世界のどこかで起きていることと、 私たちが届ける“笑い”と“音楽”の意味
爆笑発電所・本社会議室。
いつもの「ネタ会議」のときよりも、少しだけ空気がピンと張っていた。
壁のモニターには、大きくタイトルが映っている。
社内特別研修
『世界のどこかで起きていることと、
私たちが届ける“笑い”と“音楽”の意味』
講師:アリョーナス・ミハイリス/カティア・レフチェンコ
最前列には、爆笑発電所のコアメンバー。
光子と優子、美香、奏太、小春、さおり、そして各支部のリーダーたち。
後方には、事務方や制作スタッフ、カメラチームまでぎっしりだ。
◆ 研修、開幕
司会の社員がマイクを持つ。
「それでは、本日の講師――
アリョーナスさん、カティアさん、お願いします」
拍手がわき起こる。
スラリと背の高いアリョーナスと、
落ち着いた瞳をしたカティアが前に出る。
二人とも、胸元には小さなピンバッジ。
片方は、母国の色を抽象的にあしらったもの。
そしてもう片方は、日本とウクライナの色を組み合わせた“光と優しさ”のピン。
光子がデザインした、小さな約束のしるしだった。
◆ 第一部:現実の話
アリョーナス
「みなさん、こんにちは。
日本語、まだ少しヘタですが……
一生懸命話します。ゆっくりで、ごめんなさい」
優子がすかさず手を挙げる。
優子
「うちは標準語も時々あやしかけん、おあいこやけんね〜。
気にせんでよかよ〜」
会場に、クスッと笑いが走り、
アリョーナスの肩の力が少し抜ける。
カティア
「私も、日本語まだ勉強中です。
もし間違えたら……あとで爆笑発電所のみなさんが
“ネタ”にしてくれると聞きました」
光子
「そうね、優しくネタにするけん安心して〜」
――笑いで、場がゆるむ。
アリョーナスがリモコンを押す。
スライドには、彼らの故郷の風景が映った。
美しい山々。
鉱山。
延々と続く採掘施設。
だが、近づくほどに、
写真の中の人々の顔には疲労と諦めが刻まれている。
アリョーナス
「ぼくらの国には、
鉱物資源がたくさんあります。
ニッケル、レアメタル、石炭……
でも、そのお金のほとんどは、
上の人たち――独裁者と、その周りの人間が全部取ります。
国民には、ほとんど来ません」
スライドが切り替わる。
古びたアパート、穴だらけの道路、小さな診療所。
カティア
「労働者は、長い時間働いても、
もらえるお金はすごく少ないです。
病気になっても、病院は薬が足りない。
特に地方の女性たちは、
“子どもを産むための道具”のように扱われます。
学校に行く機会を奪われ、
医療も不十分で――
まだ小さな子どもが、
治せるはずの病気で命を落とすことも多いです」
会議室の空気が、すっと静かになる。
アリョーナス
「もし、“おかしい”と言う人がいたら、
その人は――
消えます。
牢屋に入れられるか、
国外追放か、
ひどいときは……戻って来ません」
モニターには、
彼らが作った動画のワンシーンが映る。
工場で働く人々、薄暗い部屋の中、
そしてカメラに向かって語る彼ら自身の姿。
◆ 第二部:世界とつながる瞬間
カティア
「でも、その動画が世界で広がって、
企業が『この国の鉱物は買わない』と言いました。
“この鉱物を買うことは、
独裁者を助けるのと同じだ”と」
アリョーナス
「そして、ぼくらの国の中でも、
国民が立ち上がり始めました。
まだ、始まりの、始まりです。
でも、もう誰も、
“何も知らないまま”ではありません」
社員席のあちこちで、
ペンを握る手がぎゅっと強くなる。
爆笑発電所は、ただの芸能プロではない。
「笑い」と「音楽」で世界とつながることを
本気でやろうとしている組織だ。
この話は決して“遠い国のニュース”ではなかった。
◆ 第三部:“笑い”の質問タイム
司会
「ここまでの話を受けて、
質問のある方、どうぞ」
……しん、とした空気。
と、その中で、一番に手を挙げたのは、やっぱり光子だった。
光子
「はい、アホ代表から質問です」
社員たちから笑いが漏れる。
アリョーナス
「アホ代表……?」
優子
「うちの旦那も、友達もみんなアホ代表やけんね〜。
アホは褒め言葉やけん、安心して聞いとって」
光子
「さっきの話聞きよってね、
めっちゃ胸が苦しくなったんよ。
でも、同時に――
“うちらが届ける笑いとか音楽って、
あんたたちの国の人にも届くやろか?”って思って。
もし、あの国の人たちが
“爆笑発電所”の動画を見られるようになったら、
何をいちばん見せてあげたい?」
その問いに、
アリョーナスとカティアは顔を見合わせ、
少し考えてから、笑った。
アリョーナス
「ぼくは……
“幼児化モードの光子さんと優子さん”」
どっと会場が沸く。
優子
「ちょっ、なんでそこ!?
