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金魚戦記  作者: 悠布
3章 南橘北枳
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86話 計画は大事

 行けと指示された場所に向かい、スタンバイする。

 

 ここは街の西部中央付近だ。当初の計画通り、最後の「激・甘い物ランナー」が控える位置だな。

 四方八方より集ってくるであろう「薄甘ランナー」が引き連れたワスプを統合し、西の広場へと導く役割を、まさか俺が押し付けられることになろうとは...


 周りは、屈強な市民や冒険者が固めてくれている。

 俺のラッキー体質(?)があっても、御馳走を持っての移動だから、当然油断はしないのだ。

 オライが何かしてくれるらしいし、もう、成りきろう。


 魔法戦士風の魔族が、俺の緊張を解くように軽く話しかけてくる。


「街の騒動に巻き込まれるなんて災難だったな。これで暫くは、運の良いことが続くんじゃないか?」

「だと助かりますねぇ。気配を消す術を、もっと…あ、いや、身に着けようと思います」

「ははっ! 正直でいいね」


 ややして、エサが届いた。

 大きな平たいボウルに載ったハチミツ? を包んだ、今にも破れそうな空気の膜を必死に保っている魔族がヨタヨタと近寄ってくる。


「はぁ、はぁ...なんとか、()たせた…」


 その様子を見た、魔法が得意な者達が急いで補強して、空気ボールは安定した。


「こんな不均一な膜で、よく割れなかったね。他に誰か居なかったの?」

「……まぁ。(居たけど、ダメだったんだ…)」


 ――お疲れ様です。



 こちらはまだ落ち着いているが、時間的にそろそろ、端の方では鬼ごっこが始まっているはずだ。

 魔力を点で表した立体地図で状況確認をしたいところだが、念の為、今はやめておこう。



       ◆



 その頃、ベニッピーの予想通り、東では追い込み作戦が始まっていた。

 

 刺激臭と甘い匂いを上手く使い、予定通り(・・・・)のルートを通って順調にワスプを誘導できている。

 そして使われない細い路地には、短距離間で点々と非・戦闘員の市民が待機し、バケツリレーのようにリアルタイムの情報伝達を行っている。住民の8割は、この役目であった。

 ――トニー達のいる最西部にまで続く、文字通りの「情報網」である。



「...しかし、凄いものですな。地図を見ただけですぐに、最適なルートと人員の配置場所を見極めるとは」


 誰かにそう褒められ、ガルトニクスは微笑んだ。


「こういうのだけは、得意なだけ」



 ―――嘘である。

 

 むしろパズルゲームのような緻密な計算は、直感型の彼の苦手とするところだ。

 「事前のゴア地図の入手」+「ロルカの街での、一般市民の動きシミュレーション」+「旅人のフリをして紛れ込んだ協力者たちの密かなフォロー」+「ドラネコの、妨害に見せかけた地味なフォロー」があってこそ、初回でここまで予定通りに成功させているだけだ。

 

 何か予想外の動きがあって、頼りにされたトニーが一人で決断を下さなくても済むように、検討と検証を重ねた結果の完璧なお膳立てであった。


 ゆえに、


(ベニッピー…と、オライもか。彼らの行動と発想は、たまに想像の斜め上を行くからなぁ。

 二人が大人しく落ち着くまで、ヒヤヒヤする...)


 のは決して顔に出さず、飄々・余裕綽綽な王者の風格を漂わせるのだけは大得意なガル。

 彼につられて、周囲にも同じような余裕のある空気が流れていた。


 時々、送られてくる情報を聞き、その都度簡単な修正案を送り返す。

 ワスプの集団数は減り、代わりにその規模は着々と大きくなり、西に近づいていた。


「狩るチームは?」

「準備完了してます!」

「後、難しいのは、最後にオトリとして誘導する者達が無事に上手くやれるかどうかだけですな」


 と発言した者も、まぁ上手くいくだろう...と高をくくっていた。

 ――ある報告が(もたら)されるまでは。 


 

 現在、彼らがいるのは屋外のスペースだ。

 だからなんとなく、緊張した空気が徐々に近づいてきているのは察知できていた。もっともそれは、作戦が上手くいっている証でもあったのだが。

 

「...報告っ! 最後のエサ持ち係が……」


 転がるようにやってきた報告係の言葉に、全員が注聴する。



「―――突如現れた、巨大な鳥の魔物に連れ去られました!

