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【2026年04月10日書籍1巻発売】もふもふ好きのおっさん、異世界の山で魔物と暮らし始める  作者: あろえ
第二章

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第137話:フィアナとエミリア

 王都に到着して五日目の朝。


 俺はルクレリア家の屋敷でのんびり過ごす日々を送っていた。


「貴族の生活は、こんな感じなのかもしれないなー」

「きゅ~」


 まるで貴婦人にでもなったかのように、日が当たる窓際でウサ太をブラッシングしている。


 こんな優雅な時間を過ごしているのには、フク助の存在が大きいと言わざるを得ない。


 ルクレリア家には隠さない方がいいと思い、エミリア王女に出会ったこととマダラフクロウをテイムしたことを伝えたのだが……。


「まさかルクレリア公爵が青ざめるとは思わなかったよな~」

「きゅ~」


 完全に引かれてしまい、大きな問題を起こさないようにと、外出制限をかけられてたのだ。


 公爵家の屋敷にオッサンが監禁されるなんて、前代未聞の珍事である。


 さすがに恥ずべきことなんだろうか……と考えていると、部屋の扉がノックされて、フィアナさんが入ってきた。


「トオル様、エミリア様がお呼びです。私もルクレリア家を代表して同行しますので、支度してください」


 エミリア王女への布石は、アルメリート会議を有利にするためのものだったんだが……。


 彼女の命に関わる問題だからか、早急に動く必要が出てきたみたいだ。


 そんなこんなでフィアナさんに案内された俺は、王城に足を踏み入れる。


 彼女が同行してくれているおかげで、警備している騎士に敬礼されることはあっても、警戒されることはない。


 しかし、フィアナさんが浮かない表情をしているので、少し訊ねてみることにした。


「俺はこの国の情報に疎いので、エミリア王女のことについて、教えていただけるとありがたいんですが」

「……そうですね。お伝えできないこともありますが、トオル様には知っておいていただきたい点がいくつかあります」


 王城の廊下で聞いていることもあり、フィアナさんは周囲の目を気にしているのか、言葉を選んでいる様子だった。


「最初にお伝えしたいことは、国王陛下の子供はエミリア様しか生まれていないことです」


 どうりで以前お会いした時、王都近郊でも大勢の騎士に護衛されていたわけだ。


 エミリア王女が暗殺されてしまったら、国を揺るがすほどの大事件に繋がってしまう。


 そのことを考えると……。


 エミリア王女にハニードロップを食べさせる選択をしたハリードさんは、かなり勇気のいる決断だったんだろうな。


「じゃあ、エミリア王女が体調を崩されているのは――」

「多忙ゆえのことです。公爵家の私が代役を務めることもありますが、国王陛下やエミリア様が顔を出さなければ、示しがつかないことも多いのです」

「他国との外交を考えれば、余計にそうなりますよね。王家の人間が足を運ぶだけでも、友好関係を結びやすくなるはずですから」

「おっしゃる通りです。体調が崩れたとしても、エミリア様は外交を続ける必要があります。国の平和を守るためには、致し方ないことかと」


 このままエミリア王女が仕事を続け、(とこ)()すことになる方が問題のような気もするが……。


 サウスタン帝国のことを思い出す限り、他国に弱みを見せられるような状況ではないのかもしれない。


 それは、国内情勢を考えても同じことだろう。


 ゴードン伯爵の売国行為も、リーフレリア王国の力が弱まったことを表しているに違いない。


 あの時、エミリア王女が街道から外れた場所で休んでいたことも、凛とした態度を見せたことも、良からぬ噂が流れないようにするための配慮だったんだ。


 国内でも顔を隠し続ければ、大病の疑いがかけられる恐れがあるのだから。


「現在は、軍隊蜂の蜂蜜で症状を抑えながら、内政や外交を進めているような状態です」

「王族に生まれた使命、と言えば聞こえはいいですが、何とも言えない状況ですね」

「はい。軍隊蜂の蜂蜜が品薄にならなければ、このような問題も起きなかったのですが……。そのことは考えても仕方ありません」


 軍隊蜂と一線を交えようとしていたのは、やはりエミリア王女の命が関係していた影響だったのか。


 偶然が重なっているとはいえ、リーフレリア王国やルクレリア家にとっては今、運命の分岐点にいるのかもしれない。


 オッサンの力を借りるか借りないか、という恐ろしい分岐点の上に、である。


 ただ、フィアナさんはそんなことを気にしていないみたいで、気持ちを落ち着かせるように胸に手を当てていた。


「私もルクレリア家の一人娘ですので、エミリア様と似たような境遇にあります。その影響もあって、姉妹のようにお付き合いさせていただいておりますね」

「なるほど。共通点が多い分、自然と打ち解けたような形ですね」

「私が一つ年上ということもあって、最初こそ少しぎこちない関係でしたが、今では個人的な手紙をやり取りするほど仲が良いと自負しています」

「フィアナさんが仲介してくださるのには、そういう理由も含まれているんですね」

「男性ばかりで押しかけるわけにはいかない、というのもあります。ただ、エミリア様は身分に囚われるような方ではありませんので、父よりは気兼ねなく話せるかと」


 それはそれでどうなんですか……と突っ込みたいところが、ひとまず置いておこう。


「ところで、今まで軍隊蜂の蜂蜜をどうやって入手していたんですか? 冒険者ギルドでも取引に制限がかかっていましたよね」

「パルメシア公爵家が秘密裏に入手し続けていた形になります。その当主の方がエミリア王女の婚約者になりますので、すでに国を支えているような状態ですね」

「ああー……副騎士団長のウォリックさんのことですね」

「はい。数年前にパルメシア公爵が亡くなったこともあり、今は彼が後を継いでいます。しかし、エミリア王女の体調が悪くなる一方なので、彼が国王に即位する話が出てきていますね」


 ウォリックさんの傲慢な態度を思い出す限り、彼が国王に即位するのは心配だな。


 そんなことを考えながら歩いていると、二人の貴族男性と出くわしてしまう。


「フンッ。ルクレリア家の回し者だったか」


 ボソッと呟いたのは、ちょうど話していたウォリックさんだ。


 彼が王都に治療薬を取りに行った後、ハニードロップを手渡したこともあり、気まずい雰囲気が流れている。


 しかし、ウォリックさんは問答無用と言わんばかりに、俺の方に近づいてきた。


「エミリアが世話になったみたいだな」

「とんでもありません。ただの偶然です」

「フンッ、何を考えているのか知らないが……」


 そう言ったウォリックさんは、フィアナさんの方を横目で見る。


「その偶然とやらは、ルクレリア家の人間を動かすほどのものなのか?」

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