春介と春海、高校三年生へ
2054年4月・福岡高校音楽科
――春介と春海、高校三年生へ。
春の風が、校舎のガラスをかすかに揺らす朝。
黒板の上にはまだ新しいチョークの粉が残っていて、窓の外には満開になりかけの桜。
そんな中――
赤嶺春介(チューバ/三年) は、いつもよりほんの少しだけ背筋を伸ばしていた。
制服の襟を直しながら、胸の奥にこみ上げてくるものがある。
「三年やけど、特別扱いは要らん。
オレらはみんなと同じ“仲間”。
ただ、ちょっとだけ背中押す係やね」
そんな気持ちが、表情に滲んでいた。
隣では――
赤嶺春海(ドラム/三年) が、スティックケースを軽く抱えながら、
いつもの落ち着いた微笑で後輩たちの様子を見守っている。
「部長と副部長って言うてもね、
偉いとかやないけん。
みんなで音つくって、笑って、泣いて、
それだけでよかっちゃ」
一年も二年も、その言葉に安心する。
二人の立ち姿は――
“高校三年生の貫禄” ではなく、
“仲間としての温度” に満ちていた。
気負わず、肩肘張らず、
でも誰より頼もしい。
◆ 朝の吹奏楽部・部室前
部室前に入ると、後輩たちが自然と声をかける。
「春介先輩!新入生のチューバ体験、今日お願いできますか!」
「春海先輩、リズムセクションのミーティング、あとでお願いします!」
二人は即答で、
春介「おう、任せとき!一緒に音楽しも!」
春海「今日もよか音出そ。焦らんでよかけん、ゆっくりでね」
その自然さ。
誰かを見下すでもなく、過剰に持ち上げるでもなく、
“同じ夢へ向かう仲間”という姿勢。
その空気が、後輩たちをリラックスさせ、
二人の周囲にはいつも温かい輪が広がっていた。
◆ 二人の春
春介は新年度の楽譜を眺めながらワクワクしている。
春海はパートリーダー会議で早くも的確なアドバイスを飛ばす。
高校生活最後の一年が始まった。
だけど二人は――
決して「最上級生」ではなく、
依然として「音楽を愛する仲間」のまま。
肩書きではなく、
音で、言葉で、背中で伝える。
そしてこの一年が、
きっと今後の人生を変えるほどの
“特別な春” になることを、誰もが感じていた。




