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【2026年04月10日書籍1巻発売】もふもふ好きのおっさん、異世界の山で魔物と暮らし始める  作者: あろえ
第二章

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第132話:森の探索Ⅴ

 ハニードロップを口にした女性が落ち着きを取り戻す頃。


 俺たちに対する警戒心が和らぎ、騎士団員たちから安堵の声が漏れ始めていた。


 今回、ハリードさんは適切な行動を取ったと思うが、決して褒められた行動ではなかったのも事実である。


 たまたま通りかかったオッサンが持っていた飴を王女殿下の口に入れるなど、騎士団の責任問題になりかねない。


 それだけに、女性の症状が大きく改善したことで、一気に緊張感が抜けたみたいだった。


 大きな賭けに勝ったハリードさんも、安堵の表情を浮かべて近づいてくる。


「トオルと言ったな。今回のことは、誠に感謝する」

「いえ、とんでもありません。善良な市民であることが証明できたようで、何よりだと思っています」

「ああ……。疑いの目を向けていただけに、耳の痛い言葉だ」

「冗談ですから、気にしないでください。その代わり、詮索しないでいただけると助かります」

「わかった。このような貴重なものを持ち運んでいるのであれば、それなりの理由があるんだろう。不要な問いかけは避けるとしよう」

「ありがとうございます」


 どうせ後日、顔を合わせることになりそうですからね……と考えていると、苦しんでいた女性が立ち上がる。


 こっちに向かって歩いてくる彼女の姿は、先ほどまで苦しんでいた人とは思えないほど凛としていた。


 スカートを軽くつまみ、優雅に挨拶してくださっている。


「見苦しい姿をお見せしましたが、私はリーフレリア王国の王女、エミリア・リーフレリアです」


 まだ無理ができるような状態ではないみたいで、呼吸が浅く、声が小さい。


 一国の王女として、威厳に欠けた姿ばかりは見せられないと思い、わざわざ礼を伝えに来てくださったんだろう。


 彼女の気持ちがわからないわけではないので、失礼のないように、俺は敬意を表すことにした。


「私はトオルと申します。エミリア王女から直接お言葉をいただき、嬉しく思います」

「トオルですね。覚えておきましょう」


 そう言ったエミリア王女は、早々と背を向け、馬車の方に歩いていった。


 王女としての自覚があるゆえに、自分が弱みを見せることの意味を理解しているに違いない。


 心配する気持ちはあるものの、それは彼女には不要なことであり、逆に失礼な行為に値するような気がした。


 その証拠に、後ろ姿であったとしても、彼女は決して凛とした姿を崩すことはない。


 馬車に乗り込む時でさえ、堂々とした立ち居振る舞いをしていた。


 その姿を見たクレアには効果的だったみたいで、アーリィの服を引っ張り、喜ぶ姿を見せている。


「ねえねえ、王女様だって!」

「公爵家と関わるだけでも心臓が持ちそうにないのに、次は王家とはね……。もう感覚が麻痺してきて、逆に驚かないわ」

「いいなー! 私も王女様になりたーい!」


 クレアの興奮が冷めやらぬ中、エミリア王女が馬車に乗り込んだことで、騎士団も慌ただしく動き始める。


 彼女の症状が落ち着いている間に、早く王都まで戻りたいに違いない。


 騎士団に指示を出したハリードさんも軽く準備を整えると、急ぎ足で俺たちの方に近づいてきた。


「慌ただしくて申し訳ないが、我々は出発する。後日、王城まで訪ねてきてくれ。必ず礼をする」

「わかりました。お伺いさせていただきます。後、これはついでということで、お渡ししておきます」


 マジックバッグから追加でハニードロップを取り出し、ハリードさんに手渡す。


「軽い気持ちで受け取っていいものではないはずだが」

「どのように軍隊蜂の蜂蜜を服用しているかわかりませんが、あれだけ咳き込んでいらっしゃったのであれば、飴の方が口にしやすいかと」

「……かたじけない」


 こちらは純粋な善意ではなく、根回しとも言い換えることができますからね……と思っていても、さすがに口に出すことはない。


「何やら大変な事情がありそうでしたから、後々揉めないように、という思いもあります」

「ウォリックのことか」

「はい。偉い立場の方なのかもしれませんが、随分と横柄な対応を取られるんだなーと思いまして」


 ウォリックさんが治療薬を取りに向かった以上、王都に帰還後に衝突は避けられない。


 ハニードロップを証拠に持ち帰り、その成分を調べてもらった方が大きな揉め事に発展しない気がした。


 ただ、ハリードさんはあまり心配していないのか、苦笑いを浮かべている。


「あいつのことを、そう悪く思わないでやってくれ。あれでも王女殿下の婚約者だ。彼女のことを心配するあまり、冷静に判断することができなくなるんだろう」

「なるほど。王都まで治療薬を取りに向かったのは、居ても立っても居られなくなったから、ということですね」

「ああ。ウォリックも子供の頃は体が弱く、随分と苦労した過去がある。意外にエミリア王女の気持ちがわかるのは、あいつだけなのかもしれないな」


 あれだけ強い口調で責め立てられていたのに、まさかハリードさんが彼の肩を持つとは。


 気性が荒い部分はあるものの、根は良い人なのかもしれない。


「意外ですね。騎士団の皆さんの雰囲気を見ても、あまり良く思われていないのかと思いました」

「それは自業自得だ。嫌われ役を買って出ているのか、嫌味を言っているだけなのか、わからないことの方が多いからな。ひとまず、これはありがたく受け取らせてもらうぞ」

「どうぞ、遠慮なく。王都まで近いとはいえ、気をつけてくださいね」

「ああ。世話になったな」


 ハリードさんの言葉と共に、騎士団員の方たちに感謝の意が込められた敬礼を向けられる。


 しかし、根回しの意味を込めたハニードロップだったので、俺は苦笑いを浮かべることしかできなかった。


 そんな彼らの姿を見送った後、大人しく待ってくれていたウサ太の方に戻る。


 すると、ぬいぐるみ作戦をやってくれていたのか、目を線のようにしたウサ太が木に隠れて、ジーッと待っていた。


「ウサ太、待たせたな」

「……」

「もうぬいぐるみ作戦は大丈夫だぞ」

「……」

「ウサ太? どうした?」


 ゆっくりと目を開けたウサ太がジト目になり、スイーッと横にずらした姿を見て、俺は察した。


 放ったらかしすぎたことで拗ねてしまったな、と。

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