表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金魚戦記  作者: 悠布
2章 家書万金
55/92

55話 終戦

 ニタニタと笑っているように見える、クジラの口元。

 細められた、眼。


「...なんだと?」


 俺は、手の中の黒い水晶玉を見る。

 現神フェンリルを守る、結界の(かなめ)

 

 おそらくグレイプニルの鎖に囚われ、悪魔にいいようにされている、ガルの後進の神様。

 その彼の前に張られた結界を、俺に、壊せと?


 顔を強張らせて固まっているガルを見た。


 その彼は、敵が練り上げていく魔力の塊と俺を交互に見ると、声を絞り出す。


「―――すまない。...やってくれ、ベニッピー」



 わかっている。最初から。

 

 バハムートは、全く躊躇わずに攻撃を放つだろう。

 そして結界は、無くなってからと言ってすぐに神がどうこうされる訳ではない。

 この世界の者だと攻撃の手が動かないという仕組みの根源はおそらく結界ではないと、ガルにも言われたし。


 だが。


 手元にあるのに。

 守れる場所にあるのに。


 それを、自分が壊さないといけない。


 …なんとか...ならないのか...?


 素早く考えなければいけないのに、頭に白く靄がかかったように、思考が晴れない。

 ―――現状を、打破できない。


「何をしている。こいつらは、死んでもいい仲間だったのか?

 ...なら、次を捕まえるまでだ」


 だんだん不機嫌そうになっていく敵。その手に溜まりゆく、邪悪な魔力。

 回らない思考回路。

 


 ...ごめん。

 会ったことも無い、神様。

 

 絶対に、助けにいくから。

 この償いに。



 水晶玉を、上に高く放り投げる。

 

 僅かに届く日光を反射して、キラリと光った玉に向け、チャクラムを一枚放った。

 黒い世界(海底)で、黒い円盤は、黒い水晶へと吸い寄せられ―――


 あっけなく、粉砕した。



 ゆっくりと降り注ぐ水晶の欠片(かけら)を頭から浴びながら、俺は黙ってバハムートを見る。

 奴は満足そうに鼻で笑い、溜め込んだ魔力を霧散させた。

 そのまま、振り返らずに真っすぐに、上へと向かって消えていった。



       ◇



 戦後処理。

 俺はお呼びではない。


 だからまた、大道芸人のように城下町の練り歩きでもやろうかと思っていたのだが...

 今回は、仕事があった。


「城の建て直し?」

「ああ。戦争賠償の一つとして、新しい龍宮城の建設を、エーギル側に取り付けた。

 君にもそれに協力してもらいたくてね」


 ガルに頼まれ、サトリとコダ爺と一緒に、崩壊した要塞跡地へと向かう。





 イズナとレイラは、一足先にカウラ城へと戻った。

 連携の練習をするという目的は達成したからな。

 「バハムート、許さないある!」「いや、まぁ…許さないけど、選りによってその相手がバハムート…うえぇぇ…」

 と、片や息まき、片や息を吐きながら。


 幸いなことに、ルナも含めて、3人は無事だった。

 あの後俺が回復魔法をもう一度かけると、すぐに意識を取り戻した。


 ベルタもなんとか玉手箱を守りきり、ハンフリーやエドも無事で、兵士や住民にもほとんど人的被害は無かった。

 何気にものすごく助けになってくれたアマビエも、野次馬の好奇心を満たしたのか満足そうに帰っていき(結局、アイツは本当に野次馬だったらしい)、ヘルフリートも生かしたまま捕らえたし、部外者のアスピドケロンは倒したし、敵に協力していた悪魔も二名倒した。

 

 これだけ見れば、大勝利と言っても過言ではないのだが...。



 ずぅぅぅぅん...


