第13話(下衆な笑みを浮かべやがってッ)
ペンチェルの町はカーティアとあまり変わらない様子だ。しいて言うなら少し物騒な見た目をした連中が多い位だった。どうやらこの世界においてテイマーというのはかなり希少な存在の様で成瀬の背中に乗って移動する比呂を二度見。ひどい奴だと武器に手を掛けようとする連中がちらほらいた。しかし、人を乗せて歩いている様子から無害だと察し、臨戦態勢を解き、謝罪して去っていく。大抵の奴はそのタイプだった。しかし、人の世に善と悪があるように融通の利かない輩もいたりする
「貴様ッ‼魔獣を従えるとは魔族の手先かッ!」
「へッ!?ち、違いますッ!この子は従魔で私はッ……」
「問答は無用ッ!悪即漸ッ!」
(比呂さんに刃を向けたな?死ねッ!)
「ワンちゃんッ!無力化してッ!」
(ッ!?)
身体強化3倍を選択し、馬鹿正直に真正面から突っ込んでくる輩を横から殴り殺そうとすると、それを察した比呂が無力化を指示してくる
(比呂さんがそう言うなら仕方がない……影魔法『影領域』からの『影束縛』)
「なっ!?これは……闇魔法ッ!?やはり魔族かッ!」
(駄目だ……コイツは本当に駄目だ)
比呂に無力化を指示された以上ソレは不殺を意味する。その指示に背けば必然この町における彼女の立場はかなり弱くなってしまう。しかし、これ以上喚かれると邪魔以外の何物でもない。……ということで成瀬がひらめいた策は
(絞め落す)
影の腕で男の首を絞め、凡そ13秒。抵抗していた男の手が力なくうなだれるのを確認して影の腕を打緩めた。しっかりと息をしているのを確認して、いそいそとその場を立ち去るのだった
「初めまして、ここのギルドをご利用するのは初めてですね?」
「はい、私はカーティアの冒険者ギルド支部長より緊急の手紙を預かっています。至急ここの支部長さんにお会いしたいのですが………こちらがその手紙になります。そして、こちらがそれに関する依頼の書類になります」
一通の手紙と書類を取り出す
「はい、確認しました。しかし、生憎支部長は出払っております。なんでも先ほどこの町のエースが路上で襲われ意識不明になったらしいんです。もしかすると魔族が入り込んだのかもしれないとこの町の巡回へ行かれました」
そこまで聞いて二人の脳内に先ほどの男が過る
「そ、そうなんですかッ……物騒ですね」
「何かご存じですか?」
その焦りが受付嬢の人に伝わったのか懐疑的な顔つきで比呂へ尋ねる
「い、いえ……何も知りません」
「そう、ですか……支部長はもう少しすれば帰ってくると思います。それまではそこのロビーでお待ちください」
「わかりました」
因みにこの間成瀬は比呂の影に潜み、何があっても即座に対処できるように外の様子を伺っていた。
しかし、その判断は思わぬ形で裏目に出てしまうのだった
「なぁなぁ、そこの姉ちゃん……ヒック。こっちで俺たちと一緒に酒飲もうぜッ!」
昼間から酒を飲み千鳥足の髭面おっさんが近寄ってきて、比呂の方に手を掛けようとする。
(その薄汚い手で比呂さんに触るなッ)
「なっ……体が動かない。」
(影魔法『影領域』からの『影縫い』)
先ほどの勘違い野郎に使った影束縛は如何せん見栄えが悪い。なら、影そのものを支配し、縛る。これなら傍目から見た時急におっさんが止まったようにしか見えない。これは比呂のアイデアだ。先ほどの反省を踏まえ、こうすればいいんじゃないかな?とアイデアをくれた。
しかし、おっさんからすれば急に体の自由が利かなくなったのだから……その衝撃で酔いが吹き飛ぶ
「すいません。せっかくのお誘いなのですが、私は未成年です。」
ふり返り、おっさんの顔を見てそう言う。おっさんの眼には目の前の女が己より格上だと理解していた。
「わ、悪かった。もう誘わないからッ!」
それを見ていた他の酒飲みたちその異様な光景に静まり返る。
「ありがとうございます。じゃあ、早く他の皆さんの下へ行ってください」
それは有無を言わさぬ圧。言われていないはずの成瀬も竦んでしまう。
(これは………もしかしなくても比呂さん少しオコですか?)
