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金魚戦記  作者: 悠布
3章 南橘北枳
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80話 本気の遊びを

 本日、快晴なり。

 良き開戦日和である。


 現在俺がいるのは、魔大陸中央部にある荒涼とした平原だ。

 さて…仲間たちを呼び寄せるとするか。


 片手に通信魔石を持ち、魔力を送った。

 ―――1、2、3秒、よし今だ。


「サトリ召喚」


 本来なら、サトリ一人だけが現れるはずの召喚魔法を発動させる。

 彼女にのみローコストで使用可能な魔法だが、今回は―――



 一瞬前までたった3人しか居なかっただだっ広い平原に、人影が次々と出現する。

 10人、100人、1000人と。

 

 成功だ。

 

 人影たち…ロルカ市民有志の一部とドラネコ隊の一部は、周りの景色の変化にキョロキョロとしている。

 その中から、サトリとレイラが現れた。


「上手くいったわね!」

「魔法って不思議ある…」


 サトリは素直に喜んでいるが、レイラは歯に物が挟まったような苦笑いを浮かべている。


「ああ。この反則技が、なんで本当に通用するんだか...」


 

 説明しよう、一体何が起きたのかを。


 ①ロルカの街にて、今回魔大陸に出張する市民ボランティア達とレイラが一緒にいる

 

 ②レイラから視認できる遠距離にサトリがいる

 

 ③俺から、レイラの持つ通信魔石に「サトリ召喚3秒前」の合図が送られてくる

 

 ④3秒後にタイミングを合わせて、1000人を連れたレイラがサトリ(・・・)へと転移する

 

 これだけだ。

 すると不思議な事に、俺がサトリ一人を召喚する魔力(コスト)だけで、1000人の大移動が可能なのである。

 レイラも、自分本人の分の魔力消費さえすることなく。

 

 大陸間移動のエネルギーはどこから捻出されているんでしょうねぇ。

 このバグに気付かないとか、転移魔法と召喚魔法を編み出した奴、ガバガバ過ぎじゃないのか。



 少しして、ガルとイズナを連れたオライが転移してきた。

 彼は転移、使えるんだよな。悪魔すげぇ。


「街に、転移から(こぼ)れた者はいないようでしたぞ」

「了解。――じゃあ、各隊長は所属者の点呼を」


「「はい!」」



 ...点呼の結果、時空の狭間に置いてきちゃった~という不幸な者は一人も居ない事が確認できた。

 格安・安全・スピーディな大規模移動。最高か。


 では。


 代表して皆の前に出て、宣言する。


「これより、対人類戦争 第1回 魔大陸侵攻――に見せかけた、「魔族を本気にさせよう作戦 其の一」を開始する!

 各自、身の安全と秘密遵守を第一に、柔軟に動くこと!」


「はーい!」

「イエス、サー!」

「楽しみじゃのう、腰が鳴るわい」

「旅人のふり…。…っは! 旅、したことなかった...」



 いざ、出陣。



       ◇



 魔皇領東部にある「ゴア」という大きめの都市。

 これから俺たちはその街を襲撃する。もちろん、相手には事前に通達済みである。

 普通ならば、戦場になることが確定した街からは非戦闘員の避難が速やかに行われる。

 だが今回は、赤ん坊や動けない者以外は全員残っているはずだ。魔皇城の前で宣言したし、ヴィオラもそう取り計らってくれているからな。


 存分に脅威を見せつけてくれようぞ。


 ロルカの街では思いきり失敗した。

 だがそれ故に、もう同じ過ちを繰り返さないことができる。

 

 甘さ、ナシ。

 手加減、ナシ。

 心の準備、OK.


 サトリが深呼吸して、真っ直ぐに俺を見て言う。


「ベニッピー。わたしもだけど、もう見抜かれることは許されないわ。

 ミスして犠牲者が出たら、わたしが、きちんと天へ還す。

 だから―――本気で、人類の敵になるわよ。目的のために」


「ああ。

 頼もしい仲間たちも増えたから、な。

 今は...心の底から、ヒトを滅ぼす役目に徹するとしよう」


 自分でも自覚している、己より弱き者に対する甘さ。

 それが枷になるとすれば、どれだけ憎まれようとも、封印する。


 あまりにも現実離れした、目的を果たすために。



 重ーい雰囲気を漂わせる俺たち二人の肩に、ガルとレイラが軽い調子で手を置いた。


「大丈夫。サポートするから」

「困ったらワタシに攻撃するね」


 緊張感の欠片もない様子で笑い、そして一足先にゴアの街の冒険者ギルドへと転移していった。ミリハとギルバートも一緒に。

 

