門司港出発
門司港駅の改札前は、朝からちょっとしたお祭り騒ぎだった。
レトロな駅舎をバックに、スーツケースとリュックと子どもたちが入り乱れている。
「全員、集合〜! 点呼するよ〜!」
優子が手を叩くと、子どもたちがわらわらと集まってくる。
「青柳班、はい挙手〜!」
陽翔・燈真・彩羽
「「「はーい!」」」
「柳川班、挙手〜!」
結音・灯乃・悠翔
「「「はーい!」」」
翼が苦笑しながら腕を組む。
「なんか修学旅行の先生みたいになっとるけど?」
光子がドヤ顔で胸を張る。
「本日の引率教員、M&Y鉄道爆笑ツアーズでございます〜」
拓実
「引率教員がいちばんうるさいパターンやん、これ」
その少し後ろで、肥後祥子と恋人の宮村隼が、少し照れくさそうに立っていた。
「……なんか、本当に一族の夏休みに乱入した感じするね」
「でも、こういう“ごちゃごちゃの旅”、前からちょっと憧れてた」
祥子が笑うと、すかさず陽翔が駆け寄る。
「しょうこさーん! となり乗る?」
結音
「はやとさんは、うちのパパのとなりね。アホトークし放題ゾーンやけん」
隼
「え、アホトーク……ゾーン……?」
優子
「大丈夫大丈夫、命までは取らんけん」
隼の背筋に、なぜかうっすら冷たいものが走った。
門司港 → 別府へ 普通と快速でゴトゴト
門司港駅のホームに、青い車体の普通列車が滑り込んでくる。
「ほらみんな、乗るよ〜。乗り遅れたら九州一周どころか門司港一周ツアーになるけんね〜」
車内はまだ朝で、そこまで混んではいない。
窓側争奪戦だけは激しい。
「海側がいいー!」
「山も見えるとよ〜!」
最終的に、
・子どもたち+祥子が海側
・大人組の何人かと隼が山側
という配置に落ち着いた。
陽翔
「ねぇねぇ、日本ってさ、“ちっちゃい島国”って習ったけどさ」
燈真
「めっちゃ長いやんねん(←どこかで混ざった大阪弁)」
光子
「誰に似たとかな、そのツッコミ」
優子
「うちらやね」
車窓からは、門司港の街並みがすぐに遠ざかり、
やがて海がちらちらと見え始める。
祥子は窓の外を眺めながら、ぽつりと言った。
「……“日本は狭い”って、よくニュースで言われるけどさ。
こうやって電車で回ろうとしたら、十分広いよね」
光子
「そうそう。しかも今回は“日本の海に近いとこ縛り”やけん。
狭いとか言いよる暇あったら、乗り換えダッシュの心配しとかな間に合わん」
拓実
「おい、それフラグやぞ」
磨崖仏と、石に刻まれた“静かな時間”
別府で一度降りて荷物をコインロッカーに預け、
日豊本線を乗り継いで向かった先は、磨崖仏のある小さな駅。
「はい、ここからちょっと歩くけんね〜。
おやつは歩きながらじゃなく、止まって食べましょう〜」
灯乃
「せんせーい、もうおなかすいたー」
優子
「先生じゃなくて“ママ”やけん」
薄曇りの空の下、
林の中の道を抜けていくと、
岩肌に静かに刻まれた仏たちが姿をあらわす。
陽翔
「……なんか、ここだけ空気ちがうね」
結音
「声ちっちゃくなるとよ……」
燈真も、彩羽も、悠翔も、
なんとなく自然に声をひそめていた。
祥子は、じっと磨崖仏を見上げる。
(何百年も、ここで人を見てきたんだろうな……
戦争とか、災害とか、いろんな“終わりそうな瞬間”も)
隼が横で小さくつぶやく。
「こういう場所に立つと、
“自分の悩み、ちっちゃいな”って思わされるね」
「うん。でも、“今の自分”も全部見られてる気がする。
走ってる自分も、倒れそうだった自分も、
ここに立ってる自分も、ぜんぶ丸ごと」
光子がふと、子どもたちに背を向けたまま少しだけ真面目な声を出した。
「ね、みんな。
ここはね、昔の人たちが“ずっと残したい”って思った場所やけん。
笑うのはいいっちゃけど、石を蹴ったり、いたずらしたりは絶対せんこと。
わかった?」
「「「はーい」」」
悠翔だけ手をぶんぶん振って、
ついでに隣の灯乃に抱きつき、
「おねえしゃーん♡」
灯乃
「も〜、ここでは静かにむぎゅーせんね〜」
結局、ほんわか笑いが零れるのを、
磨崖仏は少し優しそうな顔で見ているようだった。
別府で温泉三昧
再び列車に乗って別府に戻ると、
一同は“海沿いの温泉”へ直行した。
「見てみて! 露天から海見えるとよ!」
陽翔と結音が湯船のへりにつかまり、
きらきらした目で沖を見つめる。
燈真
「おふろで海見るとか、なんかへんな感じやねん」
悠翔
「おねえしゃーんといっしょなら、なんでもサイコー♡」
結音
「はいはい、ひーちゃん、溺れんごとしときー」
男湯のほうでは、
翼と拓実と隼がすでにのぼせかけていた。
隼
「……あの、
お二人の爆笑夫婦トーク、
サウナより体力使うんですけど」
翼
「え、まだウォーミングアップやん?」
拓実
