ピーチシード★ニューアルバム
スタジオのモニタールーム。
最後の12曲目、夜の街角をイメージしたジャズがふっとフェイドアウトして、
空気の中に、余韻だけが残った。
しばし、沈黙。
カチ、と再生機のランプが消える音だけがやけに大きく響いた。
「……やられたね」
最初に口を開いたのは、美香だった。
美香
「……はい、完敗です。
これはもう、“後輩バンド”とか言えんレベルやね」
椅子にもたれていた春介と春海が、
ちょっとだけ照れくさそうに笑う。
光子
「一曲目の、あのツーバスぶち抜きメタルからしてさ。
**『お前ら誰にそんなドラム教わったと!?』**って感じやったよ?」
優子
「しかも歌詞、“戦争やめんかい”をあんだけストレートにぶち込んで、
最後ちゃんと希望で締めとるけんね。
音も言葉も、骨太になっとるやん」
小春
「ギターソロもエグかったよ?
水湊くん、あれ完全に“ギターで殴りに行く”音しとったもん」
奏太
「褒め言葉として受け取っとくね、それ」
曲ごとの感想タイム
光子
「2曲目のポップロック、
“海沿いドライブデート”のやつさ」
優子
「歌詞、絶対穂乃果ちゃんやろ?」
春海
「……はい」
光子
「“助手席から見とる横顔が、
信号のたびにすこーし赤くなる”って一節、
ズルすぎん?」
美香
「そこに水湊が書いたメロディ乗ると、
完全に“青春ドラマ最終回”やもんね」
小春
「しかもAメロ春介ボーカル、
サビで穂乃果ボーカルにスイッチするやん?
あれ、反則やろ。
『あ、これ両想いやん……』って音で分かるもん」
春介
「……分析が鋭すぎて怖い」
優子
「で、問題の“優しい雨告白バラード”よ」
美香
「あれは、ずるい。完全にずるい」
光子
「ピアノ一発やと思わせてから
2番でストリングスふわっと入ってくるとことかさ、
完全にプロの仕事やん」
奏太
「春海、あれ何拍子目で空気変えた?」
春海
「1番終わりのブリッジで、
ドラム抜いて、ピアノと声だけにして、
そこでテンポほんの少しだけ落としてます。
“勇気出す前の深呼吸”のイメージで」
美香
「やっぱ意図通りや……
こっちの心拍数も一緒に落ちてから、
サビでまた上がるんよね」
優子
「歌詞の
“傘を持つ手が震えるのは、きっと君のせい”
の一行で、
全国のこじらせ男子女子、全員刺さったと思う」
ジャズ曲へのプロっぽい反応
ラストの12曲目。
ムーディーな夜ジャズ。
小春
「ラストの曲さ、
“このまま深夜1時のFMでかけたい”やつやったね」
光子
「ウッドベース風の音、春介?」
春介
「はい。生チューバで録って、
エンジニアさんと一緒に音作りしました。
“チューバでジャズやったらどうなるか”試してみたくて」
奏太
「ベースライン、えぐいくらい回っとったよ。
あれで歌の邪魔しないのは、もう立派な職人」
美香
「サックスのソロもよかったね。
“すぐそこにいるのに、まだ触れない距離”みたいな、
あのもどかしさがちゃんと音に出てた」
優子
「歌詞もなんか大人やったねぇ。
“駅までの二駅分だけ、恋人ごっこ”とかさ。
誰の実体験か後で個別面談やね」
春海&春介
「「やめて」」
アルバム全体への総評
一通り曲の話をし終えたあと、
光子が深く息を吸い込む。
光子
「……12曲、全部聴いて思ったのがね」
優子
「うん」
光子
「もう、“可愛い後輩バンド”じゃないね、この子ら。
1枚通して、ちゃんと“作品”になっとる」
美香
「ジャンルバラバラに見えて、
全部“ファイブシード★の目線”で描いてあるもんね。
戦争のこと、
恋のこと、
夜の孤独、
朝焼け前の希望……
一本、まっすぐ芯が通ってる」
奏太
「アレンジも、甘えがないよね。
“どうせ先輩が何とかしてくれるやろ”っていう感じが
一個もない」
小春
「歌い回しもそう。
“上手く聴かせたい”じゃなくて、
“伝えたいことがあるから歌う”って声になってた。
そこが一番うれしかったかも」
ファイブピーチ★からの、一言ずつ
光子
「じゃ、一人ずつ“講評”いこっか。
愛あるやつでね?」
優子
「容赦はせんばってんね」
美香
「ピーチシードシード★へ。
このアルバムは、“卒業証書”であり、“宣戦布告”でもあると思いました。
『いつまでも後ろからついて行くだけじゃない。
いつか横に並ぶし、追い越すつもりでおるけんね』
ってメッセージ、ちゃんと受け取りました。
――その代わり、
わたしたちも簡単には抜かれません。
次のツアー、一緒に回ろうね」
奏太
「ギタリスト目線で言うとね。
**“もう教えることあんまりないな”**ってのが正直な感想。
でも、“一緒に遊べることがめちゃくちゃ増えた”とも思った。
次のライブでは、
ギター4人でツインリードならぬ“クアッドリード”やろうか」
小春
「ベーシスト・キーボーディスト目線から言うと、
**“土台の作り方を完全に理解してる”**って感じ。
これから先、どんなジャンルに飛び込んでも、
きっと自分たちの足で立てると思う。
――ただし、MCのボケとツッコミは、
まだまだうちらのほうが上やけんね?」
優子
「そこは絶対譲らん」
光子
「M&Yとしてはね。
まず、こんなアルバム作ってくれてありがとう。
“笑いも涙もちゃんと詰まっとる一枚”で、
聴いてて何回も泣きそうになったし、
普通にニヤニヤもした。
それから――
あんたたちがここまで音で戦えるようになったんやけん、
うちらはもっと“笑い担当”に専念できます。
……って言いたいところやけど」
優子
「残念でした〜。
うちらも、まだまだ音で殴りに行きます。
“笑いながら全力で歌う”先輩の背中、
まだそう簡単には追いつけんよ?」
最後に、光子がぽつりとつぶやく。
光子
「でもさ――」
優子
「ん?」
光子
「この12曲聴きながら、ずっと思いよったと。
**『ああ、うちらのあとに続く“種”は、
ちゃんと芽吹きよるんやな』**って」
美香
「……“ピーチシード★”って名前、
やっぱりぴったりやね」
優子
「そうね。
じゃあ次は、“この種がどんな森になるか”
ステージで見せてもらおうかね」
光子
「うん。
次の春ライブ、“先輩バンド”として、
全力でかましに行こっか。
負けたくなかもん」
ファイブピーチ★のメンバー全員が
ちいさく拳を合わせた。
モニタールームのテーブルの上、
真新しいCDが一枚、
スタジオの照明を反射して、静かに光っていた。




