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金魚戦記  作者: 悠布
2章 家書万金
58/92

57話 準備完了

 パッと、カウラ城の前に出た。

 久しぶりの空気だ。人化しているが、身体がみるみる乾燥していく気がする。


「あー、やっぱり地上はいいわね! 明るいし、泡の結界を張り続ける必要も無い!」

「うむうむ。やはり土と()は良いのう!」


 俺とは対照的に、サトリとコダ爺は水を得た魚だ。いや、俺が、水から出た魚なんだが。



 城の中に入ると、前に来た時よりも警備が厳重になっていた。

 巡回している兵士が多いせいか、立って無駄話をしている者も少なく、空気が少しピりついている。

 

 以前にいた部屋へと足早に向かい、扉を開けると、ケヴィン、イズナ、レイラが何やら真剣な様子で話し込んでいた。


「戻ったぞー。どした?」

「ベニっピーか。聞いたぞ、色々と大変だったらしいな」


 ケヴィンが片手を挙げて迎えてくれた。

 そういう彼も、どことなく疲れた表情(かお)をしている。


「まあ...な。それより、そっちも何かあったみたいだな」

「ああ。……忠告を受けていたのに、サイラス王の事で...」


 手を額に当てて、なんだか落ち込んでいるケヴィン。

 彼に代わって、二人が説明してくれた。


「口にした何かに毒を盛られて、臥せってしまったある」

「いつ、なにから何の毒物を摂取したのかわからない状況みたいで...そんなに重症ではないようだけれど」


 まじか。

 ひょっとして、なまじ「襲撃に警戒を」とか先に言ったせいで、そっち(・・・)方面の警戒を(おろそ)かにさせてしまったか……?


 俺の焦った様子で察したのか、ケヴィンが首を振る。


「一応、食事や飲料の毒見は以前から行われてはいるが...はっきり言って、いくらでも穴はあったからな。

 防ぎようが、なかった」

「そっか。でもなんで、病気じゃなくて毒だとわかったんだ?」


 その状況じゃ、普通はまず病気が疑われるよな?


「急遽、召喚師達が「鑑定魔法の付与」の魔法陣を作製して、城の専属医師に覚えさせたのだ。

 その結果、病ではなく毒物だと判明はしたが―――それ以上の詳しい情報は得られなかった」


「たぶんワタシならもう少し詳しく鑑定できると思うある。でも、サイラス王の寝室に近づかせてもらえないあるね...」


 土壇場になって今更、医者が覚えたのか「鑑定」? と一瞬思ってしまったが、確か「収納」「転移」と並んで特別な魔法だったな。

 俺とレイラは、神さま討伐メンバーとしてほいほい貰ってしまったが、やはりそれは普通ではなかったということか。


 残念そうに言ったレイラだが、ビシィィっと俺を手で示す。


「ということでベニッピー、急いで忍び込んでくるね! キミならもっと詳しく鑑定できるはずある!」



       ◇



 夜。ではなく昼。

 あの後すぐに追いたてられるように部屋を出された俺は現在、サイラス王の寝室の窓の外に、小さくなって浮かんでいる。


 このまま覗ければ鑑定できるかな?

 とも思ったが、普通に見えない上に、魔力を通さない結界が張ってある。


 さて、どうするか。

 換気口も覗いてみたが、ここも結界アリ。内部を起点として、部屋全体を球状に覆っているようだ。


 では、正攻法でいこう。

 そうとも、俺はⅤⅠA(ヴイ アイ エー)。後ろめたい名無しのスパイではない。



       ◇



「失礼いたします。本日の昼食とお薬をお持ちしました」

「ありがとう。入っとくれ」


 上からノックの音と会話が聞こえ、俺が下に隠れた台車(カート)が動き出す。

 まさしく正攻法! 標的の部屋への侵入法 ()(いち)「カートの下に潜む」。小さな金魚にピッタリ。


 室内に入った後、そっと顔を覗かせてサイラス王を鑑定する。

 顔色は良くないが、身体の動きはそこまで悪くはない…な。



【 サイラス・ランバート(魔族) 】


  性別:男

  年齢:57歳

  健康状態:不良(スイセン毒の複数回にわたる服用による)

  趣味:ウォンバタスやカンガリーといった、野生魔物の観察

  性癖:木製品の収集(ぐせ)

  座右の銘:明日は明日の風が―――



 ちょーーーっ!

