56話 鎖には鎖を
ヴォルカの方は、一旦落ち着いた。
まだゴタゴタバタバタしまくっているが、幸いにもヘルフリートはあっさりと敗北を認めたし、国の中枢に関与していない俺がこれ以上深入りするものでもない。
次は、神さま方面である。
イズナ達がカウラに戻る前に、俺たちとガル、ヘルフリートも引っ張ってきて「グレイプニルの鎖」について話し合った。
「グレイプニルとは、現神フェンリルがまだ暴れん坊だった頃、炭鉱族が彼を抑えるために編み出したものだ。作製には特殊な技術を要するため、ドワーフにしか作れない」
「それが、今の神様の唯一の弱点なんだな。そこを突かれたと」
ガルは頷いたが、同時に首を捻る。
「恐らくそうなんだけど。以前ならまだしも、神座に居る以上、もう通用しないはずなんだが...」
「バハムートがやったように、人質でもとったんじゃねぇのか? ...おっ?」
適当そうに言い放ったヘルフリートは、皆に一斉に見つめられてギョッとする。
「そうよ、その手があるじゃない!」
「じゃが、仮にも…というか相手は普通に神じゃ。そう簡単に単純な手が通用するかと言われると...」
サトリは得心がいったようだが、コダ爺は首を傾げている。
「まぁ、行けばわかるだろ。そのためにコダ爺をアルゴスから連れてきたんだから」
「そうじゃな」
考えても仕方ない。
予想を立てて、もし間違っていたら洒落にならないしな。
「それより、鎖の解除方法とかあるのか? レイラは知ってる?」
「ワタシは知らないある...」
レイラは申し訳なさそうに首を振った。
「いや、すまん。普通は知らないよな、そんな奇特なこと」
「奇特かは知らんが、聞いたことならあるぞ。三大金属の鎖でなら、グレイプニルを断ち切れると」
またも投げやりにポツッと言ったヘルフリートに、全員が注目する。
「それは私も聞いたことがなかったな...」
「ワシもじゃ...」
「どこで知ったんだ?」
「昔、オクタヴィアに聞いた」
誰っすかね、それ。
妙な顔をした俺たちに、ガルが教えてくれる。
「彼がまだここに居た頃の、ヴォルカの王だよ。そうか、彼女にか...」
「あいつの言う事なら信用できるだろ。どうしてそんな事を知っていたのかは知らんがな」
それにしても、三大金属か。
勉強したから知っている。とてもレアな、超硬度の魔法金属。
オリハルコン・ヒヒイロカネ・アダマンタイトのことだ。
―――ん?
「しかし、三大金属のどれかで新たに鎖を用意するとなると、相当時間が...」
「ちょっ―――と待ってくれ。...できるかもしれない」
そう言って俺は、チャクラムを目の前に浮かべた。
中央に穴の開いた、七枚のアダマンタイトの円盤。外周は、鋭い刃。
如意棒も出現させて、短く問う。
「いけるか?」
プルプルと震えて拒否反応を示す棒。
うーーむ...。
「ダメか……」
「違うわよ。鎖の繋ぎになることはできるけど、あまりにも変形する事で、ベニッピーの魔力を大量消費しちゃうから嫌みたいね」
サトリが、如意棒の真意を教えてくれた。
まじかよ、なんて良い棒なんだ!
俺のことは気すんな!
と思うと、魔力がごそっと抜けた。
同時に棒が細くグニャグニャと形を変え、7つの円盤を繋ぎ合わせる。
―――アダマンタイトの鎖が完成した。
「はい、どうだ!」
少しふらつきながらも、得意げに鎖を見せる。
ヘルフリートが呆れたようにこちらを眺めている。
「無茶苦茶だな、こいつ...」
「でもベニッピー君、これじゃあ魔力が...」
イズナが心配しているので、すぐに鎖を解体した。
「大丈夫だ。必要な時に短時間だけ作れば、問題ないだろ」
確かにちょっと想像以上の魔力消費だったが、この手しか無いだろう。
新しく鎖を作っている時間なんてないはずだから。
「......。」
ガルはやや困ったような表情でこちらを見たが、何も言わない。
サトリも何か言いたげだったが、結局は口をつぐんだままだった。
二人ともわかっているのだろう。
他に手が無い上に、俺がこの役目を譲らないであろうことを。
―――誰が何と言おうと、結界の「要」を最終的に壊したのは、俺なんだから。
◆
カウラでは、俺たちを送り出す準備がもう少しで整う頃合いだという。
そうなったらイズナとレイラから魔石で連絡が入るはずなので、それまではヴォルカで過ごす。
慌ただしくエンカルナに業務の引き継ぎを終えたガルは、前の前の神であるリントヴルムのタバサさんのところに向かっていった。
100年に一度の王交代の時だが、別に盛大な即位式みたいなものはなかった。
王と言っても半分総理大臣(?)みたいなものだし、当たり前かもしれないが。
晴れてエンカルナが王様である。
その忙しい引き継ぎの合間のついでにというか、ちゃっかり俺も国民に加えてもらった。
特に以前と変わる所はないのだが、戸籍が用意されたのだ!
