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金魚戦記  作者: 悠布
3章 南橘北枳
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閑話 温泉

時系列は気にしないでください♪

もう少し先の事になるかな?


 最近、やることが多すぎて困る。

 文字通り、てんてこ舞いなのだ。

 (そう言いつつも、一つ一つしか進んでいないことは気にしたら負けだ)


 神さまを助け出したらヴォルカの諜報員としてのんびり地上で情報収集というささやかな望みはどこへ行ってしまったのか。

 …や、自分で選んだ道ですから、文句は無いけどね。


 なりたいもの:最強種族

 やりたいこと:人類の意識変革

 やるべきこと:悪魔を止める

        主人の敵を全員倒す

        時々、ヴォルカに情報提供

        人類の相手



 ―――絶対、前よりも忙しくなっている。

 おお 神よ! 我に ひとときの 休息を あたえたまえ!


 ...と呟いていたら、近くにいた先代神――もといガルが、不思議そうな顔をした。


「もう神じゃないけど...いいんじゃないかな?

 たまには休みに行ってくれば?」


「―――おう!」



       ◇



 現在俺は、サトリとガルと共に、エマームの村へとやってきている。

 休息だ。

 誰が何と言おうと、温泉に入るのだ!


 憧れの温泉。

 日本にいた時には、当然経験できなかった入浴である。火傷どころか死んでしまうからな。というか自分から入りに行けないし。


「…魔力バンザイ!!」

「わっ! なによ突然!?」


 叫んだらサトリを驚かせてしまった。

 すまぬ。



 旅客用の公共浴場に向かい、僅かな利用料金を払って入館する。

 広い休憩スペースの先に、男女別に分かれた更衣所があった。

 流し場も当然男女別だが、温泉浴槽自体は混浴の造りになっているらしい。


「じゃ、また後で」

「ええ」


 サトリと別れ、ガルと一緒に男性更衣所に向かおうとしたら、ピタリと彼の足が止まる。

 不思議に思って見上げると、何やら高速でグルグルと考えながら焦っているようだ。


「どうした?」

「あ、いや...問題ない……あるか...」


「ん?」

「ベニッピー、君は...まぁ私もなんだけど、身体を洗う必要は無いだろう?

 折角だから、本来の魚の姿で入浴してはどうかな? その方が、わざわざ入浴着に着替える必要も無いし」


 確かに、金魚のままチャポンと入浴してしまった方が楽だが。


「他のお客さんもいるかもしれないだろ。誰もいなかったら、そうしよう」

「そ、そうだね...」


 なぜか冷や汗をかくガルを引っ張って、さっさと更衣所に入った。


 更衣スペースの脱衣籠に、他の人の荷物は―――無い。


「おー、少なくとも男湯の方は貸し切りか」

「よかった...」


 ホッとしたようにガルが喜んでいる。

 一体何をそんなに恐れているのか。


「私は着替えているから、君は先に行っておいで。混浴場に誰かいたら、出る前に入浴着を羽織って人化すればいい」

「そうだな。じゃあ、お先に」


 ぱっと金魚に戻って、流し場に向かって飛んでいった。

 等間隔に並ぶ簡易的な椅子と桶を見ていたら、やっぱり人化したくなったので、再び人間の姿に戻る。

 現在着ている服をそのまま収納にしまうと同時に、入浴着を着用する。

 よく考えたら一瞬でフォームチェンジできるのだから、別に着替えは面倒じゃないんだよな。


 身体を洗う真似をしてみようかとも思ったが、早くお湯に浸かりたかったので、流し場の未練を断ち切って混浴場まで一気に進んだ。


 植え込みに囲まれた、(ふち)が岩でできている小さな池。

 強い硫黄の匂いが漂い、お湯が当たる部分の岩は黄茶色に変色している。


 誰もいない。

 こっちも貸し切りだ!


 湯けむりを吸い込みながら、温かいお湯にそうっと浸かる。

 錆びないからいいや、と掛けたままだった片眼鏡(モノクル)が、一瞬で白く曇った。

 

 お湯の中に入浴着がゆらゆらと広がって、全身がじんわりと暖められていく。


「……あぁ~、いいお湯~~」


 絶対に口にせねばならない台詞も言ったし、もう思い残すことはない。たぶん。


 いつも高い位置でポニーテールのように一つに結んでいる髪の先端がお湯に浸っているのを見て、お団子に結わき直す。

 髪を湯船に浸けるのはマナー違反であるからだ。

 流し場で身体を洗わずに入浴するのもダメだが、まぁ...ノーカンだノーカン。魚だし。


 広い浴槽内をスイスイと泳いでいると、別々の入り口からサトリとガルが同時に入ってきた。

 

