2日目の鬼業軍
二日目の朝は、まだ夜の気配を少しだけ引きずっていた。
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二日目・午前四時半 国分行き、眠気との戦いスタート
「……う、さみ……」
スマホのアラームが、まだ真っ暗な佐伯のビジネスホテルの一室に、けたたましく響く。
最初に目を開けたのは、さすがアスリート組――翼と拓実、それから祥子とその恋人だった。
拓実
「よし、起床。…って言いよるけど、体はガッツリ寝とるな……」
翼
「テニスの合宿より早いっちゃけど、この旅。誰がこのダイヤ組んだと……」
ぼやきながらも、さっと身支度を済ませるあたり、やっぱりプロ。
問題は――子どもたちと、双子の母たちである。
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眠気MAXの子どもたち vs 鬼のダイヤ
陽翔は、布団の中で丸くなったまま、うめき声を上げた。
陽翔
「……まだ夜やん……」
ベッドの足元では、燈真が布団をかぶったまま、モゾモゾと移動している。
燈真
「……きょう、おやすみでよくない……?」
そんな中、もっとも分かりやすく甘えモードに入ったのが年少コンビだった。
悠翔
「……おかあしゃん……だっこ〜……」
彩羽
「……まま〜、いろはもだっこ〜……」
ふらふらと起き上がったかと思うと、ふたりして光子と優子の布団にダイブ。
しかし――当の母たちは、まだ夢の中だ。
光子
「(寝言で)…シャンメリーって、アルコール入っとるとね……」
優子
「(寝言で)…もう一本だけ飲ませぇ……」
結音
「いや、起きて!? ママたち、完全にまだ昨日のテンション引きずっとるやん!」
灯乃と燈真は、半分寝ながら、なぜか結音にぴったりくっついて離れない。
灯乃
「ゆのんちゃ〜ん……だっこ〜……」
燈真
「ぼくも〜……ゆのんちゃんクッション〜……」
結音
「ちょ、ちょっと待って!? 2人いっぺんはムリやけん! 腰いく、腰!!」
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双子起こし作戦・ミッション開始
そんなカオスな部屋の隅で、よく分かっている男の子がひとり。
陽翔だ。
陽翔
「……これは、普通に呼んでも起きんパターンやね」
結音
「わかるんだね、いとこ力……」
陽翔は小さくうなずくと、光子のスマホを、結音は優子のスマホを手に取った。
陽翔
「じゃ、作戦“スマホ爆音”いきま〜す」
結音
「アラームMAX音量セット……はい、スタート!」
次の瞬間。
ベッドの両側で、同時にけたたましい着信音が鳴り響いた。
光子
「ふがっ!? 爆笑発電所炎上したと!?」
優子
「だれ!? いま生放送中!? …あれ、ちがう、ここ佐伯やん……」
寝ぼけすぎて、場所と状況がごっちゃごちゃである。
拓実
「生放送どころか、まだ外は夜なんですけど」
翼
「ほら、早よ着替えて。今日は“鬼の普通列車区間”通るんやけん」
光子
「……誰ね、“普通と快速だけ縛り”とか言い出したアホは……」
優子
「……あんたやろがい」
即ツッコミ炸裂で、ようやく双子の目にも覚醒の光が灯った。
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コンビニ朝ごはん隊、出動
なんとか全員の準備が整うころ、ようやく空の端がうっすら白んできた。
ホテルを出て、まだ眠たそうな佐伯の駅前通りを、12人がぞろぞろと歩く。
目指すは、駅前のコンビニ。
翼
「とりあえず、朝は炭水化物とカフェインやね」
拓実
「おにぎり、サンドイッチ、パン、全部いっとくか」
祥子
「私はバナナとゼリー。…ついでにお茶」
子どもたちは、棚の前でテンションだけは一気にMAX。
陽翔
「これ! このツナマヨおにぎり!」
燈真
「ぼくはシャケ〜!」
