信長の評価向上—領民からの信頼
1570年の秋、信長は、岐阜城の拡張を決めた。
現在の岐阜城は、軍事的には優れていた。
山の上にあり、守りやすい。
だが、政治の中心としては、不便だった。
城下町と、離れすぎている。
人々が、城を訪れるのが、大変だった。
信長は、城下町に、新しい政庁を建設することにした。
「政庁は、人々が訪れやすい場所にあるべきだ」信長は言った。
信長は、紘一に、政庁の設計を相談した。
「田邊殿、どのような建物が、良いと思うか」
紘一は、少し考えてから、答えた。
「大きすぎない方が、良いと思います」紘一は言った。
「立派すぎる建物は、人々を萎縮させます」
「人々が、気軽に訪れられる建物が、良いです」
信長は、頷いた。
「なるほど」
紘一は、続けた。
「そして、窓を多くして、明るくしましょう」紘一は提案した。
「暗い建物は、陰鬱な印象を与えます」
「明るい建物なら、人々も、安心して訪れられます」
信長は、紘一の提案を、採用した。
新しい政庁の建設が、始まった。
場所は、岐阜城下町の中心。
人々が、歩いて訪れられる場所だった。
建物は、二階建て。
木造で、窓が多く、明るい。
装飾は、控えめだった。
立派すぎず、だが、威厳はある。
そのような建物だった。
数ヶ月後、政庁が完成した。
信長は、政庁の開所式を行った。
多くの領民が、集まった。
信長は、政庁の前で、演説した。
「皆、この建物は、政庁だ」信長の声が、響いた。
「ここで、わしは、政治を行う」
信長は、続けた。
「そして、この建物は、皆のためにある」信長は言った。
「困ったことがあれば、ここに来てくれ」
「わしが、直接、話を聞く」
人々は、信長の言葉に、感動した。
「信長様が、直接、話を聞いてくださる......」
「本当に、人々のことを考えておられる」
開所式の後、信長は、実際に、毎日、政庁に通った。
そして、人々の訴えを、直接聞いた。
領民たちは、信長に、様々なことを相談した。
土地の問題、商売の問題、家族の問題。
信長は、一つ一つ、丁寧に聞いた。
そして、できる限り、解決した。
紘一も、時々、政庁を訪れた。
信長が、人々の話を聞いている様子を、見た。
信長の顔は、真剣だった。
人々の話を、一言も聞き逃すまいと、集中していた。
紘一は、その姿を見て、感心した。
「信長様は、本当に、人々のことを考えておられる」
政庁の開設は、大成功だった。
人々は、信長を、さらに慕うようになった。
1570年の冬、信長は、楽市楽座を、美濃全域に拡大した。
これまで、岐阜城下でのみ実施していた楽市楽座。
その成功を見て、信長は、美濃全域に広げることにした。
布告が出された。
「今後、美濃全域の市場で、楽市楽座を実施する」
「座は、すべて廃止する」
「市場税は、半分にする」
この布告は、美濃全域に、大きな影響を与えた。
各地の市場で、新しい商人たちが、商売を始めた。
市場は、活気づいた。
商品の種類が、増えた。
価格も、下がった。
領民たちは、大喜びだった。
「物が、安く買えるようになった」
「市場が、賑やかになった」
だが、一部の既存の商人たちは、不満を持った。
「座が廃止されて、特権がなくなった」
「新しい商人が増えて、商売がやりにくい」
そのような声も、上がった。
信長は、その声を聞いて、既存の商人たちを集めた。
岐阜の政庁に、約五十名の商人が集まった。
信長が、前に立った。
「皆の不満は、聞いている」信長は言った。
「座が廃止されて、困っている者もいるだろう」
商人たちは、黙って聞いていた。
「だが、考えてほしい」信長は続けた。
「座があった時、市場は、活気があったか」
商人たちは、答えられなかった。
確かに、座があった時、市場は、停滞していた。
「今、市場は、賑わっている」信長は言った。
「客が、増えている」
「商品が、たくさん売れている」
「それは、なぜか」
信長は、答えた。
