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広基の成長—次世代の教育

1571年の春、広信の息子、広基は、七歳になっていた。

広基は、利発な子供だった。

好奇心が旺盛で、何でも知りたがった。

広信は、広基の教育を、紘一に相談した。

「田邊さん、広基の教育を、どうすれば良いでしょうか」

紘一は、少し考えてから、答えた。

「まず、寺子屋に通わせましょう」紘一は言った。

「他の子供たちと一緒に、学ぶことが大切です」

広信は、驚いた。

「寺子屋、ですか」広信は言った。

「領主の息子なら、家庭教師をつけるのが、普通では」

紘一は、首を横に振った。

「いいえ、それでは、広基様が、他の子供たちのことを、知る機会がありません」

紘一は、説明した。

「領主は、領民たちのことを、知らなければなりません」

「領民たちが、どのように暮らしているのか」

「どのようなことを、考えているのか」

「それを知るには、子供の頃から、領民の子供たちと、一緒に過ごすことが大切です」

広信は、理解した。

「なるほど」

「ただし、寺子屋だけでは、不十分です」紘一は続けた。

「午後は、家で、特別な教育を受けさせましょう」

「領主としての、心構えや、政治のことを、教えます」

広信は、深く頷いた。

「分かりました。そうします」

こうして、広基は、寺子屋に通い始めた。

最初は、戸惑っていた。

他の子供たちは、農民や商人の子供たちだった。

広基とは、育ちが違う。

だが、子供たちは、すぐに仲良くなった。

広基は、他の子供たちと、一緒に遊んだ。

鬼ごっこをしたり、川で遊んだり。

そして、一緒に勉強した。

広基は、他の子供たちから、多くのことを学んだ。

農作業のこと、商売のこと、家族のこと。

自分とは違う世界のことを、知った。

ある日、広基は、家に帰って、広信に言った。

「父上、今日、友達の家に行きました」

「そうか」

「友達の家は、小さくて、暗かったです」広基は言った。

「そして、ご飯も、あまり美味しくなかったです」

広信は、広基の言葉を聞いて、少し心配した。

だが、広基は、続けた。

「でも、友達の家族は、みんな仲が良かったです」広基の目は、輝いていた。

「お父さんとお母さんが、仲良く話していました」

「弟や妹と、楽しそうに遊んでいました」

広基は、続けた。

「俺、思いました」広基は言った。

「領主の家は、大きくて、食べ物も美味しいです」

「でも、それだけじゃ、幸せじゃないんだって」

「家族が、仲良くすることが、大切なんだって」

広信は、広基の言葉に、感動した。

広基は、大切なことを、学んでいる。

広信は、紘一に、この話をした。

「田邊さん、広基が、良いことを学んでいます」

紘一は、微笑んだ。

「それは、良かったです」

「寺子屋に通わせて、正解でしたね」

「はい」広信は頷いた。

「広基は、きっと、良い領主になります」

紘一は、広基の成長を、楽しみにしていた。

次の世代が、確実に、育っている。


1571年の夏、お絹が、引退を表明した。

お絹は、もう五十六歳になっていた。

長年、診療を続けてきたが、体力の限界を感じていた。

お絹は、紘一を訪ねた。

「田邊様、私、そろそろ引退したいと思います」

紘一は、驚いた。

「お絹殿、まだまだ現役でいられるのでは」

お絹は、首を横に振った。

「いいえ、もう、体力が続きません」お絹の声には、疲れがあった。

「そして、若い医師たちも、育ちました」

「もう、私がいなくても、大丈夫です」

紘一は、お絹の決断を、尊重した。

「分かりました」紘一は言った。

「長年、お疲れ様でした」

お絹は、微笑んだ。

「いいえ、私こそ、田邊様に感謝しています」

「宗安先生を、紹介してくださったのも、田邊様でした」

「そして、医師としての道を、開いてくださいました」

お絹は、続けた。

「私の人生は、幸せでした」お絹の目には、涙が滲んでいた。

「多くの患者を、助けることができました」

「それも、すべて、田邊様と、宗安先生のおかげです」

紘一も、涙を流した。

「いいえ、お絹殿の努力です」

お絹の引退式が、行われた。

多くの人々が、集まった。

お絹に救われた患者たち、お絹の弟子たち、そして領民たち。

皆、お絹に、感謝の言葉を述べた。

「お絹先生、ありがとうございました」

「先生に、命を救われました」

お絹は、一人一人に、丁寧に応えた。

紘一も、挨拶をした。

「お絹殿は、美濃の医療を、支えてくださいました」紘一の声は、震えていた。

「宗安先生の医術を、次の世代に伝えてくださいました」

「その功績は、計り知れません」

紘一は、続けた。

「お絹殿の弟子たちが、今、美濃各地で診療しています」

「そして、その弟子たちが、また次の世代を育てています」

「医療の継承は、確実に進んでいます」

「それも、すべて、お絹殿のおかげです」