 その風船のような雰囲気に、こちらの気が抜ける。


「あーあ。…折角、(ワル)なコンディションを整えつつあったのに」

「ふふ。難しいわね。

 ...じゃあ、こちらも予定通り、二手に分かれましょう」


 そうだった。

 先に、一般市民の約150名をゴアの街に潜り込ませるのだ。

 それを率いるのはイズナとオライである。


 サトリの号令に、ボランティア市民団体がバラバラと敬礼する。


「「イエス、ミズ サリー!」」


 いつの間に、こんなノリに...


「了解ひょん。では有志たちよ、吾輩に続けぇっ!」

「「イエッス、ミスター オル!!」」



 ―――絶対、こいつのせいだ。



       ◇



 ゴアの冒険者ギルドでは、ギルバート、ミリハ、レイラが当地のギルマスや冒険者たちと会議を行なっていた。


 彼ら3人の肩書きは、

 

 ギ:ジャス達を輩出したギルドのマスター

 ミ: 〃  を取り逃したランク7。ギルバートの責任を分担

 レ: 〃  を獲物と定めた勇者


 である。

 この場に居るのに十分な理由を振り撒いて、堂々と着席している。


 対してギルド側は、今回の宣戦布告に合わせて召集した冒険者に加え、魔族の警察からの代表と、中央から派遣されてきた軍隊の代表が二人ずつ、そして所属は無いが所謂(いわゆる)「強者」とされる者たちが出席していた。


 本来、ギルドで会議をするのに不釣り合いな状況とメンバーだが、何しろ敵が「国民全員参加」を強制してきたために、民間の半・軍事機構ともいえるギルドが開催場所となっているのだ。


 警察と軍の代表者は、苦虫を噛み潰したような表情を取り繕いながらも、内心の…現状を莫迦(ばか)にしきった風情を滲ませ、それを隠そうともしていない。


 なんとも気まずい空気が流れる中、ゴアのギルマス――キャシーが、起立して口火をきった。


「えー、皆さま。お時間を割いて頂いた上に、このような狭苦しい所にお集まりくださってありがとうございます。

 では、さっさと対策を話し合ってしまいましょう」


 そして、もう自分の役割は果たした…とばかりに瞬時に着席し、腕を組んで目を瞑る。

 その様子に苦笑したギルバートが、目尻を吊り上げた数名を宥めるように手をふる。


「カリカリしなさるなって。

 嫌でもこっちは纏まらざるを得ねぇんだからよ」


「人間は礼儀を知らぬようだな。

 そもそも貴様が最初に、あのふざけた敵を取り逃していなければ...」


 軍代表が、彼を()め付ける。


「そうそう。オレたちも、油断したわけよ。

 そしたら、まんまと遊ばれて逃げられたぜ。

 犠牲者は100人ちょいで済んだが、今回はどうだろうな…」


 飄々とした物言いに、中々沸点の低いらしい警察代表が、バンと机を叩いて立ち上がった。


「きさま!

