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金魚戦記  作者: 悠布
3章 南橘北枳
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74話 悪の組織 VS 冒険者ギルド in ロルカ ①

 その日は、雨だった。

 ロルカの街の人々は傘を差したりフードを被ったりして、足早に用事を済ませて屋根の下へと帰っていく。


 通りの露店は店を畳み、代わりに街路樹の下の濡れない場所にぎゅうぎゅうに詰めかけていた。


 子どもの手を引いた一人の母親が、ふと空を見上げた。

 突然、雨が止んで日が射したのだ。

 ―――雨雲が不自然な動きで、次々に消えていく。


 周囲の人々も、訝しげに空を見やる。

 その時だった。

 大きな虹がかかった空に、黒い人影が現れたのは。


 そいつは、虹に対抗するかのようにピカリと自ら光を放って注目を集める。

 そして魔法か何かの術だろうか、街中に反響して響き渡る(しわが)れた声で、楽しげに告げた。

 

「ヒッヒッヒ。ワシゃ、人類の敵「ジャス様」と「サリー様」の手先、「レン」と申すーる。

 冒険者ギルドよ、準備はできているーるな?

 さぁ、ワシを止めるーる!」


 妙な喋り方をする、全身を黒い鎧兜で包んだ小柄な老人(?)は、おもむろに街に向かって小さな(いかずち)を落とし始めた。

 ―――上空から見ないと気付かないが、主に人の居ない所へと。



「わっ! 建物の中に避難しろ!」

「きゃあぁ、木の下から離れてっ!」

「う…ぅわあぁん、母ちゃーん…!」


 だがそんな事は見えていない街の人々は、パニックに陥る。

 右往左往し、あちこちで人同士がぶつかり合う。


「ヒーッヒッヒ!

 押すな押すな、落ち着くーる」


 黒鎧の老人が笑っている。

 残念ながら、誰のせいだ! とツッコめる余裕のある住人は居ない。

 

 調子に乗ったレンが次々と雷を落としていると、しかし少しずつ人々の足取りが落ち着いてきた。

 どこからともなく現れた、待機していた冒険者たちが避難誘導を始めたのだ。

 彼らの冷静な態度を見て、冒険者ギルドがこの襲撃を把握していた事を知った住民たちは、徐々に落ち着きを取り戻していく。

 

 それを見たレンは、不快げに言う。


「むむっ?

 静かになってしまったーる。つまらないーる。

 早く遊びに、掛かってくるーる!」


 冒険者たちに向けて、挑発するように。


 それを受けてか、避難誘導を行なっていた冒険者とは別の者たちが、ギルドの建物内から飛び出してきた。

 皆、それなりに熟練した冒険者の風格を漂わせている。


 彼らの中でも魔法を扱う者たちは、レンに向かって素早く攻撃を始めている。

 風魔法や火魔法の攻撃を受けてよろめきながら、邪な老人は仲間を呼んだ。


「イザ! 地上で手持ち無沙汰にしている連中の相手をしてやるーる!」


 レンの呼び声に応え、地上に一人、空の老人の仲間らしき人影が出現する。

 全身に白い衣を纏って顔を隠した、存在感の薄い幽霊のような者である。


 彼(?)は無言のままに、冒険者たちを翻弄し始めた。

 街人の避難担当者、攻撃担当者の区別なく、手当たり次第に吹っ飛ばしていく。


 冒険者がイザに対応しようとするも、動きが速すぎて追いつけない。

 人々が再び混乱に陥る。


(イザ、ほぼ全員が置いてかれているーる)

(...わかった)


 通信魔道具によって伝えられたレンの言葉に、イザの動きがやや緩慢になった。

 それでようやく、彼の姿を捉えた冒険者たちがまともに攻撃を繰り出せるようになる。



       ◇



 俺、サトリ、ガル、オライは物陰から街の様子を窺っていた。

 

 レイラとイズナが無双している。

 今までに戦ったことのある相手がイレギュラー過ぎたのだろうか。

 ヒトを相手に、ここまで戦力の差ができるとは思わなかった。


「こりゃ、トニーの出番は無いかもな…」

「出番は無くても、姿を見せるくらいはしたいね」


 ガルは、心配そうにしながらも出る(・・)つもりのようだ。

 乗り気だな。

 

 全身を黄色の服装で統一してウズウズしていたオライが、目を輝かせてある一点を指差す。


「おお!? 