「自由競争があるからだ」
「誰でも、商売ができる」
「だから、商人たちは、努力する」
「良い商品を、安く売ろうとする」
「それが、市場全体を、活性化させる」
信長は、商人たちを見回した。
「確かに、以前のような特権は、なくなった」信長は認めた。
「だが、努力すれば、もっと儲けられる」
「それが、楽市楽座だ」
商人たちは、信長の言葉に、納得した。
確かに、信長の言う通りだった。
特権はなくなったが、市場全体が活性化している。
努力すれば、以前より儲けられる。
商人たちは、深く頭を下げた。
「分かりました、信長様」
「これからも、頑張ります」
信長は、満足そうに頷いた。
楽市楽座の拡大は、美濃の経済を、さらに発展させた。
市場は、どこも賑わった。
商人たちは、競い合って、良い商品を売った。
領民たちは、安く、良い商品を買えるようになった。
美濃は、経済的に、豊かになっていった。
紘一は、この成功を見て、満足した。
「経済の自由化は、正しかった」
紘一の政策は、確実に、成果を上げていた。
1571年の春、広信の息子、広基は、七歳になっていた。
広基は、利発な子供だった。
好奇心が旺盛で、何でも知りたがった。
広信は、広基の教育を、紘一に相談した。
「田邊さん、広基の教育を、どうすれば良いでしょうか」
紘一は、少し考えてから、答えた。
「まず、寺子屋に通わせましょう」紘一は言った。
「他の子供たちと一緒に、学ぶことが大切です」
広信は、驚いた。
「寺子屋、ですか」広信は言った。
「領主の息子なら、家庭教師をつけるのが、普通では」
紘一は、首を横に振った。
「いいえ、それでは、広基様が、他の子供たちのことを、知る機会がありません」
紘一は、説明した。
「領主は、領民たちのことを、知らなければなりません」
「領民たちが、どのように暮らしているのか」
「どのようなことを、考えているのか」
「それを知るには、子供の頃から、領民の子供たちと、一緒に過ごすことが大切です」
広信は、理解した。
「なるほど」
「ただし、寺子屋だけでは、不十分です」紘一は続けた。
「午後は、家で、特別な教育を受けさせましょう」
「領主としての、心構えや、政治のことを、教えます」
広信は、深く頷いた。
「分かりました。そうします」
こうして、広基は、寺子屋に通い始めた。
最初は、戸惑っていた。
他の子供たちは、農民や商人の子供たちだった。
広基とは、育ちが違う。
だが、子供たちは、すぐに仲良くなった。
広基は、他の子供たちと、一緒に遊んだ。
鬼ごっこをしたり、川で遊んだり。
そして、一緒に勉強した。
広基は、他の子供たちから、多くのことを学んだ。
農作業のこと、商売のこと、家族のこと。
自分とは違う世界のことを、知った。
ある日、広基は、家に帰って、広信に言った。
「父上、今日、友達の家に行きました」
「そうか」
「友達の家は、小さくて、暗かったです」広基は言った。
「そして、ご飯も、あまり美味しくなかったです」
広信は、広基の言葉を聞いて、少し心配した。
だが、広基は、続けた。
「でも、友達の家族は、みんな仲が良かったです」広基の目は、輝いていた。
「お父さんとお母さんが、仲良く話していました」
「弟や妹と、楽しそうに遊んでいました」
広基は、続けた。
「俺、思いました」広基は言った。
「領主の家は、大きくて、食べ物も美味しいです」
「でも、それだけじゃ、幸せじゃないんだって」
「家族が、仲良くすることが、大切なんだって」
広信は、広基の言葉に、感動した。
広基は、大切なことを、学んでいる。
広信は、紘一に、この話をした。
「田邊さん、広基が、良いことを学んでいます」
紘一は、微笑んだ。
「それは、良かったです」
「寺子屋に通わせて、正解でしたね」
「はい」広信は頷いた。
「広基は、きっと、良い領主になります」
紘一は、広基の成長を、楽しみにしていた。
次の世代が、確実に、育っている。




