さよなら20代? なにそれおいしいと?
博多の夏、セミ全開。
◆ さよなら20代? なにそれおいしいと?
7月7日。
毎年恒例、小倉家&青柳家&柳川家の「七夕&双子誕生日合同パーティー」。
リビングの飾りつけは、もう完全にプロの仕業。
「祝・M&Y 30ちゃい」「さよなら20代〜ようこそアラサー」の横断幕が、
カラフルな短冊と一緒にぶら下がっている。
光子
「……“30ちゃい”って誰が書いた」
優子
「見た感じ、春海の字やね」
春海
「違うし!? 陽翔と結音やし!? わたしは“30歳”って書いたし!?」
陽翔
「だってさ〜、“さい”より“ちゃい”のほうがママたちっぽいやん」
結音
「うん、“おとな”って感じせんし〜」
30になった当人たちに向けて、
容赦ない小学生コンビである。
美鈴
「まぁまぁ。
30になっても精神年齢小学生ってとが、この家の伝統やけん」
優馬
「おい、誰が初代やそれは」
春介
「初代エロ大魔王が何か言いよる」
春介の一言で、親族一同、どっと笑う。
光子
「でもさ、ホントに30かぁ。
20代、あっという間やったね」
優子
「世界ツアーして、映画出て、ラジオやって、子ども産んで、
宗教団体潰して、詐欺撃退して、司法とケンカして……」
美香
「後半の経歴、アーティスト枠超えとるやろ」
みんなでケーキを囲みながら、
「さよなら20代〜!」と、グラス(子どもはジュース、大人はノンアル)を合わせる。
光子
「……で、さよなら〜って言いよるけど」
優子
「中身は一ミリも落ち着く気がない件について」
全員
「だよね〜〜〜〜」
爆笑と拍手。
M&Y、30代の幕開けも結局ドタバタでスタートした。
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◆ そんなある日 ― 一通のハガキ
それから少し経った、ある蒸し暑い午後。
青柳家リビング。
撮影も取材もない、久しぶりの“完全オフ”の日。
光子はソファでゴロゴロしながら、陽翔と燈真、彩羽に背中をよじ登られている。
光子
「ちょ、待って、ママは遊具やない。
アスレチックやない。やわい人間やけん」
陽翔
「ママの背中、トランポリン〜」
燈真
「すべりだい〜〜」
彩羽
「おにーしゃん、いまからすべる〜〜」
そこへ、玄関から「ピンポーン」。
翼
「はーい、今出まーす」
郵便受けに分厚いチラシ束と一緒に、
一枚だけ、淡いクリーム色のハガキが紛れていた。
翼
「みっちゃん、郵便来とるよー。なんか学校っぽいマークついとる」
光子
「学校? なんやろ……」
子どもたちをずりずりと降ろして、
ハガキを受け取る。
宛名には、きれいな字でこう書かれている。
福岡市博多区 ○○○○
青柳 光子 様(旧姓・小倉)
裏返すと、
見慣れた校章と、「博多南小学校」の文字。
光子
「……うわ、懐かしっ」
翼
「お、小学校から? なに、表彰状? “あなたのギャグは世界一でした”みたいなやつ?」
光子
「そんな表彰あったら、とっくにノーベルやろ」
ハガキを開いて読む。
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◆ 博多南小学校 同窓会のご案内
拝啓 初夏の候、皆様ご健勝のこととお喜び申し上げます。
博多南小学校○○年度卒業生の皆様へ
このたび、卒業後初めての「学年同窓会」を開催する運びとなりました。
日時:11月23日(祝) 13:00〜
場所:博多南小学校 体育館および多目的室
当日は、懐かしい校舎見学、ミニコンサート、座談会などを予定しています。
ぜひ、お誘い合わせのうえご参加ください。
幹事代表 赤間 ○○(旧 6年○組担任)
教職員一同・同窓会実行委員
光子
「……11月23日、博多南小の同窓会……!」
ちょうどそのタイミングで、
優子からビデオ通話が入る。
画面に“ゆうこ”がドアップ。
優子
『みっちゃん!! そっちにも来た!?』
背景を見ると、
優子の手にも同じハガキが握られている。
光子
「来た来た。
“11月23日、博多南小学校学年同窓会のお知らせ”」
優子
『うちら、とうとう“小学校の同窓会呼ばれる年齢”になったとよ……』
光子
「いや、年齢ていうか、
小学校からすれば、もっと早くやりたかったんやろうけど、
うちらが世界中うろちょろしすぎて、日程合わせるの大変やった説」
翼
「それ、わりとガチでありそう」
画面の向こうで、拓実もハガキを覗き込む。
拓実
『11月23日って、ちょうどオフになりそうやね。
ストックホルム遠征も終わっとるし』
優子
『行く? もちろん行くよね?』
光子
「もちろん。
赤間先生と東郷先生に、直接“30歳の爆笑報告”しに行かないかんし」
優子
『同級生たち、びっくりするやろねぇ……
“あの双子、結局ずっとあのテンションのまま30になったっちゃね”って』
光子
「間違いない」
翼
「陽翔と彩羽は?」
優子
『こっちは結音と燈真と灯乃と悠翔。
“二世大集合”で行ったらええやん。
“あの頃、廊下を走り回りよった双子のコピーたちです”って』
光子
「先生たち、絶対頭抱えるやつやん」
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◆ ささやかな緊張とワクワク
通話を切ったあと、
子どもたちにもハガキを見せる。
陽翔
「ママのお小学校?」
光子
「そうそう。
ママがね、毎日廊下でネタ仕込んで、
先生たちに“あんたら、またか!”って言われよった学校」
彩羽
「ママ、わるいこ?」
光子
「“わるいこ”じゃなくて、“おもしろいこ”!」
陽翔
「“わるくておもしろいこ”やったんやろ?」
光子
「フォローする気ある!?」
燈真(通話越しに)
『おれも行きたい〜!
