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美香と光子と優子の爆笑ストーリー。光子と優子29歳  作者: リンダ


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72/90

ちび恋愛捜査官発動  雨とツーバスと夜のジャズ

志賀島デートから数日後の、青柳家リビング。

夕方のまだ明るい時間帯、テーブルの向こう側に――


* 穂乃果

* 水湊


が「並んで着席」。


その真正面には、ちびキッズたちがずらりと勢ぞろいしていた。


* 陽翔(小3)

* 結音(小3)

* 燈真(小1)

* 灯乃(年長)

* 彩羽(年少)

* 悠翔(年少)


テーブルの上には、陽翔手書きの紙。


 『チビキッズ恋愛捜査本部』


と、太マジックででっかく書いて貼ってある。



◆ 恋愛捜査官、事情聴取開始


陽翔

「では〜、これより〜……

 チビキッズ恋愛捜査官による、取調べを開始しまーす!」


結音

「ほのかお姉ちゃん、みなとお兄ちゃん。

 きょうはウソついたらいかんけんね?」


穂乃果

「え、えぇ!? なんの話!?」


水湊

「ちょっと待って、

 お兄ちゃんたち、なんか悪いことしたみたいやん?」


燈真

「はい、じゃあまず、

 容疑その①!」


灯乃

「“こいびと かんけい ひみつにしてる ぎわく〜!”」


穂乃果

「待って待って!? なにその容疑名!」



◆ 容疑その①:付き合ってるのか問題


陽翔

「質問です。

 この前、春介お兄ちゃんと春海お姉ちゃんから聞きました。


 “ほのかお姉ちゃんと春介お兄ちゃんは、

 志賀島にデート行きました”――ホントですか?」


穂乃果

「……それは本当です」


結音

「うみのなかみちも一緒に行ったって、

 春介お兄ちゃん言いよったよ?」


穂乃果

「う、うん……行きました……」


燈真

「すいぞくかんで、

 ペンギンの前でツーショット写真撮ったって、

 春海お姉ちゃんが言いよった」


灯乃

「スマホで見せてくれたもんね〜」


穂乃果

「…………それも、本当です」


陽翔

「では質問。

 それは“ただのおさんぽ”ですか?

 それとも“デート”ですか?」


穂乃果

「うっ……」


水湊ニヤニヤしながら

「ほのか、お姉ちゃん。

 ここでウソついたら“容疑が重くなる”らしいよ?」


結音

「“情状酌量”はあるけど、“ウソつき割引”はありません!」


穂乃果

「小3の言うセリフじゃないんだけど!?」


ちょっと顔を真っ赤にしながら、

穂乃果は観念したように、こくんと頷いた。


穂乃果

「……はい。

 デートでした。」


ちびキッズ全員

「でたぁぁぁぁぁ!!」


彩羽

「でーと〜!」


悠翔

「でーと、でーと!おねえしゃーん、でーと〜!」



◆ 容疑その②:水湊サイドへの追及


今度は矛先が水湊に向く。


結音

「では、みなとお兄ちゃん。

 春海お姉ちゃんと、ドライブデートしたって聞いたとですけど?」


水湊

「うん、ドライブはしたね」


燈真

「“ドライブ”って、

 ラブソングのカップリング曲と同じタイトルやったよね?」


灯乃

「“はるかぜドライブ・ラブストーリー”ってやつ〜」


水湊

「タイトルまで覚えとるん!? すごいな君ら……」


陽翔

「その歌の歌詞書いたん、誰ですか?」


水湊

「穂乃果」


陽翔

「作曲したん、誰ですか?」


水湊

「オレ」


結音

「はい。

 自作ラブソングをひっさげてのドライブデート、

 これはもう完全にクロですね。」


水湊

「判定早くない?(笑)」



◆ 闇の真相(?)に迫る


陽翔

「では、ここから核心の質問に入ります」


ちびキッズ、全員前のめり。

穂乃果と水湊、背筋が伸びる。


陽翔

「ほのかお姉ちゃん、

 春介お兄ちゃんのこと、

 すきですか?」


穂乃果

「……」


優しい顔になって、

穂乃果は、ふっと笑った。


穂乃果

「うん。

 大好きだよ」


結音

「どのくらい?」


穂乃果

「そうだなぁ……

 志賀島の海岸、何周分かなぁ?」


燈真

「えー!? それ、だいぶやばいやつやん!」


灯乃

「“マラソン金メダル級ラブ”です〜!」


彩羽

「まらそん〜? おいしい〜?」


悠翔

「それはマカロンやろ〜!」


(なぜか食べ物に変換される年少コンビ)