うちらがシャンメリーと間違えてシャンパン飲んで、
“おねーしゃん!”とか言って潰れたやつやろ!?」
カティア
「はい(笑)
あの動画を初めて見たとき、
わたしたち、涙出るくらい笑いました。
“世界のどこかでは、
こんなに安心してバカできる場所があるんだ”って。
それが、すごく……
うらやましくて、でも希望になりました。」
光子
「……」
優子
「……なんか、照れるね」
◆ 社員からのリアルな質問
制作スタッフ(30代・女性)
「あの……私からもいいですか?」
司会
「どうぞ」
「私、ニュースで見て、
“あの国の鉱物を使った製品は買わないようにしよう”
って思ったんですけど……正直、
どこまでがその国のものなのか、
よくわからなくて。
それでも、何かできることってありますか?」
カティア
「難しいですよね。
全部を完璧に避けるのは、ほとんど不可能です。
でも――
“知ろうとすること”と、
“疑問を持って調べようとすること”は、
それだけで大きな力になります。
企業は、“世論”をすごく気にします。
“この国の鉱物を使っていますか?”と
質問するだけでも、プレッシャーになります」
アリョーナス
「それから、
自分の国で、弱い立場の人を見捨てないこと。
日本にも、
苦しんでいる人たちはいます。
そこから目をそらさない人たちは、
ぼくたちの国の人たちにも、
きっと優しいです」
社員たちの目つきが真剣になる。
“爆笑発電所”という名前とは裏腹に、
ここには “筋の通った大人たち” が多い。
◆ そして、研修は“いつもの爆笑発電所”へ
司会
「そろそろ時間が近づいてきましたので……
講師のお二人から、最後にひと言お願いします」
アリョーナス
「はい。
ぼくらの話は、暗いことが多かったです。
でも、ぼくらは毎日、
この会社の人たちと一緒に笑っています。
“世界の状況を知ること”と、
“笑って生きること”は、
どちらかを選ぶものではなくて、
どちらも必要なものだと思います。
ぼくらは、ここでたくさん笑って、
その力を、いつか母国にも持って帰れるように――
そう思っています」
カティア
「それから……」
少し照れた顔で、
前列の光子と優子を見る。
カティア
「いちばん言いたいことは――
“こんなにたくさん笑わせてくれて、ありがとう”
です」
光子
「……」
優子
「……うちらも、言わせて」
優子がすっと立ち上がる。
優子
「アリョーナス、カティア。
それから、セルゲイさん、エレナさん、
オレグさん、ナターリヤさん、
パーベル、イリーナ、ドミトロ、アリーナ。
うちらのところに来てくれて、
ありがとう。
これからも、うちら全力でアホやるけん。
その分、あんたらも、
遠慮せんで笑って、怒って、泣いて、
いっぱい喋ってくれたら嬉しい」
光子
「で、社内研修の締めとして――
恒例の“爆笑質問”いっていい?」
司会
「……出た(笑)」
光子
「アリョーナス。
うちの旦那・翼と、どっちがアホ?」
会場:大爆笑
アリョーナス
「それは……
翼さんが“世界ランク1位アホ”です。
ぼくは、まだ“チャレンジャー”。」
優子
「的確な分析ありがとうございます!!」
カティア
「でも、アリョーナスは“お酒飲んだ光子さん・優子さん”見てから、
“アホも奥深い”と言っていました」
光子
「やめんか!!」
会議室は笑いに包まれた。
さっきまで重かった空気が、
不思議と“前を向くための熱”に変わっている。
◆ 研修後の風景
休憩時間。
コーヒーコーナーには行列ができ、
あちこちで社員たちがアリョーナスとカティアを囲んでいた。
「さっきの話、もっとくわしく教えてください」
「うちの支部のイベントで、ぜひ講演してもらえませんか?」
「今度、子ども向けの企画で“世界のお話会”やりたいんだけど……」
アリョーナス
「もちろん。ぼく、話すの好きです」
カティア
「子どもたちの質問は、
ときどき大人より鋭いから、
少しこわいですけど(笑)、とても楽しみです」
そこへ、ぴょこっと顔を出す小さな影。
「アリョーナス〜!」
「カティアおねーちゃん!」
青柳家の長男・陽翔と、長女・彩羽だった。
(今日はたまたま、近くで撮影だった光子が、
研修後に顔を出していたのだ)
陽翔
「さっきの話、むずかしいとこもあったけどね、
**“笑える場所が増えるのはいいこと”**ってのは、
めっちゃ分かった!」
彩羽
「かてぃあおねーしゃん、だっこ〜!」
彩羽が全力で抱きつき、
アリョーナスの方には陽翔が腕を回す。
アリョーナス
「おおっと、これはうれしい“研修ボーナス”ですね」
カティア
「こういうのを見ると、
“守りたいもの”が、
もっとはっきり見えてきますね」
その様子を、少し離れたところから美鈴が見ていた。
市教委・幼児部の部長としての顔ではなく、
孫たちを見守るおばあちゃんの顔で。
美鈴(心の中で)
(この子たちが大人になるころ――
世界が、今より少しでも優しくなっとったらいいね……)
◆ そして、“笑い”と“世界”をつなぐ会社へ
この日の社内研修は、
後日、爆笑発電所社内ポータルでアーカイブ配信され、
さらに要約版が、
**「世界のどこかで起きていることを、
“笑いの現場”から考えるシリーズ」**として
社外にも公開されることになる。
重たい現実を知りながら、
それでも笑うことをあきらめない人たち。
そして、
その笑いを“武器ではなく、橋”として使おうとする会社。
アリョーナスとカティアの母国で、
まだ小さな「変化のうねり」が生まれはじめたころ。
福岡の一室では、
今日も誰かがこう言っていた。
「よし、ネタ作るか。
笑いで世界、ちょっとだけマシにしよ。」
それが、
爆笑発電所らしい社内研修の、
いちばん大事な“締め”だった。