“ママの黒歴史現場ツアー”したい〜!』
灯乃
『“ママここで怒られたと?”って全部聞きたい〜!』
優子(画面の向こうで頭抱えながら)
『やめて! 先生たちに“暴露ツアーガイド”お願いするのやめて!!』
でも、心のどこかで――
光子も優子も、少しだけ胸がきゅっとする。
(あの体育館で、初めて“人前で全力でギャグやった”んよね)
(あの教室で、先生たちが
“笑いもいいけど、勉強もちゃんとしなさい”って、
本気で叱ってくれたけん)
(その延長線上に、今の自分らがあるんやもんね)
光子
「……よし。
11月23日、予定空けとこ」
翼
「スケジュール、事務所にも早めに伝えとくよ。
“その日は、M&Y、母校で爆笑里帰り”って」
優子(画面の向こう)
『タイトルに“爆笑”入れるの、やめてって毎回言いよるやん』
光子
「でも結局、爆笑になるっちゃろ?」
優子
「……否定できん」
三十路に突入しても、
日々のバタバタは相変わらず。
だけど、同窓会という“少し立ち止まる機会”が、
静かに彼女たちの心に灯をともした。
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思考時間: 数秒
いきます、拓実のシングルス初戦。
◆ ヨハネスブルク・卓球会場
男子シングルス 3回戦 柳川拓実 vs 香港代表・ウォン
南アフリカ・ヨハネスブルク。
標高の高さのせいか、少しだけ空気が軽い。
だが、そのぶん会場の熱気は重たくのしかかっていた。
男子シングルス3回戦。
スコアボードには、
JPN YANAGAWA / HKG WONG の文字。
観客席には、
日の丸と香港の旗が、あちこちで揺れている。
拓実は、軽くラケットで太ももをポン、と叩いた。
(ここからは、シングルスの時間)
(団体戦で感覚は十分。
あとは、“自分の台”をきっちり支配するだけ)
ウォンは、香港の新鋭。
バックハンドのカウンターが持ち味で、
“勢いに乗ると手がつけられないタイプ”と評されている。
――が、
拓実の目には、すでに“やることリスト”が見えていた。
・1ゲーム目は「情報収集+圧」で主導権を取る
・バック対バックの打ち合いは、あえて“させない”
・サーブは短長をきっちり散らして、3球目で主導権
レフリー
「ラブオール。プレイ!」
◆ 第1ゲーム ― “情報収集”という名の圧殺
最初のポイント。
拓実はフォア前に短いサーブを出した。
わずかに横回転をかけた、いわゆる“触ってほしいボール”。
ウォンは、慎重にツッツキで返球する――が、
そのボールが予想より少し浮いた。
拓実
(……うん。短いサーブには、若干前重心になるタイプ)
次の瞬間、拓実のフォアドライブが
斜めクロスに突き刺さった。
「カーン!」
観客席から、小さなどよめき。
続くラリーでも、
バック対バックに持ち込むようでいて、
要所でフォアに切り替えていく。
アナウンサー
『柳川、ラリーの“回数”を増やしながらも、
常にコース取りでは優位に立っています!』
解説
『香港のウォン選手は、バックのカウンターが武器なんですが、
柳川はその“得意ゾーン”にボールを置かないんですよね。
しかも、ショット一つ一つで“情報を取っている”感じです』
スコアはあっという間に 7-2。
ウォンが強引にバックハンドカウンターを仕掛けたが、
そのボールはわずかにオーバー。
ウォン
(くそっ……回転量、思ったより重い!)
