76話 悪の組織 VS 冒険者&一般市民 in ロルカ ①
集められた市民を前に、ミリハは事態を説明しようと口を開きかけ――止めた。
面倒くさくなったので、ギルバートに丸投げする事にする。
「あとは上手くやって」
「...わかったよ」
意外とすんなりと了承した彼とバトンタッチし、ギルバートが前に出て彼女は後ろに下がる。
人々を見回し、彼は声を張り上げた。
「知っている者も多いかもしれねえが、俺がこのロルカの街のギルドマスターだ。
で……「ジャス」と「サリー」は、ここのギルドに登録していた冒険者でもある」
登録名も本名じゃないんだろうな――
と考えつつ、彼は続ける。
「本来は、冒険者だけで対処すべき事態だが…今回は時間が無くて十分な味方を集められなかった。
そして、彼らは――」
一旦言葉を切ったギルマスを固唾を飲んで見つめる街人の視線を正面から受け止めて、彼はゆっくりと告げた。
「この街の全員で掛かってこい。
さもなくば、街ごと吹き飛ばす――と、言っている」
「な...っ!?」
「う、嘘でしょ…え…?」
「儂もかのぅ…? 既に腰が砕けとるんじゃが…」
「ふきとばす、ってなぁに? ママ」
「バブッバブゥ! きゃっきゃ」
何とも言えない雰囲気が広がってゆく。
それを手で抑え、ギルバートは落ち着いた声で説明する。
「問題ない。
掛かっていくだけでいいんだ。
倒す必要はない」
「嘘に決まってるだろう…」
「そうよ、遊んでるだけに違いないわ!」
非難の声が各所から上がった。
――だが、それを抑えたのはギルバートでもミリハでもない。
いつの間にか人々の上に浮かんでいたサリーが答えたのだ。
「ええ、遊んでいるのよ。
今すぐ滅ぼしたかったら、この街1つくらい一瞬で灰燼に還せるもの。
だからこそ、嘘じゃないわ。でも...」
サリーが言葉を切るのと同時に、隣にジャスが出現する。
彼は冒険者たちを見回し、不機嫌そうに言う。
「全員、って言ったよな?
まだあれだけ残ってたぞ」
顎で示した先では、イザとオルが地面に転がされた数十人の者たちを突いていた。
彼らを見た何人かが、引いたように驚く。
「あの刺青……怒乱悟の連中だ…」
「この街のチンピラヤクザか」
「昼間に見たのは初めてだな…」
冒険者たちが、怖気付きながらも反論を試みる。
「ヤクザは例外だろ!」
「善良な市民じゃ…」
「あ?」
「すみませんでした」
不穏な空気を醸し出し始めたジャスに威圧され、赤い腕輪の冒険者はあっさりと引き下がる。
「次はないぞ」
ギルバートをちらりと見やって彼は告げると、サリーと共に噴水の方に戻っていった。
気を取り直して、怒乱悟を叩き起こして整列させる。
彼らは喚いてキレかけたが、金銀の腕輪の冒険者たちが実力行使に出ようとしたのを見て大人しくなる。
今度こそ市民が集合した事を確認して、ギルバートは作戦を告げた。
「じゃあ、今から為すべきことを言う。
まずは――……」
◇
人々が作戦の準備を始めるのを眺めながら、ギルバートはミリハにぽつりと零す。
「求められているのは姿勢であって、結果じゃねえんだな」
「そう。そしてそれは、皆に伝わってはならないんだけど...」
彼女も、彼とは別の場所に視線を向けながら応じた。
ギルバートが、彼らが居るであろう方角に顔を向けて、目を細める。
「...本人たちの言動で、自滅しそうだな?」
「うん」
彼女の落ち着き払った態度を見て、彼は確信した。
「さっきの、奴らと話していた時のおまえの態度、距離――」
「それ以上言わないの」
それが答えか。
ジトッと見るギルバートに、ミリハは素知らぬ顔でしれっと唆す。
「おもしろそうだったよ?」
「7ランク冒険者の言葉か」
「…誰とは言わない約束だけど、レンもランク7の冒険者。バイトだって」
流石に唖然としたギルバートである。
それが本当だとして…だとしたら、一人だけとも限らない。
現に今、目の前の彼女も「おもしろそう」と言った。
彼らはまだ世に出てきたばかりだが、これが何度か続けば―――
「一般市民 対 高ランク冒険者の構図だと...?
世も末だな…」
「いいんじゃない?
…あたしは、こちら側から見るけどね。レンと違って」
「...まさか、俺にもそれをやれと言っているのか?」
どんな反応をすればいいんだ…と彼は頭を抱える。
だが彼女は、真剣に続けた。
「あたしはまだ、目的や理由など何一つ詳しい事は聞いていない。
でも、レンは信用できるし、奴らには敵わない。
だから、悪くないと思うよ。協力することも」
「...考えとくよ」
俺は何を口走っているんだ…?
