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美香と光子と優子の爆笑ストーリー。光子と優子29歳  作者: リンダ


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アリョーナストカティアの独白

 爆笑発電所スタジオ。

 ガラス越しに見える福岡の街は、春の夕暮れで、少しだけオレンジ色に染まっていた。


 カメラの前に座るのは、

 アリョーナス・ミハイリスと、カティア・レフチェンコ。

 その後ろには、セルゲイとエレナ、オレグとナターリヤ、

 パーベル、イリーナ、ドミトロ、アリーナ――

 それぞれの家族が、そっと見守るように椅子に腰掛けている。


 横には通訳と、光子と優子、美香。

 いつもの“爆笑モード”とは違う、静かな空気。


 第一章 「話さなければ、何も変わらない」


「準備、いい?」


 光子がやわらかく問いかけると、

 アリョーナスは深く息を吸って、小さくうなずいた。


「……うん。

 今日は“笑い封印デー”やね」


 優子が冗談めかして言うと、

 アリョーナスは少しだけ笑い、すぐに真顔に戻った。


 撮影スタッフ

「では――

 シリーズ動画『光の向こう側』、第1回。

 カメラ、回します」


 赤いランプが灯る。


 アリョーナスは、

 自分の膝の上に置いた拳を、ぎゅっと握りしめた。


「わたしの国には、

 たくさんの宝が埋まっています。

 金属も、エネルギーになる鉱物も。


 でも、その“宝”は、

 国民のためには使われていません。


 政権の幹部たちが、

 そのほとんどの利権を握っています」


 通訳が日本語に乗せていく。


 後ろで、セルゲイがゆっくり目を閉じた。

 その横で、エレナがハンカチを握りしめる。


 アリョーナス

「私たちの街には、

 大きな工場があります。


 外国向けの製品の材料を作る工場です。


 朝から晩まで働いても、

 パンとスープで一日が終わるくらいの賃金。

 医療保険はほとんどなく、

 ケガをしても、休めばすぐにクビ。


 でも、その工場の契約金は、

 どこに消えているのか。

 労働者の手元には、届きません」


 画面のこちら側で見ていたスタッフたちの表情が、

 少しずつ強張っていく。


 カティアが、そっと言葉を継いだ。


「特に、女性はもっとひどいです。


 女の子が学校に通う権利は、紙の上にはあります。

 でも、現実には、“意味がない”と言われることが多い。


 『女は子どもを産むためのもの』

 『黙って家にいるもの』


 そう教えられます。


 医療も足りず、

 出産で命を落とす女性や赤ちゃんは、とても多い。

 統計は公表されません。

 “国の恥だから”と言われます」


 通訳の声が震え、

 優子がそっと、通訳の背中をさすった。


 第二章 「口をふさごうとする手」


 アリョーナス

「わたしたちの国には、

 汚職を告発しようとした人たちがいました。


 ジャーナリスト、学生、

 工場のリーダーたち。


 でも、彼らの多くは――

 ある日突然、消えました。


 『反逆罪』『スパイ』

 そんな罪名がついて」


 カティア

「国外に追放された人もいます。

 わたしたち家族のように」


 アリョーナスが、

 少しだけ光子たちのほうを振り返る。


「それでも、

 黙っていたら何も変わらない。


 わたしたちがこうして日本に来て、

 爆笑発電所に拾ってもらって、

 ご飯を食べて、笑って、歌って――


 その“安全な場所”から、

 何も言わないのは裏切りだと思いました。


 まだ向こうで苦しんでいる人たちを、

 置いてきたままだから」


 優子

「……ありがと。

 うちらも、その言葉ごと、ちゃんと預かるけん」


 第三章 「世界が、画面越しに振り向いた」


 動画は、

 爆笑発電所の公式チャンネルと、

 ファイブピーチ★の公式サイト、

 いくつかの国際NGOの協力サイトで

 同時に公開された。


 タイトルは

『光の向こう側 ― ある独裁国家の鉱物と、搾取される人々』。


 公開から数時間で、

 コメント欄が外国語と日本語で埋め尽くされる。


「こんな状況が、まだこの世界で続いているのか」

「自分のスマホの中の“安い製品”が、

 こういう人たちの犠牲の上にあるなら、考え直したい」

「ただの“政治問題”じゃない。これは“人間の問題”だ」


 やがて、海外メディアが取り上げた。

「あるミュージシャン集団の動画が告発する“見えない鉱山奴隷”」

 と見出しが躍る。


 エネルギー企業、素材メーカー、

 大手の製造メーカー。


 それぞれの企業の広報部に、

 同じような問い合わせが殺到する。


「あなたたちの取引先に、

 この国は含まれていますか?」


「この国の鉱物資源の使用は、

 彼らの政権を支えていることになりませんか?」


 第四章 「ビジネスリスクという言葉」


 数週間もしないうちに、

 いくつかの企業は声明を出した。


「当該国における深刻な人権状況と、

 取引継続に伴うリスクを総合的に判断し、

 新規契約の停止および、一部既存契約の見直しを行う」


「人権への配慮を優先し、

 透明性のないサプライチェーンからの撤退を検討する」


 各国のニュース番組では、

 キャスターたちが

「人道的観点」と「ビジネスリスク」を

 同時に語り始める。


 アリョーナスは、

 ニュースを見ながら小さく息を飲んだ。


「……本当に、動いてる」


 カティアも、

 スマホの画面を見つめながらつぶやく。


「こわいけど……

 でも、うれしい……」


 光子は二人の肩を、ぽん、と叩いた。


「“人の心”と“企業の損得”が、

