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金魚戦記  作者: 悠布
2章 家書万金
49/92

49話 海戦 ④

 (あらかじ)め話し合った作戦の一つ。

 余裕がある時には、できるだけ相手を挑発し、騙していく。

 

 ガルの心の声が伝わってくる。


(今言われた通り、私が棒術で彼を無力化するのは難しい。引き付けるから、隙を見て抑えてほしい)


 目だけで頷きを返し、二人の戦いを見物するフリをしてさりげなく距離をとった。


 ...うーん、どうしようか。

 普通に戦うならガル一人で勝てるはずなのだが、ヘルフリートを人化させたままで捕らえるのは、大変骨が折れるのだ。だから俺も協力しているわけだが...。

 殺さずに、一撃で無力化させる方法。一度ミスったら警戒させてしまうから、失敗は許されない。


 ―――やっぱ、アレとアレを同時に打ち込むかな。


 タイミングを見計らいながら、二人を観察する。

 ヘルフリートは遊びのような事を言ったが、放たれる一撃一撃は全て、嵌まれば相手を絶命に至らしめるような鋭い斬撃だ。

 対してガルの方は、実に美しい軌道を(えが)きながら、敵の刃を滑らして全てを受け流している。


 ...なるほど。

 棒術が合わないとは、そういう事か。


 彼は、かなり棒の練習をしたのだろう。最初は少し動きがぎこちなかったが、勘を取り戻してきたのか、今はとても滑らかに如意棒を操っている。

 受け流しきれない部分は、棒が自ら最適な動きをしてくれているし、な。


 だが、やはりガルには太刀の動きの方が合っているようなのだ。

 基本的に棒術は、相手が武器を持っている場合、「受け」の動きをする。躱して、流してからこちらが攻撃するのだ。

 逆に剣術――刀は、相手の一瞬の隙を逃さず、呼吸を合わせるようにこちらから攻撃を放つ。

 「柔」と「剛」ほどではないが、単純に向き不向きの問題だ。


 何で俺がこんな解説をしているのかって?

 全部ケヴィンの受け売りだよ。



 ……おっと。ボケッと見とれている場合ではなかったな。

 