続いて、標的は水湊へ。


結音

「じゃあ、みなとお兄ちゃん。

 春海お姉ちゃんのこと、すきですか?」


水湊

「うん。

 好きやね」


陽翔

「どのくらい?」


水湊

「そうやなぁ……


 春海のドラムの音が届く距離、全部。

 スタジオの中でも、ステージの上でも、

 どれだけ遠くにいても――

 “あ、春海の音や”って分かるくらい」


ちびキッズ全員

「……………(一瞬しんとする)」


燈真

「……なんか、

 急にキザなセリフきた……」


灯乃

「でも、ちょっと きゅんってした〜」


結音

「はい、ここ大事な証言。

 ちゃんと録音しとこ」


陽翔

「よし。ほのかお姉ちゃんとみなとお兄ちゃん、

 どっちもガチでした。」



◆ 恋愛捜査官、判決タイム


陽翔

「それでは――

 チビキッズ恋愛捜査官からの、最終判決を言い渡します」


全員が立ち上がり、なぜか整列する。


結音

「判決。

 ほのかお姉ちゃんとみなとお兄ちゃんは――」


燈真・灯乃

『“ラブラブカップルと認定します!”』


彩羽・悠翔

『らぶらぶ〜!』


穂乃果

「ちょ、ラブラブカップル認定証とかあるの!?」


陽翔

「はい、こちら!」


どこからともなく出てくる、

陽翔&結音作成の手作りカード。


 『ラブラブ認定証

  ほのかお姉ちゃん&みなとお兄ちゃん

  これからもケンカしても

  なかなおりして、ずっとなかよくしてください。

  チビキッズ恋愛捜査本部より』


穂乃果

「……もう、ずるいよこれ……」


水湊

「こんなんもらったら、

 一生仲良くせなあかんやん」


結音

「はい、じゃあ最後に、

 “らぶらぶ署名”お願いします!」


穂乃果と水湊は、顔を見合わせて、

笑いながらそのカードにサインする。


穂乃果

「じゃあ、責任持って、

 仲良くし続けます、ってことで」


水湊

「うん。

 “チビキッズ公認カップル”ってことやな」


陽翔

「これで一件落着!」


燈真

「恋愛捜査官、今回もいい仕事したなぁ!」


灯乃

「つぎは、だれの恋ばな聞き出そうかな〜?」


彩羽

「らぶらぶ、もっと〜!」


悠翔

「つぎ、おねえしゃーんのばん〜!」


穂乃果と水湊は、

ちびキッズの賑やかな声を聞きながら、

視線を交わして、少し照れたように笑った。


――こうして、

穂乃果&春介/水湊&春海カップルは、

正式に「チビキッズ恋愛捜査官・公認」となったのだった。






雨とツーバスと夜のジャズ


――ピーチシード★・春のアルバム制作記――


福岡市内、とあるレコーディングスタジオ。

外は、春の雨がしとしとと降り続いていた。


スタジオのロビーには、

ピーチシード★の4人――

穂乃果、春介、春海、水湊が、紙コップのコーヒーを手に集まっている。



第一章 「反戦メタルはツーバスから」


「じゃ、まずは一曲目やね」


穂乃果が、ノートPCをテーブルに置いて画面を開いた。

タイトル欄には、仮タイトルが打ってある。


《RED LIGHT / RED LINE》


春海が肩を回しながら笑う。


「タイトルからして物騒やね。

 でも曲は、もっと物騒やけど」


「ツーバス踏みすぎ問題な」


春介がベースケースを抱えたまま、苦笑いする。


今回のアルバムの目玉――

それは、春海作曲・激しいツーバス連打のメタル曲だった。


歌詞のテーマは「戦争と、その裏側で泣いている子どもたち」。

ファイブピーチ★やM&Yが世界各地で見てきた現実、

家族たちから聞いてきたウクライナや各地の紛争の話。


その記憶が、

春海の中で、いつしか “音” に変わっていった。


スタジオ内。

ドラムセットの前に座った春海が、スティックを握る。


「じゃ、クリックちょうだい」


エンジニアがカウントを流す。


カチ…カチ…カチ…カチ…


次の瞬間――

スタジオが揺れるほどのツーバスが鳴り響いた。


ドドドドドドドドッ――!!