「本番は“鉄道車内でM&Y合流”からやけん」
隼
「マジですか……」
別府の湯けむりは、
この旅の最初の疲れと一緒に、
みんなの体からふわりと抜けていった。
津久見で、みかんタイム
午後、普通列車で津久見へ。
駅前には、“みかん推し”の看板がずらり。
「はいはーい、本日のご当地おやつターイム!」
光子が袋を掲げると、
子どもたちの目が一斉に光る。
「みかんやー!」
「うち、3個までなら食べても太らん?」
「誰に聞きよるとね」
祥子と隼も、
試食コーナーのみかんを一粒。
隼
「……なにこれ、甘っ!」
祥子
「うわ、やば。
これ、箱で買って帰りたくなるやつ」
優子
「送るよ送るよ。“爆笑発電所・福利厚生みかん”で経費落としとくけん」
翼
「経理が泣くやつやろ、それ」
駅前のベンチで、
子どもたちは口のまわりをみかん色にしながら、
次々に皮をむいていく。
彩羽
「おにーしゃん、これあげる〜」
陽翔
「ありがとう、いろは。かわりにこれ、甘いやつやけん」
悠翔
「ひーちゃんにも〜!」
灯乃
「もう、みかんの皮、ここに山つくらんとよ〜!」
こうして、
津久見駅前には、一時的に
「みかんの皮・小さな山」ができあがったのだった。
そして佐伯へ 旅の一日目、夜の“爆笑通信”
夕方、日が傾き始める頃、
一行は佐伯駅に到着した。
海の匂いが混じる風の中、
商店街の先にある小さな旅館にチェックイン。
夕食は、
地元の魚と、ちょっとだけ贅沢なごちそうが並ぶ。
「かんぱーい!」
大人はノンアル、子どもはジュースでグラスを合わせたあと、
食後のロビーで、いよいよ
「日本の海に近い鉄道乗りつぶし旅・爆笑通信」
の初回収録が始まった。
カメラ係は翼。
進行はもちろんM&Yだ。
光子(カメラに向かって)
「どーもー!
“日本海じゃなかった、日本の海ツアー”
初日の夜でーす!」
優子
「門司港から佐伯まで、
普通と快速だけで来ましたけど……
まず一言いいですか?」
光子
「どうぞ」
優子
「日本、広か!!!」
一同爆笑。
翼
「さっき“狭いけんすぐ一周できるかも”とか言いよったの誰やった?」
結音
「ママやろ?」
燈真
「ママとおばちゃんが、どっちも言いよったで」
光子
「バラさんでよか!」
◆ 今日のハイライト発表
優子
「じゃあ、今日の“爆笑&感動ハイライト”ベスト3いくよ〜!」
第3位:津久見みかん、子どもたちの胃袋に消える
陽翔
「みかん10個くらい食べた〜」
結音
「うちも〜」
優子
「それ第3位どころか、“ビタミンCオーバー賞”やけん」
第2位:別府温泉にて、隼くんサウナより消耗
隼
「いやほんと、
翼さんと拓実さんの“オリンピック裏話”、
情報量とボケが多すぎて……
途中から景色がぐるぐる回ってました」
光子
「それ温泉のせいやない?」
拓実
「まぁ半分は湯気のせい、半分は俺らやな」
第1位:磨崖仏の前で、悠翔くんの“静かなるおねえしゃん攻撃”
優子
「ちゃんと静かにしとったんよ。
そしたらいきなり――」
悠翔
「おねえしゃーん♡(小声)」
結音&灯乃
「「ここでむぎゅーはやめい!!」」
光子
「でも、静かな“むぎゅー事件”は、
磨崖仏の人もたぶん笑っとったと思う」
祥子
「うん……あそこ、なんかすごく優しい空気だったからね」
◆ 祥子&隼、今日の感想コーナー
優子
「じゃあ最後に、
スペシャルゲストの祥子さんと隼くんにも、
今日の感想を一言ずつもらおうかね」
祥子
「はい。
……あの、正直言うと、
“フルマラソンより体力使う一日”でした(笑)
でも、磨崖仏みたいな静かな場所で、
日本の歴史を感じられて、
別府でゆっくりして、
津久見でみかん食べて……
“ちゃんとした観光”も“ちゃんとしたアホ”も、
同じ一日に詰め込めるんだなあって思いました」
光子
「褒められとるんかな、これ?」
隼
「僕は……そうですね……
“日本は狭い”って言ったやつ、
今すぐ門司港〜佐伯を普通列車で往復させたいです(笑)
でも、窓から見える海とか、
子どもたちが列車のたびに『わぁ〜!』って言うたびに、
“あ、ちゃんとこの国の景色を見てなかったな”って
反省させられました。
明日も、よろしくお願いします!」
子どもたち
「「「よろしくおねがいしまーす!!」」」
ロビーの窓の外では、
佐伯の夜が静かに更けていく。
部屋に戻るとき、
陽翔と結音は、興奮が少し収まった声でぽつりと言った。
「ねぇ、まだ九州の一日目やろ?」
「まだぐるっと一周して、四国行って、本州も行くっちゃん?」
燈真
「日本、ガチで広い説やな……」
彩羽
「でもたのしーから、いい〜」
明日の行き先は、
さらに南の海と、
まだ見ぬ駅と、
また新しい“爆笑通信”。
旅はまだ、始まったばかりだ。




