春介と春海、博多南中卒業
博多南中学校・体育館。
まだ肌寒さの残る、2052年3月の朝。
ステージの上には「第○回 卒業証書授与式」の横断幕。
保護者席にはアキラと美香、そして光子・優子、翼・拓実、美鈴と優馬たち家族がずらりと並んでいる。
アキラ:
「……もう中学卒業かぁ。あっという間やったな」
美香:
「ね。あのちっちゃかった春介と春海が……」
美鈴:
「ほらほら、泣くとはまだ早かよ。これからが本番たい」
優馬:
「俺はもう泣きそうやけどね」
そんな家族の会話をよそに、式は粛々と進んでいく。
卒業証書授与。
合唱「旅立ちの日に」。
そして、いよいよ――
司会:
「続きまして、卒業生代表の言葉。
三年A組 赤嶺春介くん、赤嶺春海さん。前へどうぞ」
体育館がざわっとする。
「双子やん」「どっちがどっち?」「吹部の赤嶺やろ?」
小さなひそひそ声がいくつも飛び交う。
ステージに上がった二人は、
背筋を伸ばして並んだ。
春介はネクタイを締めた制服姿、春海はきりっとしたセーラー服。
二人とも、緊張と覚悟が混じった顔をしている。
マイクの前に立ち、いったん客席を見渡す。
家族の顔が見えた瞬間、二人の目が少し柔らかくなった。
春介・春海:
「「卒業生代表の言葉」」
声がぴたりと揃う。
そこから、交互に言葉を紡いでいく。
⸻
春介:
「三年間、お世話になった先生方、
支えてくれた家族のみなさん、
そして、共に過ごした仲間たちへ。
卒業生を代表して、感謝の気持ちを伝えます」
春海:
「入学式の日、
まだ大きすぎる制服に袖を通して
この体育館に座っていた私たちは、
わからないことだらけで、不安でいっぱいでした」
春介:
「それでも、
教室で名前を呼んでくれた担任の先生。
『大丈夫、一緒に覚えていこう』と
黒板の前で笑ってくれた姿を、今でも覚えています」
春海:
「部活見学の日。
音楽室から聞こえてきた吹奏楽の音に、
私たちは引き寄せられるように足を止めました。
チューバの大きな音。
打楽器の、胸に響くリズム。
あの日、あの部屋で出会った仲間たちが、
今の私たちをつくってくれました」
客席の吹奏楽部の後輩たちが、
少し目を赤くしながら聞いている。
顧問の佐伯先生も、ハンカチで目元を押さえていた。
春介:
「チューバがうまく鳴らせなくて、
“音じゃなくてため息が出よるぞ〜”って怒られたり」
春海:
「スティックを落として、合奏を止めてしまって、
“ドラムじゃなくて心臓止める気か〜”とツッコまれたり」
体育館のあちこちから、くすくすと笑いが漏れる。
春介:
「それでも、何度も何度も
“もう一回いこうか”と
向き合ってくれた先生方のおかげで、
僕たちは最後のコンクールまで、
ステージに立ち続けることができました」
春海:
「一緒に笑って、一緒に泣いて、
楽譜を汗でくしゃくしゃにしながら頑張った仲間たち。
あなたたちがいたから、
朝早くの練習も、夜遅くの片付けも、
全部、宝物の時間になりました」
⸻
そして、話題は家族へと移る。
春介:
「家に帰ると、
いつも『おかえり』と言ってくれる両親がいます。
眠そうな目をこすりながら、
朝早く弁当を作ってくれる母」
春海:
「夜遅くまで仕事をしているのに、
コンクールの前の日には必ず
“本番楽しんでこいよ”と
肩を叩いてくれる父」
ステージ下のアキラと美香の目が、
じわっと潤む。
春介:
「二人が音楽を続ける背中を見て、
僕たちも楽器を始めました。
“音楽は、人を笑顔にする”って、
小さい頃から何度も聞いてきました」
春海:
「中学生になって、
その言葉の意味が、少しだけわかった気がします。
文化祭で笑ってくれたクラスのみんな。
定期演奏会で涙をこぼしてくれたお客さん。
そして、今日ここで、
私たちの成長を見守ってくれている皆さん」
春介:
「僕たちは、
音楽を通して、
たくさんの“ありがとう”をもらいました。
本当に、ありがとうございます」
二人は揃って、深々と頭を下げた。
⸻
最後に、進路と未来への一言。
春海:
「これから、私たちは
それぞれ違う道へ進んでいきます。
勉強や部活、仕事。
楽しいことも、つらいことも、
きっと今よりずっと増えると思います」
春介:
「それでも、
博多南中で過ごした三年間が、
僕たちの背中を押してくれると信じています。
“失敗したっていい。もう一回やってみよう”って
言ってくれた先生たちの言葉を、
これからも忘れません」
春海:
「最後に。
私たち双子は、家ではよく
“春をふたつ、にこひとつ”というギャグを言います。
でも今日は、少しだけ真面目に言わせてください」
春介・春海:
「春をふたつ、にこひとつ。
ここから先も、
笑顔と感謝を胸に、
安全運行で、進んでいきます。」
体育館に、どっと笑いと拍手が広がる。
