2人が来日
空港ロビーの、一番端っこの小さな会議室。
白い蛍光灯の下で、ファイブピーチ★の5人が円になって座っていた。
テーブルの向こう側には、痩せ細った男女が並んでいる。
ニュースで世界に流れた、あの国の「国家転覆罪」で投獄され、
国際世論に押し出されるようにして釈放された若者たちだ。
彼らはようやく日本にたどり着き、
今日、初めてファイブピーチ★と対面した。
◆ ぎこちない、最初の挨拶
青年のほうはまだ二十代前半くらい。
肩まで伸びた黒髪をひとつに束ね、
細くなりすぎた手が落ち着きなく膝の上で指先を組んでいる。
隣の女性も同じくらいの年齢。
短く切られた髪、
頬は少しこけているが、
目だけは強く、まっすぐだった。
二人とも、
日本行きが決まってから必死で覚えたらしいたどたどしい日本語で、
かろうじて自己紹介を終えたところだった。
部屋の空気が、少しだけ固い。
それを破ったのは、やっぱりこの二人だった。
光子
「えーっとね。とりあえず、よう来てくれたね」
優子
「まず一番言いたいことは、これ。
よう、生きてここまで来てくれた。ほんと、ありがとう。」
その言葉に、
青年と女性の肩が、ふっと少しだけゆるんだ。
◆ 「うちらのサポートメンバーにならん?」
美香が、柔らかい声で続ける。
美香
「ニュースで、お二人のこと見てました。
あなたたちが、あの曲を聴いてくれて、
何かを感じてくれた。
それだけでも、私たちにとっては
“もう十分すぎるくらいありがたい”ことなんです」
青年は、少し言葉を探すようにしてから、
ぎこちない日本語で答える。
青年
「ぼくたち……あの国では、
あなたたちの歌、こっそり聴いてました。
ヘッドホンで、部屋の鍵を閉めて。
見つかったら、どうなるか……分かっていました。
でも、あの曲を聴くと、
“世界はこれだけじゃない”って……思えて……」
女性がうなずく。
女性
「牢屋の中で、頭の中でずっと流していました。
“二度と繰り返さないで”。
それが、私たちの希望でした」
小春が、じっと二人を見つめてから、
ふっと笑った。
小春
「ねぇ、音楽、好き?」
青年と女性は、同時にうなずいた。
青年
「大好きです。
ギター、少し……」
女性
「私はピアノ、少し……歌も、少し……」
奏太が、椅子から前のめりになる。
奏太
「少し少し言う人、大体めっちゃ弾けるけんね、これ(笑)」
光子が、そのタイミングを逃さず、
すっと身を乗り出した。
光子
「じゃあさ――
音楽が好きで、笑いと旅が好きなら、
うちらのサポートメンバーにならん?」
男女二人は、
一瞬、何を言われたのか理解できないという顔をした。
青年
「……サポート……メンバー?」
女性
「わたしたちが……?」
優子
「そうそう。
うちら、ファイブピーチ★は5人やけど、
ライブやレコーディングはサポートメンバーと一緒にやりようと。
“うちらの音楽が好きで、一緒に歩きたい人はウェルカム”
――それが、うちらのルールやけん」
美香
「日本に来て、
まだ仕事も決まってないって聞きました。
こっちの生活に慣れるまで、
音楽で一緒に時間を過ごせたらいいなって。
それがあなたたちの“新しいスタート”の
支えになれたら、嬉しいです」
青年は、驚きに目を見開き、
女性は唇を震わせていた。
◆ 「うちらは、政治家じゃないけんね」
青年
「でも……
ぼくたち……問題を起こした、と言われた人間です。
あなたたちに、迷惑が……」
そこで、奏太がパチンと指を鳴らした。
奏太
「ちょっと待った。
問題を起こしたんは誰かって言ったら――」
小春
「**“歌を聴いただけの若者を牢屋に入れたやつら”**やろ?」
優子
「そやそや」
光子
「うちらは政治家やない。
音楽で“考えるきっかけ”を投げただけ。
そこからどう動くかは、その人の人生。
でも、その人が無茶苦茶な理由で傷つけられたんやったら――
できる限り抱きしめて、受け止めたいって思うとよ」
美香
「あなたたちが悪いんじゃない。
悪いのは、あなたたちを黙らせようとした力のほう。
だからね――
このスタジオにいる間くらいは、
“亡命者”とか“元囚人”とか、
そんな肩書きは全部置いてきていいです。
ただの“音楽好き”として、
一緒に音を出しましょう?」
◆ 福岡へ――“ホーム”の提案
優子
「福岡、来たことある?」
女性
「テレビで……少しだけ。
屋台、ラーメン……」
光子
「そうそう! そのラーメンのとこ!
あそこでね、夜中に曲作ったり、
わけ分からんギャグで大笑いしたりしようと。
“うちらのホーム”やけん。
あんたらにも、ホームって呼べる場所が、
ひとつ増えたらいいなと思って」
青年
「……ホーム……」
その言葉を、彼はゆっくりと繰り返す。
故郷を、あの国を、
“ホーム”と呼べなくなってしまった二人にとって、
その音の響きは、少し痛く、そして少し温かかった。
女性
「本当に……
私たちが行っても、いいんですか?」
小春が、にっこり笑う。
小春
「うん。
その代わり――」
青年と女性
「……?」
小春
「うちらが作った新曲、
一番最初に“正直な感想”を言ってね。
“ここダサい”とか“ここ好き”とか。容赦なく(笑)」
奏太
「プロの耳、欲しいんよね〜。
あの国の情報統制かいくぐって聴いてたリスナーの感性、
絶対鋭いやん」
二人は顔を見合わせ、
小さく笑った。
その笑いは、
牢屋の中では決して浮かべられなかった種類のものだった。
◆ 決意のひと言
光子
「じゃあ、改めて。
うちら、ファイブピーチ★。
音楽と笑いと旅が大好きな、ちょっと変な5人組です。
あなたたちが、音楽と笑いと旅を
まだ好きでいてくれるなら――
どうか、うちらと一緒にやってくれん?」
優子
「答えは、“今日じゅう”じゃなくていい。
でも……もし少しでも“行きたい”って思ったら――
遠慮せんで、“行く”って言うて。
その一言に、全力で応えるけん。」
青年は、拳をぎゅっと握った。
長い拘束生活で痩せた指が、白くなる。
青年
「……行きたいです。
ぼく、音楽、まだ諦めたくない。
あの国で夢見たステージの代わりに、
ここで――
あなたたちと一緒に、
新しい夢を見たいです」
女性も、涙をにじませながらうなずいた。
女性
「私も……行きたい。
歌いたいです。
もう二度と、
“声を奪われる側”には戻りたくないから」
光子と優子、美香、奏太、小春が、
同時にぱっと笑顔になった。
光子
「決まり!」
優子
「ようこそ、
爆笑と音楽と旅の沼へ〜!」
小春
「抜け出せんよ〜?(笑)」
奏太
「保証する。最高の沼やけん!」
こうして二人は、
福岡に拠点を移し、
ファイブピーチ★のサポートメンバーとして
正式に迎え入れられることになった。
それは、
ひとつの国から追い出された若者たちにとって、
“亡命”ではなく、“新しい人生への入学式”
と呼びたくなるような、
ささやかで、でも決定的な一日だった。