 現在、ここより少し東の市街地にて、集結した花狂蜂(フラワーワスプ)との戦闘が行われています!」


 トニーは顔色を変えずに頷いた。


「了解。用意していた狩り班を、直ちに向かわせて。

 …鳥の魔物が気になるな。――レイラ、そっちは任せてもいいかな?」

「...わかったある!」



       ◇



 そわそわと待機していたら、3ヶ所からここへ向かってくるワスプ集団の気配を感じた。

 直後、報告もやって来る。


「来るぞ! 匂いを解放しろ!」

「はっ、はいぃ!」


 余裕を取り戻してのんびりしていた空気膜係さんが、ビクッとして魔法を解いた。

 同時に立ち昇る、ムッとする甘い香り。

 

「すごい匂いだな…」

「これ作った人たちも大変だったでしょうね…」


 彼らが半分呆れながらも皿を俺に渡してきたので、受け取る。


 ――あれ?

 この特性ハチミツ、サトリの魔力が入っているぞ。

 しかも高度に凝縮された魔力残滓が、そのまま…溶け込んでいるのか?


 何かのおまじないだろうか。


 ちょっと首を捻りながらも、皿の下にくっついている取手の棒を持って、傘のように頭上に差す。


「ジン君、大丈夫?」

「はい。重いですけど、なんとか」

「風の魔法で、移動速度の補助をする。追いつかれる事は無いはずだ」

「よろしくお願いします」


 そう答えた時、ここを目指して進んでくるハチたちの速度が上がった。

 到達した甘い香りを嗅ぎつけたのだろう。今までの倍くらいのスピードで飛んでいるようだ。


 ...倍?

 そんな事ある?


 周囲の者達は、当然だがまだ気付いていない。

 本来なら、遠くの曲がり角からハチ集団が姿を現してからのこちらの対応で間に合う距離なのだが、これじゃあ――……



 空気を震わせる大きな羽音が届くのとほぼ同じ(・・・・)で、三方向からワスプが出現した。

 彼らは目の色を変え、一直線にこちらを目掛けて突き進んでくる。

 やはり予想外のスピードアップだったのだろうか、ワスプの背後から慌てた人々が追って来ようとしているのが見えた。

 

 俺の近くの人たちも驚いたように一瞬固まったが、すぐに動いた。

 さすがに、この場にいるからには対応力が高い。


「行くぞ! 予定より…約二倍に速度を上乗せしろ!」

「ジン君、落ち着いてお皿を持っててね! なんかワスプの様子がおかしいけど…戦闘になっても、こっちに任せて!」

「はい...」


 ハチが視界に入ったことで、異常な興奮の理由がわかった。


 サトリの魔力だ。

 こいつら、香りだけじゃなく、はちみつの中の魔力に惹かれている。


 そもそも魔物は、魔力が大好きな連中が多い。

 故に魔力たっぷりの生き物は狙われやすいのだが、同時にその本人が強いと、注目はされるが警戒もされ、あまり寄ってこなかったりする。

 だから実は俺も、知能が低い魔物くらいしか碌に鉢合わせたことが無い。


 御馳走の匂いに連れられて本性全開にしたら御馳走が消失し、行き場のない興奮を持て余したところに超良い香り+超高級(強そう)な魔力(しかも本人は傍に居ない)が出現したら、いくら変な俺が近くにいても焼け石に水ってところかな?



