第128話:森の探索Ⅰ
冒険者ギルドの依頼をこなすため、王都から離れた俺たちは今、森の中を歩いている。
木々が生い茂っていることもあり、視界が悪くなりやすいが、大きな影響を受けることはない。
山道と違って傾斜がない分、逆に歩きやすいと感じるほどだった。
おそらく山の中という厳しい環境で生活していたため、知らないうちに鍛えられているんだと思う。
アーリィも森の中での戦闘が上手くなったみたいで――。
「キャヒンッ」
木々に隠れるウルフの背後を取り、強襲するようになっていた。
身体能力と適応能力の高さが相まって、森で生活するウルフと同じくらいの能力を得ているんだろう。
もはや、どちらに地の利があるのかわからなくなっていた。
ただ、これにはウサ太がおとり役みたいな状態になっていることも影響している。
「きゅーっ! きゅーっ!」
ぬいぐるみ作戦から解放されたこともあり、その反動が出ているであろうウサ太は、ここぞとばかりに走り回っている。
そのため、魔物たちはウサ太に気を取られてしまい、アーリィの存在に気づいていない様子だった。
「きゅーっ! きゅーっ! きゅーっ!」
「ガルルルル……ガウッ!」
どごーんっ!
なお、ウサ太の硬化スキルが強力すぎて、地の利などまったく関係ない状況も生まれている。
まるで、小さなトラックが暴走しているような状態で、襲い掛かってくるウルフを次々に返り討ちにしていた。
「きゅーーーっ!」
そんなウサ太が走りまわる中、剣を収めたアーリィが近づいてくる。
「冒険者ギルドで教えてもらったんだけど、このあたりにもグレートウルフが出てくるみたいよ。一応、トオルも注意しておいて」
「わかった。意外にグレートウルフは、神出鬼没なんだな。確かロベルトさんが、多くは存在しない、と言っていたはずだが」
「それがね、この森に住むウルフが突然変異を起こしたことが原因で、王都周辺に増えてるみたいなの」
「こっちでも魔物の生態系に変化が出ているのか……。あまり聞きたくない話だな」
カルミアの街から離れていることを考慮すると、軍隊蜂の暮らす山の影響を受けたり、サウスタン帝国が絡んでいたりするとは思えない。
自然に起きた現象だと思うが、グレートウルフに襲われた経験があるので、あまり良い印象を受けなかった。
しかし、俺とはまったく別のことを考えているであろうアーリィの目は、キラキラと輝いている。
「グレートウルフが現れるようになった分、依頼の難度も上がって、報酬が上乗せされたわ。おまけに軍隊蜂のお土産にもなるんだから、こんなにおいしい依頼はないわよね!」
とてもではないが、公爵家の護衛依頼を受けていた冒険者と思えないほど、切羽詰まったような発言である。
これまで経済的に厳しい状態が続いた影響か、今後のことを考えて貯金しようとしている影響なのかは、わからない。
ただ、人はすぐに変わらないと思った瞬間だった。
それはしっかり者のクレアも同じで、地図と睨めっこしながら、目的地まで誘導してくれている。
「この先に小さな池があるみたい。そのあたりに依頼の花が咲いていることが多いんだって」
本当に近場の依頼を受けたみたいで、早くも目的地に到着する見込みだ。
クレアが正確に地図を見てくれるおかげで、道に迷わなかったことも大きいだろう。
街道を歩いて時間の方が長く、まだ依頼を受けて一時間ほどしか経っていなかった。
「そういえば、依頼で採取する花は錬金術の素材になるって話だったな。いったいどんな花なんだ?」
「バーベナっていう花に強い魔力が宿ると、魔力回復薬の素材になるんだって。赤とかピンクとか白とか、小さな花がいっぱい咲くみたいだよ」
「バーベナ、か。聞いたことがある花の名前だな。葉から有効成分が取れると、俺も錬金術の素材として使えるようになるんだが……」
「どうなんだろうね。花を素材にするんだったら、山に帰った時に植えるだけになっちゃうけど……。私は蜂さんが喜んでくれるなら、それでもいいなーって思うよ」
屈託のないクレアの笑顔を見て、俺は少しばかり胸が痛くなった。
自分に有益なことを考える俺やアーリィは、心が汚れているんだろうか。
サウスタン帝国ほど私利私欲に走っていなくても、結局は同じ穴の狢なのかもしれない。
いや、社会の厳しさを理解している大人だからこそ、現実と向き合っているんだ。
自分たちの利益を考えることも、生きるためには大事なこと。
綺麗ごとばかりで生きていられるほど、現実は甘くないことも事実で……と思っていても――。
「蜂さんたち、喜んでくれるといいなー♪」
純粋無垢なクレアの言葉を聞くと、やっぱり罪悪感みたいなものが生まれていた。
そんな複雑な思いを抱いている中でも、ウサ太は騒ぎ続けている。
木々の間を駆け抜け、底知れぬ体力で走っていた。
「きゅーっ! きゅーっ! ……きゅ?」
しかし、何やら異変を感じたみたいで、急に立ち止まってしまう。
不審に思った俺たちは、恐る恐るウサ太の方に近づいて、警戒しながら進むことにした。




