放課後・福岡高校吹奏楽部 選曲会議
◆ 放課後・福岡高校吹奏楽部 選曲会議
夕方の音楽室。窓の外はオレンジ色。
譜面台がずらりと並ぶ中、部長が一枚の楽譜を掲げた。
部長
「――で。次の定期演奏会、“OB・OGとつなぐステージ”でこれ、やりたいと思います」
表紙には、大きくこう書いてある。
ルパン三世のテーマ ’78 ジャズバージョン
〈吹奏楽&コンボアレンジ〉
部室に、ざわっ……と小さな波が走る。
美和(トロンボーン2年)
「これ、動画で見たことある!
福高のOB・OGステージで、
美香さんと、光子さんと優子さんがやってたやつやん!」
打楽器パートの先輩たちも、目を輝かせる。
圭人(3年・Dr)
「うわぁ、あの“爆笑発電所ルパン”か……!」
春海
「“爆笑発電所ルパン”って何その物騒なネーミング……」
部長
「歴代でも相当盛り上がったらしくてね。
“いつか、あのステージを今の世代でもやりたい”っていうのが、顧問の先生の夢やったらしい」
顧問
「そうそう。
その時ドラム叩いてたのが――」
顧問、ニヤリ。
顧問
「**赤嶺美香(当時:小倉美香)**さん。
今の君たちのお母さんね?」
部室の視線が、一斉に春介と春海に突き刺さる。
春海
「……やっぱりそう来るよね?」
春介
「逃げられんね、これは」
部長
「ということで――
“ルパン三世ジャズver.202X”のリズムセクション、
ドラムは春海、ベースライン&チューバは春介、頼んだ。」
即決だった。
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◆ 初見合奏 ― “ルパンの匂い”に引きずられる
数日後。
「じゃ、ルパン、初見いってみよっか。
テンポは♩=160。
リズム隊は無理せん程度に、でも“イキりすぎ禁止”ね」
顧問の一言に、
部員たちが笑いながら構える。
春海(心の中)
(……ママが叩いたルパン。
あの動画、小さい頃から何百回も見たもんな)
(“ここは刻みに徹しろ、ここは遊んでよし”って、
家のリビングで何回も一緒にスティック握ってくれた)
春介(心の中)
(母ちゃんのベースライン、
M&Yのライブのときも、
“ルパン”入った瞬間会場の空気変わるんよな)
(今度は俺らの番やんね)
「ワン、ツー、ワンツースリーフォー!」
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◆ 音が走る、身体も走る
イントロ、サックスが立ち上がる。
ペットがタイトに刻みを乗せてくる。
春海の足が自然とハイハットを踏む。
スネアのゴーストノートが、譜面にない「ノリ」を勝手に生み出し始めた。
顧問
「お、春海、いいぞ、その感じ!」
ベースパートのコントラバスがうなる。
その横で、
春介
「すんません、ここ、チューバもユニゾンで行っていいですか?」
顧問
「お、やる?」
春介
「母ちゃんが“ここのベースは“地面から鳴ってこんとダメ”って言いよったんですよ」
顧問
「……言ってたな、あいつ確かに。
よし、やれ。底から持ち上げろ」
低音が、床を震わせた。
部員
「「うわ……かっけぇ……」」
⸻
◆ 止まる顧問、止まらないリズム
サビに差し掛かる直前で、
顧問
「はい一回ストーップ!!!」
春介・春海以外、音がピタッと止まる。
……が。
春海
「(ノッてるので止まらない)」
春介
「(ノッてるので止まらない)」
ドラムとチューバだけが、
完全にトランス状態でグルーヴを刻み続ける。
部員「「「ちょ、ちょっと!!」」」
顧問
「おーい双子ぉぉ!!……じゃない、赤嶺兄妹ぉ!!」
ようやく二人の耳に届いたらしい。
春海
「……あ、ごめん、止まるとこやった?」
春介
「いま、ルパンが走り去りよったけん、追いかけよった……」
顧問
「お前ら、完全に母ちゃん譲りやな……」
部室、爆笑。
⸻
◆ 休憩時間 ― 受け継がれた“ジャズスイッチ”
休憩中、
ジュース片手にソファへ崩れ落ちる春海。
美和
「春海、マジで“プロの現場”っぽかったよ?