 と、背後(バック)に暗い色の(とばり)の幻視を抱かせるが如く、重ーーい空気を纏っている者が二人。

 俺とガルである。


「もはや反省しかない」

「反省してもしきれない...」


 ガルは次期王(エンカルナ)が戻ってきてホッとしたのか、以前のようにマイナスな事があってもポーカーフェイスを貫いて堂々と胸を張って見せることを止めたらしい。

 一応、まだ王なんだが。既にご隠居の雰囲気である。


 それぞれ、あの時あーすれば良かった、こーした方が良かった、自分はまだまだだと、ブツブツ呟いている。


「お前、よく昔アイツを封印できたな...」

「あの時は、運が良かったんだよ...。当時の神であるリントヴルムのタバサが、岩を―――」


 言葉の途中で、ピタッと突然動きを止めたガル。


「どうした?」

「―――しまった。こっちにバハムートが来たのなら、彼女の方にも行っているかもしれなかった...!」


 青くなった彼は、慌て始める。


「そもそも。どうして私が神の前の結界を張っていると推測できた...? あれは極秘事項のはず……。

 結界に攻撃すると私に知られると分かっていて、その前に自分たちで張った結界で彼ら(イズナやレイラ)の攻撃を防いだのはわかるが、異世界の者であるベニッピーが神に刃を向けることが出来たとして、結局私に知られることに...」


「それでお前をおびき出すつもりだったんじゃないか?」

「だとしたら。私が君に攻撃する? そして君が死んだら、本末転倒で...それに、私が短気ではないことはバハムートが知っているから、その線は無さそうだよ」


「じゃあやっぱり、エーギルも利用してお前を倒すまでは、カウラ城で待機する俺にお呼びはかからなかったんだよ」

「―――かも、しれない。それにしても、バハムートの動きがなんだか不自然だ。

 どうして君に核を破壊させた? ガオケレナの事といい、以前のあいつなら、絶対にそんな事はしなかっただろうに...」


 ガルは考え込んでいる。


「なんでだ?」

「昔の性格のままなら、人質の価値を理解していないだろうから」


 なるほど。

 

「自分で壊すと、何かデメリットでもあったのかな」

「...特に、無いと思うけど……」


 あー、ダメだ。この件について深く考えると、頭がショートする。


「リントヴルムの、タバサさん? の所に行ってみたらどうだ?」

「――そうだね。ルナに引継ぎを済ませたら、そうすることにする」


 



 そういう会話があって、現在(ガル)は忙しそうに動いている。



 要塞の跡地に着くと、エーギル兵とヴォルカ兵による、城の建設作業――の前段階が行われていた。

 瓦礫を取り除き、最初の龍宮城の立地面積よりも広い土地を均して、どこからか建材を運び込んでいる。


 どこで何を手伝えばいいんだろう...


 とキョロキョロしながら泳いでいると、突然目の前が光り、水流とともに黒と橙色のシマシマ危険色が出現した。

 本能的に思わず飛び上がってしまったが...何のことは無い。近くにいたヘルフリートが、たった今人化を解いただけだった。


「あぁ、ビックリした...驚かすなよ、もう...」

「ベニッピー、あんたは戦闘以外で気を抜きすぎよ。近くにこいつが居ることくらい、魔力でわかるでしょうに」


 はい。返す言葉もございません。

 以後気を付けます。


 ヘルフリートは、魔力不足で人化を解除したようだ。

 でろーーっとしている。元気無いな。


「何してんだ?」

「見りゃわかるだろ。()き使われてんだよ。土木作業員かつ、その現場監督。

 ...くっそぅ、バハムートの野郎が建物壊してかなきゃ、そのまま造り直さなくてよかったのによ...」


 いや、あれは簡易要塞だから、結局やることは同じだったと思うけど。

 むしろ解体の手間が省けた分、良かったんじゃないか。


「立派に造ってくれたまえー」

「そもそも最初はテメーが壊したんじゃねえか。エーギル城の塔も破壊しやがったしな。早く手伝え」


 あら、後者も把握されてた。

 そちらさんが攻め込んでいらっしゃらなかったら、こちらも崩壊させたりなどいたしませんでしたよ?


 とも思ったが、実は結構、両方の城ぶっ壊しの責任感を感じていたので、大人しく協力する。

 

「で、何すりゃいいんだ?」

地均(じなら)しの手直しとチェック。作業員の応援。部分部分が組みあがり次第、その引き締め。

 それから中庭にはまだ植物は生やさないでくれってガルが、爺さんに伝えろとよ」

「…応援?」


 他はわかったが、応援とは...。


 変な顔をしていると、彼は面倒くさそうに説明を付け足す。


「にっこり笑って「頑張って」でいいんだよ。お前は人化して女装しろ。その方が効果倍増だ。

 現場監督として先に言っとくが、てめぇに拒否権は無い」

「......。」



       ◇



「みんなーーっ、お疲れ様ぁー!

