第124話:王都までの旅路Ⅵ
再び王都に向かって歩き進めていくと、夕暮れ時になったことで、本日の旅は終わりを告げる。
見晴らしの良い場所で馬車を停めて、それぞれ役割分担をして、野営の準備を進めることになった。
ルクレリア親子とロベルトさんでテントを張り、アーリィとクレアで食材を調達して、俺とウサ太で焚火に必要な素材を集める。
今回は異世界に訪れた頃のような無謀なサバイバルではなく、本格的な野営になることもあり、キャンプみたいな雰囲気に近かった。
そんなことに懐かしさを覚えながら作業していると、あっという間に時間は流れて、夜がやってくる。
月明かりと焚火に照らされる中、アーリィがスープを作り終えると、ようやく夜ごはんにありつけることができた。
「うん。これでバッチリね」
前回の軍隊蜂の縄張り調査の時は、アーリィがキノコスープを作ってくれたが、今回はまた違うものだ。
仕留めてきたばかりのウィンドバードと呼ばれる鳥の魔物と、ほうれん草のような野草を使ったシンプルなスープを作ってくれた。
すでに鶏ガラの良い香りが漂っているので、期待させてもらうとしよう。
「私は器にスープを盛りつけていくから、トオルはパンを配ってもらってもいい?」
「ああ、わかった。初日から飛ばしすぎなような気もするが、アレも出すとするか」
「いいと思うわ。焼いてきたパンが食べられるうちに使うべきね」
アーリィからの後押しもあり、俺はマジックバッグの中からあるものを取り出した。
「ジャムパンなんて、久しぶりだな」
拠点で焼いてきた甘みのあるミルクパンと、トレントの果実を使ったリンゴのジャムを合わせただけのもの。
日本の感覚だと、単調な料理のように思うが……。
異世界ではジャムが珍しく、露店やパン屋で販売されているところは見たことがない。
スキルで自作して、ようやく食べられることを考えると、感慨深い思いで胸がいっぱいだった。
それを失礼がないようにルクレリア公爵から順番に配っていくと、苦笑いを浮かべられてしまう。
「トオルくんがいると、王都までの道のりも優雅な旅に変わるものだな。接待を受けているのかと、勘違いしてしまいそうだよ」
「そう思っていただけて、何よりです。これで心置きなく、王都でもウサ太のことをお願いできますから」
「はっはっは、今さらだな。トオルくんと良好な関係を築く方が、ルクレリア家にとっても、リーフレリア王国にとっても利益が大きい。多少のことは目をつむるよ」
アーリィがスープを器をよそい、慎重に配る中、ルクレリア家の面々は早くもジャムパンを口にしている。
「しっかりと果肉の食感と甘みがあり、パンとの相性もいい。砂糖を使っていても、リンゴの酸味がちゃんと味を引き締めてくれているな」
「そうですね。王都のカフェでいただいたことがあるリンゴのパンケーキと雰囲気が似ているような気がします」
「いやはや、これはなかなか面白い食感ですな。普通のジャムとは違い、トレントの果実で作られたものは、しっかりと果物を食べているような食感がありますぞ」
まさかたった一つのジャムで、これほど貴族の舌を唸らせるとは……。
おいしい果物だと認識していたが、トレントの果実の潜在能力の高さに驚きを隠せなかった。
ルクレリア家が新商品の試食会のような雰囲気を放つ一方、クレアとウサ太は純粋に食事を楽しんでいる。
「ジャ~ムパンッ♪ ジャ~ムパンッ♪」
「きゅ~っ♪ きゅ~っ♪」
「んん~っ! おいしい~!」
「きゅ~んっ!」
平和って、いいよな。俺はこっちの緩い雰囲気に混ざって食事したいよ。
そんなことを考えながら、アーリィからスープを受け取った俺は、それを口にした。
鶏ガラと岩塩を組み合わせたスープは、シンプルながらも深い味わいをもたらしてくれる。
弾力のある鶏肉からもしっかりと旨味を感じるし、野草もやっぱりほうれん草だったみたいで、優しさを引き立ててくれるような味わいだった。
「この短時間の間で、よくこれだけおいしい出汁が取れたな」
「ウィンドバードは、煮込み料理やスープに向いている食材なの。焚火の火力が強い分、出汁も取りやすかったわ」
あたかも簡単に作れたような物言いだが、それを口にしたアーリィはご満悦の様子だ。
満面の笑みをこぼしながら、相変わらずおいしそうに食べ進めている。
「むふふふっ」
そんなアーリィが自分の世界に浸り始める頃、本人の知らないところで評価が上がっていた。
「調理のできる冒険者が護衛依頼を受けてくれるのは、嬉しい誤算だな」
「長距離移動の苦痛が和らぎますし、非常時でも頼りになりますからね」
「アーリィさんは、戦闘にも長けていますぞ。あの若さで玄人のように落ち着いて戦われますからな」
今後はアーリィも忙しくなりそうだなーと思いながら、俺はジャムパンを口にする。
「うおっ……! トレントの果実を凝縮したみたいで、味わい深いな。これはミルクパンにして正解だったわ」
しっかりと準備してきただけあって、旅の食事に大満足するのであった。




