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美香と光子と優子の爆笑ストーリー。光子と優子29歳  作者: リンダ


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鹿島稲荷大社へ行きたいインコ一家


鹿島稲荷大社へ行きたいインコ一家


爆笑通信の九州編が終了した翌朝。


徳島支部のリビングでは、由理恵が洗濯物を畳みながら、昨夜の配信を思い出していた。


火山と海。


長崎で捧げた祈り。


佐世保バーガーを前に目を丸くする子どもたち。


笑いだけではなく、旅先の歴史や人々の思いまで丁寧に届けられた、印象深い放送だった。


ところが、ケージの周辺だけは、朝から妙に騒がしかった。


せきちゃん閣下、せいちゃん姫、きびまる、あわまる、しらゆきの五羽が、タブレットの画面を囲みながら、何やら真剣な顔で相談している。


せきちゃん閣下が羽で画面を示した。


「ここや。ここに行くぞ」


せいちゃん姫が目を細める。


「鹿島稲荷大社」


きびまるが大きくうなずいた。


「お参りする」


あわまるも胸を張る。


「五羽そろってお参りする」


しらゆきはすでに、小さな巾着袋の横で待機していた。


「お賽銭も準備しました」


由理恵は畳んでいたタオルから顔を上げた。


「えっ、鹿島稲荷大社に行くん?」


「行く」


五羽の返事が見事に重なった。


「どうやって?」


由理恵が尋ねると、せきちゃん閣下は自信満々に答えた。


「徳島から飛ぶ」


一瞬の沈黙が流れた。


由理恵は、せきちゃん閣下の丸みを帯びた体をじっと見つめた。


「閣下、徳島から佐賀まで飛ぶつもりなん?」


「そうや」


「昨日、ケージからテーブルまで飛んだだけで、途中でカーテンに引っ掛かっとったやん」


「それは向かい風の影響や」


「室内に向かい風は吹いとらん」


せいちゃん姫が冷静に割り込んだ。


「飛行案は危険です。列車で行きましょう」


きびまるがタブレットを操作する。


「徳島駅から高松へ行って」


あわまるが続ける。


「そこから岡山へ行って」


しらゆきが画面を見ながら読み上げる。


「新幹線で博多へ行って、さらに佐賀方面へ向かいます」


せきちゃん閣下は満足そうに羽を広げた。


「完璧や」


由理恵は、画面に表示された移動距離と所要時間を見た。


「全然完璧ちゃうよ。めちゃくちゃ遠いやん」


「どれくらい遠い?」


「朝に出ても、すぐ着くような場所やないよ。列車を何回も乗り換えて、海も越えて、四国から九州まで行かないかんのよ」


せいちゃん姫が画面をのぞき込む。


「徒歩では?」


「もっと無理」


「自転車では?」


「誰がペダルこぐん?」


五羽が一斉に、せきちゃん閣下を見た。


「なんで俺やねん」


せきちゃん閣下は羽をばたつかせた。


「閣下やけん」


きびまるが即答する。


「体力ありそうやけん」


あわまるも続く。


しらゆきは真顔で言った。


「最近、体重も増えましたし」


「それは筋肉や!」


「脂肪です」


せいちゃん姫の容赦ない判定が下り、由理恵は吹き出した。


せきちゃん閣下は、もう一度タブレットの地図を確認した。


徳島。


瀬戸内海。


岡山。


広島。


山口。


福岡。


佐賀。


画面を縮小しても縮小しても、目的地はなかなか近づいてこない。


「遠いな」


「遠いですね」


「遠すぎる」


「めっちゃ遠い」


「今日は無理ですね」


五羽は数秒間黙り込んだ。


そして、せきちゃん閣下が宣言した。


「今回は諦める」


「早いな!」


由理恵のツッコミが部屋に響いた。


せいちゃん姫は、何事もなかったように羽繕いを始めた。


「距離には勝てません」


きびまるも水入れのほうへ歩いていく。


「無理はよくない」


あわまるは止まり木に移動した。


「旅は計画的に」


しらゆきは用意していた巾着袋を片づける。


「お賽銭は次回へ繰り越します」


あまりにもあっさりした撤退に、由理恵は腰に手を当てた。


「ちょっと待って。そもそも、なんで鹿島稲荷大社にお参りしたいと思ったん?」


五羽は再び集まった。


由理恵は、せきちゃん閣下から順番に理由を聞くことにした。


「まず閣下は、何をお願いするつもりやったん?」


せきちゃん閣下は胸を大きく張った。


「日本中の神社で、俺の銅像を建ててもらう」


由理恵の表情が固まった。


「なんで神社に閣下の銅像を建てるん?」


「参拝者が俺の銅像を見て、ありがたい気持ちになる」


「ならんよ」


「銅像の台座には『せきちゃん閣下、ここに降臨』と刻む」


「神様より前に出ようとするな」