「なんか僕の存在、必要なかったような気もしますけど…」


 普通に走っているだけなのに凄い速度で進みながら問いかける。


「そんなこと無さそうだぞ! ほら、迫ってくるにつれ混乱しているようだ!」


 いやまぁ、確かに軽くパ二クってるがな。戦闘力も上がっている気がする。

 そういえば、魔物の強さにも等級(ランク)があって、確か花狂蜂(フラワーワスプ)(本性)はCランクとかだったかな。Cがどの程度なのか、説明されてもいまいちピンとこなかったけど...


 追いついてきたワスプを、皆が集団を怒らせない程度に上手く斬り伏せ、魔法で足止めしている。

 大体1~2撃であしらっているから、丁度いい強さのセレクトだったようだ。


 といっても今は敵の数が数なので、周りの全員がフルで動いている状況だ。

 俺も片手で、物理的にチャクラムをほいほい飛ばしながら地味に援護する。はちみつの傘差して円盤を飛ばすなど、端から見れば大道芸人の絵面である。誰か記念に写真でも撮ってくれないかな。


 ――と、内心アホなことを考えていたが、周囲を警戒していなかったわけではない。

 だから上空から、鳥の魔物が俺目掛けて迫ってきているのもちゃんと認識していた。

 ついでに、服を替えたイズナが戦闘員に紛れて接近しているのも。


 但し、お皿で上が見えないジンは当然気づくはずもないし、手が塞がっている周囲の者達が気付いた頃には手遅れである。

 



 地面すれすれにまで直滑降で降りてきた、巨大な鳥型の魔物にジンが掴まれた。

 しかし彼は咄嗟の判断で、大事なお皿だけは道連れにせず、たまたま傍にいた青年に投げ渡した。

 上空へと急速に連れ去られながら、彼は手を振る。


「後は頼みまーす……」

「うわーー! ジンくーん!」

「尊い犠牲が出ましたが、この通り甘いエサは無事っすよ。さ、続け――」

「なんだお前は、どっから現れた! この人でなし!」


 口は災いの門である。



       ◇



 鳥の足に吊られながら街を眺めて飛んでいると、レイラがやってきた。

 彼女は笑いながら、鳥の上に話しかける。


「よくやったある、オライ!」

「大変でしたよもう。ワスプと同じ花を好む、この「巨大鷹(ヒュージコンドル)」を捕まえてくるのは。

 また北メリアまで行ってきたんですからね」

「さんきゅー! ナイスフォローだぜ!」

「でもワタシがジンを連れ戻せないのも、それはそれで...

 まあ、いいある」


 一応、それっぽく見えるようにレイラがコンドルに攻撃をしているが、上のオライが守っているので通用しない、ということにするようだ。

 

 街から見えないくらいに遠ざかったところで、鳥の足から抜け出して俺も並飛行する。

 コンドルの背を見ると、オライが手綱をかけて乗っていた。

 前にもグリフォンかなんかを操っていたし、鳥調教が得意なのかな?


 レイラがジト目で見てくる。


「ベニッピー。もう、大人しくジッとしているあるよ…?」

「何もしてないんだけどな...」


「あれだけ目立ったら、もう「冒険者のジン」は使えないのでは?」

「助けてもらってアレだけど、目立たせてくれたのはお前だぞ…」


 まぁ…場所を変えれば使えるだろ。運良く生還したってことにしてもいいし。


 しかしサトリには助けられたな。

 周囲に余裕が無かったから、スムーズに退避作戦が成功したと言ってもいい。まさか予知能力まで獲得したんじゃないだろうな。



「――じゃ、そろそろ戻るか。すまんなレイラ、残念ながら俺はどこかの谷に落下してしまったようだ」

「わかったね。コンドルは倒して仇をとったから良しとするある」

「では、その哀れなコンドルの魂は故郷に帰ったということで」


 頷きあい、3人それぞれの行き先に同時に転移した。

声では正体が見破られない方式(システム)でいきます。

確かゼロ(コードギアス)も、結局最後までバレなかったし...

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