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金魚戦記  作者: 悠布
3章 南橘北枳
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78話 「英雄トニー」 構想?

 眼をパチクリさせていたガルは、やや悲し気に目を伏せる。


「私に...正義の味方になれと?」


 お前、誰なんだよ。

 もうこれ以上俺の腹筋を鍛えないでくれ。


 ぷるぷる震えそうになりながらも答える。


「ああ。やっぱり、人々を相手に手加減しなきゃならないからバレるんだよ。

 お前がその冗談みたいな求心力(カリスマ)で引っ張って、ついでにカバーしてくれりゃあ、俺たちは存分に脅威を振り撒けるだろう」


 どうして最初から思いつかなかったんだ。

 …そっか、元々王だったからカモフラージュされてたんだな。


 ...あれ。そういえば。


「あのぅ……皆さんは、いつからお気づきで……?」


 そっと問いかけると、街人と冒険者はすらすらと答える。


「きっかけは黄色いオルですかね」

「後からわかりましたけど、レンの落雷の被害者も居なかったし」

「イザは逃げるばかりでしたしねぇ」

「あと、決定的だったのは...」


 ドキドキ。


「ジャス様とサリー様の雰囲気と態度」

「そう、それ」

「ハッキリ言って、言動と真逆だったわ。不自然過ぎたな」

「どうしてアレで押し通せると思ったのか」



 ......。


 よし、逃げるか。



 サトリとそっとアイコンタクトを取ると、下に仲間たちを置いて同時に空へと飛び上がった。



       ◇



 現在、上空1㎞近い高度にて、二人して脱力しているところである。

 サトリは顔を抑えて悶えている。


「ムリ、もう無理。恥ずかしすぎて戻れないわ...」

「まさか俺たちの方が試されていたとは...」


 初めの挨拶を丁寧にやり過ぎたのも、見抜かれた原因の一つか?

 「奇妙さ」を強める演出だったが...もっと荒くれモードの方が良かったのかもしれない。


 

 気持ちを切り替える為にも、とりあえず白っぽい着物にフォームチェンジする。

 ――ほんの少しだけ落ち着いた。


 収納から簡易テーブルとお茶菓子を引っ張り出し、急遽お茶会モドキを開いて強制的に心を鎮める。

 無言でクッキーとお茶を交互に飲み食いすること数分後。

 

 ...よし、微妙に鎮まった。


「敢えて思考を読んでいなかったから気づかなかったな...」

「少し変だとは思っていたのよね。

 あまりにも潔く向かってくるし、クレイジーなオルに子供を押し付けていっちゃうし...」


 問題は、誰が先導したかだ。


「あんにゃろ、ギルバートめ……。もう、責任を取ってもらうしかないな」

「ええ。この報い、きっちりと受けていただきましょう。

 わたしたちを謀った、ロルカの人々にも」


 お互いに同じことを考えていたようだ。

 ニヤッと笑い合うと、ティーセットを片付けて、ゆっくりと降りていった。



       ◇



 ベニッピー達が空へと飛んで行ってしまったのを見たガルは苦笑すると、人々に向き直った。


「二人とも、かわいいだろう?

 ...言動と真逆、か。そうだろうとも。もう、察し始めているのだろうが…」


 彼らと入れ替わるように舞い降りてきたミリハが、やはりという風に頷く。


「年齢・性別・普段の態度の関係なく団結させるのが目的で、それに使う言い訳が()というわけ?

 ―――そういう事か。

 居るのか、何かはわからないけど、()が」


 すると、いつの間にか戻ってきていたレイラが答える。


「そうある。あの二人にも、正面から勝負して戦いに勝って終わり――にできない事情があるね。

 だからこんなにややこしい事をやり始めたある」


 取り出した自分の腕輪を、魔法でフワフワと浮き上がらせながら。

 よく見るとその腕輪には、金色の下地に精緻な黒のレリーフ(・・・・・・)が彫り込まれている。


 それを確認した冒険者たちが引いている。


「げ...」

「私たち、アレ(・・)に挑んでいったの...?」


 そのついでとばかりにレイラが深い縦穴の中へ魔力を伸ばすと、「あ」という声と共に、穴の中からも同じデザインの腕輪がフヨフヨと浮き上がってきた。


「オバケみたいな奴のある」


「えぇ...」

「捕まらないわけだわ...」


 ギルバートはまたもや頭を抱えている。


「まさか本当にランク7以上(・・)とは...

