表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金魚戦記  作者: 悠布
3章 南橘北枳
85/92

83話 万事順調()

 レイラとミリハが地上に降りると、ギルドの建物内に案内されつつあったトニーが「おや?」と軽く目を見張って呟いた。


「ゴアの街は、特に観光地などではなかったように思うけど...意外と魔族以外の人もいるんだね」

「ああ、そりゃ今が非常事態だからだな。あんたもこの大陸で旅してるからには、ジャスとサリーの事くらいは耳にしているだろう?」


 ギルバートの言葉に、頷く。


「まさか、この街の騒ぎは…」

「ちなみに、さっきの子供二人が本人達だよ」

「えっ」


 驚いて足を止めてしまった彼だが、周りの者に「ほれほれ、早く」と、せっつかれ、動き出した。


 その後から続きながら、レイラが話しかける。


「上から見てたある。ハチへの的確な対処法を知ってるあるね?」

「まぁ。...意外と、一般的には知られていないみたいだね」

「動物と違って魔物の生態は、物好きしか詳しくないのが普通ある」


 ミリハが、奥の部屋の扉をバァン! と開けた。


「今のところ右往左往するしかすることが無い軍人さんたち。いいから黙って、この人に従え」


 部屋の中でドタバタと、花狂蜂(フラワーワスプ)の情報を調べようとしたり住民の避難経路の確保に動こうとしていた警察と軍の現場指揮官たちは、その物言いに、顔を真っ赤に(ゆだ)らせていく。


「なんだとぉ!?」

「誰だ、そいつは!?」


 もっともな質問に、トニーを連れてきた彼らも顔を見合わせる。


「……そういや、誰だろうな。冒険者…じゃないな。旅人?」

「お兄さん名前は?」

「あ、トニーです」


「「だから、(なん)なんだ!?」」



 ――ややして、ギャーギャーと騒ぎながらも。

 なんとかその場の指揮を、飛び込みのトニーが担う事が認められた。




「...で、我々はどうすればいいのだ」


 憮然とした表情を残しながらも、時間を無駄にしないよう素早く動こうとする警察に、トニーも応える。


「まずはワスプを刺激しないようにと、市民に伝えて回ること。次いで、匂いを外に漏らさないように室内で、甘い香りと刺激臭を放つ食べ物か何かを、二種類用意させること。

 甘い香りは花の代用になってワスプの関心を惹き、逆に刺激臭からは逃げる。だから用意ができたら市民全員に配って、上手く建物と匂いを使って一か所に追い込んで集中砲火で片付ければいい」


 一気に告げられた内容に、軍人が目を剥く。


「…無茶な。そんな悠長なことをしている暇など無い、それに訓練を受けたこともない民間人を都合よく動かせる訳がない!」


 一理あるのだが、レイラが挑発する。


「ナイナイうるさいある。文句があるなら代替案を述べるね」

「...各個撃破で問題なかろう!」

「ダメだな。それじゃー奴らの機嫌を損なうぜ」


 ギルバートの「奴ら」という言葉に、一瞬何のことを言われているのかわからなくなる。


「いいか、アイツらは常に、こっちを莫迦にしたように遊んでくる。癪に障るが、言い分に従っているように見せかけさえすれば、逆に付け入るチャンスにもなり得るんだ。

 今回のように向こうがあまり姿を見せない場合、少なくとも今から本命を捕らえるのは不可能だろう。ならば何を(もっ)てゴア戦の終結とするか」


「...」

「街中で興奮している全ハチの駆除、それを人的被害をできるだけ無く、だ。その被害を出すのが、ハチだけだと思うなよって事だ。

 ――なぁ、まだ名前も知らねぇが、そこで黙って見ている魔族さんよ。さっきジャスたちを追うと言って飛び出した言った女の方の首尾はどうなってるんだ?」


 彼に水を向けられて、腕を組んで立っていた男は表情を変えずに口だけ動かす。


「戻ってこんな。……シソは短時間戦闘だ。あまり思わしくない事になってるのかもしれん」

「...だそうだ。なら、もしかしたら今にも――」



 その時、部屋の外からキリッと張った声がかかった。


「――失礼します、所属略より報告します!

 黒服の迷惑な集団の一人を捕らえました!」


 所属は略されてしまったが、軍か警察の者だろう。

 指揮官たちは頷きあい、片方が、連れてくるようにと言った。

 


 すぐに扉が開き、警察の一人が、縄でグルグル巻きにしたドラネコの一人を引っ立てて入ってくる。


「この建物の外で、中の様子を窺おうとしていました!」

「わかった。その者はここに置いていけ」

「はっ!」


 警官が敬礼して去っていく。

 そして、サングラスを掛けて口元を赤いスカーフで覆ったやや小柄な人物が一人、その場に残された。


 彼?は拘束などに構わず、警官が見えなくなった瞬間に逃げ出そうとしたが、自然な動作でその場の誰よりも素早く動いていたトニーに襟首を掴まれて、ヒョイと持ち上げられていた。

 身を捻ってバタバタしようとしたようだが、この部屋に強そうな者が多い事に気付いたのか、すぐに大人しくなる。


「てっ――てて手荒な事はすんなよ!? サリー様呼んじゃうぞ!?」

「へぇ...君たちは結構人数が多いようだけれど、一人一人がサリーとジャスを呼び出せるの?」

「あっ、無し無し今のナシ! 冗談、呼べないですー!」


 凄く怪しげな言動である。

 

