吹奏楽部の新入生歓迎合奏の日。
福岡高校・音楽棟。
吹奏楽部の新入生歓迎合奏の日。
部室の空気は、ちょっとピリッとして、ちょっとワクワクしていた。
三輪(3年・Trp/部長):
「じゃあ今日は、新入生のみんなにも軽く音出してもらうけんね。
その前に、自己紹介が終わった“赤嶺ペア”は、一言だけ意気込みを」
春介:
「はい。チューバの赤嶺春介です。
目標は、“音でバンドを支えつつ、笑いでもバンドを支える”です」
春海:
「打楽器の赤嶺春海です。
目標は、“テンポとツッコミのタイミングを絶対に落とさない”です」
部員一同:
「「なんか危険な双子来たぞ」」
内山(3年・Tb/副部長):
「音楽用語に“ツッコミ”ってあったっけ?」
平尾(3年・Perc):
「打楽器には“ツッコミ”も“オチ”も全部含まれますよ、副部長」
⸻
◆ いきなり始まる双春コント
三輪:
「ま、とりあえず座って。
せっかくやけん、赤嶺コンビになんか一発やってもらおうか」
春介:
「いきなりハードル高くないですか部長!?」
春海:
「まだ入部届、インク乾いてないですけど!?」
先輩たち:
「やれやれやれ」「見たい見たい」
春介と春海、しばらく顔を見合わせてから、
すっと前に出る。
春介:
「じゃあ、“音楽科あるあるコント”をひとつ」
春海:
「タイトルは……
『音楽の授業、普通だと思ってたら全然普通じゃなかった件』」
(部室、すでに笑う準備万端)
春介:
「中学までの音楽の授業ってさ、
『今日はリコーダー吹きます』とかやったやん?」
春海:
「それが高校の音楽科に来たら——」
春海、いきなり隣のスネアにスティックを構える。
春海:
「“はい、今日は初見でコレ振りまーす。拍子変わるけ気をつけて〜”」
春介:
「初見で? ねぇ先生、
五線譜って“なぞなぞ”でしたっけ!?」
(どっ と笑い)
春海:
「しかも“テスト”とか言って、
“この和音聞いて何調でしょう〜?”って」
春介:
「いや、“何調でしょう”の前に “何じゃろう” って聞きたい!!」
部員たち:
「ぶはっ」「それはガチ」
三輪:
「……お前ら、“音楽科1週間目”とは思えんキレやな」
⸻
◆ しかし、音を出した瞬間に空気が変わる
三輪:
「よし、笑いは確認できた。
次は“実力の確認”いこか。
赤嶺春介、低音隊ちょっといい?」
舟木(3年・Tuba):
「じゃあ基礎合奏でやっとるロングトーン、
俺と交代しながら吹いてみよっか」
春介:
「はい!」
チューバを構えた春介が、
スッと姿勢を正す。
先輩たちの視線が、
さっきのコントとは違うトーンで集まる。
舟木:
「音階でB♭ロングトーン、下から順に。
“音が前に飛ぶ”って意識してな」
春介:
「了解です」
スーッと息を吸い込む音がして——
ボォォォォ……
柔らかいけれど芯のある、
まっすぐなB♭の低音が部室に広がった。
そのまま、
ゆっくりと音階を上がっていく。
舟木:
「…………おぉ?」
内山:
「え、普通に“即戦力”やん」
西園寺(3年・Euph):
「音程も揺れんし、“下で支える”ってこういうことよね」
2年・中条(Tuba):
「息のスピード、きれいに保っとるな……」
三輪:
「さっきまでコントやってた奴とは思えん」
春介、最後の音を吹き終わって、軽く一礼。
春介:
「……こんな感じです」
舟木:
「うん、“こんな感じ”どころやないな。
今日からうちの低音、めちゃくちゃ分厚くなるわ。」
⸻
◆ 打楽器隊にも衝撃
平尾:
「じゃあ次、春海ちゃん。
打楽器、何が一番得意?」
春海:
「スネアとティンパニが好きです」
平尾:
「じゃあスネア、
“8分→16分→3連→6連”ってパターンで、
テンポ120くらいで繋いでみよっか」
春海:
「了解でーす」
メトロノームのカチカチが鳴る。
春海はスティックを軽く回して構え、深呼吸。
タッ・タッ・タッ・タッ……
8分音符から入り、
タタ・タタ・タタ・タタ……
16分、
タタタ・タタタ・タタタ……
3連符、
タタタタタタ……
6連。
音量は一定、テンポはぶれない。
スティックさばきは軽やかで、
打面のど真ん中を捉えている。
白石(2年・Perc):
「え、うまっ……」
金田(2年・Perc):
「テンポの芯、ガチでぶれとらん……」
平尾:
「最後、アクセント入れてみよっか。
“頭強く・尻すぼみにならんように”ね」
春海:
「はい!」
もう一度パターンを回し、
要所要所にアクセントを入れる。
タッ・タッ・タッ・タッ(頭強め)
タタ・タタ・タタ・タタ(粒揃ってる)
タタタ・タタタ・タタタ(ノリが出る)
タタタタタタ!!(決めの6連、キレッキレ)
平尾:
「……うん、
“テンポとツッコミのタイミング落とさない”宣言は伊達じゃなかったね。」
