58話 解けゆく事実 ①
ここからしばらく…65話までシリアス展開が続きます。
苦手な方はご注意ください。
次の日。
俺、サトリ、コダ爺、イズナ、レイラの5人は、レイラの転移魔法で、神のいる場所の近くまで来ていた。
魔大陸の南南西にある「南メアリ大陸」。その北西部に位置する海域の上空に、この世界を管理・調節する「神」の事務所?執務室? のような空間があるという。
そこに直接転移はできないようで、とりあえず今はその下にある小さな島の上にいるところである。
あとは普通に上に飛んでいくだけ。
最終・作戦確認を行う。
「前回と違って、今回は何が起きるか予想できないある。想定外の問題には臨機応変に対応するとして、やるべきことは基本的に一つある! はいベニッピー、どうぞ」
「まずは俺とレイラで神さまに鑑定魔法。でも前回のレイラの鑑定は通じなかったから、期待はできない。
だからコダ爺により、神さまが不本意で仕事をサボっているかの確認が取れ次第、皆で連携して神の救出・敵の排除を行う」
「そうある。今は別に、悪魔討伐に来たわけじゃないあるから、例え他に何を見たとしても心を無にして...」
そう言いながらもレイラは、途中で言葉を切ってしまった。
最近ずっと忙しくてあまり考えている暇は無かったが、悪魔がグレイプニルの鎖を作らせているのは「炭鉱族」。彼女にしてみれば、思うところしかないだろう。
サトリがレイラの肩にポンポンと手を置く。
「冷静でいれば、何があっても上手く対処できるわよ。……本当に、何があるかわからないんだから...内心だけでも余裕を持たせておくの」
サトリは自分にも言い聞かせるようにしながら、上空を見上げている。
...盛大に何らかの旗を立ててくれたぜ。
今の言葉で、こっちの内心の余裕が吹き飛びそうになってるんだが。どうしてくれる。
現在の心理状態を例えるならば、そう―――RPGにおいて推奨攻略レベルより数Lvも低い段階で、転移・脱出・セーブ不可能な中ボスの居城に踏み込む時のような...
って、自分自身の体験譚じゃないけどな。俺はそれを見ていただけ。
怖いものは怖い。空中移動に適応したって、魔法が使えるようになったって、身体能力が跳ね上がったって俺は金魚。
たぶん本能は、ヒトよりもずっと強い。平気そうな顔は外面だけだ。
本当に偉いと思うんだよね、俺。結構、今までずっと気張っているんだぜ。
ご主人に頭ナデナデしてもらったって誰も文句は言わないだろう。まぁ、実現不可能なんだがな...
これが終わったら、一息ついて海底に帰ろう。
冒険者のフリして地上を冒険しながら情報収集して、魔大陸で起きているゴタゴタにも面白半分で首突っ込んで、まだ行ったことの無い場所にも行きたいな。
スローライフとまでは言わないが、もう少しのんびりと魚生を謳歌したいものだ。
「ほれほれぃ、まずは目先の問題を解決してからじゃ! そうしたら皆で故郷に帰るぞい」
平和な妄想を広げていると、コダ爺の声に現実に引き戻された。
そうだった。仕事を終わらせねば。
真っ直ぐに上空1㎞ほど飛び上がっただろうか。
突然空気が変わったと思ったら、眼前に広大な空中庭園が出現していた。
下からはまるで見えなかった。
いくつもの大きな岩が宙に浮かび、その上に植物が生えたり小さな池が乗っかっている。
それらの浮島を繋ぐ橋みたいなものは、特にない。
向こうの方に、静謐な雰囲気の神殿のような建造物が見える。
「何あれ、神殿か?」
「神を祀る場所じゃなくて、神が居る所だから……宮殿? いや、やっぱ仕事場かな...」
イズナが首を傾げつつも答えてくれた。
既に来たことのある2人に先導されながら、その建物へと進んでいく。
途中で何かアクシデントが発生してもいいように構えていたのだが、何も無かった。
何も起きない分、徐々に緊張感が高まり、互いに無言のまま建物の扉を開ける。
鬼が出るか蛇が出るか―――。
警戒しながらくぐった扉の先を見て、前を歩いていたイズナとレイラが立ち尽くす。
その原因は、すぐにわかった。
魔族と、ドワーフ族と、人間。
3つの種族に属す複数のヒト達が、奥の椅子に腰掛けているナイスミドルの前に並び、こちらに向かって武器を構えていた。
「......」
向こうは黙ったまま、敵意を剥き出しにしている。
……。
ダメだ、状況がわからなすぎて思考が停止する。
奥に座っている虚な目をしたダンディな壮年男性が、神のフェンリルか?
