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美香と光子と優子の爆笑ストーリー。光子と優子29歳  作者: リンダ


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インコ一家歓迎セレモニー――せきちゃん閣下、本物のM&Yを前に完全崩壊

その直後、徳島支部のロビーでは「まだ終わりませんよ」とばかりに、もう一つの歓迎イベントが準備されていた。


13日目・夜の部


インコ一家歓迎セレモニー――せきちゃん閣下、本物のM&Yを前に完全崩壊


全世界中継がひと区切りつき、光子たち16人がほっと息をついた、そのときだった。


ロビーの奥から、小さな音楽が流れ始める。


優子が振り向く。


「ん? なんか始まったばい?」


愛ちゃんが、ものすごく嫌な予感のする顔で笑った。


「はい。徳島支部名物です」


正男くんも苦笑いする。


「インコ一家の歓迎セレモニーです」


光子

「歓迎セレモニー?」


祥子

「インコが?」


「嫌な予感しかしないんですけど」


そして――。


小さな特設ステージの幕が、するすると開いた。


中央に立っていたのは、胸を張った二代目せきちゃん閣下。


その隣には、せいちゃん姫。


さらに後ろには、きびまる、あわみ、しらゆきたちインコ一家がずらりと並んでいた。


せきちゃん閣下は、今日だけの特別衣装なのか、小さな蝶ネクタイまで付けている。


光子

「うわ、かわいか!」


優子

「閣下、今日は正装しとるやん!」


せきちゃん閣下は胸を張った。


「せきちゃん、かっこいい」


客席から拍手。


愛ちゃん

「ここまでは完璧」


正男くん

「問題はここからです」


せいちゃん姫が横から小さく念を押す。


「閣下。今日はちゃんと練習した通りにやるんよ」


「まかせろ」


「ほんまに?」


「せきちゃん、かっこいい」


「それしか言うてへんやん」


早くも会場に笑いが広がった。


しかし、せきちゃん閣下本人は至って真剣だった。


今日のために何度も練習した歓迎挨拶。


徳島支部を代表し、世界的に活動するM&Yこと青柳光子と柳川優子へ、堂々たる歓迎の言葉を述べる。


予定では、そうなるはずだった。


せきちゃん閣下は光子と優子の前へ進み出た。


二人を見上げる。


そして。


固まった。


光子

「ん?」


優子

「閣下?」


せきちゃん閣下の目が、ぱちぱちと瞬く。


テレビ。


配信。


写真。


これまで何度も見てきた二人。


だが。


今日は目の前に本物がいる。


せきちゃん閣下

「……」


せいちゃん姫

「閣下?」


せきちゃん閣下

「……ほ、本物」


会場

「アハハハハハ!」


光子がしゃがみ込み、目線を合わせる。


「本物たい」


優子も横に並ぶ。


「いつも画面越しやもんね」


すると、せきちゃん閣下の頭の中で、何かが完全に吹き飛んだ。


予定していた台詞は、


「爆笑発電所徳島支部へようこそ。皆様のご訪問を心より歓迎いたします」


だった。


ところが。


せきちゃん閣下

「ば、爆笑……はちゅ……発電……徳島……しぶしぶ……」


せいちゃん姫

「支部を渋々言うな」


ドッと笑いが起きる。


せきちゃん閣下は慌てる。


「ほんじつは、ご、ご、ご、ご……」


光子

「ご?」


優子

「五回出たね」


せきちゃん閣下

「ご来鳥いただき……」


愛ちゃん

「来鳥!」


正男くん

「光子さんたち鳥になった!」


光子

「うちら今日から鳥類!?」


優子

「戸籍どうなると!?」


「そこ心配するとこ?」


拓実

「まず羽がない」


さらに爆笑。


せいちゃん姫は翼を顔に当てる。


「もう嫌な予感しかせえへん……」


せきちゃん閣下は必死に立て直そうとした。


「青柳み、み、みつ……」


光子

「はい」


