博多南幼稚園に、世界がやってくる
第一章 博多南幼稚園に、世界がやってくる
桜の花びらが、園庭のすべり台の上にふんわり積もっている朝。
「本日は、スペシャルゲストが来ます!」
園の門のところで、園長・古賀真理子が、いつもの唐揚げ仕込みバリのテンションで声を張った。
博多ドンタクスのセッターであり、今は博多南幼稚園の園長先生でもある。
門の外には、少し緊張した顔の外国人カップル。
アリョーナス・ミハイリス
カティア・レフチェンコ
その後ろには、
父セルゲイと母エレナ、
弟パーベルと妹イリーナ。
そしてオレグ、ナターリヤ、ドミトロ、アリーナ――
二つの家族が、少しぎこちない笑顔で並んでいた。
古賀
「ようこそ〜!ここが博多南幼稚園です!
今日は“世界のお話”を、子どもたちに聞かせていただけるってことで」
アリョーナス
「こちらこそ、ありがとうございます。
にぎやかなところですね……すごく、あたたかい」
カティア
「こどもたちの声、聞くだけで泣きそう……」
そこへ、車が一台止まり、
降りてきたのは美鈴。
スーツ姿に、市教委のバッジ――
今は市教委・幼児部の部長という立場だ。
美鈴
「今日は“市教委のえらい人”としてじゃなくてね、
“ただのばあちゃん代表”やけん。
みんな、よろしくお願いしまーす」
古賀
「部長、えらい人やけん一応それ言うといてください(笑)」
■ 年長・年中・年少、勢ぞろい
ホールには、年少〜年長までの園児がぎゅっと集まっていた。
前のほうでは、**灯乃(年長)**がソワソワと落ち着かない。
灯乃
「きょうのゲストさん、どこのひと〜?
ひーちゃん、うみのむこうからきたひとって、はじめてやけん!」
横で、**彩羽(年少)と悠翔(年少)**も、
ぴょこぴょこ跳ねている。
彩羽
「おにーしゃんもくる?(←陽翔のことを全部“おにーしゃん”呼び)」
悠翔
「ゆのんおねえしゃーんは?(←結音のこと全部“おねえしゃーん”呼び)」
先生
「今日は小学校があるけん、陽翔くんも結音ちゃんも来られんとよ〜。
でも、かっこいいお兄さんお姉さんが来てくれるけんね」
カティアが、子どもたちを見て
「かわいい……」と小さくため息をつく。
その目は、どこか遠くを思い出して潤んでいた。
■ ことばと、絵と、笑いで伝える“世界”
古賀園長
「じゃあみんな〜、拍手でお迎えしましょう!
世界のお兄さん・お姉さん、どうぞ〜!」
ぱちぱちぱちぱち――!!
アリョーナス
「みなさん、はじめまして。
ぼくはアリョーナスと、いいます」
(少し訛りのある、でもとても丁寧な日本語)
カティア
「わたしは、カティアです。
きょうは、みんなに“とおいくに”のおはなしをしにきました」
スライドには、彼らの母国の写真。
美しい山並み、広い草原、小さな村。
子どもたちがボールを蹴っている写真もある。
カティア
「わたしたちのくには、
とてもきれいなところです。
おいしいパンもあって、
チーズもあって、
ダンスがだいすきなひとがたくさんいます」
子どもたちの目がキラキラする。
灯乃
「ダンス!!」
彩羽
「ダンス〜!」
悠翔
「だんしゅ〜!(謎アレンジ)」
笑いが起きる。
アリョーナス
「でも……そのくには、
すこし、“かなしいところ”でもあります」
写真が変わる。
古びた工場、穴だらけの道路、
行列を作って配給を待つ人々。
アリョーナス
「おかねを、えらいひとたちが
いっぱいもっていて……
ほかのひとたちは、
とても、たいへんなくらしをしています」
ただ、言葉はできるだけ柔らかく。
幼児にトラウマを与えないギリギリのラインで。
カティア
「とくに、おんなのこはね――
べんきょうするきかいが、とてもすくないです。
ほしいおもちゃも、ぜんぜんかえません」
その瞬間、灯乃がむくっと手を挙げた。
灯乃
「じゃあ、ひーちゃんのくにきたら、
いっしょにえんぴつかって、おべんきょうしよ?
