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美香と光子と優子の爆笑ストーリー。光子と優子29歳  作者: リンダ


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春の爆笑発電所 ― 「ようこそ、笑いの職場へ」

(※最初にちょっとだけ設定整理)


* アリョーナス・ミハイリス一家

 父:セルゲイ・ミハイリス

 母:エレナ・ミハイリス

 弟:パーベル・ミハイリス

 妹:イリーナ・ミハイリス

* カティア・レフチェンコ一家

 父:オレグ・レフチェンコ

 母:ナターリヤ・レフチェンコ

 兄:ドミトロ・レフチェンコ

 妹:アリーナ・レフチェンコ




春の爆笑発電所 ― 「ようこそ、笑いの職場へ」


四月。

博多の街路樹は、若葉が淡い緑をまとい始めていた。


福岡市・博多区。

「爆笑発電所」本社ビルの前には、

朝の陽射しを受けて、

新しい横断幕がひらひらと揺れている。


《爆笑発電所 新入社員歓迎式》

ようこそ、世界の笑いと平和のど真ん中へ


自動ドアの前で、アリョーナス・ミハイリスは

少し緊張した顔でスーツのネクタイを直した。


「…ハカタの春、あたたかいね」


隣で同じくネームプレートを下げたカティア・レフチェンコが、

小さく笑ってうなずく。


「向こうの春は、まだコートが手放せなかったわよね。

 ここは空気まで、なんだか柔らかい」


その少し後ろには、

両親と兄弟姉妹たちの姿があった。


セルゲイとエレナ。

オレグとナターリヤ。

パーベル、イリーナ、ドミトロ、アリーナ。


まだ慣れない日本の街並みに

きょろきょろしながらも、

家族で肩を寄せ合って立っている。


「パパ、ここ、本当に私たちの職場になるのね」


イリーナが、すこしだけ震える声でつぶやくと、

セルゲイはそっと娘の肩に手を置いた。


「怖がることはないさ。

 『爆笑』という名前の会社が、

 悪い場所のわけがない」


オレグが、

ちょっと困ったように笑う。


「いや、名前だけなら

 “爆発工場”みたいにも聞こえるけどな」


「それを言わないの!」

とナターリヤとエレナが同時にツッコむ。


そこへ、

ビルの中から勢いよくドアが開いた。


「お待たせしましたーっ!!」


ポニーテールの女性が全力笑顔で飛び出してくる。

青柳光子、爆笑発電所の“顔”のひとりだ。


「ようこそ爆笑発電所へ!

