京都入り—三好三人衆の撤退
1568年9月26日、織田軍は、京都に到着した。
京都を支配していた三好三人衆は、織田軍の規模を見て、戦わずに撤退した。
三万の大軍。
しかも、装備も訓練も、優れている。
三好の軍では、勝ち目がなかった。
三好三人衆は、京都を捨てて、阿波に逃れた。
織田軍は、抵抗をほとんど受けずに、京都に入った。
京都の人々は、織田軍を、歓迎した。
「織田信長様が、京都を救ってくださった」
「三好や松永の暴政から、解放された」
信長の評判は、一気に高まった。
紘一は、京都に入って、その文化に触れた。
京都は、日本の文化の中心地だった。
寺院、神社、庭園。美しい建築物が、至る所にあった。
紘一は、時間を見つけては、京都を歩き回った。
ある日、紘一は、金閣寺を訪れた。
金色に輝く建物は、美しかった。
池に映る姿も、見事だった。
紘一は、美術教師だった。
美しいものを見ることが、好きだった。
「素晴らしい......」紘一は呟いた。
この時代に来て、三十八年。
だが、京都を訪れたことはなかった。
美濃と尾張で、ずっと働いていたからだ。
今、初めて、京都の文化に触れた。
紘一は、感動していた。
だが、紘一は、観光ばかりしているわけにはいかなかった。
仕事がある。
信長の京都での政治を、支えなければならない。
1568年10月、足利義昭は、室町幕府十五代将軍に就任した。
朝廷が、義昭を、将軍として認めた。
就任式は、盛大に行われた。
多くの公家、大名が、参列した。
信長も、参列した。
紘一も、同席を許された。
義昭は、将軍の装束を身につけていた。
立派な姿だった。
義昭は、演説をした。
「皆、私は、室町幕府十五代将軍、足利義昭である」義昭の声が、響いた。
「兄、義輝の仇を討ち、将軍の座を取り戻した」
義昭は、続けた。
「これも、織田信長殿のおかげである」義昭は言った。
「信長殿に、心から感謝する」
人々は、拍手した。
信長は、深く頭を下げた。
就任式が終わった後、義昭は、信長を呼んだ。
二人は、将軍御所で、会談した。
紘一も、同席した。
義昭が、口を開いた。
「信長殿、本当にありがとうございました」義昭の声には、感謝があった。
「いえ」信長は答えた。
義昭は、続けた。
「信長殿には、恩がある」義昭は言った。
「何でも、言ってください」
「できることなら、何でもします」
信長は、少し考えてから、答えた。
「では、一つ、お願いがあります」
「何でしょうか」
「京都の政治を、私に任せていただけませんか」信長は言った。
義昭は、少し驚いた顔をした。
「京都の政治を、ですか」
「はい」信長は頷いた。
「義昭様は、将軍として、象徴的な存在でいてください」
「実際の政治は、私が行います」
義昭は、しばらく考えた。
やがて、義昭が答えた。
「分かりました」義昭は言った。
「信長殿に、任せます」
信長は、満足そうに頷いた。
だが、紘一は、不安を感じた。
義昭は、今は、信長の言うことを聞いている。
だが、将軍の座に慣れたら、どうなるだろうか。
権力を持ちたくなるのではないか。
紘一の不安は、的中することになる。
だが、それは、もう少し先の話だった。
1568年11月、織田軍は、次の標的に向かった。
松永久秀だった。
松永久秀は、大和の国を支配していた。
そして、足利義輝を殺害した張本人の一人だった。
信長は、松永を討つことを、決めた。
織田軍は、大和に向けて、進軍した。
松永久秀は、多聞山城に籠城した。
多聞山城は、堅固な城だった。
山の上にあり、守りやすい。
信長は、城を包囲した。
だが、松永は、簡単には降伏しなかった。
包囲は、数週間続いた。
ある日、松永の兵が、夜襲をかけてきた。
約千名の兵が、織田軍の陣営を、襲撃した。
織田軍は、不意を突かれた。
混乱が、広がった。
紘一も、陣営にいた。
突然の襲撃に、驚いた。
「敵襲だ」
「松永の兵だ」
兵たちが、叫んでいる。
紘一の周りにも、敵兵が迫ってきた。
紘一は、刀を抜いた。
だが、紘一は、剣術に優れているわけではない。
数人の敵兵と、戦うのは、難しい。
「まずい......」紘一は思った。
紘一は、懐に、事前に描いておいた絵を持っていた。
それは、医療物資の絵だった。
包帯、薬草、針。
戦場で必要になるものを、事前に描いて、常に持ち歩いていた。
だが、今必要なのは、医療物資ではない。
身を守るものだ。
紘一は、近くの天幕に駆け込んだ。
そこには、紘一の荷物があった。
紘一は、荷物の中から、一枚の紙を取り出した。
それは、数日前に描いておいた絵だった。
煙幕を作り出す火薬入りの壺。
実際には存在しないが、戦場で使われることがある道具だった。
紘一は、その紙を、地面に置いた。
そして、念じた。
エネルギーが、わずかに流れ出る。
次の瞬間、紙の上に、小さな壺が現れた。
紘一は、すぐにその壺を天幕の外に投げた。
壺は地面に落ち、割れた。
中から、濃い煙が噴き出した。
煙が、あたりに広がった。
敵兵たちは、視界を失った。
「何だ、煙が」
「目が、見えない」
敵兵たちは、混乱した。
その隙に、織田軍の援軍が、駆けつけてきた。
秀吉が、兵を率いて、敵兵を攻撃した。
「敵を討て」
秀吉の兵が、松永の兵を、追い払った。
夜襲は、撃退された。
紘一は、天幕の中で、息を整えた。
小さな壺一つの創造だったが、それでも疲労を感じた。
「やはり、能力の使用は、体力を消耗する」
紘一は、自分の限界を、改めて認識した。
翌日、松永久秀は、降伏してきた。
夜襲が失敗し、もう勝ち目がないと判断したのだ。
松永は、信長に謁見した。
「信長様、降伏します」松永の声は、低かった。
信長は、松永を見た。
「松永、お前は、義輝様を殺した」信長の声は、冷たかった。
「その罪は、重い」
松永は、頭を下げた。
「申し訳ありません」
信長は、しばらく考えてから、答えた。
「だが、お前の能力は、認める」信長は言った。
「命は、助ける」
「ただし、今後は、私に従え」
松永は、驚いた顔をした。
「本当ですか」
「本当だ」
松永は、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
「必ず、お役に立ちます」
こうして、松永久秀は、織田家の家臣となった。