 そっと、背に妖精の羽を出現させつつ、片手に魔力を集めていた時だった。



 ―――海面が、大きくうねった。

 同時に、爆風のような強烈な風が吹きつけてきて、俺は叩きつけられるように海中に突っ込んだ。


 そこを狙ったように上から振り下ろされる、爬虫類の皮膚とその先の巨大な鋭い爪。

 結界を張っていたからダメージを受けることは無かったが、 ヤツ(・・)の手に押されて、かなり深い水深まで勢いよく潜ってしまった。

 ...言うまでもなく、アスピドケロンだ。

 サトリとレイラが、引き付けきれなくなったか。


 どうやら、俺を狙い始めたようだな。

 下にある街に被害を出すわけにはいかないので、再び水面まで泳いで戻る。


「ガル、すまん!」

「大丈夫だよ。元々、上手くいく確率は低い前提だったからね」


 苦笑したガルが如意棒を投げ返してくる。


「...ヘルフリート。何故、ヴォルカの王と遊んでいる」

「あー、そうだったな。あんたも一緒に()ろうって話したっけな」


 巨カメの地鳴りのような声の低い問いに、ヘルフリートは今思い出した! という風に、頭を掻いた。

 サトリとレイラも飛んでくる。


「ベニッピーとガル王がそっちに居るのを見つけて、カメがわたし達を無視して行っちゃったのよ。悪かったわ」

「コイツ、鈍間だけど魔法を使うある。気をつけるね」


 サトリはまだまだ元気だが、レイラの方は結構魔力を消費してしまったらしい。兜で顔は見えないが、声が疲れてきている。


「わかった。レイラ、無理せず休んでろ」

「そうするある」


 彼女は、近くを流れていた空の木箱の上にちょこんと座ると、箱ごと空を飛んで行って、離れた海面に着水した。


「サトリ、何かカメに効きそうな攻撃手段はあったか?」

「嫌がらせや足止め以上の、ダメージを与えられる方法は無かったわ。ちょっと傷つけても、すぐに治っちゃうし」

「了解。...俺も、やるだけやってみるか」


 俺にあったかなぁ、高火力の攻撃手段。


 巨カメは俺とガルを見比べながら少し迷ったようだが、こっちにターゲットを絞ったらしい。

 ヘルフリートに言い放つ。


「この妙な魚と遊んだら、そちらに行く。それまで、(ガル)を抑えておくのだ。本気でな」

「へいへい」


 しゃあねーか……と言いながら伸びをしたヘルフリートが、チカッと光った。


 同時に、今度は下から爆風が吹きつけてきて、俺とサトリは上空に吹っ飛ばされる。

 ...結界も改良が必要だな。跳ね返した反動がこちらに来るのは要・改善だ。


 

 頭の隅にメモしながら下を見ると――― おおぅ、頭が3つもある(だいだい)色と黒色の巨大なウミヘビっぽい奴が出現していた。

 なんつったっけ、確か、エーギルの王は...「ヒュドラ」だったな。怖っわ。縞々(シマシマ)の危険色だ、本能的に近寄りたくねぇ。


「ガル。人の姿のまま、俺の相手をするつもりか?」

「......。」


 問われ、非常に残念そうな表情を浮かべたガルだったが、無言で自分も人化を解いた。


 久しぶりに見るレヴィアタン形態だ。蒼色の水龍(ドラゴン)。怖いけど格好いいです。やっぱり色って大事。


 

 そのまま怪獣大戦を見物していたかったが、そうは巨カメが許してくれない。


「龍宮城を崩壊させたという一撃、ワレに向けて放ってみよ」

「いや、あれは違ぇよ! 色々と解放しただけで...」


 待てよ。

 確かに、あの時のようなエネルギーに指向性を持たせて放ったら...?

 つか、アレって何だったんだ? 魔法だったか? 少なくとも…属性は無かったはずだ。妖精パワーと魔力をブレンドして――。


 そもそもどうやって引き出したんだっけ。

 プチンとキレて、グワッて熱くなって、ブルって寒くなって、ゆらゆら回って、ジワジワと放出して……。


 駄目だ、自分でも何言っているかわからん。

 だが、これだけは分かる。()は、同じようなエネルギーは出せない。


「アレは無理だが...遊んでやるよ、妙なカメ」

「ふん。失望させるなよ」


 カメが鼻で笑うと、拳大のサイズの海水の塊が数百個、一気に水面から持ち上がった。

 それらは瞬時にカチカチと凍り、こちらを目掛けて弾丸のように飛んでくる。


 氷に熱を加えて溶かそうか...と思っていると、サトリが前に出た。


「見てて、ベニッピー」


 そう言って彼女は、全ての氷弾の位置を頭に入れるように見回す。

 続いて片手を前方に向け、一言「回収」と呟くと、氷の弾丸が一斉に、その場で動きを止めた。そのまま、推進力を失ったように海面に落下していく。


「上手くいったわ」

「凄いな! 魔力を喰ったのか?」

「ええ。風とか火みたいな形の無いものは無理なんだけど、水や氷のようなモノからは、エネルギーを回収できるようになったのよ」


 満足そうにさらっと言っているが、すごく省エネでお得な技だ。

 そういや、ガルも同じような事をやっていたな。


「俺にも出来るかな!?」

「どうかしらね?」


 カメに頼もう。


「おいカメ、もう一発よろしく! 水か氷で!」

「...ワレを使うか」


 呆れられたが、遊ぶと言った手前か、もう一度攻撃を放ってくれた。

 今度は持ち上げた海水に炎を吐きかけ、蒸発ギリギリの熱湯弾丸をお見舞いしてくる。

 よし、やるぞ。


 しっかりと全ての弾の存在を確認し、内包される魔力を視る。

 それらを抽出して抜き出し、引き寄せるように―――、って、マズい、出来ねぇ!

