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金魚戦記  作者: 悠布
2章 家書万金
45/92

45話 開戦準備

 翌日。

 前日までに、魔大陸で得た情報の報告を終えた俺は、朝からコダ爺の指導の下、ガルとジゼルと一緒に要塞の補強工事をしている。

 

 俺が海底に転がる岩を搔き集め、ジゼルが弱い箇所にペタペタと引っ付けていき、ガルが岩壁から余計な水分を抜いて、コダ爺が全体的に調整するのだ。


 いやー、本当に魔法って便利だわ。

 地球の人間も、使えたらよかったのにな。

 

「うむ。これくらいの強度があれば、また完全崩壊でもしない限り、地面(・・)は守れるじゃろう」


 満足そうなコダ爺の言葉通り、この要塞は、中に籠って戦うためのものではない。

 勿論そういう使い方もできるが、真の目的は、ガオケレナが存在する地下空間を守るためである。


「しっかし...地下空間の存在がバレた時って、相当マズい事態なんだよな?

 敵の大半は、ガオケレナの存在そのものや、その貴重さも知らないはずなんだろう。

 「知ってしまった者を見つけ次第、殲滅せよ」ってヤツか」


 げんなりしながら言うと、ジゼルが頷いた。


「はい。味方ならともかく、敵に知られてしまった場合は、ベニッピー様、サトリ様、コダマ様のお三方には最優先でガオケレナの防衛に徹していただきたいのです。できれば、敵の排除も。

 そして、逆にガルトニクス様が先に「核」を取り出した場合には、樹の処分をお願いします」


 ...さらりと、とんでもない事を言われたぞ。


「え! 樹、枯らしちゃっていいのか!?」

「ええ。このヴォルカの使命は、ガオケレナの存在を秘匿し続け、守り通す事です。あまりに(むかし)から伝わることなので、その理由や詳細は不明ですが...。

 しかし。悪用されたり、樹を巡って争いが起こるくらいなら、消し去ってしまえ……とも、伝わっておりますので」


 淡々と、当たり前のように語るジゼル。

 ……うん。相当前から、ヘクターさんに次期宰相教育されてたんだな。


 ん?

 王の方はどうなんだろう。


「次期の王って、もう決まっているのか?」

「ああ。「エンカルナ」という名前の子だよ。今は世界中の海底を遊学中だ。そろそろ戻ってくる頃だね。

 タイミングが良いのか悪いのか...」

「ヴォルカの王の任期は百年で、ガルトニクス様は丁度百年目なのです。彼女が戻り次第、任期満了に伴いめでたく退任…の予定だったのですが。最後に面倒な事になってしまいましたね、王」


 二人とも苦笑している。

 

 任期が100年って、もう長いのか短いのかわからん。

 だが...まぁそうだな。

 以前ガルが俺を赤ん坊(ベイビー)呼ばわりした事は許してやるか。忘れてはやらないけどな。






 その頃、イズナとレイラは水遁(すいとん)の術の応用編を試みていた。

 イズナが咥える竹筒の先に、レイラが呼吸用の魔法を掛けることには成功したのだが...。


「むー!」

「何言ってるのかわからないあるな。意思疎通がとれないある...」

「―――ぷはっ! ちょ、絶対これヤバいっしょ! うっかり外れたら死ぬし!

 水温低いし水の抵抗強いし、やっぱり地上みたいに動けないんだけど…」

「...しょうがないある。顔の部分だけでも自分で泡で覆えるように、今から魔法の特訓ある!」

「え!? 僕、魔法はちょっと……

 あと水のことは……?」

「アンタだって能力付与の魔法陣に乗ったあるね。少しは色々使えるに決まっているある」

「ええぇぇぇ...」


 そうして、イズナの地獄の魔法修行が始まった。






 同時刻。ハンフリーによって、サトリは兵舎に招かれていた。

 

 武器や防具の手入れをしていた兵士たちは、彼女を見て思わず固まる。

 それはそうだろう。こんなむさくるしい所に、可憐な少女が場違いにも現れたのだ。


「おいてめぇら。可愛い子が、応援に来てくれたぞ。(あが)(たた)えて有難がれ」

「微力ながら、明日は私も参戦するわ。みんな、一緒に頑張りましょう」


 サトリは両手で軽く拳を作ってグッと握りこみ、微笑んだ。

 

 一瞬静まり返った兵舎だったが、声にならない叫び声があがる。


「...っ!! ぅぉぉおおおっ!」

「はいぃぃ! 背中を預ける仲間は、このむさくるしい連中だけだと思ってましたが!」

「国の存亡をかけた戦いとはいえ、たった今、やる気が2倍になった気がする! 単純ですみません!」

「きゃーっ、こんなに可愛い子もいたのね! ムキムキばっかりの中に、癒しが現れたわ...!」


 

