第126話:王都アルメリート
馬車の周りを歩きながら、順調に旅が進むこと約一週間。
無事に王都にたどり着くと、俺はカルミアの街の倍以上はありそうな規模の大きさに圧倒されていた。
「賑やかな街だな……!」
多くの人々が行き交う大通りは、道幅が広く設計されていて、馬車が余裕で対向できるようになっている。
繁盛している店も多いみたいで、商売に対する意気込みが違い、展示されている商品の質が高い印象を受けた。
銀だけで作られた重そうな槍だったり、黒光りしている鎧だったり、宝石が散りばめられたネックレスだったり。
街に住む人々や商人だけではなく、強そうな冒険者たちが言葉を交わしていて、活気づいている。
この光景を見たアーリィとクレアも胸を高鳴らせていた。
「王都に相応しい街並みね! これだけ大きいのも珍しいと思うわ」
「ほんとだね! 今まで見た街の中で、いっちばん大きいよっ!」
各地を旅してきた彼女たちが浮かれている姿を見れば、リーフレリア王国が繁栄している国であることはよくわかる。
街を警備している騎士たちも目を光らせているため、治安が悪そうにも見えなかった。
そんな王都を歩き進めて、ルクレリア家の屋敷に向かっていると、俺は自然と住民たちの視線を集めてしまう。
「おおっ……珍しいな。ホーンラビットの剥製か?」
「そんなことないわよ。ぬいぐるみでしょう?」
「えっ、可愛い。ママ、あれ買って~」
当たり前の話だが、街に魔物が侵入しないように防壁が設置されている。
そのため、街中で魔物を見る機会なんてないし、本物だと思われることはなかった。
「大胆な作戦だと思って不安だったが、意外にこれが正解だったのかもしれないな」
王都に入る際は、ルクレリア公爵が門番の方に口添えしてくれたこともあり、無事に通過することができている。
変な騒ぎさえ起こさなければ、このままぬいぐるみ作戦でうまく乗り切れそうな気がした。
油断は禁物だが、王都で羽を伸ばすこともできるとわかり、俺はホッとしている。
一方、すでに気を緩めているクレアは、嬉しそうに露店に向かって走っていった。
「わあー! ねえ、アーリィ。見てみて、サングラスが売ってるよ!」
「ちょっと、クレア! まだ護衛依頼は終わっていないわ。買い物は後にしなさい」
「は~い」
「後、先に一人で行こうとしないこと。私が迷子になるでしょ」
どっちが大人なのか子供なのかわからないな……と思いながら歩き進めていると、王都にあるルクレリア家の屋敷に到着する。
カルミアの街の屋敷よりは小さいものの、メイドさんが庭で花を手入れするスペースがあるほどには、大きな屋敷だった。
馬車からルクレリア公爵が下りてくると、アルメリート会議の準備に忙しいのか、すぐに屋敷の中に入っていく。
一方、フィアナさんは俺たちの方に近づいてきた。
「こちらはリーフレリア王国の王都、アルメリートにあるルクレリア家の屋敷です。すでに客室を用意するように伝えてありますので、気軽に出入りしてください」
「ありがとうございます。ぬいぐるみの件もありますので、ご厚意に預かろうと思います」
ウサ太のことだぞ、という意味を込めて、頭を軽く押してみる。
「きゅ~」
練習の成果もあって、うまく鳴くことができた。
フィアナさんがクスクスと笑ってくれているので、なかなかいい感じなのかもしれない。
「ちなみに、ルクレリア公爵が言っていた会議はいつ頃になるんですか?」
「トオル様も参加するアルメリート会議は、ちょうど一週間後になりますね。ただ、基本的に伯爵家以上の貴族しか参加が許されておりませんので、その際は言葉遣いなどにお気をつけください」
「……ここにきて、恐ろしい新情報が出ましたね。フィアナさんもご存知の通り、俺は平民なんですが」
「事前に王族の許可をいただきますし、今回はルクレリア家が後ろ盾につきますので、問題ないと認識しています。……それでも、かろうじて許させるようなものだと思いますが」
でしょうね。仮に国王陛下の許可が下りたとしても、周りの貴族たちから白い目で見られると思いますよ。
俺はそんな重要な会議で目立つ予定だったのか……と頭を抱えていると、ロベルトさんがやってくる。
「ちなみにですが、会場内の警備を担当する騎士も貴族だけで構成いたします。私も初めて参加させていただく予定ですので、トオルさんとは似たような境遇になりますな」
「何をおっしゃっているんですか。ロベルトさんは男爵位を持っているじゃないですか」
「いえいえ。身分の高い貴族の方たちの中には、私のような平民だった者を同じ貴族と認めない方もいらっしゃいます。つまり、私の立場はトオルさんとあまり変わりませんよ。はっはっは」
俺の気持ちを落ち着かせようとしてくれていると思うんだが……、かえって不安になるような内容である。
以前、男爵位を得てからの方が苦労した、と口にしていたことと何か関係があるんだろうか。
さすがにルクレリア家の屋敷前で立ち入った話をするつもりはないが。
「波乱に満ちた会議にならないことを願うばかりですね」
「何をおっしゃっているのやら。ルクレリア家は、国の方針を翻そうとしているのですぞ? 我々は波乱を起こす側の立場ですよ」
「そう言われると返す言葉が見つかりません。自暴自棄になるわけにはいきませんが、この際、羽目を外すくらいがちょうどいいのかもしれませんね」
「トオルさんの対応も重要なものになると思われます。会議で何が起ころうとも、動じない覚悟は決めておくべきですな」
ロベルトさんの言葉を聞いて、俺は改めて重要な会議に参加することを自覚した。
一方、護衛依頼を終えたアーリィは、フィアナさんにサインをもらっている。
「旅の荷物はメイドたちが預かりますので、先に冒険者ギルドに依頼報告を済ませてはいかがでしょうか」
「ありがとう、そうさせてもらうわ。私とクレアは王都で用事がないから、ついでに何か依頼でも受けてこようかしら」
「仕事熱心なのは、いいことだと思います。しかし、まだ長旅を終えたばかりです。日帰りでできる簡単な依頼に済ませた方が無難な気がしますね」
「そうね。クレアも魔法使いになったばかりだから、無理しないようにするわ」
そう言って冒険者ギルドに向かおうとするアーリィを、俺は必死の形相で引き留める。
「待ってくれ。近場の依頼を受けるのであれば、俺も同行させてくれないか?」
「別にいいけど……。トオルは会議の準備をしなくてもいいの?」
「それも大事なことだと思う。ただ、我慢できそうにないやつがいるんだよ」
みんなの視線が一点に集中しているので、もはや誰のことか言わなくてもわかるだろう。
「きゅ……きゅ……」
俺の腕の中でウズウズしているウサ太が我慢できそうにないのは、一目瞭然なのであった。