 たまたま同じ方向向いとる時っちゃ、一番でかい力になるけん。


 そこにちゃんと“声”をのせたとが、あんたらやけんね」


 優子

「うちらは、その声を“マイクで増幅した”担当。

 責任も、一緒に背負うけん」


 第五章 「揺れ始めた地面」


 独裁国家の政権中枢にも、

 当然そのニュースは届いていた。


 官邸の会議室。

 壁にかかった巨大モニターには、

 海外メディアの画面が乱れ飛ぶ。


「取引停止だと……?」


「バカな、多少の人権問題など、

 どこの国にもある話だろう!」


「しかし、

 “地下での強制労働”や“女性と子どもの死亡率”の問題が、

 具体的な証言とともに流れています。

 これ以上は――」


「誰だ、あの女と男は……

 なぜ日本にいる……?」


 画面端には、

 インタビューに答えるアリョーナスとカティアの姿。


「国外追放処分にした二人です。

 “見せしめ”のつもりでしたが……」


「見せしめどころか、

 世界規模の拡声器になっているではないか!!」


 怒号が飛ぶ。


 同じ頃、

 国内の市場や工場の食堂、

 若者たちが集まるアパートの一室で――

 人々は、違法に拾った電波や、

 第三国経由のネット回線から

 動画をこっそり見ていた。


「これ、本当にうちの国?」

「工場の線路……あそこ、オレらの町のとこやないか?」

「女の子たちの病院……ここ、うちの従姉妹が運ばれたとこや……」


 誰も知らなかったはずの“現実”は、

 実はみんな

 **“なんとなく知っていたけど、口にできなかった現実”**だった。


 第六章 「まだ序章」


 博多の夜。

 爆笑発電所のオフィスの一角では、

 子どもたちが走り回っていた。


 陽翔

「ありょーなすおじちゃん、

 きょうのごはん、なにがすき〜?」


 アリョーナス

「おじちゃんはね〜、

 日本の“餃子”がすき!」


 彩羽

「ぎょーざ!ぎょーざ!

 いろはも、ぎょーざ、しゅき〜!」


 ふたりは足にギュッと抱きついて、

 アリョーナスはバランスを崩しそうになりながら笑った。


 カティアの足にも、

 結音と灯乃がしがみつく。


 結音

「かてぃあおねぇちゃん、

 ゆのん、こんど、うくれれいっしょにひこうね〜」


 灯乃

「ひのも〜、かてぃあおねぇちゃんの、うた、すき〜」


「あんたら、甘え方がプロやね……」


 美香が苦笑しつつも、

 目はどこかうるんでいる。


 そのすぐ横の会議室では、

 真剣な議論が交わされていた。


「国境付近で小さなデモが始まってるって。

 工場の労働者たちが、

 給与の未払いと、医療の改善を要求しているらしい」


「警備隊が出ているけど、

 以前ほど強く取り締まれていないみたい。

 外国企業が“人権状況の悪化”を

 ますます警戒しているから」


 モニターには、

 ヘルメットをかぶった人々の姿が映っている。

 手作りのプラカード。

 消された文字。

 それでも消しきれず残る、

 かすかなスローガン。


 優子

「まだ、始まったばっかりやね」


 光子

「そうやね。

 ここから先は、その国の人たちの“選択”やけん。


 うちらは、外から声を重ねることしかできん。

 でも、その声は、絶対にやめん」


 アリョーナスとカティアが、

 会議室のドアから顔を出した。


 アリョーナス

「……あの動画、

 きっかけのひとつにはなれましたか?」


 光子

「“序章の序章”って感じかな」


 優子

「でもね――

 “はじまる前の世界”には、もう戻らん。


 それだけでも、

 あんたらが話してくれた意味は、でかいよ」


 カティア

「……怖いです。

 向こうで家を失った人々が、

 もっと苦しむかもしれない。


 でも、“何も言わないほうがよかった”とは、

 やっぱり思えないんです」


 美香

「“声を上げる”って、

 いつも誰かを揺らすし、

 誰かを救うし、

 誰かを怒らせる。


 でも、それをしなかった世界が

 本当に優しいかと言われたら……

 きっとそうじゃないもんね」


 終章 「光はまだ途中だけど」


 その夜、

 爆笑発電所とファイブピーチ★の連名で

 短いメッセージが投稿された。


「私たちの音楽と、

 私たちの仲間が語ることばを通して、

 遠く離れた国の現状を知った人がいるなら、

 まずは“知ってくれてありがとう”。


 そして、ひとつだけお願いがあります。

 どうか“自分にできる範囲”で考えてください。

 何を買うか。

 どんな社会を望むか。


 それだけでも、

 世界は、すこしずつ動きます。」


 アリョーナスはそれを読み、

 静かに目を閉じた。


 カティアはスマホを胸に抱いて、

 窓の外の夜空を見上げる。


 遠い故郷の星空とは、

 星の並びも、色も、空気も違う。

 でも、その奥に続く宇宙は同じだ。


「いつか――

 あの国にも、

 堂々と“笑いに行ける日”が来るといいね。」


 光子がぽつりとこぼすと、

 優子が笑いながらうなずいた。


「その時はもう、

 うちら“爆笑発電所世界支部ツアー”で行くけん。


 “独裁の跡地で大爆笑ライブ”やね」


「タイトルの癖が強い!」


 スタジオに、

 いつもの笑い声が戻ってくる。


 世界のどこかでは、

 まだ独裁者が椅子にしがみつき、

 人々を抑えつけようとしている。


 けれど、

 画面の向こう側で、

 **小さな“やめよう”と“小さな“おかしい”**が

 少しずつ積み重なっていく。


 そのうねりは、

 まだ“序章”にすぎない。


 だが確かに、

 新しい時代のページは、

 もうめくられ始めていた。

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