「みつ……みつこしゃん」


光子

「惜しい」


「柳川ゆ、ゆう……」


優子

「はいはい」


「ゆうこしゃん」


優子

「急に幼児化した!」


子どもたちまで大笑い。


陽翔

「しゃん!」


結音

「ゆうこしゃん!」


優子

「そこ真似せんでよか!」


せきちゃん閣下の焦りは頂点に達した。


緊張しすぎて、完全に何を言えばいいのか分からなくなる。


「えーっと……」


せいちゃん姫

「歓迎の言葉!」


「歓迎……」


「そう」


「ようこそ徳島へ」


せいちゃん姫

「そうそう」


せきちゃん閣下

「そして……」


せいちゃん姫

「そして?」


せきちゃん閣下は光子を見た。


次に優子を見る。


そして、なぜか胸を張った。


「僕とデートして」


三秒。


完全な静寂。


光子

「……はい?」


優子

「……今なんて?」


「ちょっと待て」


拓実

「閣下?」


祥子

「飛び越えたねぇ」


「歓迎から告白まで三秒でしたね」


そして。


ゆっくり。


本当にゆっくり。


せいちゃん姫が、せきちゃん閣下の方を向いた。


「……閣下?」


せきちゃん閣下

「はい」


「あんた」


「はい」


「私という」


「はい」


「かわいい彼女鳥がおるのに」


「……はい」


「本物の光子さんと優子さん見た瞬間」


「はい」


「僕とデートして?」


「……はい」


せいちゃん姫

「そういうこと言う?」


せきちゃん閣下

「事故です」


せいちゃん姫

「恋愛事故か」


会場、爆発。


光子は翼の肩につかまりながら笑っている。


「閣下、うち既婚者ばい!」


優子も拓実の腕を叩きながら笑う。


「しかも旦那、目の前におるっちゃけど!」


翼が腕を組む。


「閣下、一応聞いとくけど、どっちとデートするつもりやった?」


せきちゃん閣下

「……」


拓実

「答え方間違えたら二重事故やで」


せきちゃん閣下は考えた。


非常に真剣に考えた。


そして。


「両方」


「欲張るな!」


拓実

「夫二人おる前で最大火力出すな!」


ロビーが揺れるほどの大爆笑。


その瞬間だった。


せいちゃん姫

「閣下」


「はい」


「ちょっとこっち向いて」


「はい」


せいちゃん姫が一度だけ、軽く頭をつん、とする。


「まず反省」


せきちゃん閣下

「ぷい」


そして。


せいちゃん姫

「次」


せきちゃん閣下

「次?」


愛ちゃん

「あ」


正男くん

「来るぞ」


せいちゃん姫

「ハイパーこちょこちょ」


せきちゃん閣下

「え」


一瞬後。


せいちゃん姫が閣下の脇腹付近をくすぐり始める。


せきちゃん閣下

「ぷぷぷぷぷぷい!」


光子

「鳴き声おかしくなっとる!」


優子

「閣下、耐えて!」


せきちゃん閣下

「た、たすけ……ぷいぷいぷい!」


きびまるは横で首を傾げる。


あわみは完全に他人事。


しらゆきに至っては、少し離れたところから静かに見守っている。


祥子

「家族、誰も助けないんだ」


「日常なんでしょうね」


数十秒後。


ようやくハイパーこちょこちょが終了。


せきちゃん閣下は完全に放心状態で止まり木に戻った。


だが。


せいちゃん姫

「まだ終わってへんよ」


せきちゃん閣下

「……?」


「ありがたいお説教30分コース」


せきちゃん閣下

「30分?」


愛ちゃん

「フルコース入りました」


正男くん

「今日は長いやつです」


せきちゃん閣下

「キャンセル」


せいちゃん姫

「できません」


「予約してない」


「自動予約です」


「返品」


「不可です」


優子

「通販みたいになっとる!」


そして本当に始まった。


せいちゃん姫のお説教。


「まずな、歓迎する相手に緊張するんはわかる」


せきちゃん閣下

「はい」


「噛むんもしゃあない」


