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金魚戦記  作者: 悠布
3章 南橘北枳
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69話 まずは恰好から

「できたぞーー!」


 そう宣言しつつ、堂々と洞窟の外に出る。

 待っていたレイラとイズナが、嬉しそうに駆け寄ってきた。


「まさか1件目で成功するとは思わなかったある!」

「どうやったの、ベニッピー君?」


「ふはは、聞いて驚け。

 身体から魂を切り離すのだよ!」


 それ以上の詳しい事は聞かれてもわからぬぜ。

 今だって、勘と天啓で成功したのだから。


「だからもう安心だ。うっかり味方に誤射する事はない」


 俺、安全だろ?

 と得意げに二人を見ると、レイラはポカンとし、イズナは苦笑していた。


「ちょっと想像の斜め上あったね…」

「うん、なんというか…最も合理的な即死系能力?」


 合理的。

 良い響きだ。


「よし。じゃあ新能力の練習も兼ねて、残り全ての依頼を片付けよう!」



 スキップをし始めそうな勢いのあるベニッピーを後ろから眺め、二人は顔を見合わせて笑った。


魚生(ぎょせい)の目的ができて、前より生き生きしてるね。楽しそうでなにより」

「心残りも…消えたあるから。色々と決めて、吹っ切れたあるね」

「本当に、彼が敵にならなくて...良かった」

「足を引っ張らないよう、ワタシたちも頑張るある」



       ◇



 ちゃちゃっと3人で依頼を片付け、結構まとまった報償金を貰ったので、そのお金で悪役グッズを買おうと思う。

 黒い服は受け取ったが、それだけでは足りぬ。

 今のままでは人類の敵として、ヒト前に姿を現すことができないのだ!


 と力説したら、イズナには共感され、レイラには脱力された。


「視覚から訴える、見た目は大事だよね」

「そのノリ、いつか絶対見抜かれる気がするある……」


 悪い奴の普通のノリなんて知らん。

 俺のノリが悪役のノリと化すのだよ。


「そういや、レイラ程じゃなくても、鎧みたいな防具が欲しいと思っていたんだった。

 どこか良い店知ってるか?」


「任せるね!」


 言うなり、彼女は俺たちを連れてどこかに転移した。




 出現した場所は、どこかの国のどこかの通り。

 主に歩いているのは人間だ。


「まだ人化しなくていいあるよ」


 と言われたので、回復しつつある魔力を無駄にしないために、そのままでいる。


 レイラはスタスタと先を歩いて先導すると、一軒の防具屋の前に到着した。


「ここは人間の国に出店しているドワーフ族の鍛治屋ある。いつもワタシの防具がお世話になってるね」

「へぇ…」


 看板には「防具」と書かれているが、店構えが防具屋のそれではない。

 お化け屋敷だ。

 おまけに扉の前に「防具、とは何か。その質問に答えられなければ、帰してもらえぬと思え」と、張り紙がされている。


「一見さんお断り、どころの雰囲気じゃないな」

「ふふん。用意はいいあるか? ベニッピー、イズナ」

「おう」

「えっ、僕も!?」


 連れも、答えないと出られない!?

 と動揺する彼も引っ張って、レイラはずんずん店内に入った。

 

 内装も…お化け屋敷だ。

 防具は一つも展示されていない。


「ちわー! レイラが新客連れてきたあるよー!」


 すると、店の奥からお化け屋敷の主が現れた。

 冗談じゃないぜ?

 本当に、顔に穴を開けた白い布を被っているんだ。


「がおぉぉぉー!

 いらっしゃーい……恨めしや……」


「......。」

「......。」


 ()は、俺とイズナに挨拶?した。

 なんて答えたらいいのかわからん。

 ていうか俺、魚だけど何も言われないな。


「よし。一次試験、合格だ」


 何もしていないが合格してしまった。


「今ので、驚いたり引いたり怒ったりして帰ったら不合格ある」


 レイラが笑いながら解説してくれる。

 