と益々混乱しつつも、ギルバートは市民の陣頭指揮を執るために歩いていった。
◇
俺たちは噴水広場に陣取って、ワクワクと楽しみに待っていた。
一体、何をしてくれるのだろうか。
うっかり市民の思考を読まないように気をつける。
ちなみに今俺は、水の中に胡座をかいて頭から噴水を浴びている。水分補給な。
噴水中央のオブジェの上にサトリが座り、池の縁にレイラが腰掛け、近くの掲示板の裏側に隠れるようにしてイズナが立ち、ベンチの上にオライが寝そべっている。
完璧なフォーメーションだ。
いつでもどうぞ。
「! ―――お?」
何か仕掛けてくるな――と思った瞬間、噴水の水が全て凍り付く。
サトリとレイラは驚いて離れたが、俺は座り込んだまま足を固められ、ついでに頭も凍ってしまった。
「おぉ、ひんやり……」
氷を水に戻すことなくそのまま待っていると、建物の影から一斉に現れたガタイの良い男達が、ヌーの川渡りの如く押し寄せてくる。
サトリとレイラは空に飛び上がるが、イズナとオライは呆気なく飲み込まれた。
上に避難した二人の元にも、タイミングを合わせたのか飛べる者たちが押し寄せ、彼女たちも分断される。
まずは一人ひとりをバラけさせる作戦か。
よかろう、ヌーの中に怒乱悟も見えたし、初動は合格だ。
さて、俺には誰が何をしてくれるのかな?
こちらを取り囲んだ冒険者たちを見回してニコッと微笑むと、「ヒッ……」と引かれる。何故だ。
――すると頭上に影が差し、一人の男...ギルバートが、珍しい武器を手にして降ってきた。
短い3本の棒が、二ヶ所の鎖で繋がれた武器。三節棍か。
こりゃあいい。
片手に如意棒を出現させ、彼の攻撃を受け止める。
キィィィィン……と、剣と剣では出し得ない、円柱武器同士ならではの金属音がこだまする。
「それは...如意金箍棒か…?」
棒を見て驚いたような表情になったギルバートが、思わずといった風に零した。
やっぱ、人には有名な武器なんだな。
「ああ」
だんだん足が冷えてきたので、氷を溶かしてゆっくりと立ち上がる。
氷の上に立っていた彼も池の中へと落ちたが、そんな事は気にせずに何か考え込んでいる。
しかし頭を振って気を取り直すと、三節棍を構えた。
「まぁいい。とにかく今は、追い払わせてもらう」
「やれるものならやってみろ」
ぜひ、宜しく。
俺も如意棒を構えるのと同時に、ギルバートが斜め下から打ち込んでくる。
それを受け止めた次の瞬間には、最初の短棍とは逆サイドの部分の棍が襲い来た。
身を捻って躱したが、単純に向こうの手数は2倍。
全てを如意棒で弾くには、相手の倍速で動かなければならないところだが...
(出番ですぜ、如意ちゃん!)
心の中で助けを呼ぶと、如意棒がクニャリと曲がった。
最初に俺の頭をペシンと叩いた後に、ギルバートの棍の動きに合わせて自ら率先して受け止めにいってくれる。
正に、相棒。
二人で力を合わせて相手の攻撃を捌く。
相棒の助けもあり、力と速度の両方で上回ったこちらが、徐々に優位に立っていく。
いやぁ、棒同士の打ち合いがこんなに楽しいとは!
変幻自在に自由に動く武器は生き生きと宙を裂き、ぶつかり合っては空気を振動させる。
じりじりと後ろに下がり続けていたギルバートの足元が池の縁にかかり、ついに噴水から飛び退った。
勝ったぜ!
――と、思わずガッツポーズをしそうになって、慌てて表情を引き締める。
今の戦いを見ていた周囲の冒険者たちが益々引いていた。
しまった。勝っちゃダメだったじゃん!
ど、どうしよう。
「この程度か? 口ほどにも無い」
ギルバートよ、お前の技術は凄かったぜ。なにせ如意棒と互角に打ち合っていたのだから。
内心と真逆の台詞を口にしながら、冷静に彼を見下ろす。
こっちはもう駄目そうだ。
皆んな、上手く負けてくれ!
じゃないとガルが出られない。
◇
イズナは、やや焦っていた。
彼は圧倒的な数の市民に付き纏われ、囲まれて、逃げた先でも誰かしらが待ち構えている状況だったのだ。
おそらく、魔法で空を飛べない大人たちが全員、イザをターゲットにして動いている。
いくら彼が気配を消すのが上手くても、移動速度が速くても、これでは思うように動けない。
「いたぞ! 皆、こっちだ!」
「西に逃げたわ!」
「今度は上だ! 屋上班、急げ!」
イザを捕まえる、もしくは街から追い払うのを目標にして、地の利がある街人が団結している。
やればできるじゃん……と思いながら、彼も本気を出して逃げ回り始めた。
◇
オライは全力で困っていた。
彼にぶつけられたのは、子供と老人。
クレイジーだが紳士的なオルの行動を、見られていたのだろう。
「おじちゃん、遊ぼう!
パパが、遊んでもらえって!」
「わしの腰のコリを解してもらえぬかのぅ」
「ねぇねぇ、どうして真っ黄っきなの?
コーツーアンゼンのためぇ?」
恐れを知らぬ子ども達に容赦なく纏わりつかれ、最早怖いものなど存在しないじーさまばーさま達にモテる。
「おっ、オジサンじゃありません。
おにいさんと呼びなさいヒョイ!」
「おにーさん、その弓触らせて!」
「たまには黄色のスカートでも履こうかしらぁ。
元気が出る色だわぁ」
「うぇぇーん……ママぁ、どこぉ~…」
ズボンを掴まれ、小さな子に泣き出されてしまった。
堪らず、オライはインカムで仲間に助けを求める。
(こちらオル。弱者襲来により、手も足も出ないひょい!
救援要請!)
(あ~、そりゃ無理だわ。だが、よくやってくれた)
(…僕と代わってほしい…いや、やっぱりいいっす…)
(そのまま大人しくしているーる)
(なによ、その羨ましい状況は!)
救援は、却下された。




