暗闇となった。これ以上は無理と判断し、今日はここでビバークという形になった。比呂が眠りにつくまでは影綿は発動せず近くで見守ることにした。


(ただでさえ精神が弱ってるんだ。何かあった時近くにいませんでしたでは俺の価値は皆無だ)


その後比呂が眠りについたのを確認し、移動中も魔力が回復する毎に増やす続けた200を超える影狼を全て影の中から排出する


(周辺にいる魔物を狩りつつ人里を探せッ)


((((ッ!))))


成瀬の命令に応じ、全ての影狼が一斉に周辺へ散っていった。



(ッ⁉)


体感にして凡そ3時間が経過した頃だった。それまでは1,2体しか消されていなかった影狼が異常な速度で消されていくのを感知した。


(なんだ?強い個体でも現れたか?)


現在のレベルは27。ステータスもそれなりに高くなった。その影狼が次々と瞬殺されていく。その事実に成瀬は思わず比呂の周囲に影綿。更には影帷をその上に被せるような形で防御を補強する。更に、それを成瀬の影の中へ収納し、成瀬事態も影の中へ入り、その上に数体の影狼をデコイとして配置した


(これが今の俺に出来る最大。もし理性も知性もない魔物ならこれでやり過ごす。人間であるのであれば俺の鼻でその性質を判断してやる。)


しかし、次の瞬間物凄い移動音と共にデコイとして配置した影狼が一瞬で全て破壊されたソレは


(ッ⁉)


その姿は熊に近い。しかし、一軒家相当の巨体と真っ赤に血走った眼。しかもその眼はまっすぐこちらを捉え


“次はお前だ”


とでも言いたげな殺気を振りまいて来る


(ハハッ……気付いてやがる)


成瀬は観念して影の外へ出る


(あの目は絶対に殺すって眼だ。影狼を一撃で複数体壊す腕力に推定数百メートルを一気にこちらへ駆けてくる速力。逃げられないな)


にげたくなるような戦力差。いや、逃げることすら許されたい圧倒的暴力が目の前にいる。それだけで絶望するには十分な材料だ。出し惜しみすることなく身体超強化5倍を発動する。


「#”!&$&$#ッ!!!!」

「ヴヴヴヴヴ~~ッ⁉」


攻撃を仕掛けようとした瞬間だった。その瞬間気が付けば成瀬は空中を待っていた。そして、遅れて全身から激痛という言葉が生ぬるく感じるほどの痛みが全身を襲った。


(攻撃を受けた?今?どうやって?いやそれよりも着地の態勢をッじゃないと死……)


その時成瀬は気づくことはなかったがかろうじて前足から上しか残っていなかったことに………

超回復はかつてないほどにその存在感を放つこととなる。地上に落下する頃には何事もなかったかのような回復しきった。

しかし、それで終わりではなかった。あの熊モドキを探そうと周囲を見回したその時鋭い何かが複数本成瀬の体へと食い込んだ


(ッ~~~ッ⁉)


それが何なのかは持ち上げられた瞬間理解した。噛みつかれていたのだ。成瀬を喰わんとばかりに


(クッソッッ!)


辛うじて動く右前足を5倍強化し、熊モドキの顔面を引っ掻こうとするが………


キンッ!


(なッ⁉)


5倍強化した爪さえ、この熊モドキには通じなかったのだ


(このッバケモノガッッ!)


渾身の一撃すらこの化け物には通じない事実に絶望しながら成瀬は飲み込まれるのだった



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