お絹は、深く頭を下げた。

引退式の後、紘一は、お絹の弟子たちを集めた。

吉田と清水、そして他の弟子たち。

約十名の医師が、集まった。

紘一が、口を開いた。

「皆さん、お絹殿が引退されました」紘一は言った。

「これからは、皆さんが、美濃の医療を支えてください」

医師たちは、深く頭を下げた。

「承知しました」

吉田が、代表して言った。

「田邊様、我らは、お絹先生から、多くを学びました」吉田の声は、力強かった。

「そして、お絹先生は、宗安先生から学びました」

「宗安先生の医術を、我らは、次の世代に伝えます」

「必ず」

紘一は、吉田たちの決意を、嬉しく思った。

「ありがとう」

医療の世代交代は、順調に進んでいた。

宗安から、お絹へ。

お絹から、吉田たちへ。

そして、吉田たちから、さらに次の世代へ。

医術は、こうして、受け継がれていく。


1571年の秋、羽柴秀吉は、織田家の重臣となっていた。

秀吉は、この数年で、めざましい活躍をしていた。

美濃攻略での功績、そして、美濃復興での働き。

すべてが、認められていた。

信長は、秀吉に、近江の一部を、領地として与えた。

秀吉は、大喜びだった。

「信長様、ありがとうございます」秀吉の声には、感激があった。

信長は、微笑んだ。

「お前の働きに、報いただけだ」

秀吉は、新しい領地を、熱心に治めた。

そして、紘一から学んだことを、実践した。

農業改革、教育の普及、商業の活性化。

すべてを、秀吉の領地でも、行った。

秀吉の領地は、急速に発展した。

信長は、秀吉の手腕を、高く評価した。

「秀吉は、優れた政治家だ」信長は言った。

ある日、秀吉は、紘一を訪ねた。

「田邊様、お礼を言いたくて、参りました」

「お礼、ですか」

「はい」秀吉は頷いた。

「田邊様から、多くを学びました」秀吉の声には、感謝があった。

「政治の本質を、教えていただきました」

「人々のために働くこと」

「それが、政治の目的だと」

紘一は、謙遜した。

「いえ、秀吉殿ご自身の努力です」

秀吉は、首を横に振った。

「いいえ、田邊様の教えがあってこそです」

秀吉は、続けた。

「私は、これからも、田邊様の教えを守ります」秀吉は誓った。

「人々のために、働き続けます」

紘一は、秀吉の真摯な姿勢に、感動した。

「秀吉殿なら、必ず、立派な領主になれます」

秀吉は、深く頭を下げた。

「ありがとうございます」

秀吉は、その後も、順調に出世していった。

信長の信頼を得て、重要な任務を任されるようになった。

そして、秀吉は、常に、紘一の教えを、心に留めていた。

人々のために働く。

それが、秀吉の信念となっていた。

1572年の春、岐阜は、最も繁栄していた。

信長が美濃を手に入れてから、約五年。

その五年で、岐阜は、日本有数の都市になっていた。

人口は、増え続けていた。

他国から、人々が移住してきた。

商人、職人、農民。

様々な人々が、岐阜に集まってきた。

理由は、明確だった。

岐阜は、豊かだった。

商売がしやすい。仕事がある。生活が安定している。

そして、領主が、人々のことを考えている。

だから、人々は、岐阜に来た。

市場は、常に賑わっていた。

朝から晩まで、人々が行き交い、商売をしていた。

寺子屋も、満員だった。

子供たちが、熱心に学んでいた。

診療所も、忙しかった。

医師たちが、患者を診ていた。

岐阜は、活気に満ちていた。

紘一は、岐阜城の天守から、その様子を眺めていた。

城下町が、広がっている。

無数の建物、無数の人々。

すべてが、動いている。生きている。

「ここまで、来られた」紘一は思った。

三十八年前、紘一は、この時代に来た。

何も分からず、ただ生きるので精一杯だった。

だが、多くの人々に助けられ、少しずつ、この時代に馴染んでいった。

そして、自分にできることを見つけた。

人々の生活を、良くすること。

それが、紘一の使命だった。

今、岐阜は、繁栄している。

人々は、幸せそうだ。

「だが、まだ終わりではない」紘一は思った。

信長は、天下統一を目指している。

その過程で、多くの戦いが待っている。

紘一は、できる限り、戦いを避けたい。

だが、避けられない時もあるだろう。

その時には、紘一は、信長を支える。

そして、戦いが終わったら、すぐに復興する。

それが、紘一の役割だった。

窓の外には、春の風が吹いていた。

優しく、温かく、希望に満ちた風が。

新しい季節が、始まろうとしていた。

そして、新しい挑戦も、待っていた。

紘一は、決意を新たにした。

「これからも、頑張ろう」

「人々のために」

「平和な世界のために」

岐阜の黄金期。

それは、紘一と信長の、努力の結晶だった。

だが、これは、始まりに過ぎなかった。

天下統一への道は、まだ遠かった。


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