その前の彼らはどなたでしょうね。
なんでこの場にいるんだ。
あ、そうだ鑑定。
【 ――――(フェンリル) 】
―$’H,%d?:#”〈;y+&‘’□g
~⋮¦⋮⦆△◎fw!*∥∻≠∤☆¥$#⃣ー
=aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa
...おぉ、見事に読めないぞ。
こりゃ、多分レイラも無理だろうな。
ポケッとしていると、そのレイラが声を絞りだした。
「...何、してるあるか。大叔父さん」
彼女に大叔父さんと呼ばれたドワーフ族の男性は、レイラをちらりと見やると、視線を逸らす。
「レイラか。……おまえは騙されている。こっちに来なさい」
「…ちょっと何言ってるかわからないあるな。とりあえず何の目的でそこに居るのか、説明してほしいある……」
ほとほと困り果てた様子で頭を抱えるレイラ。
兜をコンコンと叩いて首を傾ける。
大叔父さんは、表情を引き締めて俺を睨んだ。
「神を弑さんとするそいつから、神を守るためだ」
「……グレイプニルの鎖を作らされていたのは、大叔父さんたちあるね? どうしてその結論になってるあるか?」
うむ。想定外の事態に頭が追いつかん。
「悪魔を脅して魔族に鎖を作らせ、神の動きを封じる。
その上で、先代神が守る、神の結界の「核」を盗み出して破壊した」
「そうだ! 俺たちは見たんだぞ、お前が結界を壊すまでの記録映像を、その対の水晶となるこれで!
貴様を止めるために悪魔がその場に向かったが、お前たちに倒されたのだろう!?」
そう言って一人の魔族が手で示した先には、半透明の黒っぽい大きな水晶玉が載った台座がある。
――そういや、水晶って監視装置の役割も果たせるって、前にケヴィンが言ってたな。
ずっと動かなかった水晶玉だが、あの時急に激しく移動を開始したことで、監視モニターのスイッチでも入ったとか?
盗み出した、か。
うーむ……確かにそう見えなくもなかったかな…。
しかし、鎖云々の事はおかしいだろう。
だいたい、俺が悪魔の企みで召喚された際には、もう鎖は作られていただろうし。
――ん?
「なぁ、鎖を作り始めたのっていつだ?
それと、俺のことは、どこの誰だと思っている?」
絶対に認識の相違があると思い、その場にいる全員に向かって聞いてみた。
彼らは顔を見合わせた後、口々に言う。
「...作り始めたのは2年前だ」
「突然変異で誕生した、世界を滅ぼそうとする魚だろう」
「いや、おれは、召喚された事にブチ切れた、異世界の者だと聞いたぞ。怒って、神を滅して世界を狂わせようとしていると」
「先代神を騙して懐に潜り込み、水晶を奪ったのだろう」
...なんと、散々な言われようだ。
濡れ衣にも程があるぜ。
思わず遠い目をしてしまった俺だが、代わりに仲間が弁明――というか怒ってくれた。
「2年前なら、ベニッピーはこの世界に来ていないわよ!」
「だいたいどうして、直接確認もしていないのにそんな重要な事を鵜呑みにするんすか!?」
「水晶を奪ったんじゃなくて、破壊しようとするバハムートから逃げて守ったある! 壊したのだって、ワタシたちが―――」
レイラの言葉か途切れたのは、大叔父さんとやらがそっぽを向いたからだ。
その仕草に一瞬言葉を失った後、彼女は恐る恐る問いかける。
「まさか...知ってて、悪魔に協力していたあるか……?」
「…そんなわけがないだろう」
答えるまでに、僅かな間があった。
レイラとイズナはそれでわかったようだが、俺とサトリ、コダ爺は最初から少しずつ読んでいた。
人間たちは、騙されている。
俺が神を弑して世界を滅ぼそうとしていると、悪魔に吹き込まれて一応信じ込んでいるのだ。
……その他に、囁かれた誘惑もあるようだが。この場に居る彼ら皆の性格が下種そうなのは、偶然か?