 そっちの方が、バレたら世界に衝撃だ。

 いいか、おまえたち。絶っ…対にバレんなよ!?」


 レイラは大人しく頷き、穴の中からもボソッと返答がある。


「もうミリハにバレたから気を付けるある」

「僕は大丈夫かと……」


 はぁ...と息をついたギルバートは、何かを思い出すように視線を上に向けた。


「確か魔皇帝の言い分は...「世界の環境を激変させ、人類を滅亡に追い込もうとする彼らを敵と定め…」だったか。

 それも―――」


「ああ。別の者の仕業(しわざ)だが、そのまま自分たちの所業にした」


 ガルがけろっと応じ、聴いていた人々のうちの何割かがズッコケた。


「それ、ジャス様とサリー様と同じくらい、トニー様の雰囲気とも合いませんよ…無理です…」

「絶対、正義(サイド)の方がしっくりきますって...」

「今さっきみたいに姿をお見せになっただけで、事情を知らずとも、相当数の者がそちら側に靡くと思われます」

「ということで...」


 ロルカの街の人々+その場に居た冒険者たちの多くが、ビシッと敬礼した。


「我々に、そのお手伝いをさせてください」

「決して悟られぬように」

貴方様(英雄)に付き従う人々と。手加減に苦心するジャス様たち(悪役)に代わる手先として」

「その、両方の面から。お願い申し上げます」


 流石にガルも「え、え!?」と困惑していると、穴からオライが飛び出した。

 彼は市民たちを見回し、ドンと手で胸を叩いて背筋を伸ばす。


「そういうことなら、この「オル」にお任せを。

 (しろ)(くろ)の両面から事を操るのは、得意でございますれば」


 彼の言葉に、パラパラと拍手が起こる。


「よっ、クレイジー野郎!」

「ヒュー、ヒュー!」

「おじちゃんすごい!」


 トニー達との態度の差に首を捻りつつも、オルは大袈裟な会釈を返した。



       ◇



 俺とサトリが空から帰還したのは、そんな時だった。

 

 なんか、和気藹々(あいあい)としているな。

 不思議に思いながらも、先導者(ギルバート)に責任を取っていただく事とする。


「おい、ギルバート。もう秘密がバレた以上、おまえら街ごとスカウトさせてもらうぞ。

 俺たちの協力組織になれ。で、お前がそれを纏めたまえ」

「ああ、いいぜ」


 え!?

 

 「な…なんだとぉ? 説明しろ!」みたいな返しを想定していたから、肩透かしを食らう。

 サトリも狼が豆鉄砲を食らったような顔をしている。


「ジャス様、どうぞあっしらを使ってくだせぇ。

 ワルは得意でやんす」

「どうかサリー様の手下に...」


 キシシシシ…と笑みを浮かべて進み出てきたのは怒乱悟(ドランゴ)の連中だ。


「この街だけでなく、パレンシアの至る所に仲間がおりやすで…」

「奴らもトニー様をひと目見れば、決して秘密を漏らすことはありやせんぜ…」


 良かったじゃねえか、ガルよ。

 お前、悪のカリスマにもなれそうだぞ。


 なんだか空のお茶会を開いている間に、地上では既に話が纏まりつつあったようだ。いつの間にかレイラも居るし。


 

 ―――いっか、もう。

 本人たちが進んで申し出てきているんだ、何も考えずに有り難く使わせてもらうとしよう。


 サトリを見ると、彼女も全てを受け入れる仏のようなアルカイックスマイルを浮かべている。

 よし。


 ガルに最終確認を行う。


「いいな? トニーよ」

「わかったよ。ヒトの敵でこそないけど、悪の組織所属である事には変わりないし」


 どんだけやりたかったんだよ、悪役!?

 ...仕方あるめぇ。彼の未練の分まで、存分に猛威を奮ってやるか。



 怒乱悟も含め、人々を見回し、宣言した。


「では。

 これより後、悪の組織…PVO(ピー ヴイ オー)の協力支援組織として。

 ロルカの街そのものを、新たな仲間として迎え入れる!」


「おおぉぉぉ!」

「ジャス様ーー!」

「トニー様、万歳ー!」


「ちょっと、PVOって何よ!?

 初めて聞いたんだけど!?」


 サトリから的確なツッコミが飛んでくる。

 

 しれっとくっつけた組織名を聞き逃してはくれなかったか。

 いやぁ、組織名無かったじゃん?