「ワンちゃんッ出ておいで」
大きな声で成瀬を呼ぶ。成瀬としては最初から出ていても良かったが人の話を聞かず切りかかってくる自分が全て正しいと勘違いしているバカの同類に遭遇しても問題ないようにと比呂が影の中に入っているよう言っていたのだ。それなのに何故?という疑問が成瀬の中で浮上する。もっとも、成瀬にとってソレはむしろ本望だった
(やっぱりこの方が安心する。あの状態じゃ、何かあった時咄嗟に庇えない……って、ファッ!?)
「やっぱりこのモフモフ安心する。さっきは影の中にあぁ言ったけどやっぱり一緒にいて」
急に呼び出したかと思えば比呂はためらう事なく成瀬に抱き着き、その毛並みを思う存分堪能する
(ひ、比呂さんッ!ソレはまずいってッ!)
狩ってない程密着したその体に成瀬は大いに動揺する。
しかし、ギルド内はパニックだった。当然だ。急に魔獣が街中どころかギルド内に現れたのだから。依頼受注しに来た冒険者や依頼は受けず屯していた冒険者。酒を飲んでいる連中の中にもまだ意識がはっきりしている連中も含め全員が臨戦態勢を取った。
「ワフッ」
「ッ!」
その物々しい空気にようやく気付いた比呂はすごい気まずそうな様子で成瀬を見る
(はぁ…………)
「キャウキャウッ!」
「ッ!?」
背中を地面につけ、腹を見せる。それは他の魔獣の様に攻撃はしないという表しであり、己が無害であるという証明である
「きゃ、キャワッ~~~」
声にならない悲鳴を上げる比呂。場違いな雰囲気を醸し出す比呂と成瀬に警戒心をむき出しにしていた冒険者は阿保らしいと言わんばかりに武器をしまうのだった
(はぁ~……なんとかなったぁ)
「ありがとう、ワンちゃん。助かったよぉ」
張っていた気が一気に抜けたようなよく生徒会で見せるフニャっとした表情を見せる。それは最大の癒しであり、その整った顔立ちから繰り出される眩い光に虫が集まるのは必然。その微笑に釣られてノコノコやってくる色ボケ(害虫)がいる
「ねぇ、そこのお嬢さん?ソロで冒険者やってるんだったら俺たちと一緒にパーティー組まない?」
それは日本にでもいるイケイケ陽キャのイケメン野郎。その他3人。その男以外は女のハーレムパーティーだ。
(はっきり言って俺の敵だ)
「………お断りします」
「えぇ~ホラそんなこと言わないでさぁ~一回だけ!一回だけでいいからッ!冒険者をするならパーティーを組んだ方が絶対いいよッ!仲間の不得手をカバーしたり道中の会話を楽しんだり……ねッ!一回でいいからさッ!」
そんな軽薄な言葉に1mmの信憑性も存在しない
「お断りします。それ以上しつこく勧誘してくるようでしたらこちらもそれなりの対応を取らせていただきます」
成瀬を抱き寄せながらそう言うと男は笑い出す。
「なら決闘をしようじゃないか。僕が君の従魔君に勝ったら君は僕のパーティーに入る。君が勝ったら僕は何でも君の言う通りにしよう。どうだろう」
(ニヤニヤと下衆な笑みを浮かべやがってッ……これ以上比呂さんの視界にこの男を入れたくない)
「グォンッ!」
「どうやら従魔君もやる気みたいだね」
「ワンちゃん………」
心配そうにする比呂を横目に、戦いの火ぶたは切って落とされるのだった