―――いや、違うのだろうな。
魔族は、半々といったところか。
先程声を荒げた者は騙されているようだが、知っていて知らないフリをしている者もいる。
カウラを狙っていた、ラフキンの連中だろうか?
そしてドワーフ族は、この場に居る全員、事実を知っている。
俺が魔族に召喚された異世界の者で、神を倒しに来たフリをして、実は救出の機会を窺っていることを。
それでもなお、悪魔に協力している理由は―――
「...金か」
俺が呟くと、少し言葉に詰まったドワーフ族は、悪びれる事無く肩を竦めた。
「悪魔はな、グレイプニルを高値で買い取ってくれるんだよ。気候の狂いや魔物の増加、疫病の流行なんか、地下で暮らしている俺たちにとっちゃあ関係ない。
騙されているフリをして何が悪い。続けば続くだけ、大金が舞い込むんだ」
「信じられないある……! か、関係ないって、そんな……!
ドワーフの恥ある...っ!!」
怒りに震えるレイラから、じわじわと魔力が漏れ出している。
彼らの話を呆気にとられて聞いていた人間たちは、やや迷ったようだが、武器を下ろすことはなかった。
それは。
「...ま、本当におれたちが悪魔に騙されていたとしても、関係ねーな。
ここに来るのは見目の良いヤツらばかりだから、とっ捕まえれば高く売れるって言われたんだ。実際、その通りだったよ」
自分にとって都合のいい、信じたい部分だけ信じる。
あとは知っても知らぬふり、聞かなかったことにするのか。
世界規模の危機など、本当に関係が無いんだな。言い訳に使えるなら、何の問題にもならないという顔をしている。
ジロジロと見ないでいただきたい。
実に不快な視線だ。
もういいや、ゲスは一旦置いておこう。
はい次、魔族さん。
「悪魔に言われて俺を呼び出したのはいいけど、カウラの魔族と仲良くなったりしてやっぱり邪魔そうだから消そうって?」
「...それもあるが、他に―――」
魔族の一人が素直に答えてくれようとしたところで、妨害が入った。
突如、空を裂いて女が一人現れたのだ。
「余計なことを言うな。黙って、あいつらの邪魔をしていろ」
女はエラそうに、魔族に対して命令した。
…なに?
ここに直接、転移魔法は使えないはず...ということは。
「奴は悪魔「ネビロス」。今姿を現したようじゃが、最初からおったぞ。
...どうやらやはり、ワシにしか見えておらなかったようじゃな」
俺の肩に乗ったコダ爺が、難しい顔で相手を見ている。
「...ひょっとして、他にもいるのか? …悪魔」
「おる。神の横で鎖を守っているのが、悪魔「サーガタナス」。不可視の術式は、奴の仕業じゃな。
近くに、結界を張っている悪魔「カシモラル」もおるな。……むぅ? 奴は……どこか変じゃな……」
コダ爺は、眉を顰めながら首を捻りまくっている。何かが不自然らしい。
鑑定魔法が文字化けしているのもサーガタナスとやらの仕業っぽいな。
「それと...悪魔ではないが...」
一旦言葉を切った彼は、言おうかどうか迷って―――止めたようだ。
「どうせ後でわかる。敵ではない。今は気が散るから、さっさと神を救出してしまうのじゃ」
「? ――わかった。それにしても、見えない奴らを相手にどうやって...」
「とりあえずサーガタナスを倒せばよいの」
軽く言ってくれるねぇ。
……よし、やるか。
「――っし。行くぞ。 敵は、見えない悪魔サーガタナス。不可視の術式が解けるまで、とにかく攻撃だ!」
「了解ある! この怒りの矛先、代わりに受けてもらうあるね...!」
「相手は違うけど、不快指数を高めてくれたお礼をしてあげるわ」
「......」
あ、無言のイズナから怒りの波動が。静かにピキピキしていたんだな。
そうして俺たちは、周囲の者達は一旦無視して、戦闘陣形に散開した。




