第125話:王都までの旅路Ⅶ
夜ごはんを食べ終えた後、俺たちは明日に向けて休むことになった。
今回の旅では、アーリィとクレアが護衛依頼を受けたこともあり、二人が見張りをしてくれている。
俺はゲスト的な立ち位置であり、依頼を受けた冒険者でもなければ、見張りをした経験もない。
ルクレリア家という貴族がいることもあって、見張りを免除された。
ただ、このまま王都まで二人で見張りをさせるのは気が引けるなーと思っていると、ロベルトさんが手を差し伸べてくれる。
「貴重なものもいただいておりますし、途中で見張りを交代しましょう。なんといっても、老いぼれの朝は早いですからな」
トレントの果実をもらっている礼として、見張りを承ってくれるらしい。
男爵位を得ているとはいえ、もともと平民ということもあってか、なかなか義理堅い方だった。
***
そんなこんなでアーリィとクレアに見張りを任せると、それぞれで休息を取ることになった。
ルクレリア家の二人はテントの中に入り、俺とロベルトさんは寝袋で休む。
あまり寝心地がいいとは言えないが、見晴らしの良い場所で満天の星空を見ながら寝るのは悪くなかった。
気候が穏やかな地域ということもあり、寒暖差で悩むこともない。
開放的な雰囲気をたっぷりと満喫することができて、清々しい気分だ。
ただ、こんな光景に感慨深い思いを抱いているのは、俺だけであって――。
「zzz」
早くロベルトさんは就寝している。
老いぼれの朝は早いと豪語していたが、寝るのも早いのであった。
一方、俺は異世界らしい出来事が続いていることに興奮しているみたいで、逆に目が冴えてくる。
このまま横になっていても眠れそうにないので、寝袋から抜け出して、見張り役のアーリィとクレアの方に向かった。
すると、焚火の前で周囲を警戒しながら、奇妙な行動を取っていることに気づく。
軍隊蜂の入った瓶の蓋を開けた状態で手に持ったクレアは、難しい顔をしたまま、ジーッとそれを見つめていた。
とても集中している様子なので、俺は彼女の邪魔をしないように、アーリィの隣に腰を下ろす。
「何してるんだ?」
「ああ、ごめん。起こしちゃった?」
「いや、眠れなくて起きてきただけだ」
そんなことを小声で話している間も、クレアは軍隊蜂の蜂蜜を見つめ続けている。
「むむむっ……」
どうやら俺が来たことにも気づいていないみたいで、手元に集中したままだった。
そんな頑張る彼女のことを、アーリィは微笑ましく見守っている。
「今日、グレートウルフの戦いで暴走しかけてたでしょ? だから、魔法を制御する練習がやりたいんだって」
「気持ちはわからなくもないが……。軍隊蜂の蜂蜜で練習できるものなのか?」
「私も詳しいことはわからないわ。でも、軍隊蜂の蜂蜜に含まれる魔力に干渉して、魔力操作だけで水分を取り除くことができれば、水魔法を制御する力が身につくんじゃないかって思ったの」
どうやらアーリィの考えた練習法みたいだが、意外に良い方法なのかもしれない。
クレアの手元には、軍隊蜂の蜂蜜から取り出したであろう水が垂れているだけでなく、軍隊蜂の蜂蜜も粘度が増しているようにも見えた。
このまま水分を取り除くことができれば、あるものが完成するだろう。
「これでハニードロップが作れるようになるのか」
「たぶんね。トオルのスキルを見てた限りだと、ハニードロップを作るには、水分を蒸発させたり乾燥させたりする工程はなかったわ。魔力を用いて水分を抜いてるように見えたから、クレアにもできるんじゃないかって思ったの」
「なるほどな。俺もスキル任せで知らなかったが、そういう原理で作られていたとは知らなかったよ……」
「私がそう考えているだけだから、最後までやってみないとわからないわ。固まらずに粉末化する可能性だってあるもの」
「それはそれで便利そうだな。お菓子や料理の材料に使えそうだ」
「原価を考えなかったら、ありかもしれないわね。たぶん、砂糖よりも高価な素材になるわよ」
それを言われると言い返す言葉が見つからないな……と考えている間も、クレアはずっと魔力制御の練習に集中していた。
今までクレアと一緒に過ごしているが、ここまで集中している姿は見たことがない。
戦闘でうまくいかなかったことを反省していたとしても、焚火の炎に負けないくらいに情熱を燃やすのは、さすがに異様な光景だった。
「……ちなみに、ハニードロップが作れたら、どうするつもりなんだ?」
「クレアのご褒美になる予定よ」
「どうりで頑張っているはずだな。ご褒美目当てか」
「子供って、そういうもんよ」
理由はどうあれ、クレアが率先して魔法の練習をすることが嬉しいのか、相変わらずアーリィは微笑ましい表情を浮かべている。
「むむっ……」
俺も子供の頃はこんな甘い誘惑に負けていたんだろうなーと思いながら、クレアが頑張る姿を見守るのであった。




