第123話:王都までの旅路Ⅴ
ぬいぐるみ役に徹していたはずのウサ太が何か反応してから、しばらくすると、二体の大きなウルフが姿を現した。
山で見かけるウルフとは模様が違うので、異なった種類なのかもしれない。
スピードは遅く感じるものの、牙や爪が大きいだけでなく、鋭い印象だった。
それらの存在に気づいたロベルトさんは、片手で自身の髭を触りながら、ウルフの様子をうかがっている。
「やはり現れましたか。先ほどすれ違ったパーティは、随分とゆっくり過ごしていたようですね」
冒険者たちの風貌や焚火の跡から判断したのか、魔物に襲われることを考慮して、休憩を取っていたみたいだ。
国から男爵位を授かるほどの現役騎士なだけあって、さすがに抜かりがない。
「初めて見るタイプのウルフなんですけど、このあたりではああいうのが一般的なんですか?」
「いえ、あれはグレートウルフの成体ですので、多くは存在しないはずです。鉄の剣や鎧をかみ砕くほど強力な牙と顎を持っていますから、油断できない相手になりますな」
そんな凶暴なウルフが出てくるなんて、運がない……と言いたいところだが、俺にはあまり関係ないことかもしれない。
依頼を受けたアーリィがやる気に満ちていて、早くも剣を抜いていた。
「ロベルトさんは、馬車の護衛をお願い。私とクレアで迎撃するわ」
「ええ、任されましたよ。私の出番があるとは思いませんが」
「その期待に応えられるように頑張らないとね。クレアも大丈夫そう?」
「……うんっ!」
凛々しい表情を浮かべたクレアは、今朝の緊張していた姿が嘘のように落ち着いていた。
たとえ、獰猛なウルフが荒々しい声を上げてこようとも、勢いよく走ってこようとも、動じる様子は見られない。
軍隊蜂との練習で見せた時と同じように、ウルフに向かって杖をかざす。
「ストーンバレットッ!」
クレアが土魔法を唱えると、小さな石の塊が二体のウルフの方に飛んでいく。
ウルフたちは軽快なステップで土魔法を避けるものの、スピードは失速する一方で、あまり脅威は感じられない。
クレアが次々に石魔法を唱えるため、互いにうまく連携を取ることもできず、いつしか二体のウルフは離れ離れになっていった。
「むむむっ……ストーンバレットッ!」
そんな中、ひときわ大きな石の塊を作り出したクレアが、一体のウルフに向けて魔法を放つが――。
ガブッ
「えええっ!? 食べられちゃったー!」
強靭な顎と牙を活かして、クレアの石魔法は嚙み砕かれてしまう。
動揺したクレアがアタフタするが……、彼女だけで魔物を討伐することを想定していないので、心配する必要はない。
「キャヒンッ」
土魔法に集中していたウルフの隙をつき、アーリィが剣を振り抜き、討伐していた。
「初めてにしては上出来ね。ちゃんと敵の注意を引きつけられていたわ」
「よ、よかったー……」
「でも、戦闘中は油断しないことよ。まだそっちにウルフがいるわ」
「……へっ?」
初めての戦闘で周囲が見えていないクレアは、もう一体のウルフが近づいていることに気づいていなかった。
「えっ? えええ! えええええー!!」
「ガルルルルッ」
勢いよく襲い掛かってくるウルフに対して、慌てふためくことしかできないが……。
ここは僅かに戦闘経験がある先輩として、俺が力を貸してやるとしよう。
「まあ、いったん落ち着け。それだけ取り乱していたら、魔法をうまく発動させられなくなるぞ」
ドンッ
ウサ太の硬化スキルで壁を作ると、飛びかかってきたウルフがそこにぶつかった。
まるで、透明なガラスに顔を押しつけたような状態になり、今度はウルフの方が取り乱し始める。
「ガルル!? ウウウッ!
「ヒィイイイ! 怖い……くないもんっ!」
何とか心を落ち着かせたクレアが、再び土魔法を作り出したところを見て、俺はスキルを解除した。
「ストーンバレット! ストーンバレットッ! ストーンバレット~ッ!」
数を打てば当たる……というのは、まさにこのことか。
取り乱して動きがぎこちなくなったウルフと、ヤケを起こして魔法を連発するクレアの勝負では、さすがに後者に軍配が上がる。
土魔法が一度命中すると、次から次へと石の塊が襲い掛かり、ウルフの墓を作るかのように小さな山ができていた。
「ストーンバレット! ストーンバレット!」
しかし、本人はまだ戦いが終わったと気づいていない。
これには、さすがにアーリィが止めに入っている。
「コラッ、自暴自棄にならないの」
「ほえ? ……あれ? さっきのウルフは?」
「もう魔法で倒してるわよ」
「えっ……! や、やったー!!」
「はぁ~、素直に喜んでもいいのかしら。でも、まあ今後の課題が見えてきたわね」
何ともぎこちないクレアの初戦闘が終わると、ロベルトさんが近づいてくる。
「クレアさんが魔法で引きつけたことで、アーリィさんに危険が及ぶことなく、討伐することができていました。一体目は、とても素晴らしい連携でしたよ」
「わーいっ!」
「しかしながら、二体目のウルフに関しては、危険な場面もありましたね。そちらは素直に反省して、次はもう少し落ち着く努力をしましょう」
「はーい」
戦闘に対する評価をするロベルトさんの姿を見て、普段はこういう形で騎士に指導しているんだなーと、俺は察したのであった。