 これ以上はストップ、プライバシーの侵害ぃ!!


 と、慌てて顔を引っ込める。


 自分の時はそんなに情報出なかったのに、他者に鑑定を使うとこんなに色々出るとは。

 こりゃあ、気軽に使われないわけだわ。

 知りたかった情報に加えて、趣味や座右の銘までついてきたぜ。


 ...ま、とにかく毒物の種類はわかった。




 台車の下に潜んだまま寝室を出て、元の部屋に戻った。


「わかったぜ。種類はスイセン毒。現在も、継続摂取中っぽいな」

「そうか...ありがとう」


 ケヴィンは感謝を述べてくれたが、肝心な摂取経路とかはわからなくて少し申し訳ない。

 するとイズナが不可解そうに眉を顰めた。


「スイセン……どうしてそんな弱い毒を...?」

「弱いのか」


 彼は頷いて、説明を付け足す。


「有毒植物の中でもかなり弱い方だよ。有名なトリカブトなんかは、その数千分の一の致死量で済むからね」

「へぇ...」



 その後、皆で首を捻ってその理由をあれこれと推測してみたが、それ以上の情報が無いため、あくまでも予想の範疇を出なかった。





 翌日、朝からお呼びがかかった。

 準備が整ったのだ。

 ―――そういや俺、神さまがどこに居るのかとか、どうやって行くのかとか、全然知らないな。


 我ながら、こんな状態で良いのか? と思う。

 …まぁ、お膳立てしたのが、きな臭さプンプンの悪魔たちだろうから、良いのか…な...?


 イズナとレイラと共に「召喚棟」に向かう。

 俺が、この世界に初めて降り立った場所。

 特に感慨とかは無いな。


 建物内に入ると、さすがにというか、その造りには見覚えがあった。

 あの時は窓を割って外に出たんだっけ。

 

「名前は召喚棟だけどさ、実際は他にも色々とやってんだな」

「最初は召喚魔法の研究ばっかしてたみたいあるよ。

 だんだん「魔法陣棟」になっていった、って召喚師たちが言ってたある」


 レイラは結構詳しいようだ。

 イズナは俺と同じく不慣れな様子である。


 廊下を歩いていくと、白衣を着た研究者風の魔族に出迎えられた。彼は丁寧に一礼すると、口をひらく。


「ようこそおいでくださいました、レイラさん、イズナさん、ベニッピーさん。

 大変お待たせしてしまい、申し訳ありません

 私は、現召喚師長のクライフと申します」


「問題ないある!」

「結果的には、かなりタイミング良かったよな。

 ……あ、そうだ。以前、窓割った上にしばらく行方不明になって悪かったな」


 俺が謝ると、クライフは慌てたようにブンブンと首と手を振った。


「いえ! 元はといえば、こちらが勝手に呼び出した挙げ句、無礼を働いて、勝手に逃げ去って隠れたせいです。

 その節は誠に失礼をいたしました...」


 おぉ、こっちに来た時、この人もあの場に居たのか。

 

 気にしていないことを彼に伝えると、ホッとしたような表情になる。

 当時、互いに怖がって逃げ出したと思うと笑えてくるな。



 クライフについて歩き、どこかの部屋に入ると、ギラギラと輝く魔法陣がいくつも床に用意されていた。

 

 レイラが感嘆の声をあげる。


「すごいある! よくここまで強力なものを構築できたあるな!