 あそこに、少しは骨のありそうな者たちが出て参りましたよ!

 オル、行きます!」


 銀色の腕輪をした冒険者たちが複数名登場したのを発見した彼が、飛び出していく。



       ◇



 等級(ランク)5の冒険者たちが全く太刀打ちできずに翻弄されている様子を眺めていたロルカのギルマス――ギルバートは、後ろを振り返った。

 

「予想はしていたが、手下の1、2匹にここまで遊ばれるとはな。

 まだ、本命が出てくるとも限らんが...このままでは冒険者の名折れだ。

 少し早いが、行ってくれ。街の住人に被害が及ばないことを最優先に、な」


 その言葉に、待機していた総勢10名近いランク6の冒険者たちが頷く。


「ええ、ここで名を上げて昇級してやりやす!」

「倒せはしなくても、追い払うことはできるはず」

「ランク5も避難誘導に回るように、指示してまいります」


 流石に熟練の冒険者たちである。

 皆、それぞれが出来ることを弁えて、冷静に考えている。


 彼らの様子を見て、ギルバートは笑った。


「よし。んじゃ、よろしく頼むぜ」



 外に出ていった彼らを見送った後に彼は、ギルドの建物の奥の床に座り込んでじっと瞑想をしていた、ある者の所に向かった。

 その者の腕には、金色の腕輪。ランク7の冒険者の証である。


「6までが出た。これで本命を引っ張り出せるかは不明だが、準備しておいてくれよ...ミリハ」


 名を呼ばれ、彼女は目を開ける。

 しぱしぱと瞼を(またた)かせ、驚いたように立ち上がった。


「え、なに!? もう来た!?」

「寝てたのかよ!? ...まだだよ、死神2人は」


 ギルバートは呆れたようにガクッと躓く。

 

 彼女――ミリハは、ロルカ所属の冒険者ではない。

 主に、南方の街ルンベックを中心に活動しているが、たまたま近くのギルドに立ち寄っていたため、協力を仰いだのだ。

 

 ミリハは再び、膝に顔を埋める。


「じゃあ寝る...来たら起こして...」

「―――死神じゃねえが、なんかクレイジーな野郎が出てきたみたいだぞ」


 窓の外を見たギルバートの言葉に、彼女の耳がピクンと反応する。


「どんな?」

「見た方が早いだろ」

「わかった」


 彼女は音もなく浮き上がり、窓の傍に移動した。



       ◇



「ケヒャヒャヒャヒャッッ!

 吾輩の名は、オル。

 おみゃーらの不甲斐なさに、ジャス様とサリー様がお嘆きだ!

 もう帰って新たな疫病でも開発しようかと、お話であったひょい」


 突然、街で一番高い建物の屋根に乗って現れたのは、頭からつま先まで真っ黄色の服で揃えた男。

 彼は下を見回して、飛び降りる。

 ―――しかしそこは丁度、ランク6の冒険者たちの前だった。


「ゲゲッ!? こ、こりゃマズい。

 ...逃げるが勝ちなのであーる!」


 オルは冒険者を見て大仰に驚くと、背を向けて一目散に逃げだした。


(あーるは被るから止めるーる!)