 ちょっと休憩しましょうーーっ!」

「こっちにオヤツを用意してありますよー!」


 よく通る澄んだ声が聞こえ、城の建設作業に従事していたエーギル兵と、その見張りをしつつも自分たちも作業を行なっていたヴォルカの兵は、そちらに注目した。


 白い髪(・・・)の美少女二人が、こんもりと食糧を載せた簡易テーブルの前で、手を振っている。

 姉妹だろうか? だが、妹(?)の方にだけ白い翼が生えているし、空気の泡に包まれている。


 既にサトリと面識のあったヴォルカの兵士たちは、持っていた建材を放り出して、喜んで近づいていく。


「休憩だーっ。オヤツをくれるの? サトリちゃん」

「そっちの子は初めて見るね? 誰だい?」


 そう聞かれ、もう一人の少女は軽く会釈した。


「ベッキーと申します。あまり、私の正体は深く考えない方がよいかと」


 静かだが、何故か圧倒的なその気迫に押され、ガクガクと頷くヴォルカ兵。

 それを遠目で見ていたエーギルの兵たちは、自分たちも行っていいものか迷っている。


 すると、エーギルの兵装をしたムキムキマッチョな老兵が、緑の帽子を撫でながらスキップして近づいていく。


「ワシにもくれぃ」

「はい、どうぞ。お疲れ様です」


 オヤツを手渡された老兵は、自然な動作で嬉しそうに少女の頭を(ひと)撫でした後、喜んで離れていった。


 それを見てゴクリと唾を飲みこみ、自分たちもオヤツを受け取りに、そろりそろりと移動するエーギル兵。


「あ、あの、俺たちも…頂いても……」

「もちろんよ! さあどうぞ」


 翼がある方の少女から食糧を受け取った兵士がモジモジしていると、彼女の方から、サッと兵の手をとって軽く握手した。


「しっかり休んで、また頑張ってくださいね!」

「はっ...はいっ!!」



 一方、ベッキーの前には、サトリほどの列はできていない。

 ヴォルカの兵士が、ほとんど並んでいないからだ。


「お、おい…やっぱ、あの子...」

「駄目だ、考えるな。有り難く、美しいお姿を目に焼き付けるだけに留めろ」

「考えてんじゃねえかよ」


 コソコソと遠巻きに話すヴォルカ兵を見て、ベッキーは俯く。悲しげな面持ちに見えるが、本人は別の意味で居た堪れなくなっただけである。


 そんな様子を哀れに思ったのか、エーギル兵たちが何人も、彼女の前の配給の列に移動してくれた。


「どうぞ。ちゃんと休憩してくださいね」

「あ、ありがとう……!」


 兵士は喜んでオヤツを貰い受けながらも、不思議そうに首を捻る。


「君も魚なんだよね? 人化できるレベルってことは、戦いにも参戦していたのかな?」

「いえ、私は…連絡係のようなことをしていました」


 そう言って笑い、ベッキーもサッサッと握手を繰り返していった。



       ◇



 あーー、疲れた。

 城の建設の固め作業自体は、コダ爺がかなりメインで協力してくれたから、楽だったが。応援が地味に疲れた。

 でもまぁ、こっちも頑張ったお陰で(?)、作業員たちは物凄く頑張ってくれた。

 城って、こんな速度で造られるの? というようなスピードでみるみる出来上がっていったのだ。


 流石に今日1日では完成しないが、骨組みというか、建物の輪郭は見えてきていた。

 エーギル城みたいな流麗で荘厳な、システマチックな建築物に生まれ変わるのだろうか。

 言っちゃなんだが、前の龍宮城は「ザ・イメージ通りの龍宮城」だったからな。岩ゴッツゴツの。


 

 ―――そうだ。チャクラムを鑑定しようと思っていたんだ。


 思い出した俺は、いそいそと黒い円盤を出して、久しぶりの鑑定を行う。



【英雄アナントのチャクラム】


  素材:アダマンタイト

  特徴:魔道具

  現状:本来の姿に戻り、攻撃力が上昇した




 ...なんか、格好良い追記があるな。

 誰だろうな、アナントって。


 ま、いっか。

 有難く使い続けよう。

勝負に勝って試合に負けました...(?)


アナントの事は気にしないでください。

ただの、前の持ち主です。

今のところ伏線に使う予定とかはありません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