 な、なんてお茶目な…

 二次試験に行く前に帰す気満々だな。

 店としてやっていけているのだろうか。


 すると主は布を取り去り、一人のドワーフが現れた。

 彼は腕を組んで、鼻息荒く質問する。


「続いて、本題だ。

 防具、とは何ぞや!?」


「身代わりだろ」

「諸刃の剣すね」


「......よし、合格!」


 なぜか合格してしまった。



       ◇



「防具ってぇのはな、いざって時に自身の代わりにダメージを受けるものだ。

 そんな簡単な質問に答えるのにも迷いが生じるような奴は、そもそも戦いの場に行くもんじゃねぇ。

 いくら優れた盾や鎧があっても、死んじまうからな」


 現在、店主は人化した俺の採寸をしている。

 寸法を計りながら、ちらりとイズナに眼を向ける。


「諸刃の剣か。確かにな。

 防具に頼って油断して死んじまったり、鎧の重さで咄嗟に逃げられない、躱せないって事も多いからな」


「...そう、すね」


 どこか遠くを見るイズナは、何かを思い出しているようだ。


「レイラ、おめぇはお節介だが、正解だ。

 この坊や、籠手と脛当てしか防具つけてないだろう。

 手足は守れても、一番大事な臓器は守れねぇ」


「あ、いや僕は…」

「胴体とは言ってねぇ。おまえさんの理想の防具に、今まで出会えなかったんだろ?」


 俺の寸法を計り終えると、店主はイズナに向き直った。


「死んじまったら回復魔法も届かなぇからな。

 せめて死ぬまでの時間を延ばしとけ」


「...はい。…よろしくお願いします」



       ◇



 防具屋を出て、帰路につく。

 出来上がるのは、もう少し先になるそうだ。


 

 俺は、鎧をゴテゴテに装飾してほしかったのだが、


「ああん? ギラギラのトゲトゲだとぉ?

 てめぇ、何になるつもりだぁ」

「誰もが一目見てわかるような、ザ・悪者(わるもの)


「んなもん、ただのチンピラだ。真のワルってやつぁ、悪者に見えないから怖いんだよ。

 聖人の正体が悪魔だったら怖いだろ?」

「いや、そんな本当にありそうな話をされても…」


 店主は俺の腕を刃物でツンツンして「硬ってぇな…」と呟きながら、防具の素材に頭を巡らせているようだ。


「とにかくな、ヒトはわからないモノが怖ぇんだよ。

 とびっきりスマートでダークにしてやるから、任せとけ」

「なんだそれ!?」


 というやり取りの後、全て彼に任せることにした。

 もはや鎧にキャラを合わせるしかあるまい。


 イズナも、小さくて軽い胸当てのようなものを注文していた。

 攻撃なんて、確かに当たらなければ無いも同然だが、彼は俺みたいにカチカチじゃないからな。レイラの判断は正しかったと言えるだろう。


 

 

 海底に帰ると、家のトレーニングルームに疲れきったサトリとガルが居た。

 天然(ナチュラル)二人でまた何か始めたのだろうか。


「今度は何してんだ?」

「停止した時の中で動く訓練だよ」


 ?

 時間が止まったら、止めた本人以外は動けないだろうに。

 ……。

 動くつもりなんだな。

 後で俺も混ぜてもらおう。


「ベニッピーは、謎の能力の正体わかったの?」

「ああ。身体と(たましい)を断絶させていたみたいだ」

 

 試しにガルの(コア)をじっと視てみる。

 高山から見る、深い青空のような色だ。


「おまえには通用しなさそうだな。

 まだ切断できる気がしない」

「できるようになっても、切らないでくれよ」

「わかった」


 互いに笑ってしまった。


「わたしのは? 切れそう?」


 面白そうに食いついてきたサトリの魂も視る。

 こちらは、早朝の新雪を思わせる純白だ。ちらほらと、(きらめ)く紫紺の星が混じっている。


「頑張ればできると思うぜ」

「じゃあ、頑張らないでね!」

「そうしよう」


 彼女とも笑いあっていると、イズナが首を傾げた。


「魂の格によって、不可がわかれるのかな?」

「かもな。おそらくだが、格?が高くない魂ほど、切断しやすいんだろう。

 生き物じゃなければ、もっと(コア)との接続を断ちやすい」


 そう言って、窓から見える庭の石にターゲットを合わせる。

 核がどこかなんて探す間もなく、「断とう」と少し思っただけで、岩が砂へと変じて崩れ去った。


 レイラが外に出て、感心したように砂を触る。


「無生物だと、「(かなめ)破壊」に近いのかもしれないあるね」

「あぁ、そうかも」


 モノの中心にある、最も重要かつ弱い部分。

 そこを(つつ)いて軽い力で分解している感じだ。

 解体業者になれるな。



「そういえば、カウラの方はどうなってた?」


 サイラス王は無事かな?