先生たちも、保護者も、生徒たちも、
笑いながら、目元を拭っていた。
春介:
「三年間、本当にお世話になりました」
春海:
「ありがとうございました」
春介・春海:
「「ありがとうございました!」」
二人が深くお辞儀をすると、
体育館いっぱいに大きな拍手が鳴り響いた。
ステージ袖に戻る途中、
春介はちらりと客席を見た。
アキラは鼻の頭を赤くし、
美香はハンカチを握りしめて号泣している。
光子と優子は、
「やるやん、うちの双春」と
誇らしそうに笑っていた。
美鈴は、隣の優馬に小声でつぶやく。
美鈴:
「……うちら、ほんとに幸せやね。
こんな立派に育ってくれて」
優馬:
「ああ。
この子らが歩いていく未来が、
いつまでも、笑いと平和で満ちとるといいね。」
卒業式の空には、
まだ少し冷たいけれど、
確かに「春の気配」が、
静かに、でも力強く、広がり始めていた。
◆ 卒業式後 ― 校門前での記念撮影
〜春の風と、双春の旅立ちと、家族みんなの笑顔〜
卒業式が終わり、
学校の正門には、
「祝 卒業 博多南中学校」の大きな横断幕が風に揺れていた。
春の光を浴びて、
制服姿の生徒たちが次々にスマホを構え、
友達と、先生と、家族と写真を撮りあっている。
春介と春海も、
仲間たちに囲まれて笑い合っていた。
陸上部の友人:
「春介、まじで寂しくなるって!」
吹奏楽部後輩:
「春海先輩、絶対また部活きてください!!」
春海:
「うん、合奏のときスネアの位置ずれとったら怒りに来るけんね〜!」
春介:
「なんで怒る前提やねん(笑)」
そんな賑やかな輪から呼ぶ声。
美香:
「春介ー、春海ー! 家族写真撮るよー!」
春介:
「行くよ春海!」
春海:
「はいはい、行こ!」
⸻
◆ 全員集合、記念撮影隊
校門前に並んでいたのは、
青柳家・柳川家・美香一家・小倉家勢ぞろい。
美鈴:
「ほら、主役二人は真ん中に立ってんしゃい!」
優馬:
「春介と春海、帽子の角度揃えてみ。写真写り大事よ?」
アキラ:
「お前、自分が写真写り一番気にしとるんやないか(笑)」
美香:
「ほら、双子らしく肩寄せて。そうそう」
光子:
「はいはい、うちの弟子たち〜、笑顔でね〜!」
優子:
「“にこっ”ってしてみ。卒業祝いの“にこひとつ”よ?」
春介:
「いやそれ絶対言うと思った……!」
春海:
「うちらのギャグどんだけ浸透しとるん(笑)」
⸻
◆ ちびっこ乱入で、写真が撮れない地獄
カメラを構えた翼が言う。
翼:
「よし、全員入ったねー……じゃ、撮るよー?」
その瞬間だった。
陽翔(5):
「春介にーに、だっこー!」
結音(5):
「春海ねーね〜! 写真いっしょに写る!!」
燈真(4):
「とぅまもまん中がいいーー!!」
灯乃(4):
「ひのも“花びら撒くポーズ”する!!」
彩羽(1):
「ぱぱーー!!!!」
悠翔(1):
「おねえしゃーーん!!!」
わあああああああああ!!!
次の瞬間、双子はちびっこ祭りの中心に取り囲まれた。
春介:
「ちょ、ちょ、陽翔!! よじ登るなって!!」
春海:
「灯乃、その花びらは本当に撒かんで大丈夫!!」
燈真:
「とぅま、今がセンターのチャンス!!(謎の闘志)」
結音:
「ゆのんはここ〜!」
彩羽&悠翔:
「ぎゅーーーー!!」
美鈴:
「……あらま、これじゃ写真撮れんねぇ(笑)」
優馬:
「もう“卒業より家族写真のほうが大仕事”になっとる」
光子:
「ちょっと、陽翔ー、春介のネクタイ引っ張らんで!」
優子:
「悠翔!! カメラに向かって舌出さんで!!」
翼:
「……うん、これ、いい意味で地獄(笑)
でも撮るよー! そのままで行こう!!」
⸻
◆ 「2052年・春、家族の形。」
翼がシャッターを押す。
カシャッ。
そこに写っていたのは——
✨ 制服姿で誇らしげに立つ春介と春海
✨ その足にしがみつく幼児トリオ
✨ ピース・敬礼・ウィンク・変顔などポーズバラバラの子どもたち
✨ 笑ってる人、泣いてる人、ツッコんでる人、抱っこしてる人
✨ ちょっと写りこんでる美馬の謎の表情
✨ 後ろで涙ぐむ美鈴と優馬
まさに“小倉ファミリーの春”。
力強くて、賑やかで、カオスで、あたたかい“家族の形”。
翼:
「はい、最高の写真撮れたよ……!」
美香:
「うわぁ……これ、家宝になる……」
アキラ:
「ほんとやな……」
美鈴:
「ようここまで育ってくれたね……ありがとうねぇ……」
優馬:
「よし、打ち上げは焼肉やな!」
全員:
「「やったーーーーー!!!」」
春介と春海は、お互いに目を合わせて笑った。
春介:
「中学、ちゃんと卒業したね」
春海:
「うん。
ここから先も——
“春をふたつ、にこひとつ”で行こっか」
春介:
「もちろん!」
門の上では、春風が桜のつぼみをそっと揺らしていた。
2052年の春。
双春、ここから新しい道へ。




