44話 海底の事情
ハンフリー達とは、龍宮城に居た最初の二ヵ月ほどの間に仲良くなったのだ。
この前の襲撃時には居なかったな。
聞くと、当時は結界装置の元にいたようで、攻め込んだ軍の後ろから追撃して止めようとしていたらしい。
「しかしまぁ、さすがに物々しいな。何がどうなってる?」
「その前に…後ろの彼らを紹介してくれるかな?」
あ、忘れてた。
背後を見るとコダ爺は姿を現し、サトリはニコニコと、レイラは物珍しそうに、イズナは無意識に気配を殺していた。
「ああ。優秀な冒険者で、今回の戦いで助太刀してくれる」
「レイラ・コーニング。神様の所に行く前に、連携の練習をするある」
「...イズナ・ハリットです。なので、こちらにもメリットがあるんすよ」
「この前はドタバタしていたから、わたしも改めて挨拶するわ。ベニッピーの霊友のサトリよ」
「同じく、ノームのコダマじゃ。後で、要塞の強度を上げてやるぞい」
おおーっ、とざわめく会場。
たった4人だが、心強い助っ人だろう。
「ヴォルカの王、ガルトニクスです。助太刀感謝します」
「兵士長のハンフリーだ。よろしく頼む」
「宰相のジゼルです。何かご不便があれば、お申し付けください」
海底サイドも、軽く挨拶する。
ジゼル(コウモリダコ)が宰相になったのか。
ま、そうだろうな。ヘクターさんが俺の稽古にかかりっきりになっている間、雑務…というか殆どの仕事を彼女に丸投げしていたからな。
頼もしい。
「では、何があったかの説明をする。ベルタ」
「はい。私はエーギルに潜入して、彼の国の動向を探っていたっす。そこで―――」
そして彼女が話した内容は、
・ヴォルカに最初に侵攻してから、エーギルはしばらくは落ち着いた様子だった
・というか、何かを待っている間に、力を蓄えているようだった
・先日、巨大なカメがエーギルにやってきた
・そのカメの背中に、兵士たちが武器を搬入していた
と、いうものだった。
「どのくらい大きいカメなんだ?」
「島みたいな大きさっすね」
「げぇ!?」
マジかよ、本当にカメなのか!?
コダ爺が、フムと頷く。
「アスピドケロンじゃな。どうやって連れ出したんじゃろのぅ」
「その通りっす。ナーロッパ地方から、わざわざご足労頂いたらしいっす」
ベルタが呆れたように肩をすくめた。
「ナーロッパって、確か...」
「遥か東の魔境じゃ。そこから連れてきたから、そんなに時間がかかったっとったのじゃな」
思い出した。「黒髪黒目の理不尽な奴らがうろついているから、行くときは注意するように」って教えられたんだ。
アスピドケロンとやらは、そこに住んでいたのか。
「ところでベニッピー。エーギル城に、空から突撃したらしいね」
「お、おう。えっと、敵意は見せず、穏便に済ませてきたぞ? 一応」
怒られるかな? と一瞬思ったが、ガルは笑っている。
周りの者達も、プルプルと思い出し笑いを堪えているようだ。
「ここの服装の事を教えていなかったね、悪かったよ」
「いいよもう。結果的に、そのお陰で何事も無かったようなもんだしな」
そう。俺たちがバカだと思われたお陰で、解放された可能性が高いのだ。
「エーギルの王、ヘルフリートとは会ったかい?」
「いや。兵士長と少し話をしただけだったぞ」
「...そうか」
なんか忘れているな。聞こうと思っていた事...。
あ。
「パレンシアの北端の街に、昔、ここの玉手箱と色違いの箱が流れ着いたらしくてな。
その地方に住む妖怪が箱を開けたら、疫病を撒き散らす煙が出たんだ。
なぁ、本当に、玉手箱には「超強化の水」が入っているのか?」
そう聞くと、ガルがピキッと固まったように見えた。
…周囲に人が多い今は、聞かない方が良かったかな。
しかし、そうでもなかったらしい。
「...ああ。玉手箱が複数存在する事は知っている。
そして、この城の玉手箱は、間違いなくその効能だよ。なにせ...昔、実際に開けて、試したからね。
―――当時まだ、この国に居たヘルフリートも一緒に」
そうして語られたのは、この国の―― 御伽話のような、昔話だった。
まだ彼が少年だった頃。
当時、ヴォルカの兵士長をしていたヘルフリートや、当代の王、そして、ウラシマタローという客人の青年らとともに「八岐大蛇」という怪物を倒した。
そいつを倒した後、跡に残ったのが二つの玉手箱だった。色は、赤と紫。
紫の方はどうしても開かなかったが、赤い方は普通に開いた。
中には、澄んだ透明な水が入っていて、とても芳しい香りがした。