結音
「灯乃、甘いパンばっかり取らんとよ。しょっぱいのも食べなさい」
灯乃
「じゃあ、ソーセージパンも〜」
悠翔
「ひーちゃん、これ〜! アンパン〜!」
彩羽
「いろはこのメロンパン〜!」
光子
「……炭水化物フェス開催中やね」
優子
「まぁ、今日はいっぱい歩いていっぱい乗って、カロリー消費やけんよかろうもん」
そんな会話をしながら、コンビニ袋をたずさえホームへ。
まだ早朝の佐伯駅に、「おはようございます」の声が小さく響く。
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延岡へ 鮎と朝の渓流と、少しだけしんみり
普通列車に揺られ、朝の町から山へ。
車窓の外には、だんだんと五ヶ瀬川の渓流が姿を見せ始める。
祥子
「……あ、きれい」
車窓に広がる、朝もやの残る川面。
昨日の夜、テレビで放送されていた“原爆を描いた映画”のシーンが、ふと胸をよぎった。
あの映画で双子が演じた「大村幸」と「恵」。
もうすぐ、あの日から110年――
なのに、いまだに世界のどこかで、命が軽んじられてしまう現実。
翼
「……昨日の映画、やっぱり何回見ても胃のあたりがギュッてなるね」
光子
「うん……でも、それでも笑いは手放さんけんね。
笑えるときに笑っとかんと、もったいなか」
優子
「その代わり、笑えん現実は、ちゃんと笑える世の中に変えに行く。
それがうちらの仕事やけん」
祥子は、その言葉に小さくうなずいた。
彼女自身もまた、一度は絶望を見た人間だ。
だからこそ、いま目の前に広がる、揺れる緑ときらめく水面が、たまらなく尊く見えた。
延岡に着く頃には、子どもたちの眠気もすっかり飛び、
駅から向かった川沿いの店で、朝から鮎料理を堪能することになった。
陽翔
「このお魚、パリパリしとう!」
燈真
「おいしい〜! 骨までいける!」
結音
「川の匂いって落ち着くねぇ」
照れくさそうに笑う店の主人に、
祥子の恋人が拙い日本語で「オイシイデス」と頭を下げると、
場の空気がふわりと和んだ。
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日向市〜青島〜鬼の洗濯板〜油津
再び列車に乗り、日向市へ。
日向灘を見晴らす高台のビュースポットでは、
子どもたちがそろってフェンスにかじりついた。
陽翔
「うわぁ、海、ひろっ!」
結音
「日本、狭いとか言う人おるけど、こうやって見るとめっちゃ広いやん」
光子
「ほんとよ。日本は“狭い”って言われるけど、
歩いて回るにはじゅうぶん広か。
…ほら、今回みたいに“普通と快速縛り”とかするアホがおると、なおさら」
優子
「それ、まだ言うん? 自業自得やけんね」
南宮崎から日南線に乗り、青島へ。
真っ青な空に、エメラルドグリーンの海。
島へ渡る橋の上で、家族全員がそれぞれスマホを構えた。
灯乃
「みてみて〜、あしのした、しろい〜!」
燈真
「“鬼の洗濯板”って、ほんとに洗濯板みたいやね」
悠翔
「おに〜? どこ〜? こわくない〜?」
彩羽
「いろは、おにさんにはウィンクで勝つ〜」
光子
「いや、鬼相手に色目使わんでよか」
油津では、港町の市場で新鮮な魚を堪能。
刺身に煮付けに、子どもたち用のフライも並び、テーブルはあっという間ににぎやかになった。
拓実
「いやぁ、たまらんね、この旅。
鉄道、海、魚、美人の奥さんと娘たち。完璧やん」
優子
「最後の一言だけ自分でハードル上げすぎやろ」
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志布志で、失われたレールの気配に耳を澄ます
志布志駅では、かつて走っていた大隅線や志布志線の写真や資料が並ぶ展示室を見学した。
翼
「ここにも、昔はレールが伸びとったんやね」
光子
「地図で見たら線が消えとるところにも、
