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金魚戦記  作者: 悠布
2章 家書万金
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閑話 家

短めの閑話です。

「お、お邪魔しまーーす……」


 そうっと、家の扉を開ける。

 

「自分の家なのに、「お邪魔します」はないでしょ」


 後ろにいたサトリに呆れられてしまった。

 

 そう、なんだが。

 前の持ち主が居た以上、初めて入る時の挨拶は大事だ。

 家自体に向かって言っているのもある。


 前宰相が亡くなって空き家になり、俺が貰い受けたばかりの家。

 大きな家具などを除いた細かい物は撤去されたようだが、なんというか…新築には無い、既成の空気感がある。

 空気じゃなくて海水なんだけどね。


 玄関のような空間を抜け、廊下を進むと左右に向かい合わせの扉があった。

 左の扉を開けてみる。


 客間――かな?

 机と椅子、クローゼットとベッドフレームがある。

 ベッドの上には、マットレスではなく、ひしめく柔らかい海草が生えている。

 それを枯らさないための、発光するコケが天井を覆っていた。


 俺が龍宮城で泊まっていた部屋と似ている。

 やっぱり客間だろうな。


 廊下に戻り、向かいの部屋の扉を開けると、さっきと同じ造りだった。

 

 客間が2つ。

 うーん、立派だわー。


 さらに廊下を進んでいくと、やや大きな扉にあたる。

 開けると、中は―――図書室だった。


「家に図書室っ!」

「宰相さんなら、別におかしくはないと思うわよ」

「言ってみたかっただけですぅー」


 天井まで伸びる本棚に、びっしりと本が詰まっている。

 水中なので、もちろん紙の本ではない。

 薄い石板や、砂を固めて作った板に文字を彫り込んでいる書物である。


 一つ手に取ってみる。

 『貨幣価値と地上文化の発展度合の関係性とその役割~海底視点~』


「......。」


 無言で元に戻した。

 軽い(ライト)小説(ノベル)ないかな…。



 次の部屋は、広くて何も無い場所だった。

 家具が一つも無い代わりに、壁際に手すりがある。壁と床の素材も少し違う。


「トレーニングルームみたいな所かな?」

「たぶんそうね。後で鬼ごっこでもする?」

「いいけど。俺が勝つよ?」

「あんたは目隠しして後ろ向きで泳ぐのよ」

「……」


 負ける気がしてきた。



 次の部屋は、収集室(コレクションルーム)だった。

 いくつもの陳列棚が並び、空気で満たされた棚もある。

 水で濡らしてはいけない物も飾れるようになっているのか。


 空っぽの棚は、なんだか寂しい。

 何か適当なものでも飾って、少しでも場所を埋めるか...と考えながらゆっくりと泳いでいると、空気の棚に一つだけ残された置物を見つけた。


 ―――ジャスパー人形だった。



 ......買いに行く、って言っていたな、そういえば。

 ジゼルも、これだけ残していくとは…。


 でもなんか、前にチラッと見た時とどこかが違うような...?


 気のせいかとも思って木彫りの置物をじっと見ていると、過去視が発動した。


 

 __________


 人化したヘクターが、ロルカの街の露天商で、店主と話している。


「なかなか良い出来ですね。一つください」

「おう。毎度ありー」


 機嫌よく一つ購入したヘクターだが、手に持ってじっと見つめると、ある点に気付く。


「...背ビレと尾ビレが小さいですね」


 そう、ヒレの大きさが普通のフナのサイズ感だったのだ。

 丸い体系は上手く再現できているのだが。


「丸っこい赤い魚だって、人づてに聞いただけだからなぁ。ヒレの長さなんてわからねえよ」

「……追加料金をお支払いしますので、作り直してください」

「ええっ!? 今ここでか!?」

「はい」


 有無を言わさぬ彼の雰囲気と、カウンターに置かれた追加の銀貨を見て、店主はあたふたと作り直し始めた。


「こ、ここをもっと長くか?」

「こっちもです。頭の上はもっとスマートに削ってください」

「やけに詳しいな。実際に見たことあるんなら、探していた(あん)ちゃん達に情報提供してきたらどうだ」

「大丈夫です。もう本人が向かいましたから」

「えっ」


 

 やがて出来上がった、新・ジャスパー人形を見て、満足そうに頷くヘクター。

 

「ありがとうございました。次からも、この形に似せて作ってくださると嬉しいですね」

「お、おぅ……まいどありーー……」


 なんだか色々と疲れた店主は、ヘロヘロッと手を振った―――。


 __________



「―――ッピー。...ベニッピー?」


 サトリに名前を呼ばれてハッと気づくと、いつの間にか俺は陳列空気棚の中に居て、ジャスパー人形をぼんやりと眺めていた。


 木彫りの置物の隣に並び、不審そうな顔で見上げてくる彼女に笑って問いかける。


「どうだ、似てるか?」

「...怖いくらい似てるわね」


 うむ、満足だ。



 その後も書斎っぽい部屋、キッチンっぽい部屋、個人の寝室っぽい部屋―――と進み、突き当りの一番奥広い部屋は、リビングルームだった。

 

 天井と壁に光る苔(ヒカリゴケ)が生え、明るく居心地の良さそうな空間である。

 外に出られる大きな窓からは、庭のサンゴと戯れているコダ爺が見える。

 

 海草のソファに寝転がってゴロゴロしながら壁に掛かった絵画を見ていると、人化を解いたサトリがじゃれて飛び乗ってきた。

 入れ替わるように俺が人化して、仔狼(サトリ)を膝にのせてモフモフを堪能する。


 気持ちよさそうに大人しくなった彼女の頭を撫でていたら、ゆるりと眠気が襲ってくる。

 

 舟をこぎながら、段々と瞼が下がってきて。

 

 いつしか、俺も眠ってしまった。

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