紅白出場
出場歌手発表の日、NHKホールの会見場。
記者たちのフラッシュがぱしゃぱしゃと鳴る中、
司会進行のアナウンサーが、分厚い台本を手にしてにこやかに言った。
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◆ 紅白出場歌手発表会見
アナウンサー:
「それでは、今年の紅組・白組の出場歌手を発表してまいります。
続きましては――特別企画枠。
“世代をつなぐロック・ステージ”でございます」
ざわっとする会場。
スクリーンに、バンドのロゴが映し出される。
《双春 with H&M》
記者A:
「……H&Mって、あの……服じゃなくて?」
記者B:
「青柳穂乃果(Honoka)と柳川水湊(Minato)の頭文字らしいですよ」
アナウンサー:
「はい、こちらのメンバーは――」
モニターに映る4人の写真。
* ギター&ボーカル:赤嶺 春介(15)
* ドラム:赤嶺 春海(15)
* ベース:青柳 穂乃果(21)
* キーボード:柳川 水湊(18)
アナウンサー:
「爆笑発電所や各地ライブでも話題のロックユニット、双春。
そして、青柳翼選手の妹でベーシストの青柳穂乃果さん、
卓球界のスター・柳川拓実選手の弟でキーボーディストの柳川水湊さん。
この4人で――
X JAPAN『DAHLIA』をカバー披露していただきます!」
会場:
「おぉぉぉ……!」
音楽記者たちの表情が一気に真剣になる。
記者C:
「よりにもよってDAHLIA!? 本気やん……」
記者D:
「15歳であの曲は相当チャレンジだぞ……」
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◆ 家に帰って大騒ぎ
その日の夜。
赤嶺家のリビングは、情報番組の再放送を見ながら大盛り上がりだった。
テレビから、先ほどの会見の様子が流れる。
ナレーション:
「今年の紅白歌合戦、特別企画枠として“双春 with H&M”が登場。
伝説的ロックバンド X JAPAN の『DAHLIA』をカバーします」
画面に映る、自分たちの宣材写真を見て――
春介:
「……うわ、なんか、“ちゃんとしたミュージシャン”みたいやな、俺ら」
春海:
「ちゃんとしたミュージシャンやろが。
心配なんはそこやなくてさ――ツーバス踏み抜かんかなってとこよ」
美香:
「踏み抜かんで。NHKの楽器、高いけん」
アキラ:
「でも、春海のドラミング、あの曲にはちょうどいいと思うぞ。
あの暴れっぷり、若さの暴力やけん」
画面には、別撮りインタビューの春介が映る。
春介:
『憧れの曲ですし、
“爆笑ファミリー”ってイメージの俺らが、
ガチのロックもやれるってとこ、見せたいです』
続いて春海。
春海:
『とりあえず、紅白のステージぶっ壊さん程度に暴れます』
スタジオのコメンテーター:
「コメントがもうドラマーやなぁ〜」
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◆ リハーサル初日 ― NHKホール
ステージにセッティングされたドラムセット。
ツーバス、クラッシュ、ライド、チャイナ、スプラッシュ――フル装備。
春海、椅子に座ってスティックをくるりと回す。
春海:
「……うん、悪くない。
あとはテンション上がりすぎて立たんようにするだけやな」
穂乃果:
「春海、ほんと立つけんね、テンション上がったら。
NHKホールでドラマーが立ったら、
何人か心臓止まると思うよ?」
水湊:
「俺も集中してんのに、視界の端で立たれたら笑うわ」
春介(ギター、シールド繋ぎながら):
「よし、じゃあ1コーラス通してみよっか」
スタッフの声:
「それではDAHLIA、リハーサル入りまーす!」
カウントが鳴る。
次の瞬間、春海の右足と左足が、機関銃みたいなツーバスを刻み始めた。
ドドドドドドドドドドッ!!