コントロールルームのガラス越しに、

穂乃果と水湊が、同時に目を見開く。


「これ、生で聴いても引くねんけど…

 いや、褒め言葉やけどさ」


水湊が思わず笑う。


春海は、顔つきだけは驚くほど冷静だった。

右足と左足が、まるで別の生き物のように独立して動く。


(ここで崩したら、“軽い怒り”にしか聞こえん。

 ちゃんと、本気の怒りと祈りにしなきゃ)


怒鳴るような叫びじゃない。

ただ、受け入れがたい現実を、

それでも見据えようとするようなビート。


テイクを重ね、

汗だくになった春海が、最後のフィルを叩き切る。


ドドドドドド――ダンッ!!


「……はい、オーケー! 今の、いただきです!」


エンジニアの声がインカム越しに響く。


スティックを置いた春海は、

ふぅ、と息を吐いた。


「どう? うるさすぎた?」


コントロールルームからインカム越しに、穂乃果の声。


「ううん。

 “怒りの手前の悲鳴”みたいで、めっちゃよかった。

 この上に言葉乗せるの、責任重大やわ」


「そこは穂乃果姉ちゃんに任せる」


春介が、汗を拭く弟の肩をぽんと叩いた。


「うちらは、裏側支える係やけん」


春介のベースは、

このメタルで“地鳴り”そのものになる予定だった。



第二章 「雨の告白ソング」


メタルの荒ぶるセクションを録り終えると、

スタジオの空気は少しだけ柔らかくなった。


「じゃ、次は二曲目。

 “雨告白ソング”いこっか」


穂乃果が、別のファイルを開く。


タイトルは、まだ仮だ。


《レインコートのポケット》


作曲:春海

作詞:穂乃果

ボーカル:穂乃果

コーラス&アレンジ:全員


「メタルの後に、ようこんな繊細なん書いたね」


水湊が感心したように春海を見る。


「人間、ツーバス踏みっぱなしじゃ生きていけんのよ」


春海はさらっと言う。


「どっちかっていうと、

 こういう曲書くために、メタル叩いとう気がするし」


スタジオのブースにマイクが立てられる。

穂乃果がヘッドホンを装着し、

譜面とノートを見つめる。


歌詞の一部には、

穂乃果自身の恋の記憶が、

そっと混ざっていた。


――春の雨の日。

――濡れた前髪。

――コンビニのビニ傘をシェアした帰り道。


あのとき言えなかった言葉たち。


「じゃ、ワンコーラス目、いくね」


ヘッドホンからピアノとストリングスの音が流れる。


穂乃果

 あの日 駅前のバス停で

 言えずに飲み込んだ “好き”が

 今もレインコートのポケットで

 小さく震えてる――


春介が、そっと息をのむ。

春海もモニターの前で、無意識にクリックに合わせて指でリズムをとる。


穂乃果の声は、

決して派手ではない。


けれど、

言葉を一つ一つ、大切に置いていく声だった。


二テイク目、三テイク目。

微妙なニュアンスの違いで、

穂乃果は自分から「もう一回」と申し出る。


「サビ、“好き”のアクセント、もうちょい迷ってて」


「今のでもよかったけどね」


春介が言うと、

穂乃果は苦笑した。


「自分の“告白の下手くそさ”が出てもうてさ。

 ここだけは、ちゃんと届くように歌いたいんよ」


次のテイク。


サビの「好きだよ」が、

少しだけ前に、少しだけ強く鳴った。


エンジニアが小さくガッツポーズする。


「はい、それ! 今のサビ、完璧!」


インカム越しに、

春海がぽつりとつぶやく。


「……これ、雨の日に聴いたら絶対泣くやつやん」


水湊も、腕を組みながら笑う。


「リスナー、完全に殺しにかかってるよな、うちら」



第三章 「ムーディーな夜のジャズ」


日が傾き、

スタジオの外は、すっかり夜の色に染まっていた。


最後に残っているのは、

ムーディーな夜をイメージしたジャズナンバーだ。


作曲:水湊

仮タイトルは、


《Midnight Peach Lounge》


「なんか店名みたいやね」


春介が笑う。


「そのうち、絶対どこかにできるよ、“ミッドナイト・ピーチ・ラウンジ”」


「ファンが勝手に看板作りそうよね」


穂乃果もくすりと笑い、

譜面を覗き込む。


この曲は、

アルバムの“夜の顔”だった。


ツーバスで世界を揺らすメタル。

雨の中の告白ソング。


そのあと、

夜更けにひっそり灯るバーのように、

リスナーの心に寄り添う曲がほしかった。


ウッドベースに持ち替えた春介が、

弦を指ではじく。


ポン……ポン……


ふくよかな低音が、

スタジオを満たしていく。


ドラムは、

ブラシに持ち替えた春海が、

スネアの上で円を描く。


シャッ、シャッ……


「うわ、めっちゃ“大人の音”やん」


穂乃果が、半分照れたように笑う。


ピアノパートの仮トラックを流しながら、

水湊がエレキギターのフロントピックアップに切り替える。


甘く丸いトーンで、

夜風みたいなメロディが流れていく。


穂乃果

「この曲、歌詞どうする?」


水湊

「“夜の街〜恋〜大人〜”みたいなんは、

 他の人たちがようけやってるやん。


 うちらはもうちょい、

 “夜ふけに、音楽に甘える人”