打楽器パート一同:
「「よろしくお願いします!!」」
⸻
◆ 部室の評価が一気に「ネタ枠+ガチ戦力」
三輪:
「よし、みんなわかったやろ。
この双子——」
内山:
「“コント担当”であり」
舟木:
「“低音とリズムの要”でもある、と」
坂口(2年・Fl):
「うわぁ……また濃いのが入って来た」
黒川(2年・Cl):
「でも、夏に向けて戦力アップって感じやね」
深町(2年・Trp):
「コンクール前にネタ放り込んでくる予感しかしない」
春介:
「いやいや、
本番中には放り込みませんよ?(たぶん)」
春海:
「リハーサルとMCでは……ちょっとだけ……」
三輪:
「おいそこ! “ちょっとだけ”が一番危ない!!」
(でも顔は嬉しそう)
⸻
その日の終わり。
帰り支度をしながら、
3年の舟木が小声でつぶやく。
舟木:
「……この世代、ちょっと楽しみになってきたな」
平尾:
「ですね。
“笑いも音楽も、本気でやる世代” になりそうです」
音楽棟の窓の外には、
福岡の春の夕焼け。
その色は、
これから始まる“福高吹部・双春世代”の
賑やかで熱い日々を、
そっと予告しているかのようだった。
⸻
◆ 福岡高校吹奏楽部・放課後
部室にて——
新歓合奏が終わり、ほっとして雑談モードに入った頃。
平尾(Perc):
「そういえば春海ちゃん、
“紅白で叩いた”って噂、本当なん?」
春海:
「あ、はい。去年……その……ちょっとだけ」
黒川(Cl):
「“ちょっとだけ”が一番気になるやつ!」
深町(Trp):
「ていうか“紅白”って、あの!? NHKの!?」
坂口(Fl):
「芸能人のやつ!? ほんものの全国放送!??」
春海は照れくさそうにスマホを出し、
動画フォルダを開く。
春介:
「春海、その映像……見せるん?」
春海:
「うん。“何を目標に叩いてるか”は伝わった方がいいし」
そう言って
—再生を押した。
⸻
◆ 2051年 紅白歌合戦
《双春 with H&M》
X JAPAN『DAHLIA』カバー
映ったのは、
紅白の大ホールを揺らすライト。
中央で春海(当時15歳)が、
スティックを軽く回しながら
プロと同じ位置・同じ構図で座っている。
最初のシンバルロールから、
ステージの空気が一変した。
ドンッ! ダダダダダッ!
超高速のスネア連打。
重心の低いキック。
クラッシュのキレ。
フィルインの滑らかさ。
平尾(3年Perc):
「…………ちょっ……え?」
白石(2年Perc):
「プロ……じゃん。ていうかプロ超えてない……?」
金田(Perc):
「こ、これ……中学生の音やないって……」
部室中、完全に固まる。
続いて、
ギター(水湊)とベース(穂乃果)の重低音が乗り、
春介のコーラスが入る。
映像の中の春海は、
緊張一つ見せず、
まるで呼吸するように速い譜面を叩きこなしている。
ラスト。
超速テンポの6連フィルからの——
ドォォォォォン!!!
決めのクラッシュ。
照明が白く炸裂する。
そして、15歳の春海が
少し息を弾ませながら微笑むシーン。
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◆ 福高吹部、死ぬほど固まる
動画が終わる。
誰も喋らない。
春海:
「……あの……すみません……」
三輪(部長3年):
「……すみませんじゃない。
これ、紅白の“前半トリ”のやつやろ???」
春海:
「あ、はい……去年の……」
内山(Tb):
「ちょっと待って。
これレベルの人、今日“入部しました”って言った???」
坂口(Fl):
「春海ちゃん……私たちの“憧れ側”の存在やん……」
平尾(Perc):
「部活のレベルが……一気に“全国銅〜銀圏”から
“金賞本気で狙える圏”に跳ね上がったぞ……」
白石(Perc):
「ていうか……うちの打楽器パート……
春海ちゃんが入った瞬間に“プロ枠”になってない?」
全パート:
「「…………(うなずく)」」
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◆ そして、春海の“爆笑落ち”
春海:
「あの……本当にすごいのは……
編集で私の変顔が全部消されたこと……」
全員:
「そこ!?!?!?」
春介:
「春海、実はサビ直前で
“変顔で気合い入れるクセあるんです」
春海:
「やめてそれ暴露するの!!」
(部室、爆笑の渦)
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◆ 結果
双春の実力、福岡高校吹部全体にバレる。
そしてこの日から、
* 春介 →「低音隊の秘密兵器」
* 春海 →「高校レベルを超えた天才ドラマー」
として、一気に部の中心メンバー扱いになるのだった。