拓実
(よし。ラケット角度、0.5度分ずつズレよる)
結果――
第1ゲーム 11-4 柳川。
ベンチに戻る拓実の表情は、
“勝った嬉しさ”というより、
(よし、データは揃った)
という、静かな満足感だった。
◆ 第2ゲーム ― ギアを一段上げる
第2ゲーム。
拓実はいきなり“ロングサーブ”を混ぜてきた。
ウォンが一瞬戸惑う。
飛んでくると思っていなかったコース。
対応が遅れて、
無理な体勢からのレシーブはネットに沈む。
アナウンサー
『おっと、ここでロングサーブ!
柳川、仕掛けてきました!』
拓実
(短いサーブに慣れ始めたところで、
“あえて”一本長いのを入れて、読みをずらす)
(こういうところで、“世界の大舞台慣れ”の差が出る)
その後も、
短いサーブ → チキータ → カウンター。
ロングサーブ → 一歩下がってのフルスイングカウンター。
攻めのパターンを、
“必要な分だけ”出していく。
ウォンは食らいつくが、
常に1点、2点とリードを許す展開。
ベンチの香港コーチが、タイムアウトを要求するも――
戻ってきたあとも、
拓実の“速さ”と“深さ”のコントロールは微塵もぶれない。
第2ゲーム 11-5 柳川。
解説
『落とす気配がないですね。
点差以上に、“内容を支配している”勝ち方です』
◆ 第3ゲーム ― “締め”の柳川
第3ゲーム。
ウォンも意地を見せて、
バックハンドのカウンターが何本も決まり、
序盤は 3-3 まで踏みとどまる。
アナウンサー
『おっと、ここにきて香港のウォンが意地を見せます!』
しかし、
拓実は焦るどころか、
ベースラインの後ろで、
ほんの少しだけ立ち位置を下げた。
(ふむ。今日、一番いいバックきたね)
(じゃあ――それも、もらっとく)
次のラリー。
あえてウォンのバックに集める。
誘いをかけるように、少しだけ高めに。
ウォン
(今だ!)
渾身のバックカウンター。
だがそのボールは、
拓実の予測通りのコースへ。
拓実のフォアカウンターが、
さらにその上を行く角度で、
コーナーにズドン。
会場
「おおおおお!!」
アナウンサー
『出ました、柳川の“カウンター・オブ・カウンター”!!』
そこから一気に流れが傾く。
サービスエース一本。
3球目攻撃で一本。
ラリーからのブロックで一本。
…気づけば、スコアは 9-4。
拓実
(締め。ここから2本、“理想のプレー”で終わらせる)
サーブはフォア前へ短く。
ウォンがツッツキで返球。
それを、フォアサイドから回り込んでクロスへドライブ――
ブロックされるも、
さらにその上からスマッシュ。
10-4。マッチポイント。
最後は、
ロングサーブから一発で決めに行かず、
あえてラリーに持ち込む。
(この大会での“自分の軸”を、
ここで一度刻んでおきたい)
バック・バック・フォア。
コースを散らし、
回転も強弱をつけ、
最後はやはり、
拓実のフォアが鋭くクロスに走った。
レフリー
「ゲーム、セット、マッチ!
柳川! 3ゲームトゥラブ!」
スコア
11-4 / 11-5 / 11-6
ストレート勝ち。
◆ 試合後インタビュー
現地レポーター
「素晴らしいストレート勝ちでした。
試合を振り返って、いかがですか?」
拓実
「そうですね……
**“初戦としては、理想に近い入り方ができたかな”**と思います」
「相手の選手は勢いのあるタイプなので、
こちらが“情報を取りながら、先に主導権を握る”ことを意識しました。
プレッシャーよりも、
“自分がやると決めたことを淡々とやる”感覚でしたね」
レポーター
「三大会連続三冠への期待も高まりますが?」
拓実
「三冠というより、
“一球一球、自分が納得できる選択を積み重ねたい”。
その結果として、また笑って帰れたらいいなと思います」
◆ 日本・博多サイドのちびっこ実況
その頃、日本。
録画しておいた試合を、
翌朝のリビングで再生中。
陽翔(6)
「パパじゃないほう、めっちゃがんばっとる」
結音(6)
「でも、パパのほうが“おちついとる”」
燈真(4)
「“しずかにこわいタイプ”やね」
灯乃(4)
「“しずかにまけないタイプ”やね」
美香
「表現の仕方が独特すぎる(笑)」
最後のマッチポイント。
クロスに決まった瞬間――
子どもたち
「きゃーーー!!」
悠翔(1)
「ぱっ!! ぱぁー!!」
彩羽(1)
「きゃーー!!」
優子
「はい、というわけで、
パパのシングルス初戦、ストレート勝ちでした〜!」
光子
「この調子でいったら、
ほんとに“三連覇×2人”ありえるね」
美香
「これで、“博多南小同窓会・世界三連覇の婿を連れてきました回”が、
ますますカオスになるわけやね」
優子
「そこもプレッシャーやけどね(笑)」