 を主人公にしたいかなって思ってて」


春介

「一人で部屋で、

 灯り落として聴いてくれそうな感じ?」


春海

「“今日は誰にも会いたくないけど、

 ひとりでいたくもない夜”みたいな」


「あ、それいい」


穂乃果が、すぐにメモを取り始める。


“誰にも会いたくない夜

 あなたにも会いたくない夜

 それでも音楽だけは

 そばにいてって言えるから”


「さすがやな、穂乃果姉ちゃん」


春介が笑い、

軽くウォーキングベースを刻み始める。


レコーディングブースに灯りが落ち、

間接照明だけが柔らかくスタジオを照らす。


「じゃ、ジャズ曲、通しでいってみよっか」


エンジニアの合図で、

4カウントが入る。


ワン、ツー、スリー、フォー――


ベースが歩き出し、

ブラシがささやき、

ギターが夜の窓をなぞるように鳴る。


穂乃果の歌が、

それに重なった。


 誰にも会いたくない夜は

 冷蔵庫の灯りだけつけて

 半分溶けたアイスみたいな

 ため息ついてる


「……やば。これも反則やな」


春海が小さくつぶやく。


「うちらのアルバム、

 リスナーの心を三方向から殴りに行ってない?」


水湊も笑いをこらえながらコードを鳴らす。


メタルで魂を揺さぶり、

雨ソングで胸を締め付け、

夜ジャズで静かに落としにかかる。


やりたい放題だ。

だが、それがピーチシード★だった。



第四章 「春のアルバム、完成」


すべてのレコーディングが終わった帰り道。

スタジオを出ると、雨は上がっていた。


「おつかれしたー!」


春海が大きく伸びをする。


「ツーバス踏みまくった足、大丈夫?」


春介が心配そうに聞くと、

春海は親指を立てた。


「明日の朝はたぶん“生まれたての子鹿”やけど大丈夫」


穂乃果がくすくす笑いながら、空を見上げる。


「雨、上がったね」


水湊が口笛を吹く。


「じゃあ、リリースの日は、

 逆にざあざあ降りであってほしいな」


「なんで?」


春介が首をかしげる。


水湊は、少し照れくさそうに笑った。


「“雨告白ソング”とさ、

 “夜ジャズ”とさ――


 傘差した帰り道に聴いてほしい曲やん?

 晴れてたら、それはそれでええけどさ」


穂乃果が、コツンと彼の肩を軽く小突く。


「そんなん言うたら、

 メタルの立場がないやん」


春海がにやりと笑う。


「いや、“雷雨の日”に聴く専用曲やけん」


春介も笑いに混ざりながら、

アルバムの曲順のことを考えていた。


1曲目:RED LIGHT / RED LINE(反戦メタル)

2曲目:レインコートのポケット(雨の告白)

3曲目:Midnight Peach Lounge(夜ジャズ)


「しょっぱなからこれか……」


春介がぽつりとつぶやく。


「らしいやん、うちら」


穂乃果が笑い、

4人は歩き出した。


春の夜風が、

レコーディング明けの身体に気持ちいい。


このアルバムを聴く誰かの、

どこかの一日が、少しだけ救われたらいい。


怒りを、ちゃんと怒りとして鳴らして。

言えなかった“好き”を、そっと背中から押して。

ひとりでいたい夜に、そっと寄り添って。


その全部を、

この一枚に詰め込んだのだ。


穂乃果が、ふとつぶやく。


「タイトル、どうする?」


4人は歩きながら顔を見合わせた。


春海

「“雨とツーバスと夜のジャズ”とか」


水湊

「安直やけど、嫌いじゃない」


春介

「内容、全部入っとるしね」


穂乃果が、にっと笑う。


「じゃあ、それでいこ。

 ピーチシード★ 1stアルバム

 『雨とツーバスと夜のジャズ』。


 ――春に出すには、ちょっと渋すぎるかな?」


「ええやん、“大人の春”って感じで」


春介がそう言ったとき、

遠くの交差点で、

信号が青に変わった。


4人は、同じタイミングで歩き出した。


それぞれの歩幅で。

でも、同じ方向へ。


その足音は、

すでに次の曲を刻み始めていた。

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