 

 何か別のエネルギーを吸い取ってしまったようで、速度を落とさないまま飛んでくる。

 ...パリパリと、凍っていきながら。


「な、な、な、なんで!?」

「仕方ないわねもう」


 結局、サトリが再び叩き落としてくれた。


 しょんぼりと肩を落とす。


「俺には無理だったぜ...」

「熱エネルギーを回収できる方が珍しいと思うわよ...?」


 カメが焦れたように急かしてくる。


「次はキサマの番だ...早くしろ...」

「悪い悪い」


 そうだ、ふざけている場合ではなかった。

 コイツを倒さねばならないのだから。


 甲羅への攻撃は無意味だろう。おそらく、防御力が高過ぎて通じない。

 やはり、首か喉か眼だな。

 ―――先ずは初撃、ダメもとで眼にチャクラムを飛ばしてみよう。


「あ! 未確認飛行物体(UFO)! ……と思ったら鳥だった」


 突然、あらぬ方角を指さして叫び、注意をそちらに向ける。

 同時に7枚のチャクラム全てをカメの両目へ向けて、逆方向から放った。



「なんだと...?

 ...と、引っかかるとでも思ったか」

「デスヨネ」


 残念、バレてました。

 カメは己の顔に飛来したチャクラム目掛け、灼熱のブレスを放つ。


 ちょ、待て待て! それ、多分鉄製! 溶ける!!

 慌てて引き戻そうとしたが、一拍遅かった。


「あーーっ、俺のチャクラム溶かすなーっ!!」

「ふはは...愚か者め...」


 言われなくてもわかってるよ!


 俺の魔力を通したチャクラムが、ドロドロと熔解していく感触がする。

 うぅ、おバカな使い手でゴメンよ...


 ―――と内心で詫びていたら、消失したはずのチャクラムへの魔力の通りが、何故か良くなった。


「……へ?」


 7枚の円盤は燃え盛る炎の中を突き進み、なんと当初の計画通り、カメの両目に突き刺さったのだ。全て。



「ぐおっっ...、ぎ、ぎざまぁぁっ! なにを...っっ!!??」


 巨カメが悶え苦しんでいる。暴れた手足が、大波を作り出す。

 

 いやぁ、俺にも何が何だか...。

 だが、チャンスだ。


 チャクラムを引き抜いて手元に戻す。

 

 ―――やっぱり。

 外部が鉄で覆われていたのだ。内部に閉じ込められた真の部分は、漆黒に輝く謎の金属。鉄が消えた分、最初のサイズより一回り小さく、薄くなっている。

 後で鑑定しよう。


「サトリ、カメを揺らしてくれ!」

「わかったわ」


 サトリに芭蕉扇を振ってもらい、体勢を崩したカメの首を目掛け、もう一度円盤を放った。

 7枚は今までにない速度で空を切り裂きながら飛翔し、首の両脇に刺さって食い込みながら、回転を続ける。

 再び暴れるカメに、背の羽を使って低周波攻撃をかます。ついでに、鼻先に電流も流してみる。


 一瞬動きが止まったところでサトリと共にヤツの背後から近づき、彼女が顔に向けて放った炎に合わせて、先程吸収した熱エネルギーを上乗せした。


 結構本気で総攻撃したつもりなのだが、相手は島サイズだ。

 顔を中心に火傷と裂傷を負いながらも、まだ倒すには至らない。


 やはり、圧倒的なエネルギーの一撃を打ち込まないとダメかな?

 もう、水中から腹に体当たりでもしてやろうか―――、と考えていた時。


 

 ソレ(・・)が、空から降ってきた。

 

 ―――虹色の、一撃が。

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