人間の国と違いそこら辺は結構アバウトらしく、戸籍が無い国民も多い。だから今まで俺もあやふやな立場のまま過ごしていたが、割と適当なガルと違ってルナはそのあたりがきちんとしていたようだ。
「ベニッピーさまは、お給料など貰っておりましたか?」
「いや…特にもらってなかったかな……」
俺の答えを聞き、ルナはじろっとガルを見る。
「タダ働きをさせていたのですか?」
「あ、いやその辺りはヘクターに任せていて…」
「宰相の仕事は、王の雑務を全て引き受けることではありません。戸籍や納税、給与形態などきちんと定めるところは定めておかないと」
「はい…」
てな感じで、細かいところの得意さは、ルナがガルを上回るようだった。
頼もしい新王である。
「そういえば、今後立場を聞かれたら、俺はなんて答えればいいんだ?」
「極内部には「Voruka Intelligence Agency(VIA)」と。通常は、「城の職員」など適当にぼやかしてくださいませ」
なかなか格好良い機関名を告げられた。
初めて聞いたぜ…そんな名前が、というかちゃんと組織が存在したんだな...。
の前に、いつの間に、所属先がそこに……。
「おい、ガル…?」
「......(言い忘れてた…)。」
「了解だ」
まあ、俺もかなり適当に過ごしていたし、それでいいと思っていたからな。
その機関に所属しているであろう者だって、ベルタくらいしか知らないし。
聞くと、まだ会ったことのない俺の同僚(?)たちは人化できない者も多く、世界中の海底国家に散らばって潜り込んでいるらしい。
ちなみにベルタは、エーギルの秘密情報員たちに人化した時の顔バレをしたらしく、もうエーギルには戻れなくなったようで。
玉手箱を守りきった功績でVIAの長官に昇進すると同時に、城での内部勤務になっていた。
「各地から送られてくる情報の管理とか、嫌なんすけど~!
気楽な一諜報員のままが良いっす~!」
と嘆いていたが、前長官(←俺はこの人を、城の普通の文官だと思っていた)が、
「駄目じゃ。いいから早よう机にすわれ」
と、一刀両断していた。
つまり、彼女が俺の直属の上司になったわけだ。
「長官就任おめでとうございます。頑張ってくださいね、先輩」
「ひぃぃぃぃ、なんというプレッシャー!」
敬礼したら、痙攣された。
まぁ、所属がハッキリしたと言っても俺はすぐに神さまの所に行かねばならないから、特に新たな任務は無い。
あと、俺は家も貰った。
家だよ家。水槽じゃないよ。
今までは城の適当な部屋に寝泊まりしていたのだが、これからは帰るお家があるのだ!
といっても、寝る時は屋内外問わず鳥かごであるのは変わらないけどな。
案内してくれたジゼルが、シンプルで品の良いお屋敷を指し示す。
城の近くの一軒家だが、家というには少し大きいな。数十センチ四方の水槽暮らしだった身からすると、大きいなんてものじゃないが。
「こちらが、ベニッピー様のご住居となります。どうでしょうか...?」
「ちょっと立派過ぎるな。言えば変更してくれるのか?」
「それは構いませんが……因みに、今は空き家となってしまいましたが、前宰相の邸です」
「謹んで、頂きます。ありがとう」
ヘクターさんのお家でした。
エーギルの方の戦後賠償などはまだ詳しく決まっていないらしいが、こちらの領海の拡大や、強制不可侵条約の制定など、色々進めているようだ。
話のできるトップは生かしたまま捕らえる、これ大事。
また一つ学んだ。
そういや、フォルネウスに魔道具の中央の魔石にヒビを入れられてから、なんだか調子が悪いんだよな。
突然、意思遮断機能がオフになってしまったりして、何度かビックリした。
最初の頃ほど、何でもかんでも限度無く受信――ということはなくなったが、やはりまだ魔道具の力が必要だった。
敵ならともかく、知り合いや仲間の思考が流れ込んでくると、非常に申しわけなくて辛いのだ。
ウラリーに直してもらえれば嬉しいのだが...彼女の方はどうなっているのだろうか。
ケヴィンは何か掴めたかな?
……いや、サイラス王の件も被ってきたし、手が回っていないかもしれないな。
そんな事をつらつらと考えながら、どんどん完成していく新龍宮城を眺めていると、紐で吊り下げていた魔石がピカッと光った。
レイラからの帰還信号である。タイムリーだな。
「おっし。行くぞ」
「ええ。やっと地上に戻れるわね」
「ふぉふぉっ、さっさと終わらせてアルゴスに帰るのじゃ!」
コダ爺も、当初の予測より長く付き合わせてしまっている。
早く故郷に帰してあげないとな。
ルナとジゼルに出かける旨を告げてから、俺たちはカウラへと転移した。