(了解だひょい)


 というやり取りがイヤフォンから流れてきて、イザが思わず本気でコケた。

 

「隙あり!」


 と、勇んで打ちかかってきた等級(ランク)5冒険者を躱し、彼は翻弄を続ける。



 オルが逃げ出したのを確認したランク6達は顔を見合わせた。

 

「どうする?」

「住人に積極的に危害を加える気はないみたいだし、3つに分かれて追い払いましょう」

「だな。飛べる者は空の「レン」、速さに自信がある者は「イザ」、柔軟に対処できる者が「オル」に向かおう」

「了解!」


 短く決めた後に、一斉に散開した。

 普段はソロで活動していることが多い彼らだが、皆協調性も高いのだ。


 

 レンは、3人の冒険者たちが宙を飛んで向かってきたのを見て、嬉しそうに出迎える。


「ヒヒッ、よう来たーる。さあ、遊んでくれーる!!」


「貴様、魔法で声を変えているが、その動き...実はまだ若いだろう!?」

「一般市民は騙せても、私たちは欺けないわよ」

「下の白い「イザ」といい……正体を知られたら不味い事でもあるのか!?」


 3人は警戒しながらも、気になっていたことを問う。

 だが思いっきり図星を突かれても、レンは動じない。


「よう見抜いたーる! その銀の腕輪に恥じない観察眼、誇ってもいーる。

 実力がついてきているかどうか、試させてもらうーる!!」


 ヒヒヒ! と不気味に笑いながらも、靴の通信スイッチをそっと押す。


(イザ、気を付け―る。ワシらの後輩(ヒヨッコ達)、意外と鋭いーる)

(レン、喋り過ぎるなよ...?)


 イザに心配されつつ、レンは戦闘を開始した。

 得意な光魔法を使用すると身バレの恐れがあるので、他の属性の魔法でいく。

 

 自分に魔法重視の結界を張りつつ、前触れもなく全方向に氷の刃を撒き散らした。

 そのダメージを結界を張って緩和する者、対抗するように炎の魔法攻撃を放つ者、風魔法で氷刃を吹き飛ばす者に対応がわかれる。


 炎を放った者が魔法を止め、敵を確認しようとすると―――

 目の前に、迫っていた。

 自分の攻撃で、前が見えていなかったのだ。


 魔法結界を張っているレンは構わずに突っ込んでくることが出来るのだから。

 

 一瞬硬直した彼の前に、結界を張った者が飛び込んでくる。

 だが今度は、レンがその対応を予測できていなかった。

 水魔法の攻撃で炎の者を消し飛ばそうとしていたところに、急に目の前に「結界」。


 手を引こうとしたが間に合わず、普通の水流だけで結界を破壊し(・・・・・・)、二人まとめて倒してしまった。

 内心「しまった!」と思いつつも、余裕の声音で、残った者に声をかける。


「ヒッヒッ。不甲斐ないのう!

 あとはオマエだけーる」


「...なっ、なんだその能力(ちから)は!?」

「気にしたら負けーる。隙あーる!」


 このまま続けたらバレーる…と思ったレンは、驚いて隙が生じた残りの一人も、水流で押し飛ばした。

 


 イザは、追跡者に追われていた。

 街中のモノを引っ掻き回して倒しつつ追跡者の進路を塞ぎ、屋根に飛び移ったりしながら、彼らがついて来られるギリギリの速度を保っている。


「くそっ、なんて速いんだ!」

「俺たちでも追いつけないとは…スピード系冒険者としてのプライドが…」

「でもアイツ、何がしたいんだろう…」


 その言葉に、イザは涙が出そうになる。


 彼らは、冒険者たちを中心とした街の人たちが一丸となって、力を合わせて対抗してくれる事を望んでいた。

 しかし、なかなか上手くいっていない。

 人々の間には「冒険者たちに任せよう」と言う空気が流れ始めている。


 やろうと思えば、飛ばずに逃げ回る彼の進路を人海戦術で塞いで確保することもできるのに。

 そのためにわざわざ、速度を落として駆けているのに。


(オル、僕の方は上手くいっていない。

 任せてもいい?)

(ケヒャヒャ、お任せあれっひょい!)



 ―――任せることにした。

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