第133話:依頼の花
拗ねたウサ太が動かなくなってしまったので、俺は必死に機嫌を取っていた。
「ほらっ、ウサ太の大好きなニンジンだぞ~」
「きゅ~……」
先ほどからこんな調子で、餌をあげても食いついてこない。
抱っこしてやろうと持ち上げても、ひょいっと腕から抜け出して、すぐにムスッとするだけだった。
どうすればいいんだろうか……と思い、今までの生活を思い返してみると、一つだけ良さそうな方法を思いつく。
「そういえば、ウサ太の毛並みもシャンプーで綺麗になったよな。ここからブラッシングしたら、ニャン吉のような毛並みになるんじゃないか?」
「……きゅ?」
よしよしっ、ブラッシングに興味を持ち始めたぞ。
やっぱりウサ太は、新しいことや毛並みを整えることに興味があるみたいだ。
「山で過ごしてばかりだと、シャンプーで汚れを落としたとしても、毛玉や埃までは取りにくい。ツヤのある毛並みを目指すなら、ブラッシングで綺麗に整えるべきだと思うんだよな」
「きゅ、きゅ~……!」
「ちょうど王都に来たところだし、ブラッシングに必要な櫛を買いたいんだが……。ウサ太が機嫌を直してくれないとなー」
「きゅーっ! きゅーっ!」
勢いよく走り回るウサ太の姿を見れば、交渉成立と判断しても間違いない。
これからブラッシングする習慣を求められそうだが、それくらいのことであれば、付き合ってやるのもいいだろう。
ただ、ウサ太の機嫌を取るのに時間がかかったこともあって、アーリィに呆れたような表情を向けられていた。
「どっちが飼い主なのかわからないわね」
アーリィとクレアは、どっちが大人か子供かわからないので、お互い様だと思うが。
そんなこんなで冒険者ギルドで受けた依頼を再開して、クレアに案内してもらっていると、すぐに小さな池がある場所にたどり着く。
興味本位で池を覗き込んでみるものの、水深は浅く、魔物や魚がいる気配はなかった。
「トオル、見てみて! あれが依頼の花だよっ」
「きゅーっ!」
池から少し離れた場所にある白い花の元へ、クレアとウサ太は勢いよく駆けていった。
初めて訪れる場所なので、安全そうに見えても、注意してほしい気持ちはある。
ただ、アーリィが神経を研ぎ澄ませている姿を見る限り、役割分担をして依頼を受けているみたいだった。
俺と出会うまでは、こうやって二人で依頼をこなしていたのかもしれない。
「きゅーっ! きゅーっ!」
スッカリご機嫌になったウサ太が騒いでいるので、俺はクレアの方に向かうことにした。
「依頼で採取する花は、クレアが言っていた通りの綺麗な植物だな」
「うん。依頼書には、根っこから丁寧に採取することって書いてあったよ」
「それじゃあ、丸ごと錬金術の素材になるのかもしれない。拠点で植えたとしても、採取するのは難しそうだな」
「蜂さんに怒られちゃうかもね。じゃあ、ここで花を採取することは内緒だよ?」
「わかった。ウサ太も言わないでやってくれ」
「きゅー!」
なんだか悪いことをしているような背徳感を覚えながら、俺たちは依頼に必要な花を採取する。
ただ、冒険者でもない俺が必要以上に手伝うべきではない。
そのため、クレアの代わりに種を採っていくことにした。
これが軍隊蜂の土産というのも、ちょっぴり質素なように感じるが、きっと彼らは喜んでくれるだろう。
最近、俺は花の管理にあまり携わっていなかったから、この機会に種から栽培するのもいいかもしれない。
「そういえば、魔法の練習で使っていた軍隊蜂の蜂蜜はどうなったんだ? ハニードロップになったのか?」
「うーん、普通のものよりドロッとしてるような感じかな。頑張ってるんだけど、なかなか上手くいかないんだよね」
「言うのは簡単でも、実際にやってみると難しいことって多いからな」
「でも、少しずつコツをつかんできたから、拠点に帰るまでにはハニードロップにするんだー。それでね、蜂さんにプレゼントするの」
またもやクレアの清らかな心に触れてしまったな……と思っていると、突然、森の奥の方で大きな音が聞こえてきた。
ガサッ!
ウサ太もビクッと反応して、音が聞こえてきた方をジーッと見つめている。
「ト、トオル……」
「大丈夫だ。ウサ太も様子を見ているから、すぐに危険な状態に陥ることはないだろう」
実際に、あれだけ大きな音を立てたにもかかわらず、何かが近づいているような様子は見られない。
俺たちが狙われたり、存在を嗅ぎつけられたりしたわけではなさそうだった。
アーリィも落ち着いた様子で、周囲を警戒しながら近づいてくる。
「何か音がしたわね。魔物がいるかもしれないから、様子を見てくるわ」
「きゅっ」
「ん? 一緒に来たいの?」
「きゅー!」
「うーん……。守りが手薄になることを考えたら、ここに残ってもらった方がありがたいんだけど」
そんなアーリィとウサ太のやり取りを聞いていると――。
ガサッ! ガサガサッ!
今度は森の奥の方で、しっかりと葉が揺れるところを確認することができた。
「様子を見に行かなくても、何かいるのは間違いないな」
「私の経験からすると、魔物同士で争っている線が濃厚ね」
「冒険者ギルドの事前情報では、このあたりに住むウルフが突然変異を起こしたんだったな」
「ええ。その影響を受けて、勢力争いが活発化しているんだと思うわ。数が多いと厄介だから、ひとまず街道まで避難――」
そう言いかけたアーリィは、すべての言葉を発する前に剣を抜いていた。
すると、一匹のフクロウみたいな魔物が空を飛び、こっちに近づいてくる。