 そう思って問いかけると、イズナがなんとも言えない顔になる。


「あー、すごいゴタゴタしてたな…」

「ごたごた?」

「カウラだけじゃなくて、魔大陸全体が騒ぎになってるけど」

「ひょっとして、クーデターがもう起きた?」

「まあ、そう」


 そっか。

 大陸全体が、ゴタゴタ。


 ......フフフ。

 利用させていただくしかないな!


「こちらも準備ができ次第、魔大陸に行こう。

 そして適宜、引っ掻き回す!」



 そしてやっと作戦会議が再開され、案が決まった。



       ◇



 その後、オライに頼んでウラリーの所に連れて行ってもらった。

 彼女は俺を見るなり、角度120°でビシィッと頭を下げる。


「実は最初から半分裏切っておりました!

 申し訳ありません!!」


「いやいや、いいって。家族の安全を脅されてたんだろ?

 どうしようもないじゃん」


 慌てて頭を上げさせようとしたが、上がらない。


「ラフキンに転送された者が利用されることが分かりきっていたのに、従ったのは自分です。

 私の家族は助かりましたが、ベニッピーさんの家族は……」

「......。」


 誰にも言うつもりの無かったことだが、彼女にだけは言っておこうと思う。


「ウラリー、笑うなよ? これは…魚の本能というか、常識なんだが…」

「は…はい?」


 オライにも聴こえないように、コソッと告げた。


「俺は、ーーーーーーー、ーーーーーーーーーーと思っている。だから、考え方を否定してくれるなよ?」


 ウラリーは目をぱちくりさせた後、フッと力を抜いて微笑んだ。


「わかりました。気に病むことは止めます。

 教えてくれてありがとうございます」


「よかった。

 今日はお礼が言いたかったんだ。この前悪魔に殴られた時に、サークレットが役立ってくれてな。助かった、ありがとう」


 額の金冠を指差すと、ウラリーは目を見張る。


「その硬い緑の魔石にヒビが入るとは…

 お役に立ったようで何よりですが、作り直さないとダメそうですねぇ」


 まじか。

 魔石の交換だけでいけるかと思ったのに。

 それはちょっと申し訳ないわ。


「作り直しは大変だろ、新しい魔道具はもういいよ。

 なんだかんだ言って、この能力凄い便利だしな」


「いえ、是非とも作らせてください!

 難しい魔道具を作るのは燃えるのです。私の趣味なのです!!」

「お、おぅ...じゃあ、よろしく...。

 お代はいかほどで?」


 彼女の事だから、「趣味だから(カネ)は要らない」とか言われるかも…と思ったが、そうはならなかった。


 目をギランギランと光らせて、何やら超高速で考えている。

 頭の中を飛び交う宝石名と金属名の思考が、流れ込んでくる。


 やがて、研究執念の奔流は落ち着いた。

 しかしまだ、何やらブツブツ悩んでいる。


「色や金属との相性的にも硬度的にも、魔石に加工した時の便利さもやはりダイヤモンドがいいのですが…

 へき開の問題だけはどうにも...」


「へき(かい)って何だ?」

「そこに力を加えると簡単に砕けてしまう、弱っちい面のことです」


 ......。

 試してみようか。


「ウラリー、ダイヤモンドみたいな性質の砕いてもいい石、今持ってるか?」


 彼女はポケットをゴソゴソ漁ると、一つの宝石を取り出した。

 マジで待ってたよ。


 その石の(コア)となる部分を視定(みさだ)め、弱い部分との(・・・・・・)結合そのもの(・・・・・・)を切断してみた。

 

「仕掛けをしてみた。ちょっと砕いてみてくれないか」

「? わかりました」


 頼むと、不思議そうな顔をしながらもハンマーを持ってきて、砕こうとしてくれた。


 ―――砕けない。よし。


「ダイヤモンドでもいけそうだな」

「な、な、な、っっ……!!」


 驚愕の表情を浮かべて後ずさる彼女はしかし、キッと俺を振り向くと、宣言した。


「ダイヤモンドを填めます!

 オリハルコンの(もと)を、採ってきてください!

 それが素材であり、お代です!!」


「了解」

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