ひーちゃん、いろのぬりかた、じょうずよ?」
ホールが少しざわめき、
古賀園長と美鈴が思わず口元を押さえる。
カティアの目から、
ぽろりと涙がこぼれた。
カティア
「……ありがとう。
じゃあ、こんど、いっしょに、
ぬりえ、させてもらっても、いいですか?」
灯乃
「よかよ〜!ひーちゃん、ハートのかたちとかじょうずよ!」
悠翔
「ひーちゃんハート〜(←なぜか繰り返す)」
彩羽
「ひーちゃんせんせー!!」
ホール中の大人たちの胸に、
ふわっと、あったかいものが広がった。
■ 最後は、やっぱり“爆笑”で終わる
古賀園長
「それじゃあ最後に、
アリョーナスさんとカティアさんに、
**日本の“爆笑発電ポーズ”**教えてもらおうかね!」
光子&優子が考案した、両手を広げて
「わっはっは〜!」と笑う定番ポーズ。
アリョーナス
「ばくしょう……はつでん……?」
カティア
「わっはっは……?」
園児たち
「せ〜のっ!!」
みんなで
「わっはっは〜〜!!」
アリョーナス&カティアも見よう見まねで、
大きな声で笑う。
アリョーナス
「ワッハッハ〜〜!!」
カティア
「ワハハ……あ、なんかすごい……
こころが、あったかくなります……!」
美鈴(小声)
「ね、“爆笑発電所”って、ほんとに発電しようよね……」
古賀
「電気代の代わりに腹筋が死にますけどね(笑)」
第二章 博多南小学校「世界を知る授業」
数日後。
今度は、博多南小学校の体育館。
3年生の陽翔と結音、
1年生の燈真たちが、体育座りで並んでいる。
担任
「今日は、遠い国から来たお兄さんお姉さんのお話を聞きます。
テレビのニュースで見たり、
ファイブピーチ★の歌で感じたことを、
自分の頭で考えてみる時間です」
ステージには、
再びアリョーナス&カティア。
そして通訳兼サポートとして、光子と優子も立っていた。
光子
「今日は、“世界のエグい現実”の話も出てくるけん、
しっかり聞きつつ、どっかでちゃんと笑うけんね〜」
優子
「そうそう。しんどい話をしんどいまま終わらせたら、
うちらっぽくなかろ?ってことで」
■ “鉱物資源”の話を、小学生向けに
アリョーナス
「ぼくたちの国には、
たくさんの鉱物資源があります。
みんなのスマホやゲーム機にも、
もしかしたら、
ぼくの国でとれた鉱物が入っているかもしれません」
陽翔が、そっと自分のタブレットを見る。
アリョーナス
「でも、そのおかねは、
ほとんどが“えらいひとたち”のところにいきます。
ふつうの家族には、
じゅうぶんな食べ物も、
薬も、お医者さんも、足りていません」
結音の顔が、ぎゅっと引き締まる。
結音
(……うちら、
笑いよるだけやない。
この話、ちゃんと覚えとこ)
カティア
「それだけじゃなくて……
おかしいよね?って言った人たちは、
けいさつにつかまってしまうこともあります。」
体育館の空気が、すこし強くなる。
優子
「でも、そこで終わりじゃなかとよね?」
アリョーナス
「はい。
今、その国のなかでも、
“おかしい”と言い続けている人たちがいます。
ぼくたちの動画や、
ファイブピーチ★の歌を聞いて……
“声をあげよう”っていう気持ちになった人たちもいます。」
■ 陽翔の一言
質問タイム。
何人かが手を挙げたあと、
陽翔が、ちょっと迷ってから手を挙げた。
陽翔
「……あの。
“声をあげて”つかまった人たちは、
いま、どうなっているんですか?」
体育館が、しん……と静まり返る。
大人たちの喉が、一瞬つまる。
アリョーナス
「……むずかしい質問、ありがとう。
それはね、
いまでもわからない人が、たくさんいます。
でも、ぜったいに忘れないでいること――
それが、
ぼくたちにできる、いちばんの“戦い方”でもあります」
陽翔
「忘れない、って……
ぼくたちが、ですか?」
カティア
「はい。
忘れられたら、本当に負けてしまいます。
だから、ニュースや歌や、
今日みたいな授業で聞いたことを、
たまにでいいから、思い出してほしいです」
春介と春海の影響で、
“ステージ側の世界”も知り始めている陽翔と結音は、
こくりと力強くうなずいた。
第三章 爆笑発電所・社内研修「世界と笑い」
場所は、爆笑発電所・福岡本社の大会議室。
社員たちがズラリと並び、
プロジェクターの前に立つのは――
やっぱりアリョーナス&カティア。
スライドタイトルにはでっかく、
『鉱物資源と独裁政治、
そして“笑ってもいい怒り方”について』
光子
「タイトル固すぎん?」
優子
「途中から完全にうちらの匂い混じっとるし(笑)」
■ ガチな講義パート
アリョーナス
「ここから少し、
“えらいおとな向け”の話をします。
ぼくの国では――」
ここでは、具体的な鉱物名、輸出経路、
多国籍企業との関係など、かなり専門的な内容が続く。
社員たち
