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美香と光子と優子の爆笑ストーリー。光子と優子29歳  作者: リンダ


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34/90

初合奏 ―― 音が“変わる”瞬間

 ◆ 1.初合奏 ―― 音が“変わる”瞬間


 その日は、ゴールデンウィーク前の金曜日だった。


 福岡高校・音楽棟、吹奏楽部部室。

 窓から差し込む夕方の光の中、譜面台がずらりと並び、

 楽器のキーやスライドの小さな音が、期待まじりに響いていた。


 三輪(部長・Trp):

「じゃあ今日は、

 1年生も入れた“ほぼ本番編成”で、

 初めて通しで合奏してみようか」


 配られたのは、

 夏のコンクール候補曲のひとつ――

 タイトルは『暁に立つ風』。


 テンポ早め、金管鳴りっぱなし、木管も吹き倒し、

 そして土台を支える低音と打楽器がエグいほど重要な、

 THE・コンクール曲である。


 三輪:

「最初から最後まで通すから、

 1年生は無理に全部完璧に吹かんでいいけんね。

 “どういう景色か”掴むつもりで」


 春介・春海:

「「はい!」」


 ――が、その「掴む」だけで済むとは、誰も思っていなかった。




 ◆ イントロ


 スコアを睨みながら、三輪がタクトを構える。


 三輪:

「……じゃあ、いくよ。

 『暁に立つ風』、ワン、ツー、スリー、フォー――」


 木管の静かなフレーズから始まり、

 ホルンが柔らかく支えに入る。


 そして、その下から――


 ボォォォォォン……


 春介のチューバが、

 地面ごと持ち上げるような低音を響かせた。


 中条(2年Tuba):

(うわ……床が鳴いとう……)


 コントラバスの結城(2年)も、

 思わず弓を持つ手に力が入る。


 結城:

(この低音に乗れば、絶対揺れん)


 一方、後方の打楽器。


 ティンパニの前では、

 春海がスティックを構え、

 三輪のタクトと譜面を行ったり来たり、鋭い目つきで追っている。




 ◆ テーマに入った瞬間


 テンポが一段階上がり、

 トランペットのテーマが鳴り出す。


 深町(2年Trp):

(うわ、このフレーズ……高校生に優しくない……)


 高音をなんとか支えたところで、

 後ろから迫ってくるのは――


 タカタカタカタカッ!


 春海のスネア。


 派手じゃないのに、

「ここ!」というところで必ず芯を打ってくる。


 内山(Tb):

(さっき動画見たときから思っとったけど……

 マジで“メトロノーム内蔵ドラマー”やな……)


 低音とリズムがガッチリ組んだ瞬間、

 バンド全体の音が急に太くなった。


 坂口(Fl):

(あれ……さっきの合奏より吹きやすい……?)


 黒川(Cl):

(指が回りやすい。

 “息を置く場所”がハッキリした感じ)




 ◆ クライマックス ―― 双春が“押し上げる”


 中間部の山。


 金管がフォルテでハーモニーをぶつけ合い、

 木管が駆け上がる。


 その真下で、


 ボォン…… ボン…… ボォォン……


 春介のチューバが、

 まるでオーケストラのコントラバスのように

 一音ずつ「階段」を作っていく。


 中条(2年Tuba):

(あ、これ、“乗ったら安心なやつ”や)


 同じラインを吹きながら、

 つい笑いそうになった。


 さらに後方では――


 春海:

(ここでテンポ上がりすぎんように……

 “前に出したい気持ち”はスティックじゃなくて背中で押す)


 スネア、バスドラ、シンバル。

 どれも派手すぎないのに、

 不思議と全員が「ここで踏ん張れ」と言われている感じがする。


 クライマックスの最後。


 三輪がタクトを振り上げ、落とす。


 全員:

「「ッダァァァァァン!!!」」


 ホール用の曲が、狭い部室で暴れた。


 ――静寂。


 三輪:

「……はい、ラストのリリースまで。

 お疲れさま」


 誰もすぐに喋れなかった。


 先に口を開いたのは、

 3年チューバの舟木だった。


 舟木:

「……なんかさ」


 三輪:

「うん」


 舟木:

「うちのバンド、今日から“別の段”に上がったよね。」


 平尾(Perc):

「わかる。

 双春が入ったからとかやなくて……

 “全員の音が一段上に引き上げられた”感じ」


 内山:

「こうやって、世代って変わっていくんやな」


 誰かがぽつりと呟く。


「赤嶺兄妹……やばい世代やね」


 ◆ 2.バラード合奏 ―― 先輩が涙をこぼす


 その日の後半。

 もう一曲、譜面が配られた。


 タイトルは 『光の歩幅』。


 卒業生への感謝を込めた、

 ゆっくりしたテンポのバラード。

 今年の定期演奏会のラスト候補曲だ。


 三輪:

「これは、まだ外ではやってない曲。

 3年生にとっては“ラストに吹きたい候補”の1つやけん、

 ちょっと大事にいこう」


 春海はティンパニ前に移動し、

 マレットを柔らかく握る。


 春介は、ロングトーンの準備をしながら、

 ふと天井を見上げた。


(……じいちゃんが聞いたら、絶対なんか言うやろな)

(“もっと色気出せや〜”とか)


 静かに、イントロが始まる。


 フルートが優しく旋律を奏で、

 クラリネットが寄り添う。


 その下で、

 低音とティンパニが「心臓の音」を刻んでいく。


 トゥン…… ……トゥン……


 春海のティンパニ。


 さっきALFEEを叩いたときと同じ、

 でもさっきより少しだけ柔らかい。


(これは“恋人同士”じゃなくて――)


 春海:

(**“家族で歩く道のリズム”**や)


 と、自分で決めていた。


 中盤、ホルンとトロンボーンが重なるところ。

 そこに、チューバの短いソロが入る。


 三輪:

「じゃ、赤嶺春介。

 そのソロ、ちょっと歌ってみて」


 春介:

「はい」


 譜面に書かれたのは、

 たった二小節の、

 シンプルな上行ライン。


 だけど――


 ボォォォ…… ボォォン……


 音が出た瞬間、

 3年の舟木が、ハッとした顔をした。


(うわ……)


(“音”じゃない、“声”や……)


 春介のチューバは、

 まるで誰かの名前を呼ぶみたいに

 優しく、でも確かに前に出てくる。


 それは彼の中で、

 じいちゃんや、家族たちの笑顔と

 全部つながっていた。


(じいちゃん、

 おれ、高校生になってもちゃんと吹いとるよ)


 そんな気持ちを乗せて。


 ラスト。


 全員の音が少しずつ消えていき、

 最後はチューバとティンパニだけになる。


 ボォォォ……(フェードアウト)

 トゥン…… ……


 音が完全に消えた瞬間、

 部室全体に、静かな“余韻”が残った。


 三輪:

「…………」


 平尾:

「…………」


 誰かが、小さく鼻をすする音がした。


 振り返ると、

 3年フルートの佐伯美鈴(同姓同名の別人)が、

 涙を拭っていた。


 佐伯:

「……ごめん。

 なんか、“ラストの定演”の光景がちょっとだけ見えてしまって」


 三輪:

「……まだ泣くには早かよ」


 と言いつつ、自分も目が赤い。


 平尾(Perc):

「うん。

 双春が入ったから、泣ける曲がもっと泣ける曲になったって感じ」


 春介・春海:

「「……!」」




 ◆ 3.ファイブピーチ★、福高に降臨


 そんな“伝説の合奏”から、

 一週間ほど経ったある日。


 放課後、合奏前のウォームアップをしているとき、

 部室のドアがコンコンとノックされた。


 三輪:

「はーい、どーぞー」


 ガラッ。


 顔を出したのは――

 見慣れた双子と、見覚えのありすぎるメンバー。


 光子:

「どーも〜〜〜」


 優子:

「お邪魔しま〜す!」


 美香:

「こんにちは〜」


 奏太:

「ども、ギターは持ってきてません」


 小春:

「今日は“真面目モードの方の小春”です」


 部員全員:

「「ええええええええ!!??」」


 坂口(Fl):

「M&Y!? ファイブピーチ★!? 本物ォ!?!?」


 黒川(Cl):

「いやちょっと待って心の準備が!!」


 春介:

「えっと……うちの身内です」


 春海:

「今日、“部活見学&指導&たぶん爆笑”しに来ました」


 三輪(部長):

「事前連絡で“赤嶺家からスペシャルゲスト来ます”とは聞いとったけど……

 ここまでスペシャルとは聞いとらんかった!!」


 光子:

「今日は“指導者モード7割、

 残り3割は……まぁ、いつものやつです」


 優子:

「7割も真面目やったら上等よね?」


 美香:

「うん、今日は“ギリ講師側”の立ち位置で」


 奏太:

「“爆ロック講座”は封印しとく。たぶん」


 小春:

「“たぶん”とか言いよるのが一番危ない」




 ◆ パート別・ミニ指導タイム


 木管セクションには光子。

 金管メロ系には優子。

 低音&アンサンブルに美香。

 リズムとノリに奏太と小春。


 光子:

「メロディ吹く子たち〜。

 “音を当てる”じゃなくて、“言葉をしゃべる”感じでね」


 と言いながら、

 実際に歌ってフレーズを示す。

 即興のスキャットに、木管たちが目を丸くする。


 坂口:

「プロの歌い方って、息の流れから違う……」


 黒川:

「音が“一直線”やない、“線の中で揺れとる”的な……」


 優子:

「金管は、まず“自分の音好きになる”とこからやけんね!

 ヘタに遠慮せんで、“私の音聴けー!”って鳴らして♪」


 深町(Trp):

「全国レベルの人にそう言われると、

 なんか吹き方変わるわ……」


 美香は、スコアを眺めながら低音隊のところへ。


 美香:

「ここさ、

 チューバとユーフォとコンバスで“同じ言葉”しゃべる部分なんよ。

 だから楽譜上は別々でも、

 “誰がメロディで、誰が相槌か”ちょっと意識してみて?」


 西園寺(Euph):

「“相槌”……? あ、たしかに……」


 舟木(Tuba):

「ここ、俺が“うんうん”って頷いて、

 中条が“それでさ〜”ってしゃべるみたいにしてみる?」


 結城(Cb):

「じゃあ俺、“ちょっと落ち着けよ”って割り込むベース担当で」


 笑いながら、低音のラインが急に生き生きしてくる。


 打楽器のところでは――


 奏太:

「ドラムじゃなくて吹奏楽打楽器でも、

 “重心”は変わらんけんね。

 “タメてから落とす”か、“転がしてから当てる”か、

 どっちかの意識をはっきりさせると、ノリがつかみやすいよ」


 春海:

「うわ、めっちゃわかるそれ……!」


 小春:

「あと、バラードのときは、

 “お客さんの呼吸と一緒に揺れる”感じ。

 “置いていかない”ようにね」


 白石・金田・春海:

「「はいっ!!」」


 ……と、「プロ+家族の濃すぎる指導」で、

 福高吹部の音はさらに変化していった。




 ◆ 4.ラストはもちろん――爆笑ギャグで魂離脱


 一通りの指導が終わり、

 最後にもう一度『光の歩幅』を通したあと。


 三輪:

「じゃあ今日はここまで……と言いたいとこやけど……」


 部員:

「(ごくっ)」


 三輪:

「せっかく ファイブピーチ★ が来てくれとるけん、

 最後になんか一発、お願いしてもいいですか?」


 光子:

「えー、どうする? 真面目な歌で締める?」


 優子:

「いや、ここまで真面目やったし、

 最後は“魂あっち行きかけるやつ”でよくない?」


 春介:

「出た、“危険ワード”」


 春海:

「え、マジでやるん?」


 美香:

「じゃあ、ショートコント形式でひとつ。

 タイトル――

 『コンクール当日の、絶対にあってはいけない光景』」


 部員:

「「タイトルからして嫌な予感しかしない」」




 ◆ ショートコント:コンクール当日・ステージ裏


 光子(指揮者役):

「はい、みんな本番5分前よ〜。

 心の準備はできとー?」


 優子(Trp):

「センセー、ラッパのマウスピースが……

 カバンの中でプリンの下敷きに……」


 三輪:

「あるかそんなこと!!(でもこの部ならありそうで怖い)」


 美香(Perc):

「先生、ティンパニのペダルが……

 さっきからドとレの間を行ったり来たりしよるんですけど」


 小春(Cl):

「“諦めのミ♭”にしときましょう」


 部室:

「“諦めのミ♭”て何!!?」


 奏太(Tb):

「先生〜、譜面台忘れたけん、

 客席の人に“譜面持っとって〜”ってお願いしていいっすかね」


 光子(指揮者):

「それはもう“公開処刑”やろ!!」


 ひとつボケるたびに、

 福高吹部のあちこちから

「苦しい苦しい」「腹が痛い」の声。




 ◆ トドメの“福高吹部バージョン”双春ネタ


 優子:

「じゃあ、トドメに――

 “双春バージョン・自己紹介”いこっか


 春介:

「え、ここで俺ら!?」


 春海:

「しゃーない、やるか……」


 2人、前に出る。


 春介:

「どうも〜、“低音の皇帝”ことチューバ担当――」


 春海:

「そして、“打楽器の神”と呼ばれましたが、

 家では普通にお風呂掃除担当の――」


 2人:

双春そうしゅんでーす!!

 “春をふたつ、にこひとつ。

 安全運行でまいります!”」


 \ウィンク→ちゅっ→両手でストップポーズ/

「ストップ! ぎゅー! ライト!!」


 部員たち:


「「あっち世界行くーーーー!!!」」


 床を叩いて笑い転げる者、

 椅子から転げ落ちる者、

 サックスを抱えたまま前屈して震えてる者。


 三輪:

「やっば……

 うちの部、コンクール本番前にこのギャグ見たら集中できんやん……」


 平尾:

「でも、これ見たあとなら

 どんな緊張も吹き飛ぶと思う……」


 佐伯(Fl・3年):

「うん。

 “笑える”って、

 本番で一番欲しい“心の余裕”やけんね」


 光子:

「そうそう。

 音楽ってさ、

 “泣いて・笑って・それでも前に進む”っていう、

 その全部やけん」


 優子:

「福高吹部のみんななら、

 きっと“全部”できると思うよ」


 美香:

「泣ける曲も、笑えるMCも、

 ぜんぶひっくるめて“ステージ”やけんね」


 奏太:

「困ったときは、“とりあえずツーバス踏む”」


 小春:

「いやそれはやめて。吹奏楽で床抜ける」




 ◆ 締めの一言


 その日の練習が終わって、

 部室から出るとき。


 三輪(部長):

「今日は本当にありがとうございました。

 正直、今までで一番“疲れて、一番楽しい”合奏でした」


 光子:

「それはよかった〜。

 “ヘロヘロになるまで笑って、ヘロヘロになるまで吹く”

 ――それが一番、青春らしかよ」


 優子:

「またいつでも呼んで〜。

 “爆笑アップ”しにくるけん」


 春介:

「先輩たち、これからもよろしくお願いします!」


 春海:

「うちらも、ちゃんと“吹部の一員”として頑張ります!」


 福岡高校吹奏楽部。


 この日から、

 “音楽的にもギャグ的にも、もう後には引けない部”として、

 新たな伝説を作っていくことになる――。

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