穂乃果:
「相変わらずエグいわ、その足……」
水湊:
「でも気持ちいいよね、この“壁”」
春介のギターが、鋭く切り込むようなディストーションで乗ってくる。
シンコペーションするリフに、ベースが重く絡み、
その上でキーボードが冷たい光みたいに旋律を描いていく。
サビ前、ブレイク。
一瞬、静寂。
春海:
「——っ!」
クラッシュを叩く音と同時に、
全員のサウンドが爆発するみたいにぶち上がる。
ステージ袖で見ていたスタッフがポツリ。
スタッフ:
「……15歳やんな? あのドラマー」
別のスタッフ:
「はい。しかも普段、爆笑コントもやってます」
スタッフ:
「どんな育ち方したらそうなるん?」
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◆ 本番当日 ― 紅白・特別企画ステージ
M & Y の二人が、総合司会席から花道に出てくる。
光子:
「さぁ続いては、特別企画ステージです!」
優子:
「笑いのイメージが強いファイブピーチ★ファミリーから、
“ガチのロック”が飛び出します!」
光子:
「紅白出場、双春 with H&M!!
曲は――X JAPAN『DAHLIA』!!」
客席から大きなどよめきと拍手。
照明が一気に暗転し、
ステージ後方から白い逆光が差し込む。
シルエットになって立つ春介と穂乃果。
ドラムセットに座る春海。
キーボードに手を添える水湊。
カウント。
ワン、ツー、スリー、フォー――
爆発するようなドラムロール。
ギターのイントロが鋭くホールを切り裂く。
お茶の間のSNSタイムラインが、一斉にざわつく。
「双春、マジでロックバンドやん」
「春海のドラム、プロレベルじゃない?」
「ツーバス速すぎて何がどうなってるか分からんw」
「穂乃果さんのベース、音太い〜〜」
「水湊くんの鍵盤、Xリスペクトを感じるアレンジ……」
カメラが春海の足元を抜く。
ペダルが信じられない速さで上下している。
春海の顔は、普段のふわっとした笑顔ではなく、
完全に“音に憑かれた”ロックドラマーの表情になっていた。
ブレイクで、一瞬だけカメラが客席の家族席を映す。
美香:
「……やば。あれ、うちの娘やと?」
アキラ:
「お、おう。あのパワーは……俺の遺伝子かな?」
光子(横から):
「いや、爆笑発電所で鍛えた肺活量やろ」
優子:
「なんでも笑いに結びつけんでよか!」
ステージ上では、ラスサビに向けてテンションが最高潮に達する。
春介のボーカルが張り上がり、
ギターソロでは客席からどよめきが起きる。
穂乃果のスラップ気味のフレーズが下から突き上げ、
水湊のキーボードが、原曲への敬意と自分たちの色を
絶妙なバランスで乗せていく。
最後の一撃。
全員でぴったり止まる。
シンバルが長く余韻を引き、
春海がスティックをくるりと回して、頭上でクロスさせる。
静寂のあと――
会場、割れんばかりの拍手と歓声。
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◆ 曲終わり、MCコメント
光子(ステージに駆け寄りながら):
「……ちょっと待って、ほんとに15歳!?」
春海(汗だくで笑いながら):
「いちおう、戸籍上は15歳です(笑)」
春介:
「でも、今日ばっかりは、
“爆笑”じゃなくて“本気”でロックさせてもらいました!」
優子:
「いや、爆笑もロックも、どっちも“生きてる証拠”やけんね」
光子:
「X JAPANさんの名曲を、
こうやって次の世代が自分たちなりに燃やしてくれるのは、
きっと喜んでくれとると思います」
優子:
「双春 with H&Mのみんな、
最高のDAHLIAをありがとう!」
客席、再び大きな拍手。
春海は胸の前で小さくピースを作りながら、
心の中でそっとつぶやいていた。
(おじいちゃん、ひいじいちゃん。
うちら、ちゃんと“音”でもカッコつけられるようになったけんね)
その夜、SNSのトレンドには
「双春」「春海ドラム」「DAHLIA」「H&Mバンド」
といったワードが並び、
“爆笑ファミリー=笑いだけじゃない”という事実が、
また一つ、世の中に強く刻まれることになった。