「あら。髪型が変わってる」

「ふふん。…そういやサトリは、ぎりぎり結べない長さだったな」


 彼女の髪の長さは、肩にかかるくらいだ。これでは(くく)れても意味はない。

 

「逆に、ガルよ。きみはもっと高い位置で結びたまえ」

「はいはい」


 彼はいつも低い位置で髪を一つに纏めているのだ。

 このままでは浸かりまくってしまう。


 二人が浴槽に入ってくると、ザバァ...と表面のお湯が流れ出していく。

 

 いやぁーいいですねぇ、この景色。

 床を走り抜けていく、透明の低い波。ザ・温泉なり!


 にこにこしている俺を見た二人にも、自然と笑みが浮かぶ。

 

「もう、ベニッピー、どこの温泉グルメよ」

「グルメか。いいなそれ。他の場所にも温泉あるのかなぁ」

「火山が多い地域には、結構あるかもしれないね」


 温泉巡りするのもまた一興かもな。

 泉質の違う所にも行ってみたい。


「そうだ、思い出した。

 聞いてくれよ、ジェダ……あー、バハムートのこと、ジェダイトって呼ぶことにしたんだけどよ。

 あいつ、硫化水素で身体が溶けるかもって、足湯を怖がってたんだぜ?」


 と曝露したら、二人ともぽかんとした後に吹き出した。


「ちょ、えぇ、ベニッ…ぷはっ!

 嘘でしょ、バハムートと足湯に来てたの!?

 殺気立って居なくなっちゃった時に!?」

「よりによって、彼と足湯ーーーぷ、くく…っ

 そんな奇抜なイベントを思いつくのは君くら、い...」


 大ウケした。


 

 しばらくして体もホカホカと暖まり、十分に湯煙も堪能したので、湯船から出た。

 結局最後まで貸し切り状態だったな。


 せっかくだから流し場にて、借りてきた布で身体を洗おうと思う。

 椅子と桶を用意していると、ガルが流し場をスルーして更衣室に向かっていく。


「お前は洗わなくていいのか?」

「強酸性のお湯は殺菌作用があるからね。大丈夫大丈夫……」

「ふーん...」


 絶対に何か隠している態度だが...

 まぁいっか。



 タオルと石鹸を使い、楽しく髪と身体を洗って流す。

 そして収納から着物を出すと同時に、そのまま身につけた。

 …最近は全く、毎度の着付けをしなくなったから、普通に手を使って着ると下手くそになっているかもしれない...

 


 上機嫌で更衣室まで戻ると、着替え終わったガルが待っていた。


「はぁ...逃げ切った...」

「だから、何のことだよ!?」


 もういいや、思考を読んでやる。

 そう思ってじっと見ると、彼はくるりと背を向けて逃げ出した。超どうでもいい事を、わんさか考えながら。


「あっ、待てコラ!」

「ーーーよし、忘れた。もう思い出さない」

「忘れんなよ!」


 くっそぉ、本当にもう考えてないぞ…こいつ。

 さっさと読んでおけばよかった。


 休憩スペースで購入した果実水をごくごくと飲んでいると、サトリもやってきた。

 彼女はコーヒー牛乳を注文しているようだ。



 入浴後のゆったりとした休憩も終わって一息つき、伸びをしながら立ち上がる。

 

 いやー、生き返った。心の余裕が生まれた。

 人々に憎まれて虚しくなったら、またここに来ようかね。



「さてーーー行くか。

 次の仕事はなんだったか…」

「使えそうな軍隊系モンスターを探しにファリカ大陸に行くんじゃなかったかしら。

 ……違うわね、その前に人間国家の方にも一度顔見せをするんだったわ」

「私と遊ぶ約束を忘れてないかな...」


 げ。


「…覚えてたって。でも、いい場所がなかなかなぁ…。海中は犠牲魚が出過ぎるし」

「北極大陸なら、人を含めて生物は居ないと思うわよ」

「ただでさえ猛烈に吹雪いてるだろうに、そんな中でコイツ(得意:水系)を相手にしろと!?」


 そのビジュアルを想像しただけで、温まった身体に悪寒が走る。

 もしそうなったら、絶対にサトリも連れて行って炎で援護射撃してもらおう。

 ...巨大な温泉のフィールド、どこかに無いかな…



 北極か…確か世界で一番地脈が狂ってたような…

 と呟くガルの言葉は、遠い目になった俺の耳には入らなかった。

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