「はい」


「光子さんと優子さんがテレビよりきれいやと思ったんも、まあわかる」


光子

「そこはありがとうございます」


優子

「姫、公認いただきました」


せいちゃん姫

「でもな」


せきちゃん閣下

「はい」


「彼女鳥が横におる」


「はい」


「旦那さんも横におる」


「はい」


「子どもまでおる」


「はい」


「その状態で」


間。


「僕とデートしては、どないな神経しとんねん」


光子はとうとう床に座り込んだ。


「もう無理、腹痛い!」


優子も涙を拭う。


「歓迎セレモニーでここまで事故る!?」


「逆に才能あるよ」


拓実

「狙ってできへんもんな、これ」


せきちゃん閣下

「……せきちゃん」


全員が注目する。


「かっこ……」


せいちゃん姫

「今それ言う?」


せきちゃん閣下

「……反省してます」


再び大爆笑。


お説教開始から十分。


せいちゃん姫

「そもそも、練習では完璧やったやろ」


せきちゃん閣下

「本物がおった」


「今日来るって何日前から知っとった?」


「知ってた」


「ほな想定内やろ」


「テレビより大きかった」


光子

「画面サイズ基準なん!?」


二十分。


せいちゃん姫

「次から緊張したらどうする?」


せきちゃん閣下

「深呼吸」


「その次」


「台本を見る」


「その次」


「彼女鳥がおることを思い出す」


せいちゃん姫

「そこ最重要」


優子

「歓迎挨拶より重要になった」


二十九分。


せきちゃん閣下はすでに魂が抜けかけていた。


そして、きっちり三十分後。


せいちゃん姫

「以上」


せきちゃん閣下

「終わった……」


ロビーから盛大な拍手が起こる。


光子

「閣下、お疲れさま」


優子

「もう一回、歓迎挨拶やってみる?」


せきちゃん閣下

「え」


全員

「やって!」


まさかの再試験。


せきちゃん閣下は止まり木の中央へ。


深呼吸。


一回。


二回。


せいちゃん姫を確認。


翼と拓実を確認。


光子と優子を見る。


そして――。


「爆笑発電所徳島支部へ、ようこそ。みなさんが来てくれて、とてもうれしいです」


完璧。


一瞬の静寂。


そして盛大な拍手。


光子

「できたー!」


優子

「閣下、やればできるやん!」


愛ちゃん

「最初からそれ言ってよ!」


正男くん

「この三十分なんやったん!」


せきちゃん閣下は誇らしげに胸を張る。


「せきちゃん、かっこいい」


せいちゃん姫

「今日は最後だけな」


その瞬間。


徳島支部の生配信コメント欄も、再び猛烈な勢いで流れ始めた。


《閣下、歓迎挨拶に30分かかった》


《デート発言は伝説》


《旦那二人の前で両方は強すぎる》


《せいちゃん姫のお説教講座、教材化希望》


《最後はちゃんと決める閣下》


《徳島支部、火力高すぎ》


その夜。


光子は宿へ戻る途中でも思い出し笑いが止まらなかった。


「今日さ、鬼ヶ島で歌って、渦潮見て、世界中継やって……」


優子

「普通なら十分濃い一日なんよ」


「最後の最後に全部持っていったな」


拓実

「鬼ヶ島より強い鬼がおったわ」


せいちゃん姫

「誰が鬼や」


全員

「アハハハハハ!」


せきちゃん閣下

「せきちゃん、かっこいい」


せいちゃん姫

「もう寝なさい」


こうして13日目は、本来なら感動的に終わるはずだった徳島支部歓迎会を、せきちゃん閣下が見事なまでにぶち壊し――いや、爆笑へ変換して終了した。


そしてこの日の爆笑通信で最も切り抜かれた映像は、鬼ヶ島のアカペラでも、鳴門の渦潮でもない。


本物のM&Yを前にして緊張のあまり、


「僕とデートして」


と言ってしまった、せきちゃん閣下の約五秒間だった。

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