 遊び半分で来たのなら、今すぐに帰れ!」


「おまえさんたちに合わせただけだぜ。

 油断してんのはどっちだよ。人死にが誰の責任になるのか、本当にわかってんのか?」


 冷めた目で返され、図星を突かれた代表たちは言葉に詰まる。


 ミリハが、パチンと手を叩いた。


「見栄とかどうでもいいから。

 軍と警察、それぞれ何人連れてきて、何ができるか言って」


「...こんの、小娘が…一体何様のつもり――」


 洞察力はあれども、感情というものに若干疎い彼女が無意識に火に油を注ぐ。

 縦の繋がりがほとんど存在しない冒険者と、持ち上げられることに慣れた組織の上位の者は相性が悪いのだ。


「協調しないなら、勝手に動いてくれていいあるよ。

 別に困らないある。むしろこっちの自由度が上がるね」


 レイラも、のんびりと笑っている。

 この現状を想定していたキャシーは目を閉じたまま溜め息をつき、部屋の気温が数度下がっていった時―――


 魔皇帝の要請で派遣されてきた者の一人が、立ち上がった。

 軍と警察の者たちに貫くような視線を送り、静かに一喝する。


「礼儀を理解していないのは、どちらだ。

 我々魔族は、協力して貰っている立場だと知れ」


「だ、だが…彼らが初撃に失敗さえしな――」

「じゃあ聞くけど、その彼等よりも余程準備期間と迎撃戦力を揃えておいて、それでも逃したらどう言い訳するつもり?」


 もう一人、いつの間にか席を離れていた女に背後に立たれ、警察代表は慌てて振り返った。


「さすがに、それは...」

「そうか?

 冒険者の方々は、そう思ってはおられないようだが」


 内心ギクッとしたレイラ達だが、表には出さない。


「当然だぜ。

 それが油断だって言ってんだ」


 悠然と言い放ったギルバートに、ミリハとレイラもうんうんと頷く。


 彼らの様子に、男は薄っすらと笑みを浮かべる。


「だそうだ。やはり甘く見ているのは、未だ「ジャス」と「サリー」に遭遇していないお前たちだと言えるようだな。

 ...もういいだろう。さあ、早く連携について話し合うぞ」



       ◇



 今回連れてきたドラネコ隊、850名。

 彼らは揃ってサングラスを掛け、黒に統一した私服を着用し、腕や首に赤いスカーフを巻いている。

 

 元がチンピラなだけあって、こうして見ると凄い迫力である。マフィアも手を出せなさそうな雰囲気だ。


 

 現在ゴアの街外れの林の中にて、ディーンが陣頭に立って気合を入れているところだ。


「いいか!

 てめぇらに求められてんのは、強さじゃねえ。

 洗練されたワル(・・)さだ。

 それは、何か!?」


「へい!

 非人道的な悪事を働かずに、酷薄な悪人集団だと思わせることでやんす!」


 ディーンはその答えに、満足そうに頷きを返す。


「そうだ。スマートに紳士的に、だが絶対にバレずに悪を演じる。

 できるな?

 この前のジャス様とサリー様を反面教師として見てきたてめぇらなら、できるはずだ!」


「へい!」

「弱者や善人を見かけたら、関わらずに逃げるべし!」

「オレたちと同じ匂いの奴らに、積極的に絡むべし!」

「心の底から、ワルになりきるでさぁ!」


 耳が痛い。

 サトリも目が泳いでいる。


「ならばよし。

 今回は、オレたちを討伐するべく魔族の手練れや軍や警察が出ているはずだ。

 自信のある者は、腕試しをしろ。死ぬのは自由だからな。

 だが!」


「わかってやす!

 死んでも捕まらねえこと!」

「まずは身の安全第一に動くこと!」

「逃げ隠れは得意でやんす!」


 キシシシシ...と斜め下を向いて笑う連中の言葉には重みがある。

 これなら心配ないだろう。


「ああ。オレたちゃぁ、PVOの下部組織「ドラネコ」。

 その誇りと掟を忘れるな!!」


「「アイアイサー!!」」


 すっげー楽しそうだな。なんか、混ざりたくなってきた。

 知ってるか? フナって群れるんだぜ。金魚だって集団行動は得意なんだ。

 今度、密かにドラネコに紛れてみるか。


 羨ましそうにしていたのが感づかれたのか、ディーンが場所を譲ってくる。


「ささ、元帥方からもひとこと景気づけを」

「いつ元帥になったんだ!?」


 軍だとしたら人数不足にも程があるだろ。

 ほんと、適当でおもしろい連中だな。


 大人しく交代し、仲間に向かって順番にひと言。

 

「自然の脅威は、ターゲットを選ばないわ。

 だけどわたしたちは、意志を持ってそれに代わるわよ。

 知能のある台風のイメージかしら」


「俺が目指すのは、全人類の悪人の基準を、お前らに近いレベルにまで底上げすることだ。

 ―――仲間、増やそうぜ!」


 二人とも違う内容を好き放題に言ったが、彼らは目を輝かせて拳を突き上げた。


「「ヤー!!」」


 

 それでいい。

 こちらも含めて、軍隊モドキの遊びなのだから。


 おそらくこの適当さこそが、大規模な即席集団が破綻しない鍵なのだろう。

 そんな気がする。

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