 たった一人でも敵を捕らえたという事実に驚いていたのだろうか、固まっていたギルバートが窺うように捕虜を覗き込む。


「...偵察、か、――まぁいい。

 おい、おまえらの親玉たちは今どこで何をしている?」

「知らね。まじで知らんよ?」

「…だろうな。

 ―――今はコイツに構っている場合じゃない、トニーの言うように、一刻も早く行動に移すぞ」


 彼と同じように、少しだけ動きを止めていたレイラとミリハも頷いて席を立った。


「待て、まだその案に決まったわけでは――」

「そこの()っこい捕虜。もしもハチに対してワタシたちが各個撃破に出た場合、ジャス達はどうするあるね?」


 レイラにいきなり問われ、まだ宙ぶらりんだった彼は首を捻った。


「あー…怒るんじゃないか?

 これは親切心から教えてやるが…隠し持ってる別の手段とかを出されたくなければ、今のうちに早く動いた方が良いと思うぞ」


「...お前、妙に詳しいし肝が据わっているな。見た目に反して上官か?」


 不審そうな警察が、トニーから彼の身柄を引き受けようとする。

 なぜか慌てたように彼はトニーを見上げたが、あっさりと引き渡された。


「はいどうぞ」

「わー! 下っ端も下っ端だぜ!?

 捕まえても意味ないよ、というか逃げるの得意だから多分逃げるけど文句言うなよ!?」


「――キミ。お返しに親切心から教えてやるあるが…あまり喋り過ぎない方がいいあるよ……」

「はっ、そうだった」


 かくして彼らは、滅茶苦茶怪しい小柄な黒服に見送られながら、建物を出ていった。



       ◇



 やべぇミスった、捕まっちゃったぜ。


 暇になったのでドラネコ隊員服に着替えて仲間たちの首尾でも窺おうかと画策していたら、「そこで何をしている!」「あっ別に怪しい者じゃ…」てな感じで、良い回避策も浮かばぬままに捕らえられました、間抜けなベニッピーことジャスですこんにちは。


 予定に無かった俺の出現に、仲間たちを混乱させてしまったかもしれない。

 レイラたちには多分、敢えて捕まったんじゃないかと思われていそうだが…ガルには見抜かれてるな。あー恥ずい。

 

 ――そうだ。本当に、偵察の為にわざと潜入したって事にすれば、後で笑われてネタにされることも無いんじゃないか? そうしよ。


「おい、きさまの名前と、ジャス・サリーについての知っている限りの情報を話せ。さもないと――…」

「サモンナイトでもアンモナイトでもいいから、ちょっと静かにしててくれ。今、早急に次案を考えてるんだ……」

「ふ、ふざけるな! 立場をわかって...」

「わかったよ…じゃあ名前はテオで...えーと、ジャス様は片眼鏡(モノクル)を掛けてるけど別に視力は悪くない、サリー様は地元が険しい自然の中なのに何故か都の貴族みたいにドレスが似合うんだよな...」


 何か起きたらインカムで知らせが入るだろうし、それまでは特に急いで脱出する必要も無いだろう。

 ヴィオラから渡された、消してほしい者リストにあった者たちのうち今回居たのはシソだけだった筈だ。だから最低限の仕事は済んでいるしな。

 

「そんなどうでもいい情報を...!

 ――いや待て、だからこそコイツはかなり…?」

「お前たちが敵の情報を得ようとするのは、現場の判断か? それとも上からの指示か?」


 質問すると、答えは無かったが思考が後者の時に頷いていた。やはりな。


「なぜそんなことを聞く…」

「そりゃー、上からの指示ですぜー」


 今、やっててわかったんだが、自分で情報収集をすると色々な手間が省けて楽なんだな。

 自らでなくとも、信の置けるものを相手の懐に入れておくと実に便利そうだ。ヴィオラも使っていた手だし、ヴォルカもやっている手法だな。つまりスパイなんだが、腰を据えて相手方からの信頼度を上げるとまた得られるものも上質そうである。


 こんな時――というか俺自身がジャスじゃなければ、こうやって各所に味方を配置していければこの上ないのだが、実力が無いと相当危険だものな。...だから強いスパイは重宝されるのか。



 一人で頷いていたら、いきなり魔法の電撃が飛んできた。

 

 …スタンガンってことか?

 気絶させるつもりなのかな。でも違ってたらどうしよう…


 これは下手に動けないぞと思い、実際に下手に動かなかったので、電撃は俺に何の功も奏さなかった。

 

「...」

「効かない、だと…っ!?」


 しまった。相手の頭の中も驚いているだけで、本来の効能が読めねぇ。

 もう少し、通常の反応を勉強してから出直さないと、俺が一番スパイに適していないかもしれない。そっちの方が恥ずかしい。本家(VIA)長官(ベルタ)に知られたら笑われてしまう。


 ―――早いとこ逃げよ。


 「ふふふふふ…我は四天王最弱のテオ。特技は絶対防御。では…さらばだ!」とかやりたかったが、無駄に喋りまくって正体がバレたレイラ先輩に有難く釘を刺されていたので...


 黙ってドロン(転移)した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