 だから咄嗟に考えただけよ。むしろ褒めてくれ。


「Pretended(悪役の) Villain(ふりをした) Organiza(組織)tionだ」

「いいわね。それでいきましょう」


 正式名称になりました。

 


 

「あ、因みにレンはもう悪役ダメな」

「えぇっ、何故ある!?」

「やっぱ、光属性の陽キャには向いてない配役だったから」

「...(僕は闇属性の陰キャ……)」




       ◆



 ロルカの街に残って今後の説明と計画立案を行うというレイラ、イズナ、ついでにサトリとオライを置いて、俺とガルはヴォルカに戻った。

 話す事とやる事があるからな。


 もうほとんど完成してエーギルの兵が引き上げつつある新・龍宮城の内部をキョロキョロしながら進み、エンカルナとジゼルに面会する。

 

 忙しそうに手を動かしていた二人は、俺たちを見ると嬉しそうに手を止めた。

 彼女らにせっせと仕事を強いていた文官たちが撤退していく。良かったなー。


「おかえりなさいませ。最寄りの地上の街――ロルカの攻略はいかがでしたか?」


 ルナが面白そうに聞いてきたので、俺が答える。


「あー、バレた。バレたけど…結果的には、街そのものが仲間になった」

「まあ...!?」

「ガルが登場した途端、なんかもう...うん...」


 遠い目をして苦笑すると、ジゼルとルナは得心がいったように頷いた。


「ガルトニクス様の理不尽なカリスマ性は、人間にも通じたのですね」

「ニクス様が悪役だなんて、無理なのではないかと予想しておりました。案の定、そうなりましたか」


 やっぱり知ってたんかい!

 ―――ま、口頭で言われても信じられいレベルのヤツだったから、先に教えられても、か。

 

「それでな。ガルを正義の英雄(ヒーロー)にして、ヒトの旗頭に置くことにしたんだが…。

 多分、今度は強すぎる(・・・・)んだよなぁ。二つの意味で」

「...で、しょうね」

 

 実力と、求心力が。

 これでは、ヒトが彼頼みになって、一丸となってくれないという恐れが出てきたのだ。

 なんという贅沢な、両極端の悩みだろうか。

 ガル一人でバランスブレイカー過ぎる存在だ。


 その本人は現在、本来の水龍形態で大きく伸びをしている。

 

「という事で、どうしたものでしょうかねぇ。

 なにか、良いお知恵を拝借したく」


 彼女たちに聞きながら、彼に向けてチャクラムを7枚全て放つと、太刀を取り出して魔法で操って応戦し始めた。

 さらに如意ちゃんを三叉の槍のように伸ばしていくと、分厚い岩石の盾を作り出して防がれる。


 コイツ、戦う所を見せちゃいけない奴だよなぁ。

 見せたら...ん?


 何か思いつきそうで首を捻っていると、ガルの盾に魔力を伸ばして分解しようとしていたジゼルが代わりに言ってくれた。


「指示だけ出す将軍ならよろしいのでは?」

「えー……」

「それだ、それしか無い!」

「弱いふりをするのも、無理でしょうし」


 いつのまにか盾に取り付いていて破壊したルナも、賛成してくれる。


 勝ったな。

 棒をビヨーンとロープのように伸ばして巨体をぐるぐるまきにしながら(俺も魔力消費でクラクラしながら)、そっと彼の思考を読む。


 すると、「クワハハハ、(われ)が悪の大王なり! (みな)の者、総力を挙げて我に挑めぇ!」を本気でやりたがっていた事がわかった。


 ...ガル一人にこの美味しい(おもしろい)役をお預けするのは可哀想かな。


 ならば俺たちが、健気な民衆の代わりになるか。

 ストレス発散用サンドバッグに。


「時々、俺たちがお前の相手をするからさ。

 ここは頼むよ」


 そう言った瞬間、彼が笑った。

 ニヤリと。


 ―――しまった、嵌められた!?

 こっ……ここまでがヤツの計画通りか! いや、一体いつから!?


 やはりコイツはラスボスの玉座を温めて待つしかない存在だったのだ!

 ...と、気づいた時にはもう遅かった。


 くるくると身体をロープと逆回転させて抜け出し、巻き起こした水流で周りを吹っ飛ばしつつ、ガルはガッツポーズをとった。


「くわははは!

 我に挑め、ジャス達よ!」


 やられた。

最初にベニッピーがガルを見て「震えが止まった」のも「ここで働かせてくれさい」も、彼のカリスマに当てられてます。


上手い組織名を誰か考えてくれないかなぁ…

アルファベット3文字式は覚えにくいので不本意です。(名前が出る度にWHOが頭を過ぎります)

でも「黒の○○」系みたいに色名を入れるとイタタタ…ですし、「○○団」も古風過ぎますし、あまりにお洒落なネーミングだと中身が既に名前負けしてるし…

もう「金魚連合」でいいかな...(ダメです)

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