 会長(自称)の光子です!」


「で、副会長(自称)の柳川優子です」


後ろからツインテールの優子も現れ、

全員にぺこりと頭を下げた。


「遠いところ、よう来んしゃったね。

 今日から、ここは皆さんの“第二のふるさと”ですけん」


セルゲイが、少しぎこちない日本語で返す。


「アリガトウゴザイマス。

 セカンド・ホーム……

 とても、うれしいです」


光子は、

その大きな手を、

遠慮なくぎゅっと握った。


「こちらこそ、来てくれてありがとう。

 さ、入ろ入ろ。

 今日の入社式、めっちゃオモロいけん!」


「いや、入社式は“そこそこ真面目”で行こうって

 この前会議したやん」


優子のツッコミが飛ぶ。


「“そこそこ真面目”ってなんね、そのライン」


家族たちは、

早くもこのテンポに巻き込まれていった。



入社式 ― 「笑いながら働ける場所」


会議室の扉を開けると、

そこにはすでに社員たちがずらりと並んでいた。


舞台袖のように賑やかな会場。

ファイブピーチ★のメンバーも、

爆笑発電所の古参スタッフたちも、

みんなが新しい仲間を待ち構えている。


前方のスクリーンには、

翻訳された母国語と日本語が

交互に映し出されるよう、

準備が整っていた。


司会は、もちろんこの二人。


「えー、それではこれより、

 2054年度・爆笑発電所新入社員歓迎式を

 はじめちゃってよかですかね?」


光子がマイクを握る。


「反対意見の人は、

 手をあげてください。

 ……はい、ゼロ人〜。じゃ始めます」


優子が即座に被せ、

会場にクスッと笑いが走る。


第一部は、

ちゃんとした会社説明と挨拶だ。


美香が音楽部門の責任者として登壇し、

穏やかな声で話す。


「みなさんの国で起きたことは、

 本当に悔しくて、悲しくて、

 簡単な言葉では言い表せません。


 でも、

 ここに来てくれた、ということは――

 “まだ笑いたい”って気持ちが

 どこかに残っていたからだと、私は信じています。


 爆笑発電所は、

 笑いで電力を起こす会社ではありませんが――」


「起こしてるようなもんやけどね」

と後ろから誰かがボソッとつぶやき、

会場にまた笑いが波紋のように広がる。


「音楽と、物語と、コメディと。

 いろんな表現を通して、

 “生きててよかった”って思える時間を

 世界に届けようとする場所です。


 一緒に、この場所を

 “あなたたちの居場所”にもしていきましょう」


通訳を通して伝わる言葉に、

アリョーナスとカティアの家族たちの目が

じんわりと潤む。


続いて、それぞれの役割紹介。


セルゲイとオレグは、

国際連携と物流のコーディネートチームへ。


エレナとナターリヤは、

コミュニティサポート部門で、

海外からのゲストや子どもたちのケアに関わることに。


パーベルとドミトロは、

ステージや配信の裏方スタッフとして、

映像・音響の技術を学びながら働く。


イリーナとアリーナは、

翻訳とSNSチームに配属され、

母国語と日本語・英語を駆使して

世界に発信する役割を担う。


肩書きは立派だが、

それ以上に大事なのは、

この場所で「笑っていていい」と

堂々と思えることだった。



陽翔と彩羽、


「新しいお兄ちゃん・お姉ちゃん発見!」


入社式が一段落した休憩時間。


ケータリングの机の向こうで、

なぜかタキシード風子どもスーツを着せられている

青柳陽翔(8歳)と、

ふわふわワンピースの青柳彩羽(4歳)が、

じーーっと新しい人たちを見つめていた。


「……ねぇ、あれ、

 “新しいお兄ちゃんとお姉ちゃん”?」


彩羽が小声で聞く。


「たぶんね。

 パパが言いよった。

 “世界から新しい家族が来るけん、

 ちゃんとご挨拶するんよ〜”って」


陽翔は、きりっと真面目な顔をして、

お皿に唐揚げを一個だけ載せると、

アリョーナスのほうへと歩いて行った。


「こんにちは。

 ぼく、青柳陽翔です。

 えーっと……アリョ……アリョ……」


「アリョーナスでいいよ」


アリョーナスが膝を折り、

目線を合わせて微笑んだ。


「ハルトくん、ね。

 はじめまして」


「アリョ兄ちゃんって呼んでよか?」


「……アリョ兄ちゃん?」


一瞬戸惑ったあと、

彼は破顔した。


「うん。いい。

 アリョ兄ちゃんで、お願いします」


その横で、

彩羽がそろそろとカティアのスカートをつまむ。


「カチャン?」


「え?」


「カチャンって呼んでよか?

 カティアおねえちゃん長いけん。

 か・ちゃ・ん」


カティアは、

笑いながら目をうるうるさせた。


「カチャン……かわいい。

 うん、いいわ。

 カチャンで、よろしくね」


それから先は早かった。


陽翔はアリョーナスの腕にぶら下がり、

「高い高い」をおねだりする。


彩羽はカティアの膝に座り、

髪をいじりながら

「そのピアスかわいい〜」と

日本語で褒めちぎる。


「二人とも、すごく懐かれとるねぇ」


少し離れたところから、

光子がほっとしたように笑った。


優子が肩をすくめる。


「まぁ、うちの孫……じゃなかった、

 子どもたちの“人好きレーダー”は正確やけんね」


「さりげなく年齢サバ読むなや」



博多南幼稚園へ ―


「異国のおじちゃん・おばちゃん、大人気」


数週間後。


小倉家・青柳家・柳川家は、

相変わらず世界中を飛び回っていた。


ツアー、収録、国際会議、ゲスト出演――。


当然、博多南幼稚園の

送り迎えに手が回らない日もある。


そんなとき、

頼りになるのが、

ミハイリス家とレフチェンコ家の“大人たち”だった。


「じゃあ今日は、

 エレナさんとナターリヤさんが

 幼稚園のお迎えお願いできます?」


美鈴園長が、

職員室から小さなメモを渡す。


「もちろん。

 ハルト、トーマ、イロハ……

 それに、ユノン、ヒノ、ユウト、で合ってる?」


ナターリヤが、

名前を指でなぞりながら確認する。


「そうそう。

 もう完璧よ、“博多南幼稚園・孫リスト”」


美鈴は、

“孫”という単語を口にして

ちょっと頬を緩ませた。



幼稚園の門が開く時間。

小さな足音が、

園庭から門に向かってどっと押し寄せる。


「アリョ兄ちゃーん!!」

「カチャンだー!!」


陽翔、燈真、彩羽、結音、灯乃、悠翔――

そして他の園児たちまで一緒になって、

異国の家族に突撃していく。


エレナは、

抱きついてくる子どもたちを

「順番よ〜」と笑いながら

ひとりひとり抱き上げる。


オレグは、

自分のリュックから

小さな祖国のキャンディを取り出して、

先生に確認してから子どもたちに配る。


「これはね、

 私たちの国の“蜂蜜キャンディ”。

 甘くて、喉によい」


子どもたちの目が

一斉にきらりと輝く。


「“はちみつあめー!”」

「おいしいにおいー!」


パーベルとドミトロは、

園庭で待っている子たちと一緒に

ボール遊びを始めていた。


「パス!パス!