なんか、“スティック握った瞬間スイッチ入る感じ”」
志穂(クラ1年)
「春介の低音もえぐかった。
“ルパン、床から生えてきた?”って感じ」
春介
「ルパンが床から生えるとは」
春海
「でもねー……
ママのルパン動画見たら、まだまだ全然やなって思うよ」
ポケットからスマホを取り出し、美香の高校時代――
いや、音大時代のセッション動画をみんなに見せる。
画面の中、美香は笑顔でドラムを叩いている。
隣には、若き日の光子と優子。
その後ろに朱里や樹里やしおりもいる。
映像の中の美香
『ここ、リズム崩れるけん、
“笑わず真顔で叩け”って先生に言われたけど、
双子が目の前で変顔しよるけん無理やった――』
(動画の中でも笑いが起きてフェードアウト)
美和
「……うわ、これ、何回でも見れる」
志穂
「ねぇ、これ、定期演奏会で“OB・OG映像”流してから、
うちらのルパンやったらめっちゃエモない?!」
部長
「それ、顧問に提案しよ」
春介
「やばい、“公開親子比較コーナー”ができる……」
春海
「プレッシャーたか!!」
でも、二人の顔には、
どこか嬉しそうな影もある。
⸻
◆ 2回目の合奏 ― “今の世代のルパン”に
数週間後。
細かいリズムやブレイクも決まり、
合奏は2回目の“通し”に入っていた。
顧問
「よし、今日は止めん。
頭から最後まで、ノンストップで行くよ。
“間違えても走れ。ルパンやけん”」
くすくす笑いが起きる。
春海(心の中)
(ママ、見とってね)
春介(心の中)
(母ちゃんたちのルパンに、
“俺たち世代のリズム”混ぜてくるけん)
「ワン、ツー、ワンツースリーフォー!」
──サックスが走り出す。
──トランペットが追いかける。
──トロンボーンが厚みを重ねる。
そして、
──チューバとバスドラが、「ドッ」と床を揺らす。
部員の目つきが、
一瞬で“吹奏楽”から“バンドマン”のそれになる。
サビ手前。
顧問は、今度は止めなかった。
春海の手数は、
美香より少しだけ多く、
でも同じくらい歌っている。
春介のベースラインは、
譜面よりもほんの少し“跳ねて”いる。
優馬のウォーキングベースと、美香のバンドサウンドの血が混ざったようなノリで。
ラストのキメ。
全員
「ダダッ、ダーン!!」
シンバルが炸裂する。
音楽室の空気が震えたまま、静寂が訪れる。
顧問
「…………」
部員
「…………」
そして――
顧問
「はい、これはもう本番でやる。文句なし。」
部室
「「「うおぉぉぉぉぉ!!!」」」
美和
「やばい、鳥肌立った!!」
志穂
「なんか、“昔と今が繋がっとる”感じした……」
圭人
「これ、OB・OG来たら、絶対泣くやつやろ」
顧問
「泣かせるつもりでやるからね。
こっちはそのために、何年も温めてきたんやけん」
⸻
◆ 夜・グループ通話
その夜。
春介&春海から、
美香・光子・優子にグループビデオ通話が入る。
春介
『ルパン、本番レベルまで行ったけん、報告〜』
春海
『今度、リハの録音送るね』
画面の中で、美香の目がきらきら光る。
美香
『マジで!? あのルパン!?』
光子
『あー、母ちゃんたちが“高校で一番暴れたやつ”ね』
優子
『警察音楽隊の樹里が、
“あのルパンで人生決まった”って言いよったやつやん』
春海
『プレッシャーばっかり増やさんで!?』
美香
『でもさ……
同じ学校で、同じ曲を、
時代またいでやれるって、ちょっと嬉しいね』
光子
『あの音楽室でさ、
“ルパンのテーマ”がまた鳴るってだけで感無量よ』
優子
『今度、リハ見に行っていい?
ちゃんと“笑いは封印して真面目に”見てあげるけん』
春介
『絶対なんかやるやろ……』
春海
『でも、
ママたちが高校のとき置いてった“笑いと音楽”の足跡、
ちゃんと受け取って、ちょっと上塗りしてくるけん』
画面の向こうの三人が、一瞬黙って笑う。
美香
『……うん。
楽しみにしとく。
あたしも、“母ちゃんの威風堂々”じゃなくて、
“母ちゃんのルパン”でドヤ顔したいけんね』
光子
『あー言ったね?』
優子
『それ、ラジオで喋るけんね?』
春介・春海
『やっぱりそこに繋げるんかーーーい!!』
笑い声が、またひとつ増えた。
⸻
こうして、
美香たちが高校時代に叩き込んだ“ルパン三世ジャズver.”は、
福岡高校吹奏楽部の新しい世代――
春介と春海たちによって、
“今のリズムと笑い”をまとって蘇っていくのだった。




