第20話 使えるか否か
「「―ッ!?」」
「あ、カーティアのマーキング位置ってここだったんだ」
影を渡りカーティアの町に帰ってきた比呂と成瀬。そんな二人の急な出現に支部長ことフーリィニアと副支部長のバグワーグが目を見開きこちらを見る
「ただいま帰りましたッ!」
「……え、えぇ。おかえりなさい。あと、出来ればこの部屋への直接影移動は控えてくれるかしら?」
比呂は手紙を届けた後に起きたことの顛末を簡単に説明し、へラクールから預かった1通の手紙をフーリィニアに手渡す。
「そうですか。まさかあの小さな迷宮が迷宮崩壊を起こすとは………しかし、被害がこれほど小規模にとどまったのは間違いなく貴女とワンちゃんさんのおかげですね。あの子の師匠として私もお礼を言わせてください。ありがとう」
「俺からも感謝するぜ。この規模だと弟は死んでいたかもしれねぇ。ありがとうよ」
二人は改まった様子で頭を下げる
「私は冒険者として、人として当然のことをしました。それに私とワンちゃんだけではそう上手くは行きませんでした。これはペンチェルの冒険者の皆さんと掴んだ勝利です」
「そうですか………そんな事件の後にこんなことを言うのも何なのですが、少し折り入ってご相談があります」
「…………」
それはいつになく真剣な様子だった。因みに成瀬はこの時からすでに嫌な予感を嗅ぎつけており、逃げ出したくてたまらないのだった。
それはちょうど迷宮崩壊が起き、あふれ出る魔物がペンチェルの冒険者たちと接敵した頃まで遡る
「い、いやッ……待ってください。おかねならちゃんと払います。だからッ」
「うるせぇッ!うちのボスはもう待てねぇんだよッ!今すぐ金貨2000万枚払えねえならおとなしくその体売るしかねえだろっ」
「いや、嫌ぁぁッ!」
ピクティスはこの世界においてもかなり整った容姿をしている。さらに回復魔法の適性を持ち、高位の回復魔法を扱うことが出来る。人身売買の世界においてそれは絶好のカモということだ
そして………
「ピクティスさん?」
2日間も無断でギルドの仕事を休んでいるピクティスを心配してやってきた同期のギルド職員がピクティスの借りている借部屋へ訪れたところ無残に荒らされたその部屋を発見。その後支部長たちの耳に入ったらしい
「調査したところ彼女には多額の借金があり、その借り先は王都でも悪名高い裏組織でした」
「そんな………ッ!」
(あいつそんなことやってたのかよ……バカだろ)
成瀬は心の中でそっとピクティスに見切りをつける。しかし、比呂は違った
「どうにかできないんですか?」
「あの裏組織は王都の警備隊すら手を拱きます。我々のような一般の者では到底太刀打ちできません」
「………でも、なんで借金なんて。しかも、そんなところから」
「借金を作ったのはあの子ではありません。あの子の父親です。あの子は勝手に保証人にされているだけです」
それは日本でも稀ではあるがケースとしては存在している。
「どのくらいの金額なんですか?」
「この場合どの程度か想像がつきません。あの類の金貸し屋は利子をどこまでも高くします。書面によればお金を借りたのは20年以上前です」
(あぁ、そりゃ想像つかんわな)
心底呆れ果てた成瀬は床に伏せウトウトし始める
「いえ、どうにかできるはずです。ワンちゃんの魔法とスキルなら隠密での行動が出来ます。それでその組織の不正の証拠をつかみます。そうすれば自然とッ!」
「そう簡単な話ではありません。それが出来ればすでに王都の警察隊が動いています。」
「じゃあなんでですかッ!?」
「その組織とこの国の大多数の貴族が繋がっているんです」
「ッ!」
「それもかなり高位の貴族。もしかすれば王族すら関わっている可能性があります」
信じられないとでも言わんばかりの様子をあらわにする比呂とは対照的に成瀬は心の中で頷く
(むしろそんな連中がこの国に20年以上のさばっているってことはそれ相応の人脈があるからだろう。常識だな)
聞けばその組織は違法な金利での金貸しの他に違法カジノの運営。麻薬の密売。殺し屋・売婦の斡旋。聞けば聞くほどロクでもない組織の情報が出てくる
「敵は我々の予想以上に根深く国に根付いている組織です。この様子では恐らく他国にも魔の手を伸ばしているでしょう」
「………それでも、助けたいです」
頑なにピクティスを助けたいと願う比呂。それはフーリィニアとて同じこと。しかし、それが出来ないのが現状である
「我々もただでは終わるつもりはありません。私としてもこの町にいる希少な回復魔法士をみすみす手放すつもりはありません。今はとにかく情報を集めなくてはなりません」
(いや、別にやろうと思えばピクティス奪還だけならできなくもないか?)
お通夜状態の支部長室で一人……いや、一匹だけがとあることを思い出す。
(そういや、あの首輪つけっぱなしだよな?あれを辿れば………あ、いた)
カーティアの町から西の方角。成瀬が裏切り防止に付けた首輪と見張りの影狼が反応した。しかし、かなり遠い
「私達に出来ることはなりますか?」
「今貴女に出来るのは情報が集まり切るまでお金を集めてください。それとワンちゃんさんをもっと強く育ててください。敵は未知数。我々のベストは彼女を連れ戻すことです。最悪彼女をお金で買います」
「まさに人身売買ですね」
「えぇ、ですが彼女をどこぞの変態性癖の貴族・王族に買われるよりマシです」
(そりゃそうだ………まぁ、俺としてはアイツにそこまでの価値はないと思うが………いや、回復魔法という一点においては確かに使えるか?)