 ……ナイスシュー!」


片言の日本語と、

不思議なアクセントの英語と、

子どもたちの笑い声が、

混ざり合って空へ昇っていく。


先生たちの間でも、

この家族はすっかり人気者だ。


「今日も助かったわ〜。

 あの子たちの“遊び相手”を

 あそこまで自然に引き受けてくれる大人、貴重よ」


「エレナさんたちが来る日は、

 子どもらのテンション一段階上がるもんねぇ」


美鈴は、

園庭の端からその光景を見つめていた。


陽翔が、

アリーナの手を引いている。


「アリーナおねえちゃん、あのね、

 きょう、おゆうぎで“にんじゃ”したと!」


「ニンジャ?

 オオ、ニンジャ!カッコイイ!」


陽翔が調子に乗って、

忍者ポーズを連発する。


その横では、

彩羽がイリーナに抱きついて離れない。


「イリーナおねえちゃん、

 またようちえん来てね。

 いろは、おねえちゃんすき」


イリーナは

胸をぎゅっとしめつけられるような感覚を覚えた。


生まれた国では、

口にすることも許されなかった言葉――

「好き」と「安心」が、ここには溢れている。


「うん。何回でも来る。

 いろはの“第二のおねえちゃん”になるね」



「ふるさとは、一つじゃなくていい」


その日の夜。

爆笑発電所の新入社員寮――

もとい、“大家族用シェアハウス”のリビングで、

ミハイリス家とレフチェンコ家は

テーブルを囲んでいた。


テレビからは、

M&Yのラジオ番組のダイジェスト映像が流れている。


《今日も世界のどこか爆笑を!

 爆笑発電所ラジオ出張版〜!》


光子がはしゃぎ、

優子がツッコミを入れ、

その横でファイブピーチ★が

新曲の告知をしながら笑っている。


「……なんか、不思議ね」


エレナがぽつりと言った。


「どうした?」


セルゲイがワインのグラスを置く。


「昔、あの国で

 こっそり聴いていた“禁止された音楽”の人たちが、

 今は私たちの“雇い主”で、

 孫みたいな子たちの送り迎えを

 手伝っているなんて」


オレグも、グラスを見つめた。


「俺たちは追い出された。

 “この国に居場所はない”と

 言われたはずなのに……


 今は、日本で、

 “来てくれてありがとう”って言われている」


ナターリヤが、

少し涙ぐみながら笑う。


「ふるさとは、一つじゃなくていいのね。

 あの国で過ごした時間も、

 否定したくないけど……


 今は、ここも、

 私たちのふるさとだって、言っていいのよね」


アリョーナスが、

陽翔と彩羽を思い出しながらうなずいた。


「アリョ兄ちゃん、カチャンって呼ばれて、

 『ただいま』って言える場所ができた。

 それだけで、

 あの日の牢屋の冷たい床から

 ずっと遠くまで来た気がする」


カティアも、

グラスを掲げる。


「ねぇ、今日の乾杯は、

 ただの“入社おめでとう”じゃなくて――」


パーベルとドミトロ、

イリーナとアリーナも、

それぞれのグラス(子どもたちはジュース)を持ち上げた。


「“第2のふるさと記念”にしない?」


セルゲイが笑う。


「いいね。

 じゃあ、ここは日本流に」


オレグが、

少したどたどしい発音で言った。


「――かんぱい!」


グラスが触れ合う音と、

そのあとに続く笑い声は、

以前彼らが知っていたどんな乾杯よりも、

あたたかかった。



そして、未来へ


翌朝もまた、

博多南幼稚園の門の前には、

子どもたちの笑い声と、

外国語なまりの「おはようございます!」が響く。


爆笑発電所のオフィスでは、

新しい企画書の隅に、

アリーナの描いた

「にんじゃヨウショウ」「プリンセスあやは」が

ラクガキされている。


光子と優子は、

そのイラストを見て目を細めた。


「……ねぇ優子」


「ん?」


「うちら、

 また“家族”が増えたね」


「そうやね。

 国も言葉も全然違うけど、

 笑った顔はみんな同じやけん」


二人は、

窓の外に見える春空を見上げた。


そこには、

戦火の煙も、

抑圧の影もない。


あるのはただ、

子どもたちが駆け回る声と、

世界中から集まった

“笑いながら生きたい人たち”の息づかい。


爆笑発電所の一日は、

今日もまた、

そんなささやかな奇跡の積み重ねで

動き出していくのだった。

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