第130話:森の探索Ⅲ
副騎士団長のウォリックさんと騎士団長のハリードさんの間で対立が生まれると、騎士団はさらに険悪なムードに包まれてしまう。
しかし、俺たちが言い争いの原因を作っているので、二人の間に入ることはできない。
いがみ合う二人を止める術はないのか、他の騎士団員たちも様子をうかがうことしかできない様子だった。
「ハリード団長は要領が悪すぎる。危険を排除することが我らの仕事のはずだ」
「怪しいという理由だけで、何でもかんでも捕縛するわけにはいかないだろう。少しは頭を冷やせ」
「すでに疑うべき理由は説明している。抵抗するのであれば、やましいことがあるだけだ」
「武力や権力だけで済ませようとするな。騎士団は、傲慢な王ではないんだぞ」
騎士団長も大変だなー……と、他人事のように眺めていると、うつむいて胸を押さえていた女性の容態が悪化する。
「げほっげほっ。げほっげほっ」
やはり体調が良くないみたいで、呼吸をするのも苦しそうなほど咳き込み始めた。
そこに駆け寄っていくのは、呆れたように「はぁ~……」と、大きなため息を吐いたウォリックさんである。
「げほっげほっ。げほっげほっ」
「またか……。この程度のことで音を上げてどうするというんだ」
優しく背をさすってあげるものの、ウォリックさんは心配しているように見えなかった。
一方、周囲にいた騎士たちは不安な気持ちを抱いているみたいで、俺たちには聞こえないような形でヒソヒソと話し始める。
もはや、俺たちの存在を怪しんでいる場合ではないみたいで――。
「チッ。まだ時間がかかるというのに……」
先ほどまで冷静だったハリードさんも焦り始め、何かを待っているかのように周囲を気にしていた。
この光景を見たアーリィとクレアも、さすがに不安そうな表情を浮かべている。
「あの咳き込み方、さすがに危なくない?」
「うん。とっても苦しそう……」
偶然、この場に出くわした俺たちには、詳しい状況を理解することができない。
彼女の持病が悪化したのか、感染症を患っているのか、喘息のようなものが発作的に起きたのか。
下手に状況を聞き出そうとすると、再び怪しまれる恐れもあるため、見守ることしかできなかった。
そんな中、苦しむ女性から離れたウォリックさんは、頭をかきながら身支度を整え始める。
「仕方ない。俺が王都まで行って、治療薬を持ってくる」
「待て。アレの持ち出しは、承認されるまで時間がかかるものだ」
「このまま待っていても、らちが明かない。パルメシア公爵家の人間である俺が行った方が、承認もスムーズに進むはずだ」
「だからといって、騎士団のルールを破るな。副騎士団長が現場を離れることを容認した覚えはないぞ」
準備を終えたウォリックさんは、突っかかるようにハリードさんの元に近づき、睨みつける。
「俺を引き留めたいのは、あいつを見殺しにしたいからか?」
「……頭を冷やせと言ったばかりだぞ、ウォリック副団長」
「ハリード団長。あなたの方が立場は上かもしれないが、身分は下だ。あまり口出ししないでくれ」
フンッと鼻で笑ったウォリックさんは、俺たちが通ってきた森ではなく、街道の方へ歩いていった。
身分差があるとはいえ、公爵家の人間があれほど傲慢な態度を取るだなんて……。
俺が出席する予定のアルメリート会議は、本当に波乱に満ちた展開になるのかもしれないな。
そんな空気を悪くしていた諸悪の根源が立ち去ると、女性騎士たちが苦しむ女性の元に駆け寄り、背中をさすってあげている。
「大丈夫ですか?」
「げほっげほっ。げほっげほっ」
「ゆっくりと呼吸してください」
「げほっげほっ。げほっげほっ」
一方、厳しく言い合っていたハリードさんは、行き場のない怒りを抑え込み、俺たちに軽く頭を下げてくれていた。
「みっともないところを見せてしまったな」
「いえいえ、とんでもありません。内情を知らない俺たちが口を挟むことでもないとも思っています」
「気遣ってくれるのはありがたいが、これでは騎士団の威信を守ることができない。君たちも休憩を取るのであれば、我々が安全を確保させてもらおう」
純粋に申し訳ない気持ちがあるのか、それとも、引き続き監視しようとする思惑があるのかはわからない。
ただ、木陰にウサ太が隠れている以上、俺たちは一刻も早くこの場を離れたかった。
「依頼の途中に通りかかっただけなので、先を急ぎます」
「そうか。先ほどウォリックも言っていたが、このあたりはグレートウルフが現れる。油断しないように気をつけてくれ」
「わかりました。ご忠告、ありがとうございます」
アーリィとクレアも軽い礼を済ませ、俺たちはハリードさんの元を離れる。
本来であれば、このままウサ太の存在を気づかれないように移動するなんて、容易なことではない。
しかし、騎士団の方たちは注意散漫になっているため、うまく逃げられそうな雰囲気だった。
まあ、苦しんでいる人を利用しているみたいで、良い気はしないが。
「げほっげほっ。ハアハア……」
彼女が回復することを願いながら、ウサ太の方へ歩いていく途中でも、騎士団の話し声が聞こえてくる。
「ハリード団長。改めて積み荷を確認しましたが、やはり在庫はありませんでした」
「前回の休息で使い切ったんだ、仕方あるまい。うまく管理することができなかった俺の責任だ。上から睨まれたとしても、もう少し軍隊蜂の蜂蜜を持ってくるべきだったな」
突然、聞き馴染みのある言葉を聞いて、俺たちは立ち止まり、顔を合わせる。
これは解決できる問題なのでは、と。
さっきは怪しい人だと疑われたが、暴行を受けたわけでも侮辱されたわけでもない。
ハリードさんたちは、騎士としての役目を果たそうとしていただけなので、その気持ちも理解することができた。
ただ、彼女を助けることに気がかりなことがあるとすれば、騎士団が護衛するほどの人物だということ。
安易に関わるべきではないと思うものの、本当に苦しむ人を前にして、それを放っておくのは気が引けた。
そのため、アーリィとクレアに多数決を取ってみる。
「ハニードロップなら所持しているが、どうする?」
「私は助けるに一票」
「私も!」
「じゃあ、決まりだな」
ウサ太には悪いと思いつつ、俺たちは再びハリードさんの元に向かうのだった。
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