佐伯で宿泊
佐伯の夜は、潮の匂いと、温泉上がりのポカポカした疲労感に包まれていた。
初日の行程――
門司港から海沿いを走るローカル線に揺られ、磨崖仏を見ては「でた、石の中からこんにちは仏〜」と陽翔と結音が意味不明な命名をし、別府では温泉ハシゴ。
津久見では、採れたてのみかんを山ほど試食して、全員ビタミン過多状態。
そして、夕暮れ。
一行は佐伯駅近くの小さな旅館にチェックインし、晩ごはんで魚をこれでもかと堪能したあと、
いよいよ――旅の最初の「爆笑通信」生配信タイムが始まった。
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◆ 爆笑通信・佐伯スペシャル
旅館の大広間。
テーブルを端に寄せて、真ん中にノートPCと小型カメラがセットされる。
光子がいつものようにポニーテールを結び直し、
優子はツインテールをゆらゆら揺らしながらマイクテスト。
光子
「はい、博多の爆笑発電所本部、全国&世界の支部のみなさ〜ん!
こちら、日本の海に近い鉄道乗りつぶしの旅・一日目の夜、佐伯でーす!」
優子
「聞こえとる〜? 途切れたらたぶん陽翔が回線に変な名前つけたせいやけんね〜」
画面には、
福岡本部、京都支部、熊本支部、江津支部、徳島支部、
さらに海外のメルボルン、パース、ウェリントン、ブエノスアイレス、バンクーバー、ロサンゼルス、ジュネーブ、オデーサ、キーウ支部まで、
小さな窓がズラッと並ぶ。
あっちでもこっちでも手を振る人、
「こっちは真昼〜!」「こっちは夜勤明け〜!」とカオスな挨拶が飛び交う。
翼
「いや〜、初日からなかなかハードやったね」
拓実
「磨崖仏からの温泉からのみかん地獄やったからね。
うっかりビタミンCで溺れるとこやったもんね」
子どもたちも画面に映り込む。
陽翔
「きょうのおふろ、すっごいきもちよかった〜!」
結音
「かべの仏さまが“おつかれさ〜ん”って言いよったもんね」
燈真
「みかん、たべすぎておなかポンポコリンやけ〜ん!」
灯乃
「ゆのんちゃんと、みかん何個たべたかもうわからん〜」
悠翔と彩羽は、画面の前を高速で横切っては、
「おじしゃ〜ん!」「おばしゃ〜ん!」と手を振り、
誰に向けてるのかもはや不明。
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◆ 全支部、爆笑の波に飲まれる
京都支部スタッフ
「こっちは笑いすぎて仕事にならんのですけど!」
江津支部
「日本海側やのに、“日本の海に近い鉄道ツアー”って名前にねじ込んでくれてありがとう!」
ブエノスアイレス支部
「アルゼンチンから見てます!
マテ茶吹きそうなんで前振りで“飲み物禁止タイム”宣言してください!」
光子
「はいはい、世界中のみなさん落ち着いて。
ここから本格的に腹筋に悪い時間やけん、温かい飲み物は一回テーブルからどけてください」
優子
「さて。初日ダイジェストいきましょか」
二人のテンポのいいトークで、
磨崖仏前の謎ポーズ写真、別府温泉での“のぼせ寸前事件”、
津久見のみかん売りおばちゃんとの値切りバトルなどが、
次々と暴露されていく。
そのたびに、画面上の各支部の窓から
「腹いてぇぇ!」「仕事中やぞ!」「上司も一緒に爆笑しとるからもうええか!」
というチャットが飛び交う。
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◆ そして、鬼のような明日の告知
優子
「でね。問題は明日ですよ、明日」
光子
「そうそう。みなさん、ここからが本題です。
明日ね、朝4時半起きです」
画面の全支部、一斉にフリーズ。
熊本支部
「よんじ…え? 4時半“起き”?」
徳島支部
「えっと、ライブ配信はお昼ですよね?
なんで気合い入りすぎの部活の合宿みたいな時間なんですか?」
翼
「それがね……
この先に“1日に普通列車が一本しか走らん区間”があるとよ」
拓実
「鬼ダイヤやね。駅の時刻表、
“7:02”の下、空白やったもん」
祥子
「見た瞬間、笑うしかなかったよね……
“これ、電車じゃなくて幻なんじゃない?”って」
恋人くん(仮・まだ名前出してないけど横で苦笑)
「一本逃したら、今日中にたどり着けないって聞いた時の、
みんなの顔が最高やった」
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◆ 誰やねん、この縛り考えたの
光子
「で、ここで問題のルールですよ」
優子
「“普通列車と快速しか乗ったらいかん”縛りね」
一拍置いてから、
二人同時にカメラをじっと見つめる。
光子
「……誰やねん、これ言い出したの。」
優子
「ほんっっとに誰やねん。
特急さんサイドが泣いとるよ?
“ワイらも海、よう見せてるんやけど!?”って」
福岡本部から、爆笑の波。
本部スタッフ
「いやいや、言い出しっぺはそちらのM&Yやった気がしますけども!」
光子
「え? うちら? そんなアホなこと言うわけ――」
優子
「――言うわ。めっちゃ言うわ。
“どうせやるなら普通と快速だけで攻めよ!”って
ノリノリで言いよった顔、動画に残っとるわ」
翼
「完全に残っとるね、編集データに」
拓実
「ラジオで“縛り旅やね〜”って嬉しそうに言いよったもんね」
祥子
「アスリート目線から言わせてもらうと……
普通・快速縛りはもはや高地トレーニングに匹敵します」
世界支部
「やめて、変なトレーニング方法として広まるから!!」
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◆ 子どもたちのツッコミも容赦ない
陽翔
「ママたちがきめたんやろ?
“ふつうと かいそく だけでいくばい!”って」
結音
「ゆのん、おぼえとるもん。
そのあと“うわ、言ってもうたー!”ってママがさけんどったもん」
燈真
「とうま、あした4じはんおきたら、
“おはようございま…す…(がくっ)”ってなる〜」
灯乃
「ゆのんちゃんと、なかよくねむい〜ってなる〜」
悠翔
「おねえしゃーん、あした、ねむねむツアー?」
彩羽
「おにーしゃん、いろはもねむねむ〜」
画面の向こうで、各支部が次々と崩れ落ちる。
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◆ 全支部巻き込み・自虐オチ
光子
「というわけでみなさん、
明日、朝4時半に起きて“普通列車一本勝負”を見事成功させたら――」
優子
「夜の配信で、
“寝坊した人の名前、全国支部に発表いたします”」
祥子
「プレッシャーやめて!?
マラソンのラスト1kmより緊張するんですけど!」
翼
「世界のトップアスリート2人と、
普通列車1本に人生かける人たちのツアーやね、これ」
拓実
「オリンピックよりシビアな時間管理やね」
各支部から一斉にチャットが飛ぶ。
「がんばれ普通列車」
「がんばれ運転士さん」
「がんばれ目覚まし時計」
「がんばれM&Y(主犯)」
光子
「がんばれの優先順位おかしない?」
優子
「というわけで、初日の爆笑通信・佐伯スペシャルはこのへんで。
明日ちゃんと起きれたら、また会いましょ〜!
起きれんかったら……その時は察してください」
世界中の支部の画面から、
「おやすみー!」「がんばれー!」「アラーム10個かけとき!」と声が飛び、
佐伯の夜は、
笑いと、ちょっとだけ不安と、
そして“普通列車一本勝負”への妙な高揚感を残したまま、
ゆっくりと更けていくのだった。