 ―――あ、こっちは感覚上昇、そっちは…え、まだ身体強化と魔力増幅できるあるか!?」


 目をキラキラさせて床の模様を食い入るように見つめるレイラに、クライフが苦笑する。


「見ただけでよくわかりますね。...そうです。そちらが―――」


 と、説明してくれた。


 ①外部からの、強力な結界破壊能力を付与するヤツ

 ②身体強化・改

 ③魔力増幅・改

 ④感覚機能の上昇


 であった。


「結界破壊って、謎の透明なシールドとやらに対抗するためか?」

「はい。かなり作り込んだ自信作ですので、大抵の結界なら薄氷を割るように砕けるかと。もっとも、自分が内部にいる場合は通用しませんが…」


 うーん。

 やっぱり、ガルが張ってた結界を事前に撤去できなかった時のために、彼らにその効果のある付与魔法陣を用意させたような気がしてきた。


「まだ身体強化できるんすか? 今でも、ハエを箸で摘んだら一瞬で潰れる程度には強くなってるっすけど…

 これ以上筋力強化されたら、箸が折れないすか…?」


 イズナがよくわからない例えで、箸を心配している。


「大丈夫なはずです。その為に、感覚能力向上も同時付与していますから」


 クライフは自信たっぷりに言うが、その様子があの(・・)召喚(フリーク)と重なって、ちょっと怖い。

 ...いや、乗るんだけどね? 乗りますから……もういいや、なるようになれ。



 3人それぞれ、指示された魔法陣に乗っかる。

 

 ビビッと身体に流れる不快感。

 やっぱりコレキライ。

 ...受け取るだけで色々能力が上昇する有り難いモノだから、文句は無いのだが。


 

 ややして、俺たちの魔改造が完了した。

 といっても、当然見た目が変わったりとかは無い。

 クライフがわくわくした様子で、身を乗り出してくる。


「早速試してみましょう!

 どなたか結界を張って、誰か壊してみてください」

「ワタシも見てるから、ベニッピーの結界をイズナが壊してみるある!」


 レイラも積極的に見物に回った。


「どのくらいの強度で張ればいい?」

「とりあえずMAXで!」


 迷いなく断言されたので、仰せの通りに全力で物理防御結界を自分に展開する。

 

「ど、どうやって壊せば…?」

「武器でも素手でも、念じながら攻撃すればよいのです!」


 イズナの問いに即答するクライフ。

 アバウトだな。


 若干引き攣りながらも、小太刀(こだち)を構えるイズナと、それを迎えうつ(?)俺。

 ワクワクと見守るクライフとレイラ。


 彼が小太刀を結界に向かって振り下ろす。

 ――と、バチィィッ!と音を立て、半球状に展開した見えないバリアの表面に、放電現象のように見える亀裂が生じた。

 まだ破壊されてはいないが、俺の魔力はどんどん減ってゆく。


「どうすりゃいいんだ!?」

「ワタシも加わるある!」


 レイラが張り切って参戦してきた。

 ―――イズナの(がわ)に。


 彼女は片手に光魔法の剣(ライトセーバー)のような魔法剣を出現させると、イズナに並んで結界へと振り下ろした。


 ちょ、待て待て無理無理!

 

 室内に二度目の衝撃波が走り、二つの亀裂が繋がって裂けていく。

 

「おおぉっ! 想定以上です!」


 興奮したクライフがズレた眼鏡を投げ捨てながら、どこからともなく謎の機器を取り出した。

 そこから伸びる吸盤を結界表面に触れさせ、表示されたメーターを見て奇声をあげる。


「キエェェェッ! なんという魔力(エネルギー)の狂い! 掻き回し!

 もう少しデータを…っ! 私も加わります!」


 そう言って空いている片手をバリアに置き、破壊される寸前だった俺の結界に自分の魔力を上乗せしてくれた。

 

 それによって少し均衡が戻り、結果として完全に破るまで数分間を要した。




 その様子を、窓の外からそっと(うかが)っていた召喚師たち。

 戦慄して…というか、引いている。


「ヤバいよ、何アレ...」

「あの破壊効果のある攻撃を受けてなお、なんで持ち堪えられるんだ、あのヒト…いやお魚...」

「そんな彼にあの(・・)「魔力の水瓶(みずがめ)」クライフさんも加勢した結界を、最終的には破壊するレイラさんたちもヤバいな」

「あーあ、漏れ出るエネルギーで壁にビビ入っちゃったよ。

 やっぱりあの場に行かなくて正解だったな」


 という会話があったとか。

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