 士気が、爆発的に上がった。




__________________________________





 一方その頃、エーギル(サイド)は。


 兵士と武器防具類を背に載せたアスピドケロンが、着々とヴォルカに向かって進んでいた。

 下には、サメの軍団が泳いでついてきている。


 巨カメ(アスピドケロン)が、地響きのような声音で言う。


「――ワレを引っ張り出してこなければ勝てないほど、強い相手なのか」

「念のためだ。アンタは、長期戦になった時の保険だよ。

 さすがに拠点が無いと、長くはもたねぇからな」


 銀色に光る太刀を太陽に翳して、目を細めながらヘルフリートが答えた。

 

 彼は今、島のようなカメの背中の頂上にあたる場所で、のんびりと武具の手入れをしている。

 

 やがて、刀を丁寧に鞘に納めると、伸びをしながら立ち上がった。

 獰猛な笑みを浮かべ、独りごちる。


「あいつと会うのも、約千年ぶりだな。

 俺が教えた剣術……忘れていたら、命取りだぞ? ガル」

 


 楽しそうなヘルフリートの元に、下からセパルが上がってきた。

 無表情で、淡々と告げる。


「ヴォルカは普段領海の端に張り付かせている通常兵力を、全て中央に撤収させたようだ。

 各地の街も、住民は全員家に閉じこもっている」

「だろうな。一直線に龍宮城を…いや、もう城跡か。目指すぞ」


 セパルは、ちらっと彼を見た。


「もう一度確認しておく。我ら(・・)が手を貸す代わりに、そちらは確実にガルトニクスを殺せ。いいな?」

「わぁってるって。俺が情に流されて、最後に奴の命乞いをするとでも思ったのか?」

「......。」


 ヘルフリートは、進行方向の海原を眺めた。

 まだ幼く、利発な少年だったガルトニクスを思い浮かべる。

 どんな姿に成長したものか。


「神までやってきたヤツだ。安心しな、手加減できるわけがねぇだろ。こっちが()られる。

 それより、あいつが捕まえた隠し玉の方に気を付けるんだな。

 自分の目で見てきたんだろ?」


 問いかけられ、セパルは嫌そうに顔を背けた。


「...ああいうイレギュラーな存在は、不確定要素をもたらす。

 まったく……どこでどうやって、奴のような奇種が生まれたものか」


 それに―――

 と、彼女は、ベニッピーやガルトニクスと一緒にいたもう一人(・・・・)に思いを巡らす。


 一瞬しか見なかったが、玉手箱を守ったあの仔狼。

 奇妙な感じがした。

 なんというか――― 危険な敵地で、敵ではない者を見つけたような...?


 だが、すぐに頭を振った。

 そんなわけがないのだ。

 

 雑念を払い飛ばすと、振り返らずに下へと戻っていった。



「聞いていたか、アスピドケロン。敵に変則的な奴が混じってる。

 アンタも気をつけてくれよ」

「―――ふん。ワレをどうこうできるヤツが、そうそう生まれるとも思えないがな」


 巨カメ(アスピドケロン)はつまらなさそうに鼻を鳴らした。


 別に、彼が自信過剰というわけではない。

 事実、今まで巨カメを困らせるような相手は現れなかったのだ。

 

 普段暮らしているナーロッパ地方の「バト海」には時折、「腕試し」と称して挑んでくる者も居たが、どんなに屈強な戦士でも、どれだけ多彩な魔法を操る魔術師でも、彼にかすり傷一つ負わせることさえ叶わずに、海の藻屑と消えた。


 当然だ。

 アスピドケロンは、自分でさえいつから存在しているのかわからない、伝説級のモンスター。

 ヒト以外に歯向かってくる愚か者はおらず、ずっと退屈していた。


 そんな折、やってきたのがセパルだ。

 彼女は、


「骨のありそうな相手がいる。先代の「神」だ。戦える機会を用意してやる。

 一緒に来ないか?」


 と、誘ってきたのだ。


 特に深く考えたりせず、彼は自然と頷いていた。

 そんなわけで、今ここにいる。


「先代神であるヴォルカの王。ワレが相手をするつもりであったが...オマエの獲物でもあるのだろう。

 他に、オモシロい敵がいるのならば、王の方はそっちに譲ってやってもよい」


「ありがたねぇ。だが、遠慮するこたぁない。俺が奴を引き付けたら、向こうはきっと一人で出てくるだろう。

 そしたら一緒に()ろうぜ。サシに水を差したら、怒るかもしれねぇがな」


 部下には、邪魔しないように言っとくか。

 怒りに触れて巻き込まれたら可哀そうだもんな、とブツブツ呟いているヘルフリート。



 お互い、実は相手(敵方)と同じように考えている事には気付いていないのだった。

ガルは人間でいうと23歳くらいです。

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