(メモメモ……)
カティア
「“安い原材料”のうしろには、
安くこき使われる人たちがいます。
そこに“笑い”は、
ほとんどありません」
部屋の空気が、重くなる。
■ しかし、最後は“爆笑結論”
優子
「……でさ。
うちら爆笑発電所の人間として、
この現実を前に何をせんといかんか、っち考えたわけよ」
社員一同、前のめり。
光子
「まず、“知らん顔して儲けない”こと。
変な取引には手ぇ出さん。
調べる。問い合わせる。
で、“なんやこれは”ってなったら――
うちらの得意分野、“笑ってブッ刺す”こと。」
優子
「そう。“ガチ説教”も大事やけど、
うちらは芸風的に、
**“世の中のズルさを、笑いながらバラす”**ってやり方のほうが向いとるやん?」
アリョーナス
「ぼくたちの動画や、
ファイブピーチ★の歌も、
ただ怒るだけじゃなくて――
“気づいた人を増やす”ことが、
いちばん大事だと思っています。」
カティア
「だから、
爆笑発電所のみなさんには、
**“世界のことを知ってるお笑い集団”**でいてほしいです」
社員A
「世界史テストに出るネタやん……」
社員B
「仕事の研修でここまで考えさせられる会社ある?」
社員C
「ていうか、社名とのギャップがすごい(笑)」
会場は、しんどさと笑いが混ざった、
独特の熱を帯びていた。
第四章 未来へのプロローグ
― 母国の変化と、“凱旋ライブ”の約束 ―
時間は少しだけ、先の未来。
アリョーナスとカティアの母国では、
若者たちを中心にした大規模なデモが続き、
国際世論と企業のボイコットも後押しして、
ついに独裁政権が崩壊する。
ニュースキャスター
「長年続いた強権政権の崩壊から一年。
暫定政権のもとで初めての自由選挙が行われ、
新たな民主政府が誕生しました」
スタジオのテレビを見ながら、
光子がつぶやく。
光子
「……行こっかね」
優子
「行かんとね。
“歌いに来て”って言われとるし。」
そう。
アリョーナスとカティアがずっと言っていた。
「いつか、国が自由になったら。
その時は、世界じゅうから笑いと音楽を連れてきてほしい」
■ “凱旋ライブ”構想
爆笑発電所・会議室。
ファイブピーチ★のメンバー、
ピーチシード★、
そしてアリョーナス&カティア家族が集まっている。
美香
「会場は、首都の中央広場がいいんじゃない?
昔は“権力の象徴”やった場所で、
笑いと音楽のフェスやろ?」
奏太
「ステージ後ろに、
政権時代の壁画そのまま残してさ――」
さおり
「その上から、子どもたちといっしょに虹を描くとか。
“上塗りする”象徴として」
光子
「オープニングは、
アリョーナス&カティア家族で民族音楽。
そのあとM&Yで爆笑MC入れて――」
優子
「ラストはファイブピーチ★とピーチシード★全員で、
**“二度と戻らんための歌”**ね」
陽翔
「ぼく、MCで“パパとママよりアホなこと言う”係やる」
結音
「うちは、現地の子どもと一緒にギャグ作りたい」
燈真
「おれ、ひかりのスティック振る係!」
灯乃
「ひーちゃん、ハートのぬりえ担当〜!」
彩羽
「おにーしゃん、だいすき〜!」
悠翔
「おねえしゃーん、ぎゅ〜!」
アリョーナス
「……こうやって話しているだけで、
胸がいっぱいになります」
カティア
「“あの日”は、
暗くて冷たい部屋の中で、
スマホの小さな画面で、歌を聴いていました。
その歌が、今度は――
空の下で、大きなステージから流れるんですね」
光子
「うん。
その時は、あんたらの国やけん。
あんたらが主役で、うちらは全力でお手伝い。」
優子
「うちらの仕事は、世界のあちこちで、
“爆笑発電”して、“希望の電線”つなぐことやけん」
アリョーナス
「爆笑……でんせん……(笑)
いいですね、それ」
カティア
「ねえ、みんな。
わたしたちの国が、“笑っていい国”になったら――
いっしょにステージ立ってくれますか?」
光子&優子
「もちろん!」
美香
「ぜったい行くよ」
ファイブピーチ★全員
「行くに決まっとるやろ〜!!」
エピローグ
その日。
博多南幼稚園では、
またひとつ、新しいお便りが掲示板に貼られていた。
『世界のお兄さん・お姉さんのお国が、
すこしずつ変わり始めました。
いつか、みんなの描いたハートのぬりえを、
その国の子どもたちにも見せに行きたいと思います。
その時は――
わっはっは〜!って、一緒に笑いましょう。
博多南幼稚園より』
その下で、
灯乃・彩羽・悠翔たちが、
今日も元気に走り回っている。
世界はまだ、ぜんぶは変わらない。
でも――
「知らないふりをしないで笑う」人たちは、
確実に増えていた。
そして、
爆笑発電所と小倉家と、その仲間たちは、
これからも世界のあちこちで、
涙と笑いが入り混じったステージを続けていくのだった。