ちゃんと人の暮らしと、電車の音があったんよね」
祥子
「……なんか、ちょっとマラソンコースと似てる感じがします。
“今は走ってないけど、確かに走った跡がある”っていうか」
結音
「そう考えると、線路も道路も、人の足跡も、
みんな“いま”につながっとるんやね」
静かな空気の中にも、どこかあたたかいものが流れていた。
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二日目のゴール・国分へ そして爆笑通信
南宮崎に戻り、日豊本線に乗り換える。
青井岳の山あいを抜け、霧島の裾野をかすめるように走る列車は、
窓いっぱいに濃い緑と、たまに現れる渓谷を見せてくれた。
陽翔
「きょうだけで、山も川も海もぜんぶ見た気がする」
燈真
「にっぽんの“自然コンプリート”やね!」
夕方、ようやくこの日の宿となる国分のホテルにチェックイン。
全員が一度ベッドに沈みかけたところで――
光子
「はい、ダメで〜す。
爆笑通信のお時間がやってまいりました〜」
優子
「全国・全世界の爆笑発電所のみなさ〜ん、
九州ぐるっと鉄道の旅・二日目の報告いくばい!」
◆ 爆笑通信・全国支部中継
リビング代わりのツインルームに、タブレットとノートPCがずらり。
画面には、福岡本部、京都支部、熊本支部、江津支部、メルボルン、パース、ロサンゼルス、キーウ……
世界各地の“爆笑発電所”仲間たちが、ぞくぞくとログインしてきた。
光子
「えー、本日のハイライトその1。
朝四時半、双子と孫ども、全員ゾンビ状態で出発。」
優子
「その2。
結音ちゃんに“同時抱っこ”を迫る灯乃と燈真。
結果、『腰いく腰!!』と悲鳴を上げさせる」
結音(カメラに向かって)
「ほんとにいきかけたけんね!? あれ!」
画面の向こうで、各支部のメンバーが大笑いする。
光子
「その3。
“誰やねん普通と快速縛りしたアホ”発言が、
満場一致で“お前や”とツッコまれる事件。」
優子
「ほんと、うちの姉は自分で爆弾投げて、自分で踏み抜くタイプやけん」
京都支部
『それが好きなんです!!』
熊本支部
『普通列車縛り、こっちも今度やろうかな〜』
ロサンゼルス支部
『こっちは普通と快速どころか、“バスと足”縛りで行きます』
さらに、今日の車窓や食事の写真、動画が次々と共有される。
五ヶ瀬川の鮎、日向灘の青、鬼の洗濯板のごつごつした岩肌、油津の魚市場――
画面の向こうの仲間たちの「おお〜!」という声が一斉に重なった。
翼
「いやぁ、でもマジで、
日本は狭いどころか、普通列車だけで回るには広すぎるね」
拓実
「ほんこれ。青春18きっぷ考えた人、マジで尊敬するわ」
祥子
「でも、そのおかげで、
“走る国”の姿がたくさん見えた気がします。
今日の川も、山も、海も」
キーウ支部
『マラソン金メダリストが言うと重みが違う!』
光子
「ということで、二日目の総括。
“日本は広い。姉のアホも広い。普通列車の時刻は狭い。”」
優子
「今日は鬼の一本区間を無事通貨
寝坊したら、番組的にはオイシイけど、旅的には摘むところでした」
全支部
『絶対寝坊せんでーーー!!』
笑い声とツッコミが、
国分の夜と、世界中の画面の向こうとを、軽やかにつないでいった。
爆笑通信を終え、機材の電源が落ちると、
ようやく部屋に静寂が戻る。
ベッドに倒れ込むようにして、
光子と優子は同時に天井を見上げた。
光子
「……それにしても」
優子
「ん?」
光子
「“普通と快速縛り”で、
**あと何回“なんでこんな計画立てたと!?”って言わなあかんのやろうね」
優子
「知らん。
でも、そのぶん笑い話が増えるけん、よかろ?」
そう言って笑い合う二人の横で、
子どもたちの寝息が、規則正しく重なっていく。
列車の揺れ、川のせせらぎ、海の匂い、
そして――笑い声。
その全部を抱きしめるように、
九州ぐるっと普通列車の旅・二日目の夜は、静かに更けていった。