比呂にとってはこの世界で初めてできた気楽に話が出来る友人。しかし、成瀬にとって彼女はどこまで行っても『比呂を無事日本に送り届ける』という目的の手段の一つでしかなく、使えないと判断すればそれまでなのだ。
(まぁ、比呂さんがここまで入れ込んでいる以上見過ごすことはできないか………)
気が付けば日も沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。この件は一旦保留となり、明日からの比呂の方針としては魔物を狩りつつ、資金調達と成瀬のレベルアップの両立を図るつもりのようだ。比呂の眼はかつて成瀬が愛する村河瑠璃がいじめにあった時と同じ………確実に怒っている時の眼だった
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気が付けば日も沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。この件は一旦保留となり、明日からの比呂の方針としては魔物を狩りつつ、資金調達と成瀬のレベルアップの両立を図るつもりのようだ。比呂の眼はかつて成瀬が愛する村河瑠璃がいじめにあった時と同じ………確実に怒っている時の眼だった
比呂が深い眠りにつくのを確認した成瀬は影狼を4匹比呂の傍に配置し、ギルドにある支部長室へと足を運ぶ
「来ると思いましたよ」
『先の件で共有しておきたい情報がある』
先ほどのピクティスがどのあたりにいるのか。その大まかな情報についてフーリィニアに伝える
「なるほど……その経緯については思うところはありますが、この際ファインプレーだったとしましょう」
話を聞き終え、頭を抱えるフーリィニアに構いもせず成瀬はずっと気になっていたことについて質問する
『この世界にはレベルという概念はあるのか?』
これまで比呂をと通して敵のステータス情報を閲覧してきた。しかし、それは比呂に鑑定というスキルがあったからであって、もしこのレベルという概念が地球から派遣勇者として飛ばされてきた比呂と成瀬だけのものではなく共通のものであるのであれば件の組織のレベルを含めたステータスの確認をしておきたいのだ。
「あります。尤もそれを閲覧できるのは鑑定のスキルを持つ者だけですが」
『例え自身のステータスであってもか?』
「そうですね、自分のステータスを見ることが出来れば便利なのですが………過去にはステータスを可視化する古代魔道具が発掘されたという例もありますが、それを使うには膨大な資金が必要になります。極論ではありますが、視れても視れなくてもどっちでもいいという者が多いので大概の冒険者はステータの可視化に積極手ではありません」
(なるほど……確かに数値として確認せずとも自身の力量を把握し、勝てる敵と勝てない敵の区別をすることで生存能力を高める方がよっぽどコスパが良い。レベルアップのタイミングとかもわからないのにバカ高い費用払ってステータスを視覚化する奴は少ないわな)
『それで?その組織の連中はどの程度の強さなんだ?』
「全体像は把握できていませんが下は10から上は90以上と言ったところでしょうか。特に危険なのはゼロと呼ばれるレベル90以上に加え特殊な固有スキルを有する5人です。彼らは単独で国家戦力に匹敵する戦力です」
下手すればペンチェルの迷宮崩壊よりも厄介極まりない脅威
今の成瀬ではゼロが一人だけでも勝ち目は薄い
『とりあえずあのバカに致命的な何かが起きるまではこちらでは監視のみ。動くのはアンタらの情報収集が上手くいき、準備が整った時がその時。という事だな?』
「えぇ、私の伝手を全て使ってでもあの組織を壊滅させてやります」
「おい、貴様が仕掛けたあの迷宮の魔物。やられたみたいだな?まったく……あのお方から授かったその力があれば一国を滅ぼすには十分であろうに」
赤褐色の肌に一本の凶悪な角をギラつかせた男は鋭い眼光を向ける
「うるさいなぁ。いいんだよ、今回も様子見なんだよ。っていうか、僕は他にやることがあるんだよ。最近面白い魔物を見つけてね。ぼくが改造した魔物を悉く殺してくれるんだ。いつかアレもぐちゃぐちゃに解剖して改造してみたいなぁ」
そんな男の言葉をいなしながら宙を漂う少年。硬骨な笑みを浮かべるその口元には鋭くとがった2本の犬歯が月光に反射し、不気味に光る
「はぁ~……あのお方が完全に力を取り戻す儀式を行うのは凡そ半年後。それまでにこの魔王城に人間どもの死体の山を築かなければならない。わかっているのか!?」
「五月蠅いなぁ。大丈夫だよ、今面白いことをしてる人間共がいるんだ。そいつらを上手く使えば僕が手を下すまでもなく一国どころかそれを起点に何か国も消せちゃうよ」
その笑顔はまるで幼き子供がいたずらを働くときのそれと同じ。しかし、月明かりに照らされたその少年の笑顔からは狂気の香りが色濃く漂う
「よいか?失敗は許されない。あのお方の完全復活こそ我々の悲願なのだから」
「そうだねぇ~~」