せいちゃん姫が、横から冷たく言った。


「銅像より先に、ケージの中を片づけてください」


「神聖な話をしよる時に現実を持ち込むな」


由理恵は笑いをこらえながら、次にせいちゃん姫へ尋ねた。


「姫は何をお願いしたかったん?」


せいちゃん姫は、きりりとした顔で答えた。


「閣下が一日一回は、私の言うことを素直に聞きますように」


「一日一回だけでええん?」


「最初から高望みすると、神様も困りますので」


「俺は普段から素直や」


「昨日、体重計から逃げましたよね」


「あれは計測機器の不具合を疑っただけや」


「三回乗って、三回とも同じ体重でした」


「三台とも壊れとった」


「一台しかありません」


由理恵は耐えきれず、床に手をついて笑い始めた。


続いて、きびまるの番になった。


「きびまるは?」


きびまるは、少しも迷わず答えた。


「毎日、おやつが二倍になりますように」


「普通やな」


由理恵が言うと、きびまるは首を横に振った。


「ただし、体重は半分になりますように」


「神様に計算の無理難題を押しつけるな」


「食べた分が全部、羽のつやになりますように」


「脂肪にはならんの?」


「ならない」


「どんな体の仕組みやねん」


せきちゃん閣下が感心したように、きびまるを見た。


「それ、俺も同じ願いにする」


せいちゃん姫が即座に止める。


「閣下は運動してください」


次は、あわまるだった。


「あわまるは、どんなお願い?」


あわまるは静かに目を閉じた。


「世界中の列車に、インコ専用車両ができますように」


由理恵は少し感心した。


「それは夢があってええな」


「座席は全部、止まり木」


「うん」


「床にはヒマワリの種」


「散らかるよ」


「車内販売は粟穂と小松菜」


「健康的やな」


「車掌はせきちゃん閣下」


由理恵の笑顔が消えた。


「それは不安しかない」


せきちゃん閣下が、車掌の真似を始めた。


「次は、たぶん博多。間違っとったら自分で降りてください」


「絶対乗りたくない!」


「切符の確認は気分次第」


「鉄道会社から一日で解雇されるわ!」


あわまるは、さらに付け加えた。


「駅に着くたび、閣下が車内放送で歌います」


「乗客が全員、途中下車するよ」


最後に、しらゆきの番が来た。


「しらゆきは、何をお願いしたかったん?」


しらゆきは、巾着袋を大切そうに抱えながら答えた。


「せきちゃん閣下が、転ばずに一週間生活できますように」


せきちゃん閣下が不満そうに羽を広げる。


「俺はそんなに転ばん」


その直後。


せきちゃん閣下はタブレットの充電コードに足を引っ掛け、前につんのめった。


「うわっ」


羽を広げて踏ん張ろうとしたが、勢いは止まらない。


そのままクッションの上へ顔から突っ込み、短い足だけが宙に浮いた。


しらゆきは静かに言った。


「やっぱり、お参りが必要です」


由理恵は腹を抱えた。


せいちゃん姫は、クッションに埋まった閣下を見ながらため息をつく。


「鹿島稲荷大社へ行く前に、家の中で安全祈願をしたほうがよさそうですね」


きびまるも首をかしげた。


「徳島の近くの神社ではだめなん?」


あわまるが答える。


「たぶん、どこの神様も同じように困る」


しらゆきは小さくうなずいた。


「お願いの内容が内容ですから」


ようやくクッションから顔を出したせきちゃん閣下が叫ぶ。


「俺の銅像計画は困らせる内容やない!」


「一番困らせるお願いや!」


由理恵のツッコミを合図に、部屋にいた全員の笑いが一気に爆発した。


由理恵は床に座り込んだまま腹を押さえ、せいちゃん姫は止まり木に顔を伏せ、きびまるとあわまるは羽をばたつかせながら転げ回る。


しらゆきさえ、巾着袋を抱いたまま小刻みに震えていた。


笑いの中心にいたせきちゃん閣下だけは、まだ納得していない。


「銅像があったら、みんな写真撮るやろ!」


「神社やなくて、観光地にするつもりやん!」


「名物になる!」


「たぶん『撤去してほしい銅像ランキング』一位になるわ!」


再び、全員の腹筋がドッカーンと崩壊した。


結局、鹿島稲荷大社への参拝計画は、開始からわずか十分で中止となった。


五羽が用意したお賽銭は、徳島支部の近くにある神社へ持っていくことになったが、由理恵は出発前に念を押した。


「神様にお願いする時は、普通のお願いにしてよ」


せきちゃん閣下は、しばらく考えてから答えた。


「銅像が無理なら、等身大パネルで」


「まだ諦めてなかったんかい!」


朝の徳島支部に、三度目の爆笑が響き渡った。

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