王がちょびっと掬って嘗めてみて「美味い」というので、皆で一口ずつ飲んでみたらしい。
しばらくすると、飲んだ全員の身体能力やその他の能力値が大幅に上昇していることに気が付いた。
ヤバいの拾っちゃったよー、どうしよー、と相談した結果、とりあえずそのまま、龍宮城に保管することになった。
ウラシマタローが地上に帰る際、「どうせ開かないだろうから、記念に」とお土産に渡したのが、紫の玉手箱だそうだ。
その後、「国防の為に、国民に等しく玉手箱の水を飲ませるべきだ」と主張するヘルフリートと、「国民が平和に暮らし続ける為に、このまま封印し続けるべきだ」と主張する王側とで、意見が真っ二つに分かれた。
ひと悶着あった後、ヘルフリートはかなりの数の国民を連れて、ヴォルカを離れる。
そして建国されたのが、エーギルだった。
彼の国が「世界の海の征服」を狙っているのも、「統一国家にしてしまえば、もう海では争いが起こらないから」だそうだ。
それを為すためにも、ヴォルカの「水」が欲しい、と。
「ヘルフリートは強い。おそらく...いや絶対に、アスピドケロンに乗って一緒にやって来るだろう。
私は彼の相手で手一杯になるかもしれないから、各自、臨機応変に頼むよ」
「わかりました。仮に、お二人が一対一で戦っていたとして、そこに乱入したらいけませんか?」
エドがガルに、真っすぐに聞いた。
彼はいつも、こういう判断に迷う事をちゃんと確認してくれるのだ。有難い存在である。
「私は、一向に構わない。不意打ちさせてくれる相手でもないしね。むしろ、どんどんやってほしいくらいだが……。
ヘルフリートは激怒するかもしれない。彼を怒らせる覚悟のある者だけ、たのむ」
「了解です」
ガルがこちらを見て微笑んだ。
「ということでベニッピー。いざとなったら、よろしく」
「なんで俺!?」
「残念ながら君はもう、彼に目をつけられているだろうからね」
「......。」
全く残念に思ってないだろ。
どれどころか嬉しそうなんだが。
「もし、あっさり玉手箱を渡してやったらどうなるんだ?」
「以前だったら、争うことなくこの国はエーギルに飲み込まれ、そのまま世界の海の征服に乗り出しただろうね。
だが今は、悪魔の力を借りる交換条件が、私を殺すことだ。
...私はそんなに優しくないが、国民は優しいからね。こっちはすんなり死んであげる気も無いし、国民は私を死なせる気も無いらしい」
つまり、戦いは避けられないんだな。
「勝利条件と敗北条件は?」
「勝利の方は、ヘルフリート・もしくは敵の大将を討ち取るか降伏させること。そのためにも、悪魔セパルとアスピドケロンも討てれば尚良し。
敗北は、私が討たれることと、街が壊滅することだね」
...どうやって、島並みに巨大なカメを討つんだよ。
「予想される敵総戦力と、開戦日時は?」
「予想到達日時は、明後日。
エーギルの兵力のどこまでを連れてくるかは不明だけれど...多分、サメも来る」
サメ?
首を傾げていたら、ハンフリーとエドが教えてくれた。
「エーギルの一番厄介なところだ。奴らは、何種類ものサメを操る。
知能がさほど高くはないサメたちは、無差別に国民を襲うんだよ」
「それを阻止するために、一般兵の数の多くを回さなければなりません。腹立たしいことです」
「そう。だから、ここに居る指揮官級の者達がメインになって、敵の主力を叩かなければならない。
エドワールは、兵たちの指揮を頼む。ハンフリーは、自由に動いてくれ」
「了解です」
「お任せを」
あ、ハンフリーがやる気だ。
一人で動く権限を貰って、目がキラキラしている。
「俺たちにやってほしい事はあるか?」
「敵の指揮官狩りをお願いしたい。どのくらい数を揃えてくるかわからないが、手あたり次第に。等級は無視で構わない」
「わかった。捕虜にするのは?」
「最上位っぽい者だけでいい」
現場の判断に任せるってことだな。
その時、ガルが額を指さしてチョチョイと合図を送ってきた。
冠のスイッチをオフにせよ、って事か? よし。
(もう一つの敗北条件を、君にだけ言っておく。
...私が近くに居ない時にガオケレナを失ったら、負けたも同然だ。だから緊急時には、最優先であの樹を守ってくれ。
樹の中に、現神を守護する結界の要があるんだ)
なんですと。
サトリとコダ爺も、ピクリと反応する。
二人とそっとアイコンタクトを取ると、ガルに向かって小さく頷いた。
ハンフリーもエドワールもジゼルも初登場です。
ベニッピーは、彼らと結構仲良くやってました。




